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【連載!中国の小売・サービス事情vol.2】Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」

【連載!中国の小売・サービス事情vol.2】Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」
「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

アリババが出資する食品スーパー

Amazonが137億ドル(約1兆5000億円)でホールフーズを買収したことは、小売業界のみならず、世界に大きなインパクトを与えた。
Amazonはこれまでも「Amazon Flesh」や「Prime Pantry」で食品カテゴリーへのチャレンジをおこなってきたが、ホールフーズの買収によって、最も購買頻度の高い食品の取り込みに本腰を入れることは間違いないだろう。
今回のAmazonの動きについては、この方のブログが分かりやすい。

リアル高級スーパーを巨額買収したアマゾンが「本当に欲しかったもの」=シバタナオキ

食品ECの取り組みについては、日本でもイトーヨーカドーやイオンをはじめとする流通各社が取り組んでいるが、配送時間は最低でも数時間掛かっている。前述のAmazon Fleshも最短で4時間。配送時間さえ早ければ良いというものではないが、食品ECにとって大きな要素であることは間違いないだろう。当然、商品(配送対象商品も)は最も重要だし、それ以外にも、価格、注文・決済方法、送料など様々な因子がある。

現状、食品ECに関して世界を見渡しても「成功」と呼べるレベルまで達してる企業は、まだどこもないと思う。そんな中、アリババから1.5億ドルの出資を受け、配送時間はなんと30分、食品ECのみならずオムニチャネルに関して先進的な取り組みをおこなっている食品スーパーが上海にある。その名も「盒马鮮生(hémǎxiānshēng)」。
※马は馬の簡体字。カタカナ表記すると「ハーマーシェンシャン」。

オムニチャネルの核となるリアル店舗

盒马鮮生は2016年1月に開設された生鮮食品スーパー。イメージキャラクターはカバ。なぜカバ?と思われるかもしれないが、「盒马」とカバの中国語「河马(hémǎ )」は同じ読み方であり、恐らく、箱を意味する「盒」を当て字にして、名前でECの意味合いを表現しているのだろう。
これまでに上海で10店舗展開しており、今月、北京にも一号店を出店したとのこと。市内中心部にはなく、住宅街に出店している。
店舗から半径3キロメートルまでは30分以内に届けるとしており、顧客からの注文はアプリで自動的に最寄り店舗が選択されて商品が出荷される。各店舗で配送エリアに重なりが少なく、広範囲に対応できるように立地が選定されている。

視察に行ったのは、地下鉄13号線武宁路から10分ほどの长宁路沿いの店(地図の1番)。OPENして間もない店舗で、入口では早速キャラクターのカバがお出迎え。

特徴① 配送時間30分を実現する店舗体制

この店の最大の特徴が、ECに対応したリアル店舗の運営体制。一見すると普通のスーパーのようだが、このような赤いパーカーを着たスタッフが、手にはモバイル端末を持ってゴロゴロ店内を動き回っている。彼らはECから注文のあった商品をピッキングする専門のスタッフ。

注文に応じて店頭から商品をピックアップし、専用バッグに収納、バッグを売場の端にあるクレーンに載せると、天井に張り巡らされたレールを伝って、バッグヤードの配送スタッフに引き渡されるという仕組み。ピッキング係が都度バックヤードまで商品を運ばなくて良いという徹底した効率化。これが配送時間30分という驚異的な時間を生み出している。

何より、店頭から商品を抜くというのが面白い。そもそもEC在庫という概念がなく、店頭がECの倉庫を兼ねているという証拠。

特徴② OfflineとOnlineを繋ぐ優れたアプリ

店内の至るところに盒马の自社アプリが告知されており、スタッフもダウンロードを促す。このアプリを使って注文する訳だが、ECだけでなく、店頭でも使用するように設計されている。

アプリからスキャナーを起動して、店頭の棚札をスキャンするとECの商品ページへ遷移し、Offline to Onlineの出来上がり。
また、アプリ内で後述するAlipay(支付宝)と紐づけるようになっており、店頭での決済にも盒马アプリを使用することになる(※盒马アプリ内でAlipayを起動するイメージ)。もちろん、Alipayのアプリ本体でも決済できるはずだが、それだと小売側には買上・決済データしか残らない。盒马の自社アプリから決済させることによって、顧客データと買上データを紐づけることが可能になる。
ECとしてアプリを使用する場合は、事前にAlipayを登録しているので、決済時に都度カード情報を入力することなく、そのままワンタップで決済が可能になっている。

ちなみに、このアプリ、店で開いた時と店の外で開いた時でUIが違っている。店外で開いた時には、スキャナーと支払い時に使うAlipayのバーコード表示機能が、メイン画面から外されているという気の配り様。
その他にも、商品棚札は全て、日本ではまだまだ少ない電子棚札が採用されている。価格変更等の情報がタイムリーに反映できる体制が整っていることも見逃せない。

特徴③ 決済はAlipay


アリババの傘下に入っているということで、支払い方法は”基本” Alipay(支付宝)のみ。”基本”と書いたのは、開店当初は本当にAlipayのみだったそうだが、顧客から「不便!支付宝使えない人はどうするんだ!」というような声が上がり、やむなく一部現金対応もおこなっているらしい。日本では「あるある話」でも、中国だとその辺はバッサリ切り捨てそうなイメージがするが、さすがスーパー程のマス向け業態になると、仕方なしということなのだろうか。
いずれにせよ決済をAlipayに特化させて、それをOnline・Offline関わらず自社アプリ経由で支払いさせることによって、全ての売上データに誰が買ったかという顧客情報が紐づき、Online・Offline関係なく一元化された状態を生み出している。

特徴④ 充実した海鮮

MD(商品)面では、盒马鮮生は海鮮が非常に充実している。店舗には大きな生け簀があり、魚や貝やエビや様々な海鮮が取り揃えられている。子供でなくても、見ているだけで楽しい。

そして、店舗には、購入した魚介類をその場で調理してくれるサービスも用意されている。加工賃は15元(約250円)程度なので、レストランで食べるよりも断然安い。

視察に行ったのは16時前後の中途半端な時間であったが、それでも多くの人が店内で飲食していた。 ECを強みにした店であるが、新鮮な魚介類をその場で食べるという店頭の楽しさもこだわっているところが、OfflineとOnlineの顧客循環を生み出す一つの要因になっているのだろう。

本当に30分で届くのか?

オムニチャネルの要、顧客体験の要となるリアル店舗を視察したのち、実際、ECで注文してみた。注文したのは日曜日の17時。

自宅から最寄り店舗までは3km以内のはずだが、17時の注文時点で選択可能な配達時間は18時45分から…。まぁ、これが中国の現実か?
とは言え、それでも実際2時間程度で届いたので、他社よりも十分早いとは思う。そして、送料も無料。他にも、もっと安い2〜3元(50円以内)の商品でも試してみたが、いずれも送料は無料だった。恐ろしい…。
中国メディアに寄ると、現状、Onlineからの注文が7割を占めているらしい(7割がそのままECということではないと思うが)。ますます勢いを増す盒马鮮生の動きにこれからも注目したい。
 
転載元:Amazonの先を行く食品スーパー「盒馬鮮生」

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