AWS活用事例、メディア・セミナー情報や名物・社長のほろ酔い対談などをお届けするブログです

HANDS LAB

HANDS LAB BLOG

ハンズラボブログ

カテゴリー: IT酒場放浪記

長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第54回 智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)ゼネラルマネージャー 江口征男さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第54回のゲストは、智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)でゼネラルマネージャーを務める江口 征男さんです。長谷川とは、アクセンチュア株式会社に新卒入社した際の同期だったという江口さん。MBA留学を経て中国で事業を起こし11年、人口13億という巨大市場の中で目にしたチャンスとリスクとは?

中国で勝負するということ

長谷川:江口さんは、中国在住で11年ビジネスをしていて、今日は中国でのビジネスについていろいろ聞きたいと思っているんだけど、そもそもなぜ、中国でビジネスをしようと思ったの?

江口:新卒入社のアクセンチュア卒業後、アメリカでMBAとって、上場間近のアパレルの事業会社に転職したんだよね、実業やりたいなと思って。そのときの本音は、「給料はガクンと下げて転職して来てあげたんだから、権限よこせ」という感じ。「一年自由にやらせてもらってだめだったら、クビにしても、給料減らしてもいいから」と。今、考えると我ながらアホかと思うけど(笑)。今は自分で会社をやっているから分かるけど、そのアパレル会社もオーナー企業だったので「江口なんかに自由にやらせられる訳無いだろ。お前が自由にやって1億損したら、お前が辞めるだけで責任取れる訳ないだろ。お前が自分の損したら全額補填するなら、自由にやらせてやる」ということなんだよね。もちろんそんなことは直接言われなかったけど、結局そういうことなんだよね。で、当然のごとく、提案はできても、最終的な経営上の意思決定はオーナー経営者が決めることなる。これは資本の原理で仕方がないんだけど、なんとなく自分的には違和感があったんだよね、「俺ってこれがやりたかったのか」っていう。でも会社の同僚とか部下の人達に恵まれたのもあって、自分の違和感にフタをして、なんとか仕事をこなしていたんだけど、あるとき急に顔が半分動かなくなってしまって。

長谷川:顔面麻痺ってやつ?

江口:そうそう。朝起きたら娘に、「パパ、顔が変だよ」って言われて鏡見たら、身体はぴんぴんしているのに、確かに顔が半分動かないわけ。 医者に診てもらったら、「一生顔動かなくなってもいいならいいけど、少しでも回復したいなら即入院ですよ」と言われて、2週間入院。毎日3回喉元に麻酔注射するんだけど、それ以外は暇だから病室にノートPC持ち込んでバリバリに仕事をしていたけど(笑)。顔面麻痺の原因は、精神的なものだって言うから、「これも神様のお告げか」と思って、これをキッカケにアパレル会社を辞めて独立しようと決意しました。それで、しばらく日本でフリーランスでコンサルタントをやっていたんだけど、これも面白くないなぁと思っていた頃に、友人の社長から「中国に現地法人作るから手伝わない?給料は出せないけど、ビザは出してあげるから」と誘われて、「これだ!」って。

長谷川:え!? 給料出さないけどって、江口にとって何が得なの?ビザ?

江口:そうそう。まあ実は中国に来てみたら中国のビザって実は簡単に取れるんだけどさ、そのときはアメリカのイメージがあって「就業ビザ取るのはすごく大変なんだろう」って思ってたから。いずれにせよ、日本国内市場はこれ以上マーケットが広がらないなと思っていたし、家族もいろんな事情で中国に行きたがってたからそれも後押しになった感じかな。当然既に娘も生まれていたので、リスク軽減のために日本にも仕事は残して、月に一週間日本に出稼ぎに戻って仕事するっていう生活を2年続けた。やっと、2年くらい経って、日本に出稼ぎに来なくてもよくなった(笑)。

長谷川:2年も、ガッツあるね! 普通もっと早く撤退しない?

江口:いざ中国に行ったら、凄いんだよね中国人。中国の人って目の色が違うんだよ。みんな、チャンスがあれば絶対掴んでやろうという雰囲気が半端なくて、ものすごくストイック。ブルーワーカーもね。これは、日本のぬるま湯環境に浸かっていたらだめだって危機感を持ったので中国で頑張ろうと思ったんだよね。

長谷川:なるほどね。でもよく事業が立ち上がったね。

江口:運や縁もあるんだよね。最初は、中国人の弁護士に「蘇州で仕事を始めたいと思っている」と声をかけられたのがはじまり。蘇州で日系企業向けの弁護士サービスをするから、日本人が必要だと。でも本当にこれから立ち上がる事業だから、給与を払う社員としてではなく、完全成功報酬の株主として入って、儲かったら分けましょうという話だった。その弁護士は友達の友達の友達っていうくらいの間柄だから信用もできないし、成功するかなんてまったくわからないけど、ここで勝負しないと先はないと思って。結局もう一人、日本語も話せない蘇州人を加えて3人でスタートしたんだけどこれが意外とうまくいって、事業をスタートして1年後に利益も何百万と残ったの。

