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【連載!中国の小売・サービス事情vol.9】アリババ初のショッピングセンター「親橙里」がオープン


「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

1. 実店舗への投資を加速させるアリババ

もはや中国の小売業を語る上で欠かすことのできない存在となったアリババ。そのアリババが2018年4月28日、杭州に初のショッピングセンターを開業した。その名も「親橙里」(簡体字:亲橙里/読み方:チンチャンリー ※以下簡体字で表記)。

“新零售”(新小売)の構想を掲げて、オフラインの世界へ積極的な展開をするアリババ。新小売を象徴する存在となった食品スーパーの「盒馬鮮生」をはじめ、百貨店・ショッピングセンターを手がける「銀泰」への投資、国営の小売グループ「百聯集団」との提携など、矢継ぎ早に実店舗型小売企業への投資・提携を進めている。わずか2年弱で、その投資額は累計 800億元(約1兆3600億円)にも及ぶ。

アリババの実店舗型小売業への投資状況
[出典]三菱東京 UFJ 銀行(中国)経済週報「小売業の革命を主導する大手 2 社の競合」

そんな彼らが自ら初めて手がけるショッピングセンター「亲橙里」とは一体どんなものなのか?今回はその様子をレポートする。

2. アリババ従業員の為の施設?

場所はアリババのお膝元

訪れたのはオープンから4日目の5月1日、中国は労働節の3連休の最終日に当たる。

場所は杭州のアリババ本社の隣りに位置する。街の中心部からは離れており、地下鉄も直結していないので、タクシーを使う必要がある。高鉄(新幹線のようなもの)の駅(火車東站)からであれば、地下鉄を乗り継いで2号線の文新駅まで行き、そこからタクシーで向かうのが良いだろう。

もしくは火車東站からアリババ本社まで直通バスが1時間に1本ほど出ているので、時間が合えば便利だ。但し、利用するには「微巴士」というアプリを使って、切符の事前購入&乗車時の提示が必要だが、このアプリのID登録には中国携帯が必須なので、日本からの出張者には厳しいかもしれない。

[住所]杭州市余杭区文一西路与常二交叉口

話は逸れるが、以前「地下鉄もスマホ決済で完全なキャッシュレス社会へ」で上海の地下鉄事情を紹介したが、さすがアリババのお膝元である杭州。杭州の地下鉄はAlipayを使用すれば切符を買う必要なく、スマホ決済で乗車が可能だ。Ailpayとの接続を認証し、乗車&降車時にAlipayの「Pocket」に収納された杭州地鉄乗車码からQRコードを呼び出す。改札機にQRコードをかざせば自動的にAlipayで決済される。

亲橙里がアリババの隣にあるには理由がある。

ショッピングセンターの周辺はいわゆる「アリババ村」であり、周りには多くのアリババ従業員が住んでいる。このショッピングセンターにも従業員の住居施設が隣接している。しかし、この辺りは街の中心部から離れていることもあり、近隣に商業施設は殆どなく、従業員はこれまで不便な生活を強いられて来た。そんな従業員たちに福利厚生の意味合いを込めた施設が、この亲橙里である。

一般の商業施設とは異なる品揃え

営業面積は約5万平米とのことだが、メインの建物だけで見るともっと小さい。フロア構成はB1階〜5階までで50弱のテナントが入居する。

テナント構成を見ると、従来の一般的なショッピングセンターや百貨店とは大きく異なる。現在、中国のショッピングセンターや百貨店で売上の柱になっている化粧品は1ブランドしかなく、洋服のブランドも非常に少ない。ましてやラグジュアリーブランドなど存在しない。実に飲食店が半分以上を占める特異な施設だ。

中国メディアによると、これらの飲食店はアリババの従業員たちに選ばれた店とのこと。他にも最上階には映画館、地下にはスーパー(※後述)、歯医者、家電・リビング関連のテナントが多く、都心部の商業施設とは品揃えが違っている。

それもこれもアリババ従業員の為ということなのだろうか?それとも、有力ブランドを誘致することができなかったのだろうか?

