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カテゴリー: IT酒場放浪記

長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第51回 株式会社IDOM 執行役員 北島昇さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第51回のゲストは、中古車売買の「ガリバー」を運営する株式会社IDOMの北島昇さん(新規事業・人事・広報管掌 執行役員)です。自動運転の時代を見据えた新規事業開発から組織風土の変革まで、難題に果敢に取り組む北島さん。その大胆な考え方の背景に迫りました。

株式会社IDOM 新規事業・人事・広報管掌 執行役員 北島 昇さん
2007年IDOM(旧ガリバーインターナショナル)に入社。
人事、経営企画、マーケティング、店舗フォーマット開発、
事業提携などに従事。2015年より現職。C2C事業(クルマジロ)、サブスクリプション事業(NOREL)、コネクティッドカー事業などの新規事業開発やアクセラレータープログラムをはじめとしたオープンイノベーションの責任者を務める。
IDOMへの社名変更とともに、「クルマの売買」から「Mobility Platform」への事業変革と文化変革を推進中。

自動運転で車がサービス化される時代に備え、今やるべきこと

長谷川: 自動車業界はこれから、「自動運転」を軸にものすごい変化があるだろうと言われていますよね。IDOMさんとしては、自社への影響や打ち手をどういうふうにお考えですか?

北島: 自動車のこれからの変化って、自動運転のような自動化の流れと、シェアリングエコノミーをはじめとするUBERのようなサービス化の流れと、2軸あるんです。将来は2つの流れが交わり、運転手のいない車をスマホ1つで呼び出せるようなサービスが出てくるでしょう。それがいつなのかは人によって考えが違いますが、IDOMが存在し続ける限り、それを無視できなくなる時代がくると思っています。そう考えて、今は店舗数を増やして中古車の流通を伸ばしていくと同時に、新規事業としてサービス化に取り組んでいます。
「Car as a Service」でCaaSと呼んでいるんですけど、車を売る、買う、貸す、借りる、使うということに関わるビジネスをどんどん立ち上げてプラットフォーム化し、ドライバーIDをどんどん蓄積していこうとしているんです。

長谷川: ドライバーIDというのは、要するに運転する人のIDということですか?

北島: うちで売った人、買った人、借りた人、貸した人……、それぞれのユーザーさんたちのIDです。最終的にはその人達に価値を提供する、IDOMのプラットフォームを作りたい。要は「買った車を貸せます」、「借りている車を買えます」、もしくは「買った車をボタンひとつでCtoCに出品できます。急いでるんだったら、ガリバーが買い取ります」ということができるように、売る、買う、貸す、借りる、使う、全部を抽象化して、ひとつの中に入れちゃおうと。
例えば、長谷川さんがうちで車を買ったとします。3週間沖縄に行きますというときは、ボタンひとつポチッと押してくれたら、その間はIDOMが長谷川さんの車を貸してお金を稼がせておきます。長谷川さんが帰ってくるときには、ちゃんと車を戻しておきます。で、沖縄で長谷川さんが乗る車も、僕らのプラットフォーム内で用意します――、みたいなことを実現しようというのがCaaSです。

長谷川: なるほど。

北島: でも、このビジネスは自動運転で移動がサービス化する時代になると、無効化されるんですね。自動運転の車って、所有者も流通方法も変わって、僕らが今やっている買取や販売が割り込む余地がなくなるでしょうから。
そういう時代になるまでにプラットフォームをちゃんと作っておいて、最初は「車のプラットフォーム」だったものを、いずれは「移動のプラットフォーム」に変えたい。どこに行ってどれだけ滞在するのかによって、車と新幹線と飛行機、どれで行くのがいいのか、あるいはオンデマンドバスか、ロボットタクシーか、そういうところまで含む移動のプラットフォームです。
まだまだ不確実で、ぼんやり考えてる状況ですけど、そのときに備えて僕らが今持つべきは、調達力や与信という意味も含めた「お金」、そしてもうひとつはドライバーIDとそれに紐付くものも含めた「データ」です。コネクテッドカーと言うんですけど、車のIoTですね。ドライバーの移動経路と運転の仕方のデータを収集するための事業にも投資をしていきます。

大手メーカーに学ぶ未来への備え方

長谷川: 自動運転て、最近になって急に進化しているように見えるんですよね。ちょっと前までは、安全性とか法律とか、色々な面でまだまだ難しいと言われていたものが、トヨタも「2020年までにやる」と言ってみたりして、「いきなりどうしたん?」と不思議に思うんですけど。

北島: いや、言うほど速くないですよ。

長谷川: そうですか? DeNAも「オリンピックのときには無人タクシーを実用化する」と言ったりしてましたよね。

北島: あれも、場所と用途が限定されるからできるということでしょう。僕自身は、がんばって進めてより早く実現して欲しいと思ってますけどね。免許持ってない僕が言ってもリアリティがないんですけど(笑)

長谷川: え、免許持ってないんですか?

北島: うち、「要マニュアル免許」なんですけどね。ガリバー(現IDOM)に入る時、あまりにもポンポンと決まったので、自分だけ免許の有無をチェックし忘れたみたいですよ(笑)

長谷川: え〜(笑)

北島: まあ、それでも思うわけですよ。車って、友達を乗せたり子どもを乗せたりしながら、事故を起こして人を殺す可能性がある。どれだけ気をつけていても、向こうからぶつかってくることもあります。語弊を恐れずに言えば結構恐ろしい乗り物なんですよね。そういう意味においては、自動運転とか、自動運転までいかなくてもADAS(先進運転支援システム)と呼ばれている自動ブレーキの技術などは、本当に大事だなと。自動車がそっちの方向に発展していくのは、すごく健全で、正しいことだと思いますよ。

長谷川: 確かに、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とか自動追従のシステムとか、各社が昔から取り組んでいましたよね。でも、ここにきて自動運転が急速に伸びてきているように見えるのは、なんでなんかな、と。

北島: ひとつは、テスラを含め、リーンに物事を進めちゃうスタートアップが出てきたというのがありますね。概念としてあったものが、具体的にプロダクトとして目に見えることで物事の進みが早くなることは、自動車に限らず多くの産業で起こったことだと思います。あとは、アメリカを中心とした政治と経済の話です。車の排ガス規制って、カリフォルニアが一番厳しくて、あそこを起点に世界のスタンダードが決まっていくんです。いっときはプリウスがドンと売れたけど、ハイブリッドはエコカー認定されないということになって、EVをやらなきゃいけなくなったりする。車の開発は政治と経済に揺さぶられるところがかなりあるんですよ。自動運転も、その文脈の中にあると思います。日本のメーカーもそういう流れに振り回されているように見えます。

長谷川: 急に「やらなきゃ」となってできるというのは、もともと技術はあったということですか。

北島: 世に出すのが遅いだけで、技術は持ってますね。安心安全第一で、何年もかけて、実験しているんです。
メーカーがすごいのは、自動運転、EV、ハイブリッド、燃料電池……、どのシナリオがきてもいけるように研究開発してるんですよ。それ見て、新規事業のあり方をすごく考えさせられましたね。スタートアップはひとつの未来に賭けざるをえないかもしれないけれど、ある程度の規模の会社は、あらゆる文脈に張っておかないといけないんだなと。ある種、未来が変わったときのための、挑戦的保険ですよね。僕も新規事業を担当してますけど、未来がどうなるかは分かりません。でも、「こうなったときにはこれで受けとめる」というのをたくさん用意しておくことはできるんです。
その点が、お金があって優秀な人たちがいっぱいいるメーカーだと全然レベルが違うというのを、すごく感じます。「この人たち、こんなに給料もらって、なんでこんな研究を?」という人たちがたくさんいる。あの厚みがすごいなと、思いますね。

自動運転が車とデータの所有権のあり方を変える

長谷川: 最近トヨタの人の話を聞く機会があって、車って人やモノを乗せるものだったけど、これからは情報を集めるものとしての可能性が大きいというんですね。
確かに、車載カメラのようなものでいろんな情報が取れますよね。「ここの道はそろそろ補修せなあかん」というのも分かるし、道沿いのガソリンスタンドの写真から今のガソリンの値段をリアルタイムに集計することもできる。子どもが通学に使う道とか、じいちゃんばあちゃんがよく歩く道、なんていうのも自動的にマップが作れる。その情報が、すごい資産価値になるんだと。

