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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第44回 株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さん


 

ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第44回目には、株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さんに登場いただきました。もとは世界的な投資銀行で億単位でのビジネスを動かすエコノミストの地位を捨て、起業間もないマザーハウスの経営にジョイン。年収は20分の1になっても「以前よりやりがいがある」と語る山崎さんに、長谷川がその笑顔の秘密を探るべく迫りました。

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株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さん
1980年、東京都生まれ。2003年、慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。当時日本は数少ないエコノミストの1人として、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や顧客への金融商品の提案を行う。07年3 月、バイクによるアジア横断旅行の準備のために同社を退社。在職中から大学のゼミの後輩だった山口絵理子氏(現・マザーハウス代表取締役)の起業準備を手伝っていたこともあり、同年7 月マザーハウス取締役副社長に就任。マザーハウスの経営を担いながら、社会人のための “思考・実践の場”を提供する「マザーハウスカレッジ」を主催する。

社会の理不尽の元凶!?金融もビジネスも毛嫌いしていた

長谷川:最初にお会いしたのって、業界の勉強会みたいな場でしたよね。ファッション関係のECをどうするか、みたいなテーマで。

山崎:ええ、全く知らない世界ですごく刺激的でした。当時はまだ店舗も7〜8店でそれなりに店頭では売れるようになっていたんですが、ECはからきしで。今になってようやく、オウンドメディア化してオンラインにもいい流れができてきたところで、その起点となったのが、その勉強会だったなあと。

長谷川:マザーハウスはユニークで当時から目立っていましたよね。もとは貧困問題への課題意識を起点にバングラデシュのジュートやレザーを使ったバッグの製造販売をはじめられて、代表取締役社長の山口さんは情熱あふれる“社会起業家”として有名ですし。一方、そんな山口さんを支えるのが、ロジカルで冷静な副社長の山崎さんというイメージ。でも、実際にお会いしてみると山崎さんもすごく熱い。ゴールドマン・サックスの超エリートでしっかりレールもひかれていたのに、あっさり辞めてジョインされて。

山崎:まあ、ゴールドマン・サックスは4年で辞めようと決めていたんですけどね。マザーハウスに入るために辞めたわけじゃないんですよ。

長谷川:えっ、そうなんですか。

山崎:ええ、ちょっと早回しで説明しますね。まず大学時代にはメディアやジャーナリストに憧れて、ストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮ったりしていました。でも、貧しくても明るい彼らの生活って、与り知らぬところで起きた金融危機で一変するんです。まさに社会の縮図を見せられて「幸せとは何か、豊かさとは何か」を考えるようになったんです。それで金融の仕組みや在り方に疑問を持ち、経済学に行き着いて、そのど真ん中に行ってみようと入社したのがゴールドマン・サックスでした。4年間勉強したら辞めて、アジアをバイクで走る旅に出ようと思っていたんです。

長谷川:始めから辞める予定で入ったんですね。

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山崎:そうです。21世紀は絶対にアジアの時代だから、金融の世界でアジアを見てから、実際に自分の足で歩いてみれば、何かがわかるのではないかと思っていました。でも、忙しさとお金という“思いを忘れる二大巨頭”がゴールドマンにはありまして…。いろいろチャレンジもさせてもらったし、居心地もいい会社でもあったことから、何となく忘れかけていたんです。

長谷川:ほう、そこに山口さんが登場したと。

山崎:そう、大学の1つ下の後輩だったんですが、「バッグを買ってくれ」ってやってきまして。まだその段階では山口の家族にしか売れてなくて(笑)、とにかく売れなくて…。それでとりあえず会社を作って、商社や広告代理店、コンサルなどに勤めている友人の協力を得てネットショップを作ったり、売るための方法を考えたり。あ、そういえば卸で一番最初に扱ってくれたのは東急ハンズだった気がします(ありがとうございます、笑)。僕の家をオフィスとしてカギも渡していたし、仕事が終わってから深夜に連日議論です。それがもう面白くて、「志をもって働くって、こんなに楽しいんだ」と。

