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元部下が登場! 長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第61回 株式会社中川政七商店 取締役 コミュニケーション本部長 緒方恵さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、小売・IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第61回のゲストは、2016年春まで長谷川のもとで東急ハンズのSNS運用やオムニチャネル化の推進に尽力し、現在は株式会社中川政七商店でウェブやデジタル領域を始め幅広い役割を担う緒方恵さん(取締役 コミュニケーション本部長)です。転職先の見つけ方や中途入社した会社で受け入れられるコツ、東急ハンズ時代に長谷川に教わったことなど、元師弟の熱い議論の様子をお届けします。

中川政七商店の成長の背景にはコアユーザーを育てる戦略がある

緒方:いやぁ、僕がこの連載に登場することになるとは……。

長谷川:今回は「ずーっと緒方のことをディスる」っていう内容だから。

緒方:ちょっと! やめてくださいよ(笑)

長谷川:ま、冗談ですけど。とりあえず中川政七商店について教えてよ。

緒方:これ(持参した“ふきん”)に代表される商品を扱っているんですけど、発祥が奈良県のSPA会社です。奈良は麻布の産地として有名で、千利休が茶巾は奈良のものしか使わなかったというくらい、品質が評価されていたんです。中川政七商店も、13代までの約300年、ずっと麻布を中心とした布製品を作って卸すというメーカーとしての商売をしていました。

長谷川:メーカーだけど、中川政七商店という名前だったの?

緒方:そうです。13代の社長になるまではほぼずっとメーカー一筋だったんです。13代は、自分たちがせっかくいいものを作っているのに、ブランドの本質的な意味・ストーリーや価値、さらには価格という点でも、正しく評価されていないというところに疑問と課題を感じたそうなんですね。「こんなにいいものを作ってるのになぜ?」というところから、自分たちでブランドを立てて、「こういう商品を愚直に作っています」というブランディングをしっかりやって小売業に進出していくということを始めました。

長谷川:それはいつ頃?

緒方:小売業を本格的に展開し始めたのは、表参道ヒルズに出店した2006年頃(2012年閉店)ですね。
最初に始めたのが「遊 中川」というテキスタイルのブランドで、そこから会社名と同じ「中川政七商店」という名前の生活雑貨全般を扱うブランドと、「日本市」という土産物のブランドをたてて、それに伴って店舗数も売上も伸びてきたという状況です。

長谷川:今の時代、ハイバリューで安くない商品を売っていくというのは、難しいよね。中川政七商店の売上が伸びているっていうのは、なんでなんだろう?

緒方:僕もそこが気になっていたんですよ。この“ふきん“も1枚700円て高いじゃないですか。それがなんで売れるのか、社員に聞いたりお客さんにアンケートを取って調べたんです。

まず、こういう日常の消費財を「日本産の工芸品だから」という理由で選ぶことって、あまりないですよね。僕らの特筆すべき点はここで、工芸品というところに、お洒落とか可愛いというデザインの力をかけ合わせてユーザーが手に取りやすい状況をまず作っていること。店の立て付け・雰囲気作りなどもそうですね。「なんだかお洒落っぽいから入ってみよう」ということで、工芸の入り口を広くしたいんです。

つまり、支持されるための、伝える順番が明確なんです。まず、お洒落で可愛い。で、手に取ると気持ち良い。そのタイミングで「これは日本で手仕事で作られたものなんですよ」ということを伝える。ここまで理解した人が、いわゆるライトユーザーです。

長谷川:なるほど。

緒方:ライトユーザーがより深いコアユーザーになるときに伝えなければいけないのが「工芸」というものの現状です。どれだけ手間をかけて作っているかはもちろん、日本に昔からあるものが徐々になくなっているんだ、という危機的な状況なども場合によっては伝えます。そして、これがいちばん重要な点ですが、中川政七商店のビジョンは「日本の工芸を元気にする!」ということなんです。

一般のお客さんに見えているのはお店だけですが、実は販路の開拓支援や製造支援、茶道の教育事業、地域活性化のための観光PRや地方のお店づくりのコンサルなんかもしています。自社の利益をビジョンに基づいて投資している。その物語や注いでいる情熱が伝わって、それを応援したいと思ってくれている人たちが、コアファンになり、支えてくれているんです。なので、ストーリーをいつ、どのように、どのくらいの濃度で伝えていくかにはかなり気を遣っています。