北島: そうなると思いますよ。ホンダの方から伺ったんですが、例えばGセンサー(加速度計)で道路の舗装の痛み具合なんかが分かるので、その情報をもとに都市の保全計画に活かしているそうです。ただ、問題なのは、そうやって取れる情報は誰のものなのかという話です。もともとの解釈では販社が努力して得たお客様の情報だから、メーカーのものではないというものだったんです。次に、では販社のものなのか、いやいやユーザーのものなのかという、この辺の議論がこれから結構出てくると思いますし、既に動き始めいてるメーカーもいます。

長谷川: そうなんですね。

北島: 例えば車で事故を起こした瞬間、タイヤの圧力の変化とか傾きとか、いろんなデータが車には溜まってるんですよ。車検の際に故障診断をするときに、そのデータをボコッと抜いて使ったりするんです。だからそれがあれば、ドライブレコーダーで事故の現場を撮っていなくても、事故の状況がある程度わかるんです。なぜ今までやっていないかというと、情報の所有権の問題があるからです。アメリカでは既に関連した裁判が行われていて、ユーザーが「この情報、俺のだろ」と開示請求したら、応じなければいけないという判例が出ています。

長谷川: なるほどね。

北島: でも、この議論の流れは、自動運転になると一気に変わってきます。自動運転の場合は車の所有者も変わりますしメーカの立場も強くなります。サービスを提供する側がより強くなると思うんですよ。

長谷川: 自動運転が実現するまでに、何年くらいかかると思います?

北島: まだまだ時間がかかると思いますよ。一番アグレッシブなシミュレーションをしているあるグローバルコンサルティンググループでさえ、2035年の完全自動運転のシェアが約10%という見込みです。

長谷川: 2035年でも?

北島: そう言われています。僕は局所最適かな、と思っていて。さっきお話したCtoCプラットフォームの話だって、地方に住んでいて、車が必須の生活様式の方で更に車のインテリアにこだわるような人にとっては「は?」という感じじゃないですか。「別に他人に貸したくないよ」と。こういう話は、国単位じゃなくて、都市単位で合う合わないがあるんだと思うんです。
Uberも一番フィットする人たちがいるエリアから順番に広がっていくでしょう。現に僕らもCtoCとかサブスクリプションモデルについては、例えば東名阪でやったら、その次は日本の地方よりもロンドンに行った方がいいんじゃないかというタイプの議論をします。最適なモビリティポートフォリオを、都市のタイプごとに実装していくというのは、これから広がっていくのではないかと思います。

車を所有したい層を「サービスとしての車」の利用者に変える

長谷川: 『NOREL』のサービスはどうですか? もっと在庫を増やしてくれという話が多いんじゃないですか?

(IDOMが2016年8月に開始した月額定額クルマ乗り換え放題サービス『NOREL(ノレル)』。https://norel.jp/)

北島: おかげさまで会員はどんどん増えているんですけど、超絶苦労してますよ!

長谷川: 在庫を増やすのが難しい?

北島: それはあんまり難しくないです。もちろん調達をどうするかというのもテーマですけど……、自分のものじゃない車って、所有されている車よりも価値の低減が早いんですよね。

長谷川: 荒っぽく乗っちゃうんですね?

北島: そういう傾向があるので、例えば事故の発生率や乗り換えで戻ってきた車両の価値減損などのデータを一生懸命取って分析しています。この半年やってみて、本当にいろんな学びがあったので、その上で、サービスパッケージをどう変えるかという話を今まさにしていて。春以降、高いコース、安いコースに細分化したり、あるターゲット向けの車を増やしたり、より良いサービスにしていくべくNORELチームが絶賛試行錯誤中です。

長谷川: 長い目で見て、どうしていこうとしていますか?

北島: 『NOREL』は、今はIDOMが買い取った車だけでやってるんですけど、この後、IDOMグループで買った人の車なんかも連携させる。また、月額定額だけでなくスポット利用も許容して、車の『Airbnb』を内包したようなものにしたいんです。
ただ、カーシェアの市場って2014年で約150億円で、所有の市場は10兆円以上なんですよ。だから戦略上は、今所有したい人、しなきゃいけない人に、どうやってサービスとしての車に向き合わせるかということの方が優先順位は高いと判断しています。また、僕らとしては、今所有してるユーザーとの接点が既存事業で大量にあるので、そのユーザーに所有ではなくサービスとして車に向き合うことに慣れてもらう、その後で、CtoCも内包するプラットフォームにしていく方がリーズナブルだと思っています。

長谷川: 自分たちが在庫や流通を持っているからできる、ということですね。

北島: はい。僕らは今、この3年位で変われるかどうか、自動車産業の変革を生意気ながらもリードできる立場になれるかどうか、勝負のときだと思っています。風呂敷広げて「やるぞー!」って言って、企業なり人なりを巻き込んで実現するというフェーズです。メーカーのコンサルをしているある人には、「メーカーさんがIDOMを過大評価してます」って言われました(笑)。「あいつら、なんかやるんじゃないか」と思ってくれてるんですね。

長谷川: そういう雰囲気はすごく感じます。

北島: 「過大評価言うな」って感じですけど、成長戦略って確率論もありますが、本質的にはハッタリというか意志の問題で、ゴールへの確からしさなんて大して求めなくていいんです。そういうリスクを背負ってでもやりたい人を集めて「一緒にやろうぜ、ウェイ!」みたいなノリが、すごく大事だと思っているので。ちょっと軽いかな。会社に戻ったら怒られるかも(笑)

女子バレー部みたいな組織にしたい

長谷川: そうやってどんどん新しいことをやっていこうという雰囲気なのは、トップが創業者だからですか?

北島: それは絶対ありますね。今は2代目で、兄弟ふたりで社長をやっているんですけど、この2人は創業メンバーなんです。お父さんがビジョンと企画力で立ち上げた会社で、彼らはエグゼキューションをやってきた。だから営業組織も本部組織も今の社長たちが作ったんです。すごいのは、それを自己否定も厭わない姿勢でいること。CtoCも売買のオンライン化も『NOREL』も、単純に言えば今の買取や販売の既存事業とカニバる可能性があるわけです。それを、人に食われるくらいなら社内で競い合うくらいでちょうといいというスタンスで「次に行こう」って言えるのはすごいです。手前味噌な言い方で恐縮ですが、危機感のあるオーナーが率いる会社というのは、変化の質が違うと思います。

長谷川: 経営会議って、月に何回くらいやってますか?

北島: ないです。

長谷川: ない? じゃあ、各部門長が社長のところに「これやりたい」と決裁を仰ぎに行くような感じですか?

北島:もちろん横串組織もあるんですが、それに近い形でしたね。今、経営会議をはじめとしたガバナンス改革もしているところではあるんですが、本音を言えば形式的な経営会議なんて○○喰らえで、共通の価値感をベースにした思考のシンクロをすごく大事にしたいんですよね。あくまでイメージですが、廊下ですれ違いざまの5分で喋って、「OKやっといて」って、50億の新規事業の意思決定ができるような会社にしたい。

長谷川: 確かに、杓子定規に会議をやっても何も進まないということはありますよね。その後飲みに行ったら、ああでもない、こうでもないという話になって、あんがいアイデアもわんさか出てきたりして。

北島: そうなんですよ。そういう質の高いコミュニケーションに使う時間の比率をいかに増やすかだと思います。

最近は、Whyで語り合う組織にしたいよね、と言っています。社長が正にそうで、プランを持っていくとWhatじゃなくてWhyを聞かれるんですよ。「なぜそう考えたのかプロセスを教えてくれ」と言うので話すと、「そう考えたわけね。俺だったらこの答えは出さないけど、プロセスの質が高いからいいよ」と任せてくれる。思想と思考とレビューがメインで、そこを合わせておけば、組織は大きくなっていくと思っているんでしょうね。

長谷川: 社長は今、何歳ですか?

北島: 兄の由宇介が46で、弟の貴夫が45です。
今、全社で挑戦していることの1つに、新たな文化づくりというのがあるんですが、そんな中での一つの課題認識に横の一枚岩感の希薄さってのがあるんですよ。例えば、経営幹部、部長や課長、リーダー職、女性、中途入社など様々なカテゴリで一枚岩になっている組織にしたいんです。そのために、「女子バレー部にしよう」って言ってるんですよ。

長谷川: 女子バレー部?

北島: 高校の女子バレー部の3年生。練習終わった後に集まって、「ヒロミ、今日声出てなかったよね? キャプテンとしてあの姿勢はないと思う。私たちも手伝うけどキャプテンらしくしてもらわなきゃ困る!」とか、トシコが「私たちこのままだったら都大会行けない。東高校、こんな練習してるらしいよ。明日から練習変えようよ!」って言ってすぐに練習メニューを変えたりとか。そんな暑苦しい議論をね、縦じゃなくて横でしなきゃいけない。そういう場を作ろうぜと。

長谷川: それ、女子バレー部じゃないとダメ?