でも一年間やってみて、3人の間に不協和音が生まれてきて。というのも、共同経営者の1人の蘇州人の貢献度が明らかに低かったんだよね。最初のふれこみは、彼は政府の役人とコネがあるということだったんだけど、蓋をあけてみれば全然そんなことなくて、しかも交際費として一日に5万円とか10万円とか頻繁に使うわけ。これで利益の山分けは不公平だということになって、翌年度から利益の分配率を変えよう、そして経費を使う場合には、共同経営者3人の事前許可を取るようにしようと決めたら、数日後にその蘇州人の共同経営者に「お前はクビだ」って言われてさ。「クビって、どっちかというと役立たずのお前がクビだろ!」って思ったんだけど、その蘇州人が、会社の金と印鑑を持って逃げちゃったんだよね。

中国に来て1年目でこんな失敗を経験した「中国ってやっぱ大変だなぁ…」って他人事見たいに感じていたんだけど、極めつけは、同じく被害者で味方だと思っていた中国人弁護士も、実は不利益なことは(自分ではなく)僕にまわるように仕組んでいたことに気づいたんだよね。まさに「The 中国」という感じ(笑)。でも当時も「中国人は信用できないから、もう日本に帰ろう」とは全く思わずに、「そうだよね、自分の身は自分で守るしかないよね」、とはじめて気づいたわけ。

中国はすごくストレートで、「自分の身は自分で守る」、「人はその人の損得で動く」という文化。そこを理解することが重要だと思う。実際、その中国人弁護士とは今でも共同経営者として会社を経営しています。もちろん100パーセントは信用していないんだけど、相手も僕のことを100%は信用していないと思うんだよね。だからこそパートナーとして一緒に会社を経営できるという感じかな。お互いに長期的にはwin-winでないパートナー関係が成り立たないということが分かっているからこそ、相手にも譲るし、相手も譲ってくれる。でももし利益相反したら戦いになるかもしれないという最悪の事態も覚悟しているからこそ、逆にそうならないために、相手の利益にも敏感になるし、ケンカにならないようにお互いに努力するという。僕はこれからもずっと長い期間一緒に会社をやって行きたいと個人的には思っているからこそ、100%は彼のことを信用しないということなんだけど、分かるかな、この一見矛盾した考え(笑)。今彼と共同経営している会社は中国にあるので、自分と相手の利益が30:70くらいだと自分が思う位がバランスがいいと思っています、出資は50:50なんだけど。僕は日本人としてアウェイの中国で仕事をさせてもらっているという感覚があるのと、公平感というのは究極的には主観できまるので、僕自身が30:70と感じるくらいが、彼にとって50:50だと感じてくれると思うんだよね。もちろん、僕自身が20:80だと感じたら、「それは違うでしょ」と相手にストレートに言うようにしています。

ビジネスにおける日本人と中国人の差異とは

長谷川:ビジネスマンとしての、日本人と中国人の違いってなに? 働き方の違いとか。まったく中国の勉強をしていない日本人が「よし、今から中国のビジネスコミュニティの中に飛び込むぞ」ってなったときに、どんなアドバイスができる?

江口:中国人は、個人の利益で動くんだよね。日本人は、世間体とか会社の利益も考えるじゃん。でも中国では、自分の利益が減ると思ったら上司に対してでも会社に対してでもストレートに言うんだよね。そのストレートトークの方が正しい訳、中国では。残業とかも、日本なら当然空気読むようなシーンで中国人はそれをしない。中国でも従業員が社長に愛想良くするのは日本と同じなんだけど、その理由は、その社長が自分の給料を決めるからであって、空気作りとかではないのよ。日本人も本心では自分の利益が最優先だと思うけど、中国人はそれがもっとはっきりと表面化してるの。

あとね、視野がすごく手前にあるのも中国人の特徴かな。今日は今日のことしか考えなくて、あさってのことはあさって考えればいいじゃないという考え方。たとえばね、最近ウチの会社で父親を亡くした従業員がいたんだけど、その従業員が「すごくショックなので1ヶ月会社休んでもいいですか?」って言うんだよね。親が亡くなったとしても日本では1ヶ月休むのはありえないよね。でもその従業員にとっては「最愛の父親が亡くなって、ものすごいショックだから1ヶ月仕事はできない」というのが当たり前なんだよね。もし僕が「それは困るから1ヶ月休むのはダメ」って言ったら、その従業員は多分辞めてしまうんだよね。中国では、環境や法律がコロコロ変わるのに慣れている中国人は「まわりの変化や他人はコントロールできないから、せめて自分でコントロールできる変数は自分でコントロールしよう」っていう考え方になっていると思う。だからみんな個人ベースで動いてなかなかまとまらないし、「会社全体でがんばりましょう!」 みたいな団結感はほとんどない。その代わりというか、中国人は自分の利益中心だけに、他人が利益中心に行動することに寛容っていうのはあると思う。

長谷川:サラリーマンの最大の権利は「辞めること」だと思っているんだけど、日本は人材流動性が低い。中国では、転職は当たり前なの?