転職先で受け入れられ、力を発揮するために気をつけていること

長谷川:緒方が話したようなモデルを実際にやるのは、なかなか難しいよね。

緒方:そうですね。ブランドコミュニケーションは積み上げるものなので、短期的に成功するのは困難です。弊社がこのあたりうまく行っているのは、伝えるべきものを決め、それを伝え続けた、という点につきます。その上で、この戦略をどう進化させていくのかが課題です。ウェブなんかはまさにそれで、僕が雇われたのもウェブでのコミュニケーションがすこし後手に回っていたからなんです。それはある種、「店舗で直に」というこだわりが故だったんですけど、今やっと全社的にウェブへの取り組みをやっているところです。

ファンはウェブ上で既に様々な活動をしているので、こちらもそれをブーストするように振る舞えればより良いブランドコミュニケーションは作れるだろうと。ウェブでも同様に、どういう順番で何を伝えるかを精緻にやるというのが、やっぱり重要だと思ってます。

長谷川:つまり、中川政七商店が伸びているのは緒方さんのおかげだと?

緒方:違います(笑) 僕はまだ入って1年半くらいなので、会社全体をやっと理解できた、みたいなフェイズですよ。
でも、今の会社にいて気づいたのが、このくらいの規模だと会社の課題を解決するには組織図を変えるのが絶対スマートなんですよね。

長谷川:言っちゃいましたか!

緒方:本当にそう思いますよ。逆に組織図を変えないと解決できない課題のほうが多い。だから、組織図を変えずに続けるのは2年くらいが限界じゃないかと。
実は、僕が入る前に当時の組織図を見せてもらって、こう変えた方がいいとプレゼンしたんですよ。入社したら、そう変えてくれてたんです。あれはビックリしました。

その後も課題解決や考え方のバージョンアップなどのために何度か組織を変えてます。ブランドユニット制から機能別組織に変更したり、販売とマーケとシステムをひとつのチームに統合したりなど。

長谷川:そこまで社内を変えるとなると、理論上は正しくても反発する人間もいますよね? どれだけ正しいことを言ったところで、結局みんなにうまく受け入れられないとワークしないということがある中で、緒方さんが転職して気をつけていることってなんですかね?

緒方:ひとつ目は、横断です。組織横断型プロジェクトや経営層が見る数字・考え方の変更提案、細かいところだと例えばなんらかの記事を引用して上長陣にメールを流し、組織を横断した議論の活発化を促すというようなことまで何でも、です。

2つ目が、俯瞰です。例えばですけど一つの事業に向き合い続けていると、視野が狭くなって「中川政七商店てみんな知ってるよね」と思っちゃったりするんですよね。「そうじゃないぞ!」という俯瞰した視点でいるということです。

3つ目が、中川政七商店の最大のファンであるということ。デザイナーに直接賛辞を伝えるのもそうだし、商品を買うのもそうだし、自分のFacebookで商品を宣伝するとかもそうなんですけど、とにかく政七の商品が好きでしょうがないと、常日頃から言うことです。

この3点が下地にあった上で、最後のポイントは、僕、店舗に結構立ってるんですよ。表参道オフィスの下の店に立って、いろんな検証実験をしているんです。それを経営会議なんかでフィードバックします。「最近、お客さんがこういうこと言ってます」とか。
こういうことで、こいつは新しい文化を持ち込むだけでなく、地に足の着いた分析もしてるし、泥臭いこともやってるぞ、というのを全て分かってもらわないと、やっぱり聞く耳持ってくれないと思います。

横断と俯瞰と愛と泥臭さ。これが大事。

「狂ってることを許すな。狂ってることをやれ」という言葉が
自分の骨子になっている

長谷川:経営陣はそれで納得するかもしれないし、表参道の人も分かるかもしれないけど、奈良にいる社員の人って、そもそも会わないでしょ。奈良の人や各店舗に対してはどうしてるんですか?