北島: 男はプライドもあって、お互いを慮るでしょ。女子の方が、ゴールが決まれば、あけすけじゃないですか。ちなみにこの話、社員とよくしてるんですけど、本当に女子バレー部だったメンバーがいて、「女子は女子で大変なんです、あなたはわかってない!」って怒られました、まあイメージです、すみません(笑)

長谷川: 高校の時に女子バレー部の子が好きだったんじゃないですか?

北島: いや、おふくろがバレー部だったからかな。マザコンですかね(笑)
でも本当に全て「話せばわかる、話してないからわからない」、それだけと言っても過言ではないなと思います。僕は文化を競争優位の源泉にしたいので、そのために人事も制度設計とその運用だけではなく、文化作り、深耕をゴールにしてやれば会社により貢献できると思い、メチャメチャ楽しんでやらせて頂いています。

優秀な人が力を出し切れる組織に

長谷川: 北島さん、今の会社で何社目なんですか?

北島: 僕、IDOMが1社目です。

長谷川: え? 勝手に、3社目くらいかと持ってました。

北島: 大学中退して会社を起こして、30になるまで9年は自分で会社やってました。

長谷川: そうなんですか。何系の会社?

北島: アメフトをやっていたので、周りに医者とか理学療法師とかトレーニングコーチとか体に携わる色んなプロがいたんです。彼らが「スポーツ業界で食いたいけど食えない」っていうから、「そんなことあるかい!」って仕事とってきてたら、それがどんどん大きくなっちゃいまして。ただ、派遣とか業務委託ばかりだと、Jリーグの仕事でも1年やったらバシッと契約切れたりしてボラティリティが激しくてしんどいので、トレーニングジムとか治療院とか接骨院とかベースになる生活基盤作ろうぜと、箱を13ヶ所作りました。
最初はビジネスとは思ってなかったんですけど、そんなことをやってるうちにそこそこ成長して、28くらいのときに初めて「これ儲かるじゃん」とビジネスっぽい考え方をするようになったんです。でも、色々あったのですが大きかったのは資金繰りの拙さで苦しむようになり、最後は潰してしまったんです。
こんなキャラだけど、さすがに参りましたね。ビジネスを初めて1年くらいだったらピボットというのもありなんですけど、9年やって潰したので、経営者として確実にダメなんだと落ち込みました。どうしようかと思っているときに、「ガリバーっていう会社があるよ」と知り合いが話を持ってきたんです。僕、就職活動って一切したことなかったので、どんな会社が良いかという判断基準もなく、なんとなくフィーリングが合ったので「もういいや」とポンと入って、今9年です。

長谷川: そうだったんですね。でも、1回自分で会社をやった人って、またやりたくなりません?

北島: 以前は「北島さんってなんで自分でやらないんですか? いつ辞めるんですか」って、よく言われてましたよ。独立して自分がやりたいことを責任持ってやる自由さと、大企業でスケールとかレバレッジをきかせてやるのとどっちがいいか、よく比較されますよね。そういう中で、僕が出した答えは両取りだったんですよ。思考と能力を磨いて、力をつけて、扱える領域を拡大して、IDOMを通して世の中を変えていこうと。
それからは結構やり方を変えて、経営チームとして経営陣やリーダー陣と思考をシンクロさせながら全社を動かす上でやるべきことをやる、というのを大事にしています。それと、僕、株は大して持ってないですけど、社長とどっちがオーナーシップを持っているか、会社の将来のことを考えてるか、という部分で思考の戦いをしているつもりです。ほぼ負けるんですけど、姿勢としてはそうありたいと常に思っています(笑)

長谷川: もう3社目くらいなのかなって、勝手に思ってました。外資系コンサル出身みたいなイメージで。

北島: ありがたいことにそう見えるみたいですけど、ITもマーケも何もかも、この会社に来て学ばせてもらいました。おこがましい言い方ですが、経験も知識も少ないけど、オーナーシップだけは強いと思っていて、ポジション関係なく、持ってる力を出し切れるんです。5しか持ってないけど4.8ぐらい出せる。世の中には、10持ってる優秀な人はいっぱいいるんですよ。でもその人たちは、ポジションとか遠慮とか忖度によって力が出し切れていないことが多い。これが、「話せばわかる、話さなきゃわからない」で思考がシンクロされた一枚岩の組織になれたら、10の人たちがもっと力を発揮できる、活躍できるようになるはずです。
今は人事として外部の優秀な人の採用もしているので、いずれ自分がいらなくなったら勝ちだと思ってるんですよ。自分よりできる人が入ってくると、一抹の寂しさや不安は感じるんですけどね。でも、いらなくなったら自分の力がそんなもんだということなんで仕方ない、くらいの腹決めでいます。

長谷川: いやー、大したもんですね、その割り切りは。

北島: 寂しいですけど、オーナーシップって、そういうものかなと思うんです。でも、長谷川さんだって同じじゃないですか。フェイスブックなんか見ていると結構グサッととくることを書かれていて、すごく共感するし、元気をもらってます。こういう、大企業でがんばっている人達が集まって何かできないかな、といつも思ってるんですよ。一緒にやりましょうよ。

長谷川: 「みんなでやっちゃうか!」というノリ、いいですね。ぜひ、面白いことしましょう!


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第50回 フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二さん 


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第50回のゲストは、「セカエレ」を標榜し、グローバルにビジネスを行うエレベータ・エスカレータのメーカー、フジテック株式会社 情報システム部長 友岡賢二さん(常務執行役員 情報システム部長)です。お互い共感するところが多いという長谷川と、これからの日本企業でCIOや情シスが果たすべき役割について語り合いました。

フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡 賢二さん

1989 年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。独英米に計 12 年間駐在。株式会社ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014 年フジテック株式会社入社。一貫して日本企業のグローバル化を支える IT 構築に従事。

「ようわからんけど好きにして」と言ってくれる会社でやるのが面白い

長谷川: 僕ね、インタビュー記事か講演かで友岡さんのことを知ったとき、絶対気が合うと思ったんですよ。次に何を言い出すか完全に分かるわ、という感じ。ITに対する考え方とか、やることなすこと、すごく似てるなって。一般的には、新しいことをやるときって他社事例があるかを気にするんだけど、そんなもんどうでもいい、良いものならやるし、そうでなければやらない、それだけ。そんな感じでどんどん進めていくでしょう。

友岡: 他でやってないって言われたほうが、むしろワクワクするもんね(笑)。かといって、マイノリティーのままだと死に絶えてしまう。だから、次の大きな潮目の先端、波頭をどうやって見つけるかっていうことに対しては、いつもアンテナを張ってます。そういうところも似てますよね。日清食品CIOの喜多羅さんなんかも同じ感じで、僕らは武闘派CIOと言ってますけど、これが3人だけじゃなくてもっと増やしていきたいですよね。

長谷川: なかなか増えていかないのは、どうしてなんですかね?

友岡: 長谷川さんも喜多羅さんも僕も、外から中途採用されているじゃないですか。そういう人って現状否定しないとダメですよね、そのために来ているんだから。

長谷川: 役割ですよね。

友岡: でも、大きい会社になればなるほど、それなりに人材がいて、外からは採らない。そうなると、前任者否定ってできないんですよね。だから僕は大きい企業は面白くないんです。「人がいないんで、友岡さん頼むわ。ITはよう分からんけども好きにしてええよ」っていうぐらいのサイズ感の会社の方が面白いよね。

長谷川: 友岡さんの2,000億円理論ですね。

友岡: そうそう。売上2,000億円くらいまでの会社がちょうどいい。あと、僕のキャリアで一貫しているのは、事業会社であるということと、日本から世界に出ている会社ということ。外資系は外しているんですよ。

長谷川: さすが、「セカエレ」!


(“セカエレ”という言葉には「世界中に安心・安全なエレベータ・エスカレータを届けたい」というフジテックの思いが込められている)

友岡: 外資系に入っちゃうと、よくて担当できる範囲がアジア・パシフィックじゃないですか。それだと面白くないので、日本から世界に挑戦していくというのがいいんです。僕、アメリカやヨーロッパに合わせて12年間住んでいたんですけど、海外で暮らしてみると、やっぱり日本っていいな、と思えるんですよ。それって僕らの親世代が頑張ったからであって、子供の世代にも日本はええな、と思ってもらえるようにするには、やっぱり日本企業で働きたい。外資はダメというわけじゃなくて、人それぞれの役割分担の中で、僕はこういう役割をする、ということですけど。

創業経営者のいる会社の強みとは

長谷川: 今の日本企業の成長スピードについてはどう思ってますか?

