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【連載!中国の小売・サービス事情vol.11】新小売に課題を残したアリババの独身の日


「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

最高売上を記録したが…

2018年の双11(※11/11の独身の日のこと。シュワンシーイーと読む)が終了した。今年のアリババの売上は2,135億元(約3.5兆円)・対前年+26.9%となり、成長率はこれまでより鈍化したものの過去最高売上を達成した。この額には事前の予約購買等、様々な売上を合算していると想像されるが、いずれにせよ凄まじい売上規模である。

アリババの独身の日の売上推移(筆者作成)

私にとっては上海に来て2回目の双11だ。去年、現地で始めて双11を体験し、これはもはやアリババのお祭りではなく、オンライン(EC)・オフライン(実店舗)を問わない中国の小売業全体のお祭りだと記した。実店舗にも「買い物しよう」という空気が満ち溢れていたのだ。

【連載!中国の小売・サービス事情vol.6】アリババのものではなくなった独身の日

そして、2018年。今年の双11は日曜日ということもあって、実店舗も前年(2017年は土曜日)以上の盛り上がりを期待していた。しかし、上海の街の雰囲気は去年と明らかに違っていた。各商業施設の集客・盛り上がりは去年ほどではなく、明らかに買い物ムードが減退していた。個人の感覚で申し訳ないが、案外こういう小売人の感覚は当たっていることが多いので、自分でもそれなりに信じるようにしている。

日本でもアリババの売上規模については様々なメディアで報道されているが、今回はあまり語られていない実店舗の状況をレポートしてみたい。

【 前提事項 】

大前提として、今年は11/5(月)〜10(土)まで上海で「輸入博覧会」が開催されたことが大きく影響している。日本ではご存知ない方が多いと思うが、この輸入博覧会は習近平氏の肝煎りプロジェクトで、各国から要人が訪中し、この1週間、上海の街は厳戒態勢となった。

日本人には理解し辛いだろうが、中国で政府・習近平氏が旗を振っているイベントとなれば、現場の気合いの入り方は半端ない。何ヶ月も前から周辺の道路は整備工事がされ、要人が通る道路に面したビルの窓はすべて封鎖された。

挙句1ヶ月前になって、上海市から開催日の11/5(月)・6(火)を休みにし、11/3(土)・11(日)を振替出勤するようお達しがあった。大部分の人にとっては直接関係ないイベントであるにも関わらずだ。これは強制ではなかったものの、事実、独身の日の11/11が出勤になった会社(学校も)も一定数あったようである。博覧会は前日の11/10に終了したとは言え、その後遺症があったことは否めない。

独身の日の圧倒的な露出

今年も10月中旬頃から、オンライン・オフライン問わず双11の露出が激しくなった。輸入博覧会の告知もあるものの、地下鉄各駅はじめ、人目につく主要なメディアはほぼ双11がジャック。期間中は双11以外の広告を探す方が難しいくらいであった。去年はアリババ一色だったが、今年は競合の京東の露出も増えた印象だ。

変わり種では、WiFiのネットワーク名を使った広告も見られた。上海の地下鉄には「花生地鉄」というアプリを使ってWiFiが使える路線があるのだが、普段は「花生地鉄WiFi」しか表示されないところに「天猫双11十周年」のネットワークが。世代問わず日本以上にスマホ中毒者が多く、フリーWiFiを探す&繋ぐのに慣れている中国・上海の生活者に対して、地下鉄という閉ざされた空間で日本のように視線を傾ける車内吊り広告もなければ、このようなアプローチは案外有効なのかもしれない。

そして、今年も直前の11/10の夜には記念番組がTVで放映された。ミランダ・カーやマライア・キャリーの他に、日本からも渡辺直美が出演し、お得意のビヨンセダンスを疲労して会場を盛り上げた。

アリババの2018年独身の日の特徴

今年のアリババの双11の特徴は、何と言っても彼らが掲げる「新零售(新小売)」の取り組みをアップデートさせたことである。

(1) チーム・アリババ での取り組み。

核となる「天猫(Tmall)」「淘宝」だけでなく、アリババ自身のリソースのフル活用し、傘下のプラットフォームや実店舗型小売でも双11の取り組みがおこなわれた。

  • 飛行機やホテルの予約などトラベルEC「飛猪(フェイジュー)」
  • フードデリバリーの「餓了么(アーラマ)」
  • 食を中心とした口コミ&O2Oサービスの「口碑(コウベイ)」
  • スーパーの「盒馬鮮生(フーマーシェンシャン)」「大潤発(ダールンファー)」
  • 家電量販店の「蘇寧(スーニン)」
  • 杭州を中心に展開する百貨店の「銀泰(インタイ)」
  • 家具などリビング用品を扱う「居然之家(ジューランジージャー)」 など