緒方:いや、奈良には毎週行ってますよ。なので、経営陣以外の社員に対して、という意味でお話しますね。
僕が一番感動したことなんですけど、政七には表彰式(全社説明会)という文化があるんですよ。全社のスタッフを集めて1年に1回、経営層が何を考えているのか数時間かけて喋って、その後店舗や本社でその年優れた実績を出した人を表彰するんです。壮観ですよ。

そこで僕も「コミュニケーション本部っていうのは、こういう組織だよ。こうゆう戦略で今年は行くよ。」というのを超プレゼンするんです。その機会を有効活用して、まずは方針をしっかり伝えて「おお~!」と思ってもらい、戦略及び僕に対する理解を得る。その上で、さっきの「会社の最大のファンであること」にも繋がりますが、こういう場を生かして、全力で愛情(情熱)表現します。
べき論で言うと、外から来た人間なればこそ、やるべきは改善よりは革新。空気も読みつつ、新しい風を持ち込んで自分で切り込む特攻隊長であるべき。

そこで邪険にされないためにも、会社に対する情熱の見える化は重要だと思います。
僕は入社してからめちゃくちゃこの会社が好きになったパターンですが、最大のファンでいられる会社を選ぶってのは転職において超重要ですね。

というのも、会社や会社のコンテンツが好きだと自分もハッピーだし、なにかを推し進めるときも、好き好き言ってる人間をあまり邪険にはできないじゃないですか、人って。そこに助けられている部分は多分、かなりあります。冷静と情熱、どっちも大事だよねという話です。

長谷川:僕の周りを見ていると、日本企業から日本企業に転職して成功している、満足しているという人はなかなか稀だと思うんだよね。そんな中、緒方さんは今すごく楽しんでやっていて、かつ内部昇進もしているから十分成功例だと言えると思うんだけど、それはなんでなんだろう?

緒方:ひとつは企業文化ですね。うちの会社って、必ず社長が採用に関わるんです。だから中川政七商店らしい人しか入れない。どんな人かと言うと、俺は例外なんですけど、真面目で努力家で、品があって紳士で、みたいな感じで……。

長谷川:全部、緒方さんに当てはまらないですよね。

緒方:例外だって言ったじゃないですか(笑)。そういう人しかいないから、僕が変な話をしても、まずは否定しないで聞いてくれるんです。だから成果が出しやすい。そういう企業文化が8割。いいビジョンといい企業文化を持つ会社が、いい企業ってことなんだなと、心底思いました。
残りの2割は、ハンズでやってきた経験が役に立たないということに、一瞬で気づけたというのがあります。

中途採用の面接を受けているときって、「御社に足りないのはこれこれで、僕がやってきたことはこういうふうに活かせる。そうすれば会社はもっと伸びるはずです」みたいなことを言いますよね。でも、スキルだけじゃワークしないんですよ。その会社及びそのビジョンに準ずる気持ちが一番重要なので。今までやってきたことはいったん忘れて、この会社の中で自分が何をできるのかを見つめ直すことが自分の最初の仕事だと、すぐに気づけたのは良かったな、と思ってます。

学生の就活のテンプレで「御社の企業理念に共感しました」みたいのがありますけど、結局あれは正解だと思うんです。それがないと、ワークしないですよ。もちろん好きだけでもダメなので、バランス感覚が重要ですけど。
地頭力(基礎仕事力)、それとビジョンへのコミット、コミュニケーション能力。この3点が大事です。スキルはあとから育てられる。

長谷川:確かにね。

緒方:その上で、自分が持っているものをどう活かせるかを考えた時、僕のそれは、やっぱりスキルじゃなくてスタンス。長谷川さんに教えてもらったような働き方の基本的な原理だったりするんですよね。
ある時長谷川さんに言われた、「狂ってることを許すな。狂ってることをやれ」と言う言葉がすごく残っているんです。

「狂ってることを許すな」というのは、旧態依然としたこと、なあなあで続いている風習みたいなものとかを許すなということで、「狂ってることをやれ」は、誰もやっていないイノベイティブなことをやれ、ということですよね。その考え方は僕の骨子になっていて、中川政七商店でも「ここが変だよ」みたいなことを列挙して、改善案を出して実行して……、ということをやってきたのがある程度評価していただけた結果になっているんじゃないかと思います。

長谷川:そんなこと言ったっけ。

緒方:オイ!!!!

転職をしたことがない人へのアドバイスは、「まずは本業を頑張る」

長谷川:緒方さんにはぜひ、まだ、転職したことのない人に対して何かヒントになるようなことを話してもらえれば、と思うんだけど。

緒方:僕はそもそも、ハンズを出る気はなかったんですよ。理由は2つあって、ひとつは単純に怖かったから。外の世界を知らなかったので、自分が本当に生きていけるかどうか分からなかったんです。

長谷川:それについては、すぐに実証できたよね。

緒方:まあ、そうですね。2つ目の方が重要なんですけど、自分の働く基準は、ハンズのときから出来上がっていたんです。僕にとって一番重要なのは「誰と働くか」。
なので、長谷川さんのチームから外れることが分かって僕にとっての「誰と働くか」が満たされなくなってしまった時に、辞めることにしました。一緒に働きたいと思える仲間を外に探しに行こう、と思ったんです。

長谷川:内示が出た当日に辞表を提出したんだよね?