友岡: デフレが長く続いたので、成長しなくてもいいという雰囲気になったけれど、それを変えたのがユニクロですよね。成長しなきゃダメだという考えで、実際にものすごく成長している。日本企業の新しいOSというか、日本発のグローバル企業の新しい姿を明確に示していると思います。

長谷川: 友岡さんがユニクロにいらしたのって、いつ頃ですか?

友岡: 2012年から2013年頃です。

長谷川: じゃあ、もうグローバルにも結構出ていた時期ですね。僕も、過去にはユニクロに転職しようかと一瞬考えたことがあるくらいで、柳井さんの考え方にはすごく勉強させてもらってます。ああいう、挑戦する企業を増やすにはどうしたらいいんですかね?

友岡: 僕が最初に入ったのは松下電器なんだけど、その頃ってまだ松下幸之助が生きてたし、大企業というよりメガベンチャーという感じだったんですよ。ソニーや松下は、旧財閥系のトラディショナルな大企業に対抗するようなポジションでね。だけどその後、挑戦する会社が少なくなったというのは、僕らの世代が不甲斐ないからかもしれないよね。

長谷川: 僕は、創業者が社長じゃないといけないんじゃないかと思ってるんです。

友岡: 創業経営者が一番強いですよね。絶対的なカリスマ性があるということと、朝令暮改が当たり前にできる。「ごめん、間違ってた」と言っても失脚しないのがすごく大きいと思います。創業者じゃなくても、ものすごく若い人を抜擢して全く違う風を入れられるようなシステムがあればいいですけど、大企業ほど、長い経験をして、それなりに成功を収めた人しかなれないから、社長になったときには結構な歳になっている。潮目が変わっていても新しいことに挑戦するのは難しいんですよね。そういう意味では、特に若いエンジニアは、創業経営者がいる会社で働くのがおすすめですよ。

日本においてCIOという職業を確立したい

長谷川: 今のお話を聞くと、創業者みたいなカリスマ性がないんだったら、経営者はボンクラの方が下は動きやすいかもしれませんね。何か提案したら、「お、おう。じゃあ、それやろうか」みたいな。

友岡: 任せてしまえばうまくいくっていうのは、あるでしょうね。でも、任せるのも経営判断だから、賢くないとできないでしょう。だからトップは、情報システムのことも勉強しないといけないんです。そのためには、社長に直接情報をインプットできるようなITの人がいないとね。つい最近の調査で、日本で専任のCIOがいる会社は1割くらい、兼任を含めても5割くらいらしいです。5割の会社でCIOがいないのは、すごく大きな問題ですよ。兼務のCIOがいても、経営会議の場でITの話には、なかなかならないんじゃないですか。ITについて経営者として知っておかなきゃいけないところがあるのに、それが理解されないまま経営をやってる……、みたいなところが結構あるのが、僕はちょっと怖いと思うんです。

長谷川: 友岡さんが考えるCIOの役割というのは?

友岡: 会社の経営課題と、情報システム部門でやろうとしていることのヒモ付けをきちんとできること。それができないと、経営者にとってITは鉛筆とか消しゴムとかの文房具と一緒なんですよ。消耗品だと思われている。投資しがいのあるものだと思ってもらえる、説得力のある説明ができないといけないんですよね。

長谷川: そういうことができる人って、どれくらいいると思います?

友岡: 情報部門って、そもそも色々なことをやらないといけないところだから、ポテンシャルのある人は多いと思ってますよ。経営感覚がないとか言うけれど、経営にタッチさせてもらえなかったら、その感覚は身につかないですよね。下駄履かせてでも執行役員にすればいいんです。そうすると執行役員会議に出て、経営のあらゆる情報にアクセスできるようになります。そしてもっと重要なのは、他の役員に対して、情報システムに関するインプットができるようになるということです。だから、日本においてCIOという職業を確立させなければならない。僕はそれが自分の一番大きなミッションだと感じていて、そのためにあっちこっちに出ていって話をしたりしているんですよ。

ユーザー部門からのリクエストを断ることもできるのが良いSE

長谷川: 一方で、情報システム部門には「このボタンの大きさをこうしてほしい」みたいなユーザー部門からのリクエストもどんどんくるわけじゃないですか。経営課題に直結するところのやるべきことと、「もうちょっと使いやすくしてよ」みたいな要望への対応と、どうバランス取ったらいいんでしょうね。

友岡: 趣味とか好みで言ってくるのと、本当に生産性を向上する施策とを、どう切り分けるかですよね。日本ですごく失敗しているのが、1990年代後半から2000年代にかけてERPブームがあって、その前にBPR(Business Process Re-engineering)ブームがあったじゃないですか。で、その土台にはABC(Activity Based Costing)やABM(Activity Based Management)という考え方があったんですけど、そのあたりをすっ飛ばしているんですよ。これは何かというと、プロセスをファンクションでひとつひとつ区切ったときに、例えばインボイス1件当たりの処理コストはいくらなのかを可視化して、ファンクションごとに自分達でやるのか、シェアードサービス化するのか、アウトソースでやるのか……みたいな形で、ホワイトカラーの仕事を徹底的に細分化して最適化するということなんですね。さっきの話で行くと、単に画面のボタンの話じゃなくて、このプロセスを終えるためにどれくらいの時間とコストがかかっているか、というところで考えていった時に、やった方がいいかどうかというのが出てくるはずなんです。

長谷川: そうですね。

友岡: 改善するためにかけるコストがあまりに高かったら、「やめとけ」というのもありなんです。僕は、ユーザー部門に対して「それは手でやっとけ」と説得できるのが腕のいいSEだと思います。

長谷川: そのSEというのは、社内、社外、どちらの立場でも?

友岡: 社外の人は言えないでしょうね。言ったら売上を失うから。「そんなんやめとけ」って言うためにも、社内に情報システム部門を持っておかないといけないんですよ。だから僕、情報子会社は絶対反対なんです。外販できるんならいいですけど、社内向けの子会社は意味がない。そこはどう思います?

長谷川: 同じく大反対です。意味がないし、親子関係になると、やっぱり子はつらいですし。

友岡: 客と業者になっちゃうんですよね。

長谷川: そうなんです。その上、見積もりとって、他社とも比較して、みたいなルールができると、やればやるほど会社がガタガタになりますよ。

友岡: そうなんだよね。依頼書とか発注書みたいなものがないと動けないというのは、最大のスローダウンになっちゃう。フジテックも、僕が入った時は部門から要請書というのを出さないと動かなかったんだけど、それをやめて企画書にしよう、と言ったんです。ユーザーからは立ち話とかメールや電話でいいから、それを聞いてこっちが企画書を作って提案するという形で、流れを逆向きにしました。そうじゃないと、イニシアティブ取れないので。

有力者からのリクエストは真の課題解決のチャンス

長谷川: 情報システム部門というと、一般的にはユーザー部門からリクエストがあったことをやるのが普通で、よっぽどのことがない限り、「こんなの意味ないからやめよう」なんて言わないですよね。決められたことをいかに低コストで早くやるかが情シス部門のミッションとされている会社はすごく多いと思うんです。そういう状況を友岡さんは、どうやって変えていったんでしょう?

友岡: ひとつは、お願いされたことをやっても感動って生まれないんですよね。その通りやっても「今できたんか? 遅いやん」みたいな話でね。一番いいのは、頼まれてもいないことで、向こうが想像すらできないようなことをポンっとデリバリーする。そうすると感動しますよね。インターネットが生まれ、クラウド、モバイルになった今って、そういうことができるんです。でも、現場の人からの要望って、「この画面で、F7キーを押したときにこれが出てくれたら嬉しい」みたいな、限られた知識の中で、彼らが「これだったらIT部門がやってくれるに違いない」と思うことしか要望として出てこないんですよ。自分のスマホでオフィスにいる人とライブでチャットがしたいなんて要望は、現場からは上がってこないですよね。

長谷川: そうですね。

友岡: 僕は行動観察しろって言ってるんだけれども、現場のプロセスを観察すると、「そもそもなんでこんなことやってるの?」みたいなことが見えてくるんですよね。情報システム部がそれに気づいて、「最新のツールだとこんなことできますよ」と提案していかないと革新は生まれてきません。

長谷川: そうやってやるべきことを見つけながら、同時に経営陣からは「それよりも、これをやらんかい」みたいな圧力がかかってきたりもしますよね。多分、どこの情シスの部長も、ものすごくたくさんのリクエストを受けていて、リソースが限られた中で、どう優先順位を付けるかが課題だと思うんですけれども。

友岡: 僕は、社内の政治力学を全く無視してやれって言ってるわけじゃないんですよね。声の大きい人の政治力学を、どう利用するかということで。

長谷川: 逆に利用する?