天猫、口牌、盒馬、それぞれ当日のアプリTOP画面

銀泰の旗艦店である杭州の武林総店では、一部のブランドでオンラインと同一価格での販売、紅包のプレゼント、ライブ中継イベント、無料バスの運行、ストップウォッチを11.11秒ジャストで止められたらプレゼント進呈など、様々なイベントが展開され、当日の売上は対前年+34.2%を達成。そして、銀泰全店の期間合計(11/1〜11)売上は、対前年+36.7%になったそうだ。

※画像出典:銀泰のWeChat公式アカウントより

(2) グループ外の実店舗との取り組み

もう一つは、アリババのグループ外の小売も巻き込んだ取り組みである。今年は400都市の20万店舗がアリババの双11に参加したとのこと。

オンラインの世界で大きくなったアリババが、今後は、オンラインとオフラインを融合する新小売プラットフォーマーとしてのポジションを築く為の取り組みと言える。特徴的なものを紹介してみたい。

① Offline → Online → Offline

これは上海の中山公園駅の隣接している「龍ノ夢」という地元密着型のショッピングセンターだ。入口には天猫の双11が大きく告知されている。

店内に入ると、各ショップの前にはQRコードが書かれたPOPが設置されている(下記写真左)。このQRコードを天猫のアプリで読み取ると、そのショップのクーポンや紅包が獲得できる仕組み。天猫のオンラインで使用できるものもあるが、その多くはオフラインの実店舗専用のクーポンである。他に参加しているショップも地図で表示されるので、気になる店舗を複数まわってクーポンを集まると、更なるインセンティブを獲得できるスタンプラリー型の販促だ。

これまでの感覚であれば、実店舗で天猫の告知をすると実店舗の売上が天猫に取られてしまうような印象を抱くが、今回は天猫のプラットフォームを使って実店舗のクーポンを配布している点がポイントである。

中国の小売(特に洋服や靴など対面販売型の店)では、従業員の殆どは売上に応じた歩合給をもらっている。日本の小売でも歩合給は存在するが、中国はそのウェイトが特に高い。中には基本給が相当抑えられている会社もあるので、もしこの歩合給が減るようなことがあれば、彼らにとっては死活問題になる。日本のオムニチャネル先進企業のように、人事評価にEC売上も対象にしているような企業はまだまだ少ない。実店舗の売上がオンライン(EC)に取られるようなキャンペーンであれば、現場スタッフの協力はまず得られない。POPすら撤去されるかもしれない。現場スタッフを巻き込む為には必須のスキームだったと言える。

② Online → Offline

もう一つがいわゆるO2Oの取り組みである。現在、天猫アプリのフッター中央には、「逛商圏」という位置情報に連動して実店舗の情報を中心に提供するメニューが存在する。平常時から一部のブランドはクーポンを出したり、ECへ誘導したりしているが、双11時はいつもより多くのブランドが実店舗用クーポンを用意して、店舗送客をおこなった。

天猫の「逛商圏」をタップすると最寄りの商業施設が表示されるので、その商業施設で興味があるブランドをクリックしてクーポンを取得、そのクーポンをきっかけに店頭へ来店、該当のクーポン画面を販売員へ提示すれば特典を享受できる仕組みだ。もちろんクーポンを提供せず、店舗情報だけのブランドも多数存在する。

この①②の取り組み、ブランドによって特典内容は異なるが、基本的に実店舗への送客を目的にされている。であれば、アリババにとってこの取り組みはどういった意味があるのだろうか?肝心の売上が実店舗で計上されると、アリババにとってはマイナス効果になるのではないか?

アリババの張勇CEOはメディアから今年の売上について聞かれた際、次のように語っている。

「天猫、淘宝、飛猪、口碑は双11の売上に含んでいるが、盒馬、饿了么、銀泰、大潤発等の売上は双11に含めていない。(中略)オフライン型小売のうち、アリババのテクノロジーを使った取り組みのオンライン部分は双11の売上に加算している。(中略)我々が言及しているのは双11の利益ではなく、取引規模である。」と。

ハッキリしない説明ではあるが、今年の双11の売上2,135億元に、これら実店舗の売上の一部が含まれている可能性がある。オンライン・オフライン問わないプラットフォーマーとして、自社の収益だけでなく、双11全体の規模を大きくしていこうという考えなのだろう。

アリババにとっての課題

新小売の構想を進めるべく、アリババグループ全体に取り組みを広げ、実店舗の巻き込みも増えて最高売上を達成。一見何も問題ないように思われるアリババの双11。しかし、冒頭申し上げたように、上海の街を見た限り、実店舗が盛り上がっていないのだ。当然、実店舗の努力不足、オンライン(EC)に顧客が奪われているからという指摘がありそうだが、アリババと共同するはずの店、共同した店も盛り上がりに欠けた。アリババ自体、実店舗をもっと活性化させられると思っていたのではないだろうか?