長谷川:その経験がマザーハウスに入るきっかけになったんですね。

山崎:そうですね。あとは、堀江さん(堀江貴文氏/元ライブドアCEO)との出会いも大きな契機になりました。仕事で食事をご一緒する機会があり、いろんな話をしたんですが、彼がその時一番注目していたのが「ミドリムシ」。「世界の栄養問題が解決するかもしれない」なんて熱く語って。その固定概念のなさに驚くのと同時に、ビジネスの可能性ってすごいなと。もともと僕はアカデミックな世界を指向していて「ビジネス」にはあまり興味がなかったんです。むしろどこか毛嫌いしていた。でも、社会が求めるものを提供したり、問題を解決したりするのは「ビジネス」じゃないかと思うようになったんです。

1万円のバッグの販売に四苦八苦「理念あるビジネス」は断然楽しい

長谷川:志の大切さや、ビジネスに対する固定概念の払拭とか、すごく分かるんですが、それでもゴールドマン・サックスでしょう、もったいないと思わなかったんですか(笑)。たとえば、二足のわらじで続けようとか。

山崎:最初はそうしてました。でも、大手百貨店の催事へ手伝いに入ったところ、バカスカ売れると思ったら、開店10時から夜7時まで1つも売れない。閉店ギリギリになって1万円ちょっとのバッグがようやく売れて…。その時初めて、モノを売ることの大変さを実感したんです。

長谷川:それまで「10億や〜」「100億や〜」という規模の売買を経験してこられてますよね。それとは全く違っていたわけですか。

山崎:全く違いましたね。1人のお客様にお財布から1万円を出していただくことがこんなに難しいのかと、これが“本当の経済”なんだとつくづく感じました。改めて考えると、誰が作ってどのようにして手元に届くのか、そんな基本的な経済活動を全く知らなかった。そうなると知るべきことが山ほどあり、そこを変えることで社会も変えられる可能性がある。それが何か、ビジネスで突き詰めたいという気持ちが高まっていったんです。

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長谷川:ゴールドマン・サックスもよく快く送り出しましたね。

山崎:ええ、いろいろと大変だったんですが、同業に行くならともかく「バイクでアジアを旅するため」と言ったら、「それは仕方ないね」と出してくれました。で、免許を取り直して、バイクのメンテナンスを学びにいって…、の合間にマザーハウスを手伝っていたら、それが本業になってしまったという。

長谷川:楽しいといってもリスクもあるじゃないですか。そこはどう考えたんですか。

山崎:いや、不思議と山口とならできるという確信がありましたから。そういう巡り合わせって、人生に1度あるかないかでしょう。それでも3年やってダメなら、他の道を探そうと思ってました。今年で10年になりますが、6年めまではけっこう厳しかったですね。

長谷川:最初からチャレンジングなことをされてますよね。海外に自社工場があって、基本的には卸を介さない自社の店舗での販売という。たとえばユニクロでも徐々に取り組まれてきたことなのに、マザーハウスはかなり初期からですよね

山崎:ええ、今でもバッグ業界では相当レアでしょうね。もちろん最初は卸を利用していたんです。ところが、お客様がどんな思いや理由で購入されたかがわからない。どうしても知りたくて店の前で待ち伏せして、購入された方に話を伺ったこともありました。それで直接お客様とお話ができるようにショップを開いた。そしたら「こういうのをつくりたい」という思いが強くなって、せめてサンプルでもつくりたい、いや自分たちで全部つくりたいから工場を造ろうと。それが比較的短期間に展開した感じですね。

長谷川:それでもリテールの視点から見ると、大変そうだなと(笑)。在庫を持つリスク、ロット量の確保など、リテールの人は嫌うんですよね。もっと楽な商売の方法があるんじゃないかとか、考えたりはしませんか。

山崎:しないですね。うちは予算にも利益にもうるさい会社ですけど、ゴールはビジネスじゃないですから。まずは理念ありきで、ビジネスはツールでしかない。多くのメーカーがバングラデシュに来るのは、中国が割高になってビジネス上のメリットがあるから。でも、僕たちは「途上国から世界に通用するブランドを」という理念でやっているから、バングラデシュでつくることにこだわる。情報を提供し、モチベーションをアップさせて、人や産業を育てることが目的なんです。

長谷川:代表の山口さんの著書を拝見すると理念や取り組みがとてもよくわかるんですよね。でも、山崎さんの経歴だと「産業ごと構造改革!」みたいな発想をしそうじゃないですか。