友岡: そう。声の大きい役員や部長からリクエストが来たときに、その人の課題意識がどこにあるのかを知るために、懐に入っていかなきゃいけないんですよ。その人が持っている根本的な課題と、僕らに投げられているリクエストって、実はズレてる場合が結構あるんです。

声が大きい、政治力学的な生態系のトップにいる人からボールを投げられたら、まず「何がお困りですか? こういうリクエストきてますけども、そもそも何が課題なんですか?」と聞きに行って、そもそも論をやらないといけません。それをやらずに頼まれたことを無条件でやるのは、企業としてものすごくリソースが無駄になってしまう。だから、ええチャンスやと思ってもう一歩踏み込むというのをやらないといけないんです。

長谷川: それは、さっきのCIOの必要性の議論ともつながってきますね。あまりペーペーが聞きに行っても話にならないし。

友岡: そこなんですよ。エライ人と話せないからね、やっぱり。とは言え、僕だって、すごく難しいし、「しゃあないなぁ」と思いながらやらないといけない部分はありますね。声の大きい人とのバーターみたいなところもあるから、そんな綺麗には分けられないです。でも、そういうのって人生そのものですよね。「世の中って自分の思い通りにはなるわけない」という前提でいれば、全然傷つかない。感情をもった動物が暮らしてるのが世の中で、その中で少しでも自分の思うところに近づけたらガッツポーズする、そんな感じでいいんじゃないですかね。

社内に2割いるイノベーターの要望を受け止めろ

長谷川: 友岡さんの中で、妥協しなければいけないこともあるよね、という部分と、あるべき理想にしたがって行動できるところと、だいたい何対何くらいですか?

友岡: いくらチャレンジとかイノベーションとか言っても、本質的には人間は変わることを望んでないんですよ。だから新しいところが多すぎるとみんなついていかない。希望としては6対4になればいいけど、実態としては旧態依然としているのが8で新しいのが2ぐらいかもしれませんね。

長谷川: 面白いですね。エンジニアって、業務のことがどれだけ分かっているかは別として、あるべき論が好きな人が多いと思うんです。それでも理想的にやっていけるのは2割程度だよ、ということですか。

友岡: 「ニッパチの法則」って言ってますが、大体企業って2割の人が尖ったことをやっていて、6割のフォロワーがいて、あとの2割は何やっても反対するような人たちなんですよ。僕は、企業の中の尖った感覚をもった2割の人達がハイパフォーマーなので、そこに着目した方がいいと言ってるんです。仕事の総量じゃなくてね。2割のハイパフォーマーに響くものをやっていけばいいんじゃないかと。

長谷川: イノベーティブな人っていうのは大体2割ぐらいだろうと。その人たちの言う案件とかシステム改善をやるのがいいんじゃないかと、そういうことですね?

友岡: そう。マーケティングの世界では、イノベーターとアーリーアダプターが16パーセントいて、それを超えたらキャズム超えって言いますね。いわゆるキャズムで言うところのイノベーターとアーリーアダプターに相当する人たちがユーザー部門にもいるんですよ。その人たちに響くことをやって、16%、つまり約2割いけばあとは自然に流れていくんです。逆に、その2割をしっかり受け止めないと、情シス部門に頼んでもダメだというので、ハイパフォーマーの人はシャドーITにいっちゃうわけですよね。

長谷川: 情シス部門としては、その2割の人を見つけて、彼らが言うことを理解して、それを実現する能力というのが必要だと。

友岡: そうです。そういう人たちに提案したり、彼らが満足できるアプリケーションを提供する。会社として提供できるものがなければ、彼らが使っているものを「俺が認めてあげるから使いなさい」と許可するとかね。

AI時代の情シスの役割

長谷川: 今までの情シスだと、SIerの持ってくるものを比較し、導入して、生産性の違いといっても2倍、3倍の世界だったのが、AIが本当に使われるようになってきたら、100万倍、1000万倍の生産性を実現するものを自社に導入できるかという話になってくるんじゃないですか。そうなると、情シスの目利き力の差が相当出てきますよね。

友岡: そうなんですよ。元々情シス部門は経理部門の一部として伝票処理の効率化みたいなことをやっていたところから始まっているわけですけど、今は全く潮目が変わっているんですよね。IoTとか、オペレーションテクノロジーの世界にも入っていかないといけなくて、1人でカバーするのは無理になってきています。そうすると、本当に狭いところの専門家をどう活用していくかっていうのが、すごく重要になってきますよね。羊飼いみたいな世界です。いろんな羊がいるところで、「こっち、こっち」って言いながら方向感をいかに出せるか、どれだけ多くの羊が飼えるか、みたいなね。すごく面白いけども、すごく難しい時代になってきてますね。

長谷川:もうSIerに業界動向なんかを聞いている場合ではなくて、自分たちの会社のことは自分たちで決めるということですよね。

友岡: これからの情シスの本質的な価値は、SaaSで全く手がかからないようなもの、コストが安いものをどれだけ早く取り入れられるかという、目利きと意思決定をするところにあると思うんです。GoogleのG Suiteを使うのにエンジニアはいらないですよね。だから僕は、目指すところはエンジニアレスだと思っています。そう簡単にはなくならないですけどね。汎用化されたもの以外のところのごく狭いコアの部分は、自分たちで作るでしょうし。

長谷川: エンジニアの一部は、目利きマンにジョブチェンジがあるかもしれませんね。

友岡: そうです。だから、アーキテクト思考というのはすごく重要で。事業会社においては、やっぱり事業に片足を突っ込んどかないといけません。エンジニアの方だけに両足突っ込んでいる人っていうのは、事業に使えるかどうかの目利きができないですから。かといって、マーケティング担当のちょっとITに詳しい人が、全部分かるかというとそうでもない。最後はやっぱり、自分のところの事業に対する愛情とか愛着とか、「この事業を他よりも勝たせないかん」みたいな思いがすごく重要だと思います。その事業に対して誰にも負けない愛情をもっている人が一番強いんです。ただ、これもひとりの人間に全てを求めるのは無理なので、やっぱり役割分担ですね。組織の長がやるべきなのは、オーケストレーションです。自分だけで全部の楽器を演奏できないから、ひとりひとりの特徴を活かしながら、全体としてそういうことができたらいいっていうふうに思います。

長谷川:これからも、挑戦する情シスを増やしていくために、頑張っていきましょう。今日はありがとうございました!


友岡さん、長谷川も登壇!! 7月5日開催「SORACOM Conference “DisCovery」が開催されます。
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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第49回 株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 シニアマネージャー 鈴木健さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第49回目は株式会社ニューバランスジャパンの鈴木健さんとブランド情報発信の在り方やマーケティングの存在価値などについて語り合いました。「ブランドミッションなんていらんとちゃう?」という長谷川の暴言(?)を起点に始まった攻防をお楽しみください。

株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 シニアマネージャー 鈴木健さん

1991年、広告代理店の営業としてキャリアをスタート。I&S/BBDOでストラテジックプランナーを経て、2002年にナイキジャパンへ入社。ナイキゴルフの広告担当やウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験する。2009年にニューバランスジャパンへ入社。ブランドマネジメントからPR・広告まで、デジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当している。

理念先行による三角形のブランドステートメントは不要!?