緒方:そうです。内示を受けて一旦異動してしまうと、またしばらくズルズルするだろうなと思いましたし、異動先にも迷惑だろうと思ったので。

長谷川:奥さんはなんて? いわゆる「嫁ブロック」みたいなのはなかったの?

緒方:たまげてました(笑) 彼女は、翌月に育休から復職するというタイミングだったので、相当、肝を冷やしたと思いますね。
でも、僕がソーシャルなどで社外の人と色々繋がっているのは彼女も知っていたので、「こいつは、どこかには行けるだろう」とは思っていたはずです。なので、びっくりはしていたけど、そんなに不安はなかったかもしれないです。

長谷川:そうだとして、次の会社はどういう基準で探したの? 「誰と働くかが大事」と言うけど、面接で会った人を好きになったとしても入社してから一緒に働くのは違う人だったりするじゃないですか。

緒方:確かに、面接してくれた人にとても共感して「この人と働きたい」と思っても、実際に入ったら違う部署、というのは、普通の転職活動では防ぐことができないですよね。これを防御する方法のひとつは、今いる会社で実績を出して社外で名前を売るということと、社外に知り合いをたくさん作るということに尽きると思います。僕の話で言うと、ありがたいことに、事業責任者レイヤーや経営層の方々から直にメッセージを頂いたりしたわけですよ。そうすると、ある程度内情実情を教えてもらえるし、明確に「俺の下で」というオファーが来る。中の人と直接つながっている状態で転職活動ができる基盤があるかどうか、ということだと思うんです。

長谷川:それはまた難しいことをいいますね。確かに今、「辞めます」とソーシャルメディアで言ったら、「じゃあ、うちに来ない?」というオファーがあって、そこから選ぶというパターンにうまく乗っかっていける場合はいいですよ。でも、ほとんどの社会人て、まだそういう転職活動をしていないじゃないですか。緒方さんのアドバイスとしては、そういう転職活動ができるように、今の会社でも頑張れよ、ということ?

緒方:そうです。まずは今を頑張る。そして「どういうヤツだ」「こんなことをやっている」というのがちゃんと周りに伝わって、知っている人から声がかかるような状況を作る、これは大事だと思います。
「普通の人には無理」と言うかもしれないけれど、そうでもしないと転職活動はいつまでたっても博打になってしまいます。転職は、人生においてめちゃくちゃ大事な選択なので、博打感を減らすのはとても重要ですよ。リファラル採用が今盛り上がってますが、それとも文脈は完全に一致すると思ってます。全ては雇用主・雇用者互いに博打感を減らすために、です。そういう意味で、副業をする人や会社が増えたりしているのは、いい流れだと思います。

長谷川:緒方さんは、転職先を決める前に辞めたでしょう。今の時代、在職中にエージェントを使って転職活動するよりも、SNSで一発「辞めました!」と言ったほうが、よっぽど効率よく、いい案件が見つかる、という人が出てきているということですね。

緒方:転職に役立つかも、という切り口はあくまで一側面ですが、出会った人と密につながって、自分はこういう人だ、ということをオープンにしておくことは大事だと思います。そうすれば、いざという時にそれがなによりもリクナビの代わりになるかもしれません。

長谷川:それでも、「優秀な人達はそうだけど、俺は違う」と不安になっている人に、なにかアドバイスはありますか?

緒方:長谷川さんからもらったアドバイスそのままですけど、「定期的に転職の採用面接を受けろ」ということですね。
自分の市場価値を知っておくというのは、すごく大事。だから、僕は今の部下にもそう言ってます。「最悪ここでダメでも、行ける先がある」と知っておくだけで、心理的不安が減りますからね。

長谷川:そうだね。

緒方:まずは本業をとにかく頑張る。その下地があった上で、他の企業の面接を受けてみるという実験で心の負担を軽くして、それから可能性を広げるために外部とのつながりを増やす、という順番でいけば、誰でもできると思うんです。ただもちろん、本業を頑張らないでソーシャルでの発信だけ頑張ってるとかだと空虚だし、「こいつクチだけだな」ということはすぐ透けます。ソーシャルメディアって本人の想像以上に、雄弁ですから。

外から見た東急ハンズのもったいないところは?