3. 亲橙里の見どころ

自主運営ショップ

飲食店が半分以上占める亲橙里の中で特徴的なテナントとして、アリババ自らが運営するショップが4つ存在する。

①淘宝心選

タオバオが展開するショップであり、1階中央の最も良い場所に店を構える。無印良品をかなり意識したと思われるショップであり、リビング雑貨を中心に文具、家電などを扱う。商品自体は手頃な値ごろ感で無難なデザインということもあってか、ショップ内は多くの人で賑わっていた。

売場内には、ところどころにテクノロジーを生かした設備が用意されている。

商品をかざすと自動で認識して商品説明をするサイネージ

タオバオのアプリでバーコードを読み取れば、商品の詳細情報を知ることができ、そのままタオバオで注文することが可能。

盒馬鮮生と同じ電子棚札が使用されている

会計は全て壁面に設置されたセルフレジで行う。顧客は商品のバーコードをレジで読み取った後、自身のタオバオの会員QRコードをスキャン。アプリに紐づけた決済方法で支払いする流れとなる。

実店舗でもタオバオのアプリを使って会計することによって、アリババ側はオフライン・オンライン問わず、顧客が何を購入したかを補足することが可能となる。

②天猫精霊

日本でもGoogleやAmazonをはじめAIスピーカーの競争が激化しているが、ここはアリババが手がけるAIスピーカーのショップ。商品の展開数はかなり限定されているが、アリババのAIスピーカーを体験できるアンテナショップとしての位置付けだ。

音声指示によって光が上下左右に動く

映像と音声の特別体験が可能

③天猫国際

TMALL(天猫)で扱う海外からの輸入商品を実際自分で試用体験することができるショップ。杭州の西湖近くの銀泰百貨店内にオープンした1号店に続く2号店とのことらしいが、私が視察した時にはまだオープンしていなかった。

④盒馬鮮生

拡大を続けるアリババ傘下の食品スーパー「盒馬鮮生」は、地下全てを使って展開。盒馬鮮生の詳しい説明については、過去記事をご覧いただきたい。

Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」 

盒馬鮮生の売りである充実した海鮮コーナー。その場で調理してもらうことが可能。

ここの盒馬鮮生は過去上海で見た店舗より、飲食スペースがかなり大きく取られている。「30分以内の配達」を謳い文句にしたECメインのスーパーのように思わているが、実店舗の体験要素を特に重要視していることが分かる作りだ。

盒馬鮮生の店舗の特徴である天井に張り巡らされた商品運搬用のレーン

オープン直後の3連休ということで、ショッピングセンター内はどのフロアも賑わっていたが、最も人が多かったのがこの盒馬鮮生。それだけ近隣住民からの期待も高かったということだろう。

ピザもその場で焼いてくれる変わり種の自動販売機。

テクノロジー&データの活用

2つ目が、最もアリババらしいテクノロジー&データの活用だ。”デベロッパー” としてのアリババは、従来の商業施設とどのような違いを出せるのか?

①Virtual Fitting System

これは中国の「Cloudream(雲之夢)」という会社が手がけるVirtual Fitting Systemだ。2014年に深圳で設立された主に3DとAI技術を研究するテクノロジー会社だが、近年、アリババとの連携を深めており、新小売のパートナー企業の一つになっている。

《 Virtual Fitting Systemの機能 》

画面の前に立つと、自動的に対象となる人物を撮影。
どのような人かを画像解析して、属性(身長・体型・性別等)を判別。顔だけ画像を取り込む(3D風)。
その人の体型や雰囲気に合わせて、洋服をスタイリング提案。
画面をスワイプすると画面上の自分に商品を着せ替えることが可能。画面に表示されたQRコードをスキャンすれば、そのままTMALL(天猫)で商品購入もできる。

この Virtual Fitting System が設置されているのも、新小売のモデルブランドの一つになっている「MiSHOW」である。アリババは、この「MiSHOW」や同じくアパレルブランドの「Kerr&Kroes」等と協力。アリババの膨大なデータを活用して店舗周辺にいる顧客にアプローチしたり、テクノロジーを活用した新たな顧客体験を模索したり、オンライン・オフラインを問わないオムニチャネルの様々な実験をおこなっている。

MiSHOWの売場内には別のサイネージも設置されており、多くの顧客が珍しそうに足を止めて、この機能を体験していた。

また、この Virtual Fitting System はMiSHOW以外のショップや、エレベーター前の共有スペースにも設置されており、デベロッパーであるアリババ主導でこのシステムが導入されていることが分かる。

②多様なサイネージ

上記の Virtual Fitting System もしかり、亲橙里には、従来のショッピングセンターより多種多様なサイネージが設置されている。

吹き抜けには巨大なサイネージが設置されているが、ここでは、館内の至るところに設置されたカメラでモニタリングした顧客の属性や館内の混雑状況などを表示している。恐らく、ここで表現されているのはデータのごく一部で、裏側ではもっと多様な顧客分析がされているのだろう。

また、タオバオ会員であれば、彼女・彼氏・家族のために、このサイネージで使って誕生日のお祝い動画を配信できるとのこと。そして、その配信タイミングも、館内のセンサーで顧客の位置を識別して、映像が自動的に流れ出すということだが、果たして本当だろうか?