長谷川:鈴木さんとは「ブランドサミット」でお会いしたんですよね。デジタルマーケティング業界のトレンドを共有し、業種や業界の壁を越えてつながり合うことを目的に、ブランド企業や広告代理店、ネット系企業などが一同に集まるというカンファレンスでした。

鈴木:そう、まとめのセッションでみなさんが「勉強になりました」「気づきがあった」とか言う中で、長谷川さんがいきなり「かっこいいことばかり言うてるけど、ホントのところどうよ。そもそもブランドミッションなんていらんとちゃう?」っておっしゃり始めて(笑)。いや〜、面白い方がいるなあと思ったんですよ。

長谷川:そう、ブランドステートメントの“三角形”って本当にそうなってる?例えば、テレビCM作る時、どこまでブランドステートメント通りに作成されているのか、逆にいうと、テレビCMを見た時に、そのブランドステートメントを想起されるものになっているのか。CMとか記憶に残るのが前提と思うんですけど、「かっこええなー」とか、「おもろいなー」とか、そんなんやとあかんのかと。素朴に疑問だったんです。皆さん苦笑されていましたが…。

鈴木:いや大受けでしたよ。「王様は裸だ」って言っちゃったようなものですからね。

長谷川:僕自身、後付けのものって、すごく多いのちゃうかと思っているんですよ。ITベンチャーで自社サービスを作っている会社はヴィジョン・ミッション作って起業するとこもありますけど、前世紀に創業された会社は、設立時からむしゃらに頑張って、そのうち、会社や製品が有名になってきて、「当社もそろそろミッションとか、考えなあかんな」という順番とちゃうのと。実際は。そんなに綺麗に、ミッション・ビジョンから商品設計やサービス設計に落ちますか?とね。世の中に必要とされているサービスや商品をがむしゃらに、作って売るとか、もっと商売って切実じゃないですか。だんだん会社が大きくなって、余裕が出てきた会社が「自分たちが目指していたのはこれだよね」って、後づけで言語化する場合が多い(多かった)と思いますけどね。

鈴木:確かに、特にマーケティングって頭でっかちになりがちですからね。で、日々現場に立ち続ける営業に嫌われるという(笑)。かのコカ・コーラだって最初は「売るため」に苦労してきたことがブランドを作ったわけですから。例えば、日本ではあんな真っ黒な液体は飲み物と認知されていませんでしたから、初期のCMではゴクゴク飲むシーンを多く入れたそうですよ。それが結局スカッとさわやかのような情緒を中心としたブランドに変化していったわけですから。

長谷川:僕は、そういう理解しやすいストーリー設計のあるCMは大好きです。なるほど、私が小学生の頃、コーラをみて、ばあちゃんが「醤油みたいやんか、それ飲むの?」というてました(笑)

鈴木:そもそも企業全体は一枚岩でないですからね。最初は何も考えていなくても、組織が大きくなると象徴となるモノがあった方がわかりやすくなるんでしょう。

長谷川:確かに。とはいえ、ミッションやビジョンに縛られてピポットができなくなるとか、マイナスもありませんか。

鈴木:ありますね。で、企業によってはガンガン変えてます(笑)。とはいえ、揺らいではならない部分として、社会道義的に叶っていること、筋が通っていることは、企業に不可欠だと思うんです。極端かもしれないけれど、パタゴニアのように、売上げよりサステナブルな環境配慮を優先する企業がある一方で、何も考えないで資本主義の鬼的にビジネスをやっていればいいかというとちょっと微妙ですよね。急に大きくなった会社ほど、そこがおろそかになりがちです。

長谷川:なるほど、では、ニューバランスのスニーカーは「おしゃれ」という消費者の評価がブランドイメージにつながっています。しかし、それを企業側から「おしゃれなスニーカーを作る」と宣言したとして、その通りに消費者に評価されるかどうかはわからないわけですよね。

鈴木:そう、あくまでブランドイメージは結果なんですよね。時代が変わると変わるかもしれない。ただ、消費者に伝わるかどうかはわからないけど「作り続ける理由」として何を正しいと考えてモノづくりをしているか、は伝えていく必要があると思うんですよね。たとえば、「おしゃれじゃないからNマークはもっと小さくしてくれ」と消費者に言われても、そのまま従うことではない。これは自分のアイデンティティだからと守るべきところはあると思っています。

オーセンティックなモノづくりの先にユーザーが見出すブランド価値

長谷川:つまり、ニューバランスは「おしゃれなスニーカーを作ろう」としたわけでなく、結果として「おしゃれなスニーカー」として評価されたということでしょうか。

鈴木:そう言えるかもしれないですね。「おしゃれ」を目指したわけではなく、「街で履いてなじむスニーカーを作ろうとした」だけなんです。実はニューバランスは「初めてグレーのスニーカーをつくった」と言われています。街のアスファルトに浮かない色、生活になじむ色がほしいというニーズに応えてグレーを選んだ。その結果、街履き用スニーカーとして認知されたというわけです。

長谷川:そう聞くと俄然ほしくなりますね(笑)。でも、直接話を聞けない人は、広告などで訴求する必要があるわけで。どんなふうに拡散したんですか。

鈴木:数年前に急に売上げが上がった理由は、女性ファンの急増です。スニーカーは圧倒的に男性市場なのですが、グレーなどのカラーリングが女性にも日常のファッションの一部として選んでいただけるようになりました。 ただ当時は「女性はきまぐれだから、来年どうなるか」と不安視する声もありました。それで、マーケ側から「ブランドとしてどんな人に買ってもらいたいのか」を改めて考えることを提案し、「ニューバランスの真価を理解して広げてくれる人」へのメッセージをブランドブックにまとめたんです。それが「ここに注力するのね」という全社の共通理解を生み、ぶれが少なくなった。そう考えると“三角形”も意味はあったかなあと(笑)。

長谷川:なるほどね。でも、たとえば今はグレーのスニーカーって様々なメーカーから出ているでしょう。よほど好きな人向けの商品でない限り、機能性やデザインで大きな差別化は難しいと思うし、結果、広告のクリエイティブも似たようなものになってはいませんか? たとえばビールとか、車メーカーとか、商品名やロゴを隠したらどこの会社も似ているような…。差別化するのは難しくはないですか。

鈴木:なかなか厳しいことをおっしゃいますね〜(笑)。でも、僕は「差別化」ってアプローチが嫌いなんですよ。マーケティングでは他と違うユニークな訴求をしなければ気づいてもらえないことが多いので、差別化を意識するのは仕方ないかもしれません。でも、その時に陥りやすい間違いが「競合ばかりを見ること」です。「顧客を見ること」を忘れると途端にぶれ始め、モノづくりの「オーセンティック=本物・信頼感」が損なわれてしまう。他と比べての差別化を考えるより、顧客に満足してもらうこと、驚かせることを日夜考える方が健全だし、そこに時間を費やすことを忘れてはならないと思いますね。

売上げ直結か、イメージ訴求か これからのCMの存在価値とは?

長谷川:オーセンティックなモノづくりとマーケティングって、かなり嗜好的というか、顧客ニーズがちょっと複雑で難しいから可能なのではないですか。性能や機能がコモディティ化していて、マス向けとなると途端に難しくなる気がします。たとえば、ユニクロも成功例としてあげられますが、最初は作業着屋みたいな雰囲気のCMで、その後フリースとかヒートテックとか機能重視になったり、最近だとファッション性を打ち出したり。おそらく明確なミッションステートメントを掲げているのだと思いますが、こんなに触れ幅というか変化があるのってどうなんでしょう。

鈴木:うーん、そこは会社の方針なのでなんとも(笑)。そもそもTVCMは大きなお金が必要で、どんな企業もできるわけではないですからね。ちなみにTVCMは毎月何千本も作られているそうですが、ある調査によると、好感度どころか「気づいたもの」として上げられるのは 10000 人 のサンプル中2/3に満たなかったそうです。つまり、1/3がお金を掛けてTVCMを流したのに、気づかれてすらいなかったという。

長谷川:えっ、お金の掛け損ってことですか。ちなみに認知された2/3についてもCMの人気と売上げとは関係するんでしょうか。たとえば、昔「つながらない」と評価された携帯キャリアがイメージを払拭するために「つながります」と言うアピールするCMがありましたが、それはわかるんです。でも、日清の「ドンばれ」とか、それでどん兵衛が食べたくなりますかね?まあ、私は、食べましたが(笑)。

鈴木:単純に比例はしていないでしょうね。でも、既にブランドが確立している場合でも、広告をなくすと明らかに売上げ減は免れないので、出さないわけにはいかないようですね。また携帯電話のような新規獲得が売上げを左右するような場合、特に影響は大きいようです。そういえば、車メーカー の営業担当者が「CMはお客さんとの話題にさえなればいい」と言っていて、営業が強い会社はすごいなと思いました。なので、CMの意味と価値は一概には言えないと思いますよ。

長谷川:なるほどね。でも、文句ばっかり言っているけれど、僕自身はTVCMが大好きなんですよ。マツダの「Be a driver」も大好きだし、JINSも櫻井くんのCMのおかげで会社の知名度・売上げが伸びたんじゃないかと勝手に思ってます。エステー化学の「ショーシューリキー」とか、店頭で見るたびに脳内で響きますからね(笑)。

鈴木:いろいろ見てるじゃないですか(笑)。それでもまあ、実際の売上げに対するTVCMなど広告の影響度は、低くなってきているのは明らかでしょうけどね。

長谷川:それでもまだやっぱりTVCMは社会に対するインパクトは大きいですし、憧れですね。自分も機会があったら一度、テレビCM作ってみたいです。デジタル広告も目の端でちらちらしてるんじゃなくて、面白い動画ならもっと見られたり、いいメッセージを発信できたりしそうな気がします。

鈴木:うちの子は興味のあるCMは観るけどあとはスルー。むしろYoutubeをよく見ていますね。考えてみれば、放送でもないし、ビデオにもない。そこにしかないコンテンツだからでしょうか。クオリティの高いEテレより、自分で探した素人投稿の動画を熱心に観ている気がします。彼らも含め、ミレニアム世代以降は自分たちと違う感覚を持ち始めているのは明らかでしょう。今後はそこに合わせたコミュニケーションを考える必要がありそうです。

デジタルネイティブの時代にマネタイズモデルも変わる?