山崎:うーん、先ほどの話と矛盾するかもしれませんが、やはり経済活動において「モノを売る」って一番小さな単位ながら、これほど社会にインパクトを与えるものはないと思っているんです。たとえば法人向けにモノづくりをやっている会社で売上高が何千億って会社もたくさんありますが、どうしても社会的なインパクトは伝わりにくく小さくなってしまいます。でも、バッグなら物語とともにその人の側に常にいるわけです。みんなが持てば、みんなが知ることになる。だからこそ、「モノづくり」そのものを変えたいんですね。最初から最後まで一貫して思いを込めてつくったものが選ばれる。そうすれば、社会も絶対に変わります。お金が健全に使われ、富の偏りやマネーゲームも生まれにくくなると思うんです。

「買うこと」は社会へのメッセージ 消費のスタイルを改革したい

長谷川:それにしても、どうしてバッグ業界にこだわるんですか。

山崎:山口が起点というのもありますが、最近僕自身も「この業界はチャンス」と思っています。というのも、1兆円の市場規模なのに、コンサバで古い仕組みや考え方が残っている。日本はITや金融、メディアなどにアーキテクトとなりうる人が集まり過ぎです。ぜひともそれ以外の業界に行ってほしい。トップランナーになれる可能性は大きいと思いますよ。

長谷川:確かにそれは僕も思いますね。農業とか漁業とかもそうだし、教育もそう。でも、さっきも言ったけど、アパレルって規模がないとやっていけない事業じゃないですか。そこにあえて飛び込むというのが、すごいなと。

山崎:いや〜、もう二度と同じ事はできないと思います。世界中あちこちでやりとりして、ホントしんどかった(笑)。でも、いつのまにか「死の谷」やらを超えてなんとか安定してきた。その意味でラッキーでしたね。

長谷川:ファッションが難しいのは、安定した後ですよね。ファストファッションみたいにどんどん買い替えてもらうモノではないし、流行もあって好き嫌いや飽きることもある。バッグも長持ちさせてほしい一面、買い替えてもほしいわけでしょう。

山崎:そこは修理もしっかり受けますので、長持ちさせて使ってほしいです。サービスとして継続するには、相応の修理代をいただいています。だから金額を聞いて躊躇されるお客様もいらっしゃいますが、「愛用しているから」と修理される方のほうが多いですね。ビジネス的には買い替えてもらう方がいいですけど、メーカーとしては長く付き合っていただけるのは嬉しいこと。結果としてLTV(ライフタイムバリュー:人生における消費額)も高まりますし、入学や就職、誕生日などの節目に選んでもらえる存在になりたいと思っています。

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長谷川:確かに、バッグはファッションとして楽しむ反面、めがねの次くらい毎日は変えないし、身近な存在ですよね。

山崎:そう、思いが反映されやすいんですよ、人となりも伝わるし。だから、バッグは面白いんです。

長谷川:ハンズでもレザー製品に「名入れ」サービスをはじめたんですが、大人気なんです。きっと誰もが「自分のための1点もの」を探しているんでしょうね。同様に、修理でも買った当初に戻すだけでなく、色や仕様を変えるなど新しい付加価値を提供すれば、新品を買うのと同じ代金を支払う気がします。

山崎:それは面白いかも!Repairじゃなくて、Rebornってことですよね。新しいものを買ったような気分になりつつ、これまで寄り添ってきた思いも踏襲できる。

長谷川:石は同じだけど指輪のデザインを変えたり、バイクをカスタマイズして乗ったり。仕様を変えて楽しみながら、思いは引き継ぐ愉しみってあると思うんですよ。次の世代にも、モノを大切にする気持ちや、モノに込めた思いを引き継げたらいいなと思いますね。

山崎:そうですね。どんどんバーチャル化して、リアルなモノに対する思いが薄れている時代に、モノに対する期待として何が残っていくのか、とても気になります。マザーハウスとしても、ECの利便性を高める一方で、リアル店舗では人が思いを持って伝えていく重要性が高まる気がします。

機能性重視は恋愛力の低下から?情緒的購買は自分事にシフト

山崎:でも、これからはバーチャルも目的化しうる。たとえば、人間は「たまごっち」にも愛着を持つじゃないですか。モノへの愛着がどう変化するのか、興味があります。

長谷川:モノに対する愛着はありながら、機能性だけなら四次元ポケットができた途端にバッグを買わなくなるでしょうね。まあ、四次元ポケットは当分ないとしても、ビジネスバッグという機能性型モノについてはウェアラブルとの融合でかなり登場シーンは減ると思います。客先に手ぶらで行くと「失礼なヤツ」という印象なので(笑)、時間かかかると思いますが。