長谷川:東急ハンズを出ていって外から見た時に、「こうしたらもっと良くなるのに、もったいないなぁ」と思うことはありますか? 商品、接客、色々なデザイン……、なんでもいいんだけど。

緒方:ありますけど、記事にしないでほしいです(笑)。

長谷川:いいから、一応喋ってみようか。中にいると分からないことって、あるから。

緒方:うーん(笑)。まずは、私のやり残しでもあるんですけど、EC在庫の3店統合ですね。今、ハンズのECは新宿店在庫を使って販売をしています。店在庫を使ってやるEC運用はメリット・デメリットありますが、デメリット側で言うと欠品率が高いのと販売可能在庫数が少ないのは課題でした。これが新宿・渋谷・池袋店の在庫を統合して表示・販売できるようにしたかった。
1日1回ルート便を回して渋谷と池袋の商品回収して新宿から出荷。販売可能SKU数も販売可能在庫数もかなり上がるので、試算上でも勝ち目しか見えてなかったのでこれは心残りです。

長谷川:うんうん。

緒方:もうひとつは、店舗数を減らす。ハンズの一番良いところは、1店舗内で膨大なSKUを使って適切かつクレイジーにコンサルティング・セールスできるというところだと思うんです。店舗に行けばボヤッとした悩みを解決できる、してもらえるというところに尽きる。でも、店舗の数を増やすことで最大の資産である人材が分散して、良いところが薄れてしまっているんじゃないかと。少数の大型店を、大量にSKUがあって接客に時間をかけられる状態にする。つまり、フェイズとしては今あらためて、売上高ではなく利益率を再優先順位として事業を見つめ直した方がいいのではなかろうかとは、思います。

長谷川:仮に、2030年頃の未来のハンズを考えるとしたら、どういうふうに舵を切るのがいいと思いますか?

緒方:えーーー、、、、 そうですね、海外、ですかね。まず物流の拠点を中国において、モノを仕入れる体制は日本に残して、、、

長谷川:マーケットは中国ですか?

緒方:それはアジアを中心としながら、ワールドワイドですかね。東急ハンズのポジショニングと商品展開は、世界で唯一だと思うんですよ。長谷川さんも前に言ってましたけど、外国人を連れて行ったら一番喜ばれるお店でしょう。日本ってやっぱり面白い商品作ってる会社多いんですよ。それをハンズが世界に広げる媒介となるのは筋が悪い話じゃないとは思います。

長谷川:一般論として、これから製造小売(SPA)は生き残るけど、ただ仕入れて売っているところは厳しいと言われてますよね。

緒方:そうですね。ただ、それでも、日本にあって世界にない商品て、まだめちゃくちゃあるじゃないですか。それを体力のある東急ハンズが、ちゃんと仕入れて外に持っていって売上をあげる、というのはありだと思うんですよ。特にキッチン、ステーショナリーあたりの面白い商品は、まだまだ海外では売られてません。日本みたいに面白い形の穴あけ機とか、針を使わないステープラーとか、そういうのはないですから。

長谷川:だとしたら、東急ハンズってリテーラーとしてはやっぱり限界もあるから、卸になった方が良くないですか?

緒方:それはありだと思います。東急ハンズというブランドネームは世界でも生きているので、それを活かして外で新しく根を広げるというのが重要で、むしろ卸をやるのがいいかもしれないですね。

“体験の場”にシフトチェンジすることで、リアル店舗の可能性が広がる

長谷川:昔は、メーカーに対して超大手小売業は、「俺達が売ってやるから」という強い立場にあったわけだけど、今ってやっぱり仕入れて売るだけの小売ってちょっとマズイのかなと思うんだよね。モノを作っているメーカーだと見えているものが全然違うと思うから、やっぱりSPAにならないと難しいんじゃないかと。

緒方:同感ですけど、その手前の話で、そもそもモノを買う機会・行動がとても減ってきていますよね今。長谷川さん、どこでどんな買い物します?

長谷川:ネットも含めるとAmazonが多い。

緒方:旅行とか行きます? そのとき、なにか買いますか?