長谷川:うちの子も何かモノを買うとなると「Amazonで頼む?」、わからないことがあれば「ググれば?」ですもんね。テレビも好きだけど、iPadでHIKAKINの解説動画を見ながらMinecraftをやっていたり、Youtubeで「はじめしゃちょー」とかガンガン観てますよ。デジタルネイティブなんてどこにいるんや…って思っていたけど一番近いところにいました。

鈴木:そうそう、うちの子も放送中のテレビに向かって「今のとこもう一回見せろ」と言っていて、リピート再生が当たり前になっている。 Siriにも抵抗ないし、インタフェイスだけならむしろ年配者と共有できそうです。

長谷川:最近、スマホ利用のみで、PC触らない若者が増えてきて、入社してからパソコン研修が必要になっているという話も聞きます。近い将来、「ググる」じゃなくて「Alexaに聞く」が普通になるかもしれません。

鈴木:デバイスもコミュニケーションスタイルも変わってきている中で、デジタルデバイドというより、もっと深刻なデバイドが生まれそうですよね。それにしても、プラットフォームとしてAlexaを無償提供するなんて、Amazonはさすがにすごいというか、戦略的ですね。

長谷川:伸びている会社って、トータルで儲けるために、どこを戦略的に身銭切るか得意ですよね。やりおるなAmazonという感じですが、思い返せばAWSも、データ保管場所として、ストレージは戦略的に安くし、企業は、最初はバックアップ気分でAWSを使い始めるんですが、結局、データを保管すると、分析なりデータ利用をしたくなるので、サーバも使い始めてトータルで儲けると言う仕組みです。

鈴木:倉庫ビジネスもそうですね。預け料金はかなり安くて出し入れで費用がかかるみたいな。顧客が価値を感じているところを無料化して、別のところでマネタイズするとか、そういうビジネスはいろいろ出てきそうですね。

長谷川:スマホアプリをはじめとして、フリーミアムになれていますよね。積み上げ型課金より、無料で何かを提供して他からお金をとるビジネスモデルはもっといろいろ出てきそうです。

鈴木:ありでしょう(笑)。それでも企業が継続して利益を得ていくためには、やはりイチゲンさん型よりサブスクリプション型である方がいいなと。そのためには顧客のことを知っていなければならないし、その上でどのくらい使うかで金額を設定するなど、製品でなくサービスなども含めたバーテカルな市場設計の能力が必要になるでしょう。となれば、流通や製造業といった境目がなくなっていくと思います。また、ミレニアム世代から既に「所有する」感覚が薄くなっているといいますから、シェア型のビジネスは増えていきそうです。

長谷川:そうかもしれません。たとえば、中古車業のIDOM(旧社名:ガリバー)が「NOREL(ノレル)」という自動車リース事業をはじめたのをご存知ですか。月額で中古車を借りっ放しなんですが、最短90日でチェンジが可能なんです。ただし、その車はガリバーの在庫なので、借りたい車があるかどうかは入荷次第というのが辛いところですね。中古車でも人気がある車はすぐに売れてしまうので。

鈴木:それなら、メーカーに依頼してガリバー用のプライベートブランドとして車を作ってもらうとか(笑)。いやいや、やっぱりサステナブルなことを考えると「浮いている在庫」を使うモデルがいいですよね。Uberもそうじゃないですか。後ろのシートが「浮いている在庫」として売ることで渋滞が減るという。普通の企業もムダが消えれば利幅が大きくなって、消費者にも社員にも還元できるわけですから。社会的にもハッピーなモデルだと思いますね。

AIがマーケターの仕事を奪う?全情報が収集・分析される社会へ

長谷川:僕が考える「浮いている在庫」の最たるものは“情報”でしょうか。既にある情報を流通させて共有すれば、無限大にいろんなことができるんじゃないかと。例えば、車にカメラを積んで街をスキャンすれば、リアルタイムで渋滞状況やスタンドのガソリンの値段もわかるし、不動産業なら空き地を発見するとか、業種によっていろんな使い方ができそうです。

鈴木:撤退してしまいましたが、Googleの自動運転もおそらくそんなことを考えていたんだと思います。単なる自動運転ならもっと簡単にできたでしょう。でも、街をスキャンして「世界を知り尽くした人工知能を作りたい」と目標を設定していたから、行き詰まったんじゃないかなと。あくまで想像ですけど…。

長谷川:あらゆるデータを集めて活用するという発想はこれから増えていくでしょうね。まさにAlexaもずっと家の中の音、つまり消費者行動のデータを収集しているというじゃないですか。それらを集めて分析してマーケティングに使うとしたら、もうマーケターは失業ですよ(笑)。

鈴木:うわ〜、おもしろい。いや、困りましたね〜(笑)。

長谷川:ラスベガスの高級ホテル「Wynn」では、全室にAmazon Echoが標準装備されたらしいですね。いちいちフロントに連絡しなくとも「チェックアウトは何時?」「ルームサービスをお願い」で済んでしまうという。

鈴木:それは泊まってみたいですね。ただ、全部聞かれていると聞くと、抵抗を感じる人もいるでしょうけれど。

長谷川:そうですね、僕はぜんぜん気にしないけど。むしろ、その方が便利で健全になる気がします。監視カメラは、「見られている」と思うか「守られている」と思うか。私は、後者です。例えば、町中に監視カメラがあれば、犯罪は少なくなると思います。

鈴木:オープンにするとかえってポジティブな抑止力になるんでしょうね。大学のレポートを誰でも閲覧できるようにしたら、変なコピペがなくなったそうですし。

長谷川:でしょう。その情報を持って誰かが脅しにくるとか、普通はありえないんじゃないですか。

鈴木:うーん、個人情報については人間が扱うと危険な気もしますけどね。日本では属している組織、例えば国や会社なんかもそうですが、観られて当然という人は少なくないですけれど、米国ではiPhoneの情報を取り出すよう国から要請されたAppleが拒否したようにすごく「個人」を重視しますよね。個人が所有する情報は個人のものというポリシーが米国社会では一般的なんでしょう。

長谷川:とはいえ、既に電話やメールなどを傍受して分析されているともいいますね。犯罪を起こしそうな人をキャプチャーするみたいな。

鈴木:おそらくそこに人工知能の能力が発揮されることになるんでしょうね。人の真似をするというより、人が気づかないサインに気づくという。人間は自分のことしかわからないけど、マクロから観ると共通の傾向がわかるというのはありますからね。MITのアレックス・ペントランド教授の著書『ソーシャル物理学』 で、人間の行動としてのコミュニケーションから全体が良くなる方法が分析されていたんですが、確かに“できる人”はいろんなコミュニケーションをとっているんですが、全体で観ると全員が一気に同じ情報を共有するより、タイムラグがあった方がいいらしいんですよね。もしかすると、情報を一律にオープンにするより、バラツキがある方が社会全体にとってはいいのかもしれない、なんて考えたりします。

アウェイでのコミュニケーションもオーセンティックなスタンスがカギ

長谷川:社内の情報共有も難しいですよね。鈴木さんはブランドマネージャーを経験されて、今もマーケティングコミュニケーション全般をみてらっしゃるとなると、いろんな苦労や工夫をされてきたんじゃないですか。