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山崎:なるほど。でも、Apple Watchと父親から譲り受けたいい時計だったら、どっちを持ちたいですか。そもそもステイタスを表す「見せ時計」や「見せバッグ」は残るんでしょうか。経営者としていろいろ考えます。将来産業そのものがなくなるというような、“あり得ないこと”もあるわけですから。

長谷川:合理的に考えるだけでは予測できないことも多いですよね。比較的男性はモノとの付き合い方が合理的なような気がするんですが、女性は「ほぼ空のバッグ」をファッションとして持っていたり、履かない靴を山ほど持っていたりしますから。

山崎:ところが、最近はどんどん女性が合理化しているんですよ。ブランドバッグは軽量化しているし、女性の社会進出と並行して、もう無理なおしゃれはしたくないというマインドが強まっているのかもしれません。ファッション要素は消えないけど、それだけじゃ勝負できない。あと、情緒だけでモノを買わなくなっていて、メリットや魅力が言語化されて、それを手がかりにモノを買うようになっている。

長谷川:ええ〜、そうなんですか。なんか、夢のない話だな(笑)。きれいに見られたいからちょっときついハイヒールを履くとか、そういうファッションは淘汰されちゃうんですね。

山崎:目的に応じて二極化しているかもしれませんけどね(笑)。機能性だけでなくて、反対に情緒的なもの、ムダなものに対してのこだわりも強まっていると思いますけど。ただ、機能性重視の傾向として、僕が問題視しているのは「恋愛力」の低下です。

長谷川:ハイヒール履くのも、それですしね。

山崎:そう、メールじゃなくて手紙を書こうとか、ファミレスじゃなくて贅沢なディナーを食べようとか、それって相手の心を情緒的に動かそうという気持ちからですよね。恋愛に対してのモチベーションが低下していて、ファッションにすごく影響している可能性があると思います。一方で「自分を満足させる買い物」への傾倒も感じますね。特に女性は、本当に買い物が好きだなあと。世界の消費は女性が動かしている感じがあります。それも、3万円も3000円もどっちでも満たされる感じがある。

長谷川:男性はわりと、ちまちま買いはしないですよね。

山崎:僕はマザーハウスに入社してからかなり女性化して「かわいい〜」で買っちゃう気持ちがわかるようになりました(笑)。僕の場合、自分のための“情緒買い”は食事かな。多少高くても、いいモノを食べにいく。それがストレス解消になってます。長谷川さんの情緒買いは何ですか。

長谷川:僕は車ですね。機能だけなら国産がいいと思っても、「かっこいい」から外車を買っちゃう。1人旅のドイツでアウトバーンをアクセルベタ踏みで走ったときは、レンタカーだったけど最高だったな。昔、国内A級ライセンスも取ったくらい好きでした。

山崎:僕も車は好きですね〜。女性からは「移動手段になぜそこまで熱くなれるの?」って言われるけど、男性から見た女性のバッグと似たようなものでしょう(笑)。ただ、「車のかっこよさ」も、今の若い人はエンジン音やデザインより、エシカルさに感じるみたいですね。プリウスが人気なのも価値の言語化が明確だからなのでしょう。

「知ること」で感情が動く 主観を軸に本音で語ることの大切さ

長谷川:モノの後ろ側の物語って、あまり知られてないですからね。プリウスはちゃんと物語があって、発信できているから、知った人から反応がある。

山崎:そう、物語の発信は当社でも大きな課題ですね。特に大量生産型メーカーって裏側を見せたくないことが多いんです。だからこそ、すべてをオープンにできる僕たちの強みなわけで、しっかりと啓蒙活動をしていきたい。実際、3カ国から職人さんをお呼びして制作過程をリアルで見せたりするんですよ。

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長谷川:ユーザーとのコミュニケーションは重要ですよね。それも「届く形」で伝えること。マザーハウスはアジアを中心に海外展開もなさっていますが、国ごとに違うことはありますか。