(1) 有力パートナーの取り込み

アリババはこの2年で800億元以上もの金額を実店舗小売企業に出資し、経営に参画してきた。しかし、小売業全体で見れば、まだまだ彼ら自身で出来る範囲は限定的だ。新小売の構想を広げていくには、実店舗で力を持った企業を巻き込んでいく必要がある。

今回の双11で象徴的だったのが浦東にある百貨店「第一八佰半」だ。下記写真を見ていただきたい。去年と今年の11/11の同じ時間帯に撮影したものである。

去年はアリババと共同で大々的に双11に取り組んでいた。八佰半の店の前では、規定の時間に紅包が貰えるということで多くの人が集まり、スマホ片手にゲームに講じていた。しかし、今年の八佰半にアリババの露出は一切なし。一応、独自に双11のプロモーションを縮小して実施しているものの、告知は限られており、顧客の賑わいも少なかった。

八佰半と言えば、アリババが戦略提携している国営の「百聯集団」に属し、年間約40億元を売る上海ではNo.1の百貨店である。本来アリババの立場であれば、大都市上海で、新小売の象徴的な位置付けとして一番取り組みたい相手のはずだが、今年はアリババとの取り組みがなかった。

もともとラグジュアリーブランド中心の高級ショッピングセンター等は双11の取り組みを殆どしていないが、中価格帯の商業施設でも、市の中心部で力のある商業施設ほどアリババの存在を避けている感が見て取れた。一方で前述の龍之夢しかり、住宅地や郊外にあり、自店だけでは集客を掛けづらい店ほどアリババのプラットフォームを活用している。

(2) 参画企業の管理

2つ目は、小売がこういうプロモーションをする際のあるある話だが、取り組みが店頭の現場に落ちていないということである。

下記写真は、天猫で実店舗用クーポンを配布していた宝飾ブランドと婦人服ブランドである。天猫上でクーポンを取得して店頭を見に行くと、店頭にはPOPもなければ、天猫の文字も一切出ておらず、このクーポンが本当に使えるのかどうか分からない。別のブランドで、店員にクーポン画面を提示してみたが「分からない」との回答だった。

私の中国語のレベルの問題もあっただろうが、概して中国人は自分が知らないことに対して誰かに聞いて確認することもなく、自分の知識の範囲内で断定的に答える傾向がある。全てがこのような店ばかりではないだろうが、私が数店聞いただけでもこのような状態なので、同レベルの店はかなり存在したのだろう。

オンライン(EC)の世界の人からすると、「なぜこんな簡単なことができないのか?」と思われるかもしれない。しかし、教育水準も異なる多様なスタッフ(販売員)、シフト制でスタッフ間の連絡も上手くいかない、本部からメールしているのにちゃんと見ていない、こういう問題は実店舗の現場では往往にして存在する。

これまで彼らが取り組んできた天猫・淘宝であれば、オンライン上での行動が購買体験の大部分を占めている為、プラットフォーマーとして管理できる範囲が大きかった。天猫・淘宝には顧客からの問い合わせに売り手は◯◯分以内に返答しなければならないというルールがあるそうだが、これも「問い合わせ」というデータが発生することによって初めて管理ができる。

オフラインの実店舗の場合、仮にアプリ等を使って誰がどこにいる位の情報は分かっても、実際に顧客と販売員の間で何がおきているか、彼らにも分からない。加えて実店舗では、その販売員とのやりとりが購買体験の最も大きな要素を占めている。いくらオンライン上で個人を分析し、購買確率の高い優良な顧客にアプローチできたとしても、店舗の現場で良い体験を提供できなければ顧客満足は向上しない。肝心の買い上げにも繋がらない。DiDi等で使われている顧客からの評価制度も、直接雇用関係のない現場の販売員には機能し辛いだろう。実店舗には現状のアリババでは管理しきれない範囲が多いのだ。

新小売の実現に向けて

今回、グループ外の実店舗との取り組みは、クーポンや紅包等に限られていた。O2Oという言葉が日本でも既に使い古されているように、上記で記載したような取り組みは規模感は全く異なるにせよ、日本の小売でも数年前から普通に実施されているレベルの内容である。

彼らが目指すオンラインとオフラインを融合した新小売とは、「OMO」とも言い換えられる。OMO(Online Merges with Offline)とは、顧客の体験をオンライン・オフライン隔てなく提供することだ。中心にあるのは「顧客体験」である。様々なデータを活用して顧客を “理解” し、顧客に寄り添い、顧客により良い体験を提供する為に、実店舗、接客、EC、WEB、SNS、あらゆる資産をチユーニングする必要がある。

現状は、アリババならではのデータを活用して、「顧客一人一人に最適化された新たな顧客体験の提供する」というレベルには程遠い。とりあえず、今回はアリババのプラットフォームを使う小売が増えたというスタート段階である。プラットフォーマーとして新たな小売のカタチを作るにはまだまだ課題は多い。

「ニューリテール(新小売)」に続いて、2017年には「ニューマニュファクチャー(新製造業)」の概念を提唱したアリババ。小売企業をどんどん買収したように、今後は製造業の買収を進めていくのかもしれない。アリババがバリューチェーン全体を自ら構築できるようになった時、彼らが本当に思い描く新小売のカタチが実現するのかもしれない。

転載元:新小売に課題を残したアリババの独身の日 2018/11/23掲載