鈴木:工夫というか、考えが合うツーカーの人は放っておいても同じ思いで動いてくれるので、「伝わっていないな」という人とは積極的にコミュニケーションをとるようにしています。
特にニューバランスジャパンは組織が小さいし、経営から製造、物流まで全体をみられるので面白いですね。それだけに苦労もありますが。一方、以前いたナイキは専門職だったこともあって、マーケの話しかしませんでしたね。突然トップダウンで指示が来て大騒ぎになることもありました。部門がいきなりなくなることもありましたから。

長谷川:やっぱりあるんですね。でも、マーケティングってユーザーを知らないと成り立たないじゃないですか。ローカルの権限が強いのかと思っていました。

鈴木:かつてはその傾向はありましたね。でも、グローバルブランドの強みは世界規模で展開できることでしょう。たとえば、有名なプレーヤーを専属契約できたり、海外の優れたクリエイティブを使えたり。ボリュームメリットも強みになります。近年はその優位性をもっと活用しようということで、一元化を進めています。ただ時代にはやや逆行しているかもしれませんね。今はむしろ商品の個別化が進んでいますから。パーソナライズ、ローカライズ、グローバルの間で、その時々に合わせてバランスをとっているというところでしょうか。

長谷川:それでも商品設計から製造、マーケティング、流通販路などあらゆる部分で各国とも異なると思うのですが、そこにグローバルな決定をどのように反映していくのですか。

鈴木:基本はアダプテーションですね。ただアダプテーションは自分たちが企画したものでないので、日本のマーケ担当には単なる翻訳だと思われて嫌われがちです。でも、実はそこが一番難しくて面白いところでもあるんです。たとえばいいグローバルキャンペーンというのは抽象度が高くて、深く響くものが多い。でも、解釈はきちんとしないと伝わらないので、そこはしっかりローカライズしていくことが必要です。つまり、違いを強調するより、共通するものをローカルに合わせて訴求していく方が強いし、メリットも大きいと考えています。

長谷川:確かにリテールで言えばグローバル企業でローカライズに邁進した会社は失敗しています。逆にコストコやIKEAのようなグローバルルールをまんま持ち込んだところは成功しているんですよ。ユニクロも最初は中国市場でローカライズ(安い商品を開発するなど)を試みましたが、結局、日本のユニクロ(品質と価格)をそのまま持ち込んで成功しています。やはり、自社のやり方の譲れない部分を押し通した方がいいんじゃないかと思いますね。仮に、失敗した時も、諦めがつくじゃないですか(笑)

鈴木:そう、僕も無理なローカライズより、やはりオーセンティックであることが大切だと思います。というか、そうでなければ事業をやる意味がないでしょう。

行間に潜む哲学を引き出す 目指すはIT界の田原総一朗!

鈴木:企業やブランドの情報発信って、そこにやっぱり人が介在するものじゃないですか。その意味で、ハンズラボという組織が「居酒屋放浪記」みたいな情報発信をするというのはとてもユニークだし、意味があると思うんですよね。もともと長谷川さんが起案されたんですか。

長谷川:ええ、結構、こう業界の人と話していると、「俺ら、けっこう、ええ話、しとるなぁ」と思って、ほんなら、Webで公開した方がええなこれは、と思いまして。

鈴木:そう考える人は相当いると思いますが、実現してしまうのが長谷川さんのすごいところですよね。そして、そろそろメディア系に転職するという噂が(笑)。

長谷川:そうなったら、この連載を持って移ろうかな(笑)。最近はいろいろ欲が出てきて、ライブ動画も試してみたいと思っているんですよ。

鈴木:ライブは面白そうですね。ただ、企業人としては言葉を選ぶようになってしまうかも。居酒屋放浪記みたいに、アーカイブとして残す時に調整すればいいのかな。

長谷川:この企画もできるだけ臨場感を意識して作っているんですが、人によっては広報からかなり厳しい赤が入ることがあります。ここだけの話ですが、掲載できなかった回もあるんですよ。アーカイブに残さず、Facebookライブみたいに流しっぱなしで録画無しなら、自由に話してもらえるかもしれませんね。

鈴木:そう考えると、やっぱりコンテンツを厚く持っている人や企業は強いですよね。うちも近いうちに好きな人だけに向けて「長いコンテンツ」を見せてみたいと思っています。関係が浅い人にはわかりやすくコンパクトに伝えることが必要ですが、好きな人にはとにかく情報が多い方が好まれるんです。余計な会話とか、いわゆる“余剰”がいいと。ちゃんとコンテンツがあれば、だらだらした中にこそブランドを取り巻く空気や雰囲気、哲学まで含まれるじゃないですか。

長谷川:そう、要約しすぎるとお題目みたいになりますからね。それに臨場感って大切ですよね。ログミーとか、面白いのはそれもあるのかと。だから居酒屋放浪記も全部書き起こそうと思ったんですが、ちょっと破綻しそうなので(笑)。

鈴木:ソーシャルメディアの「中の人」企画(第34回 リテール系ソーシャルメディア担当者座談会)、あれはすごく面白かったですよ。

長谷川:ありがとうございます。ツイッター黎明期の企業アカウントの中の人で集まって、楽しかったですね。中華料理屋で円卓を囲んでやったんですよ。

鈴木:仕切りは大変そうだなと思いましたが、議論の流れをつくるのも1つの才能ですよね。

長谷川:あの時は、みんなにちゃんと語ってもらおうと思って、やりました。あと、「その辺どうなんですか」「あれはうそでしょ!」って、本音を引き出すのが仕事ですよね、インタビュアーの。

鈴木:どちらかというと僕もそうですね。かつてある人に「いろんな分野でレベルがバラバラですね」って指摘されたんですけれど、専門的な知識や体系を正確に把握することより、出会った知識を実践に活用する方が得意だし、好きなんですよね。長谷川さんと話すのが楽しいのも、そこに価値を見出しているからだと思います。

長谷川:よし、決めた、僕はIT業界の田原総一朗になる。

鈴木:長谷川さん、やっぱり転職ですね(笑)。

 


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第48回 株式会社トレタ 代表取締役 中村 仁さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第48回目は株式会社トレタ 代表取締役の中村仁さんと語り合います。場所は中村さんがオーナーを務めるしゃぶしゃぶ店「豚組 しゃぶ庵」。レトロモダンな雰囲気でおいしい食事を心ゆくまで楽しみながら、トレタが提供する飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」開発のきっかけや、今後の外食産業とITの在り方などを伺いました。

株式会社トレタ 代表取締役 中村 仁さん

1992年、松下電器産業株式会社 (現パナソニック)に入社後、外資系広告代理店を経て2000年に株式会社グレイスを設立。銘柄豚のしゃぶしゃぶ店「豚組」や和風スタンディングバー「西麻布 壌」などを開店。2011年に株式会社ミイルを設立し、料理写真共有アプリ「ミイル」をローンチ。2013年には株式会社トレタの代表取締役となり、飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」を開発・提供する。飲食店向けセミナーの講師も務めるなど、飲食店とテクノロジーとの橋渡し役としても精力的に活動を行なっている。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第47回 株式会社ロフト取締役 執行役員 オムニチャネル推進室 室長 ブランド営業部担当 内海 芳雄さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第47回のゲストは、株式会社ロフトでオムニチャネルへの取り組みを牽引する内海芳雄さん(取締役 執行役員 オムニチャネル推進室 室長 ブランド営業部担当)です。世間からはライバルと目されることの多いロフトと東急ハンズの違いや共通点、リアルな店舗を持つ小売店としてのオムニチャネルやECへの取り組みなどについてじっくり語り合いました。

ECやSNSについて情報交換し合う仲

内海: 長谷川さんは、僕の憧れの人なんです。

長谷川: やめてください。変な汗出てきますから!

内海: うちがインターネットとかオムニチャネルとかやり始めたのが3年前ですかね。そのときにまずは身近な、MUJIの奥谷さん(元・株式会社良品計画、現・オイシックスの奥谷孝司氏)やタワーレコードの前田さん、キタムラの逸見さんに色々教えてもらって、それから東急ハンズさんにも。直接長谷川さんのところに伺うツテがなかったので、まずは甘糟さん(当時東急ハンズのEC課)、緒方さん(元・東急ハンズのEC課、現・中川政七商店CDO執行役員)のところに聞きに行きました。長谷川さんとは、講演会をされたときにご挨拶したのが最初で、2年前でしょうか?

長谷川: そうでしたね。その後はこの業界のゆるい集まりなんかで何度かお会いしていますね。奥谷さんが内海さんについて、「ちゃんとした会社に勤めている上級役員の方で、みんなと接するときにあれほど腰が低い人はいない」と言っていましたが、本当に、こういう場にすっと出てきて交流される方はなかなかいないです。

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