長谷川:旅行は行く。でも、モノはあまり買わないかな。それよりも、何かの経験に対してお金を払ってるかもしれない。

緒方:そこなんですよ。要は、店舗を“売り場“じゃなくて“体験の場“にする、という議論を先にすべきだと思うんです。PB推進やSPA化の検討の前に。
「商業施設に行きたいよね」というのは商業施設の中にあるテナントに服を買いに行くとか食事をしに行くという「買い物」「飲食」という点の行動の話ですけど、そこにはビルごと一気通貫でリアルの場としての大きな体験=価値提供ができる可能性と資産があるんです。

「買い物に行く」という行動をだけで人を動かすのはもう、とても、難しい。でも、そういうバージョンアップができる店舗や館(やかた)は残っていくはずだし強くなるはず。モンベルさんが店内にボルダリングできるスペース作ってるとかがまさにそれ。あとは、体験はリアルで購買はウェブで、のようにオンライン側の利便性を取り込んでチャネルのバージョンアップを図るのも大事。レジがなくなれば面積も増えてやれることも増える。
Amazonみたいなソリューション型の購買領域で戦うのはもう筋が悪すぎるので、体験というものをしっかり組み込んで行かないともう戦えない。ただ、それを組み込めばAmazonも怖くないと思ってます。

長谷川:そういう話でいくとね、店舗なんだけど入場料を取る、というのは面白いかな、と思うんですよ。日本にはない超面白いIoT商品を体験できるテーマパーク。買ってもいいし、買わなくてもいいんだけど、入場料を取る、その方がお客さんは集まるんじゃないかな。

緒方:それは超ありだと思います。例えばですけど、TechShopさんって、そういうお店ですよね。東京にもありますけど、いろんなDIYツールがそこに行くと試せる。まず集まるという前提を作ってからマネタイズポイントを探る、というのは最近増えているので、リアル店舗がすでにあるというのは、本来は企業アセットとして、すごく強いんですよ。みんな必要以上に悲観している気がします。悲観の前に実験をたくさんするべきだと思います。

長谷川:そうだよね。

緒方:実は、中川政七商店の表参道店は「丸ごと試せる中川政七商店」というコンセプトでリニューアルしたんですよ。デパ地下ならともかく、普通はジャムとかでも気軽に試食できないし、レインコートなんかの撥水具合を知りたくても店舗で水はかけられないじゃないですか。それを全部できるようにしたんです。「うちのお店の商品を全部試せます」と。

うちの商品は工芸品なのでどの商品も基本的には少し高価格帯になります。すると、スタッフから「使ってもらえればわかるんですけど、高いから使ってもらえないんですよね」って話がたまに出てくるわけです。だったら、使ってもらえばいいじゃん、という発想です。使ってみてからお金をもらうかどうかを、お客さまに委ねる店にしたんです。

そうすると、普通は店員からお客さまに声を掛けるじゃないですか。でも、お客さまが「全部試せる」という前提をもって入店すると、お客さんから「これ試したい」ってバンバン店員に声掛けてくださるんですよ。当然ひとりあたりの接客時間が上がるんですけど、客単価も上がるんです。
コミュニケーションの方向を「スタッフtoお客さま」から「お客さまtoスタッフ」にアイデア一発で変えることができました。

長谷川:体験できる、というのはいいよね。俺がもう一つ考えているのはね、例えばグリーンスムージーのミキサーを見て「よし、これで健康になろう」ってミキサージューサーを5000円出して買おうとしたら、「ちょっと、やめて。どうせ2~3回しか使わないんでしょ」って嫁に止められたり、っていう人がいると思うの。そういう商品に対して、もし使わなかったらハンズが買い取るのはどうかな、と。例えば1ヶ月以内だったら半額の2500円で買い取って3000円で売るマーケットを東急ハンズ作れば、新品と中古の複合マーケットが作れんじゃないかと思って。新品で儲け、中古でも儲けるということ。お客様は、まあ、「試し使いが自宅でできる」と言うメリット。

緒方:いいですね。思いつきですけど、そのグリーンスムージーのミキサーを買いたい人って、健康になりたいという思いがあって買ってるはずなのでバランスボールとか自転車とか持っている可能性がありますよね。そういうものも買い取ることにしたら、ミキサーの競合品が何かというデータが取れて、そっちの商売もできるかもしれないですね。

長谷川:面白いね。緒方さんが、5年後に役員としてハンズにカムバックしてくれたらねぇ……。

緒方:ないでしょう(笑)。

長谷川:ないね(笑)。