[画像出典]阿里巴巴亲橙里商城观察日记和思考

下記は、Web広告のように顧客一人一人の嗜好・特徴、はたまた消費行動まで分析して、その人にパーソナライズされた最適な情報を流すことができるとのこと。

今では珍しくないが、人の顔を認識し、ARで加工した写真を取れるサイネージ。日本でも時々見かけるが、亲橙里には大量の機械が設置されている。

スマホを活用したプロモーション

オープニングでは、一般の商業施設でもよく見られる買上金額に応じたプレゼント企画、ステージでの大道芸イベント、アニメコスプレのイベントなど、様々な催しがおこなわれていたが、アリババならではのスマホを使った販促も実施されていた。

4月28日〜5月1日の3日間限定で、館内に貼られた亲橙里のロゴをタオバオのアプリでスキャンすると、TMALL(天猫)のキャラクターである黒猫が出現。それを捕まえると紅包(ホンバオ)が貰えるというもの。

日本の方ならこの画面を見ると「Pokemon GO」をイメージされるかと思うが、これはアリババが大きなイベント・プロモーションを実施する際に活用している位置連動のARゲーム。昨年の独身の日にも活用されていた。詳しくは下記を参照いただきたい。

アリババのものではなくなった独身の日

その他、スマホ上でパスワード入力すると抽選で紅包が貰える企画なども実施されていた。

4. 亲橙里は有力な商業施設になれるか?

それなりに見どころの詰まった亲橙里だが、ショッピングセンター全体としての評価はどうだろうか?

正直、まだまだ課題は多いと思う。

ショッピングセンターの最大の価値である商品・サービスの面では、物足りないと言わざるを得ない。恐らく日本人がここを見に来た時、欲しいと思う「モノ」は殆どないだろう。中国で人気のある有力ブランド・テナントも入っていない。現在のところ、この亲橙里が杭州市内の「杭州大厦」や「万象城」などの有力施設を、売上という表面的な形で脅かすことはないだろう。

また、アリババならではのテクノロジーの活用も、商品・サービスの不足分を補うほど素晴らしい顧客体験を提供できているかと言えば、現状は否だ。

だが、これで「亲橙里はダメ」「アリババでもやっぱり実店舗は難しいのか」と判断するのは時期尚早である。

冒頭で記載したように、彼らは既に傘下の銀泰や提携する百聯など、実店舗のノウハウを持った企業のリソースを活用できる状態にある。また、TMALL(天猫)・タオバオでは、国内外の有力ブランドとの関係も構築できている。中国で圧倒的な影響力を持つ彼らが本気になれば、協力するテナント・ブランドはいくらでもあるだろう。敢えて、そこまではしていないとしか思えない。

この店のターゲットは、あくまでアリババの従業員や近隣の住民である。杭州中心部に住む購買力の高い富裕層に、わざわざ来店してもらおうとは思っていない。「食」を中心にした近隣の顧客ニーズを叶えられたら十分なのである。

また一方では、”アリババのショールーム” としての位置付けもあるだろう。アリババを訪問したクライアント・取引先・関係者に、隣にある亲橙里を見てもらい、彼らの考え・コンセプトを実感してもらうには絶好のモデル店舗である。

亲橙里は、あくまでアリババの壮大な実験場なのだ。

亲橙里を使って彼らが考える新小売の様々な取り組みをスピーディーに実験し、そこで得られた顧客の反応をデータ化し、分析&検証する。この流れを繰り返し繰り返し実行していくことで、従来の実店舗型小売業が何十年かけても得られなかったノウハウを、彼らは高速で獲得しようとしている。そして、そのノウハウを買収した実店舗小売に注入していき、商品・サービスも優れ、且つ、従来とは全く新しい体験が得られる革新的な小売業を作ろうとしているのではないか。

アリババが考える新小売の完成形ができた時、従来型の実店舗小売業がそれに対抗しようと思っても時既に遅しである。その差は、もう埋めることの出来ない開きになっているはずだ。

転載元:アリババ初のショッピングセンター「親橙里」がオープン 2018/5/26掲載