山崎:ありますよ。たとえば「山口」という創業者についても、日本だと夢探しや生き方として憧れの対象ですが、起業が当たり前の台湾だと成功した創業者として見なされ、「資金は」「ビジネスパートナーは」と具体的な質問が飛ぶ。ただ、製品のストーリーに共感して購入するのは断然日本ですね。日本でモノを語って売れない商品は、アジアでも売れないでしょう。

長谷川:それもね、ちゃんと本音や真実が伝わるものじゃないと、ばれますよね。

山崎:そう、発信する人の主観こそ差別化できる部分だし、大事だと思いますね。主観のない社長の会社はダメになると思っています。近年ダイバシティが大切と言われますが、「みんな仲良く」じゃなくて、異なる主観のぶつかり合いで新しい価値が生まれることに意味があるわけでしょう。この居酒屋放浪記も本音満載でいいですよね。お酒を飲みながら対談なんて初めてです。

長谷川:人と会うと刺激も受けるし、勉強になる。僕だけじゃもったいないというので、テキスト化することにしたんです。

山崎:いいですよね。実は僕も学びを共有する場として「マザーハウスカレッジ」というのを主催しているんです。マザーハウスの製品には様々なストーリーがあって興味を持ってくださる方も多いし、事業を通じて出会った様々な立場の人の思いや課題感などに共感することも多い。それらをメディア化しようとしていたんですが、イベント好きな会社なので、リアルな場でも皆さんにもシェアできればと。セミナーや対談を多いときで月2回ほど開催して、もう7年目になります。

長谷川:集客が大変そうですね。ちなみにどのようなテーマでなさっているんですか。

山崎:最初は「経済性と社会性の両立」みたいな自社の課題と近い話が多かったんですが、3年くらい前から「挑戦者たちの朝」とか、「未来を創る女性たち」「モノづくりに新しい物語を」というように、など数回セットでテーマを決めて定期開催するスタイルになってきました。今度企画しているのは「未来の働き方」です。

長谷川:テーマが御社の事業と近いものもあれば、すこし離れたものもありますね。テーマはどうやって決めるんですか。

山崎:実は正直にいうと最初は自分のためだったんです。なので、自分の興味関心事とみんなに興味を持ってもらいたいことがテーマ(笑)。どうしても会社の経営に邁進すると他のことが見えなくなるでしょう。もっと幅を広げたいのに本もすぐに役に立つようなものばかりを選んでしまう。でも、お客様と一緒に学べばサボることもないですし(笑)。だんだんと時間が経つにつれ、スタッフの学びの機会としても意識するようになりましたね。そして最近最も意識しているのは「社会のため」ということです。

長谷川:おおっ、大きく出ましたね(笑)。

山崎:いやいや、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。というのも、今の企業の在り方ってお客様との二項対立になっているじゃないですか。企業は「お客様のために」価格を下げ、品質を上げる努力をしている。でも、そうした企業の努力を「お客様とともに」へと変えたいと思っています。だから、カレッジではマザーハウスの話は一切しません。社会的な課題と感じているものに対して、私たちもお客様と一緒になって共に解決法を考え、議論する。そうすることで対等な関係、同志になり、プラットフォーム化できると考えているんです。

思いがなくちゃ始まらない 思いだけでは動かない

長谷川:ちなみに社員の皆さんには、どのような教育というか、伝え方をされているんですか。

山崎:以前は朝の勉強会を毎日やって哲学書とか読んでいましたけど、いまは人数も多いし、僕も不在が多いので週1〜2回ですかね。あとは、とにかく入口である採用をしっかりやろうと。入社後もほぼ全員がそろう場で「社員登用プレゼン」をやらないといけないんです。そこで、マザーハウスの文化と共有できるものがあるかどうかをお互いに見定める。それはもう取り繕うことなんてできないですよ。実際、人から言われるより、山口や僕がそうだったように、自分に思いがある人は強いです。現場からボトムアップでどんどんマザーハウスらしい取り組みが生まれてくる。

長谷川:メディア的には山口・山崎ペアのソーシャル活動と見られがちですが、しっかり会社なんですね。

山崎:そうですよ。思いが起点であり、原動力ですが、それだけじゃ続かないですから。いろいろ仕組みづくりもやってきましたけど、やっぱり強力なのは「製品」ですね。以前、「乳がん経験者のためのバッグ」を作ったんです。経験者と何度も座談会を行って試行錯誤を繰り返して完成させたバッグは4万円、50個限定が3日で売り切れました。以前は予算がも大変だし成長に貪欲で、なぜ会社がそうしているのかその厳しさに不満や疑問を持っている人もいたと思うんです。でも、成長すればこういう社会的なこともできる、そしてこういうことを行うのがマザーハウスの役割なんだと、それがモノを通じて実感できる機会が多いと思います。

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長谷川:ちなみに報酬とか、評価はどうなっているんですか。

山崎:ポジションでは一律、基本給に責任給がプラスというシンプルな体系で、家族手当などがやや多めという程度です。店長クラスは小売やファッション業界の中でも高めです。それにボーナスについては原資が会社の利益の何パーセントと決まっていて共有されているので、皆で出した結果で皆がリターンがあるようになっています。。

以前はもう、カツカツだったんですが、組織として利益が出るブレイクスルーポイントは明白で、それを超えることを目標として「ここに到達したらこれだけ給料が出せる。みんなでしんどい生活は変えられる」と明らかにしてきたんです。その目標を力を合わせて実際にクリアできた。それが組織全体にとって大きな自信にもモチベーションにもなりました。ただ上げるんじゃなくて、未来を見せて成功体験を共有する重要性を感じましたね。

長谷川:課題を感じていることとか、変えるべきだと感じていることはありますか。

山崎:産休や育休も増えてきたし、他社に行って戻ってきた出戻り組もいます。皆が納得できる分配を考えるのが経営者の仕事だと思うので、そこの調整は常に考えていかなくてはならないと思っています。もともと社会として金融市場に分配が多すぎると考えていて、頑張っている現場への配分が少ないという課題感を持ってきたので、そこは貫きたいですね。

長谷川:上場を考えていらっしゃらないのも、それが理由だといいますよね。

山崎:皆で稼いだお金を金融市場に還元するというよりは、お客様や現場に還元したいです。やっぱり顔が見えるところに「投資」をしていきたいと思うのです。これは個人としても同じで、自分と価値観が合う会社のお手伝いができたらいいなと思っています。人が幸せになれるお金って実感があるものだと思うんですよ。まずは会社が楽しくなればいいし、いい会社に投資しているという実感もそう。仕事が楽しくない鬱憤をお金で晴らしても、知らない会社に投資して儲けたお金を使っても、どこかむなしいと思うし。

長谷川:あぶく銭ですもんね。僕は生まれ育った環境からかけ離れると、あまり幸福感が得られない気がするんですよね。決して幸せはリニアに上がってくるわけじゃない。仕事もそうで、刺激がなければ停滞してしまうと思うし、守りに入る。でも、社会にベーシックインカム的なセーフティネットがあれば、40歳で必ず転職とか、週半分は別の仕事とか、新しいチャレンジもしやすくなると思うんですよね。

山崎:それはマザーハウスの課題でもありますね。いい会社にして、長くいてほしい。でも長くなれば保守的な人ばかりになる。だから、たとえば5年働いたら1年間の休暇とか、早期退職で起業支援とか、他の会社との社員交換とか、なんか人を動かせる仕組みを将来的には設けたいと思っています。その効果を還元できるよう、オープンに発信できるといいな。

対談形式は飽きてきた?現場の熱いリアルを伝えたい

長谷川:なるほど、確かにいい考えですよね。よし、決めた。僕も公開型にする。リアルでもいいし、ネットを介してでもいいし。僕は「あおり系」なので、「朝から生テレビ」みたいなのやってみたいんですよね。

山崎:ああ〜、田原総一朗的なの似合いそうですね(笑)。確かに、僕も居酒屋放浪記はよく読ませていただいているんですが、議論したくてうずうずしている人はけっこういると思いますよ。そもそも40回やっていると話題は尽きなくても、フォーマットには飽きてきますしね。

長谷川:そうそう、もう1つやってみたいのが「ブラタモリ」。現場に行ってみたいんですよね。普通、取材やインタビューって会議室とかでやりますけど、現場でいろいろ見ながら話を聞きたいんですよね。指差し確認しながら、語っていただくみたいな。

山崎:いいですね〜。確かにリアルにシステムの表側というか、使われている方を見たいですよね。システム構成図を見るより、何がどう変わったのかが分かる。その手法は、うちの情報発信にも参考になりそう。

長谷川:ぜひ、真似してください(笑)。

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