江口:日本に比べたら、会社はステップアップで変わっていく方が当たり前。むしろ終身雇用の方が変わってるねって感じ。転職をせず1つの会社で勤め上げる人は、逆に「能力無くて誰も誘ってくれないんだね」って思われるかも。40歳くらいになって子供もいて家もあって、ゆっくり過ごしたいって思っている場合はあえて同じ会社に残る人もいるけど、そういう人はあんまり仕事しないんだよね。あくまで自分の利益のためにやっていることだから。

長谷川:日本ではさ、普通企業研修とか受けさせると義理を感じて、研修直後はしばらく勤めたりするけど。

江口:ないない、中国では99%いないよ、そんな人。たとえば中国人が日系企業に勤めることになって、会社の研修で日本にしばらく駐在して日本語話せるようになったとするよね。そうしたら、彼らは、「自分の日本語力はアップしているから、会社はもっと給与を払うべきだ」と本心から思う訳。「会社のおかげで日本語力がUPしてありがとう」という考え方は期待しない方がいいんだよね。だから給与を市場価格にあげてあげないと平気で転職しちゃうんだよね。

長谷川:日本企業でも、優秀な人にMBA取らせると辞めちゃうもんね。

江口:律儀な人は、授業料を返して辞めるケースもあるよね。日本人だって、投資銀行とかコンサルとかに誘われて、給与が1.5倍になったり、自分のキャリアチェンジができる場合は、義理より自分の利益と取るわけじゃん。

長谷川:給料だけじゃなくて、挑戦のために辞めていく人もいるんでしょ?

江口:そうだね。中国の言葉で「発展空間」って言うんだけど、特に若い人は、どういう傾きで成長できるかっていうのをみんな気にしているんだよね。この会社に居続けた場合、どれだけ早く上に行けて、市場価値が上がるかっていうのを中国人は真剣に考えているんだよね。だからもし国内や欧米のトップ企業に行ける機会があれば、日系企業は早々に見限っちゃうだろうね。

あと中国では、個人の評価がすごくシビア。中国の青島(チンタオ)ビールの評価制度なんかは超合理的で、売上成長率等のKPIで地域代表の評価が決まっていて、下位何パーセントかはクビになる。このKPIは、伸びしろのあるエリアだろうが、頭打ちのエリアだろうが全く同じ基準で決まるわけ。その標準的な基準をそのまま適用すると、たまたま運が悪く、その年のKPIが悪かった優秀な人をクビにしないかも知れないけど、それは仕方ないっていう考え方。これが日本だとさ、このエリアでこの目標は現実問題難しいからってさじ加減で調整しちゃったりするでしょ。でも中国では、どこに配属になったかという要素も含めて実力だと考えて、公平な評価で運用することを優先するんだよね。泣いて馬謖(ばしょく)を切るとはこのことかと思ったよ。

長谷川:日本ではほとんどなくなっているけど、帰属意識を生むために社内旅行やったりとか運動会したりとかは?

江口:それは逆に日本以上にやる。何もやらないと個人の利益で動くから、まったく求心力が働かないから、「社内の社員は、みんな仲間なんですよ」って意識を作っていくことは中国では特に重要。でも中国って、日本みたいに会社や組織に対するロイヤリティはあんまりつかないんだよね。でもロイヤリティは個人にはつく。さっき社長に愛想よくするって話があったけど、会社という組織よりも、誰が自分に給料を払っているかっていう部分をすごく気にするから。

長谷川:プライベートと仕事の考え方はどうなの?

江口:もちろんプライベートは大事にする。例えば、会社にとってものすごく重要なプレゼンがあったとしても、そのキーパーソンの中国人社員の親や子どもが病気になった場合、「当然プレゼンを優先するよね」と会社が言おうものなら「従業員を大切にしない冷たい会社だ」って思われて、もうついてこなくなってしまう。

人口13億を擁する、中国の今

長谷川:中国人の情報源は?情報はどこから入ってくるの? 新聞とかテレビとか。

江口:うーん、新聞は見ていない人も多いし、テレビも見ない。中国人は日本人よりずっと、テレビを信用していない。企業宣伝も信用しない。じゃあ何が信用できるかっていうと、家族とか親友の意見やなんだよね。逆を言うと、信じすぎちゃうという側面もあると思う。例えば、知り合いがAという飲料を飲んでいるものなどがあると「じゃあ良いものに違いない、自分も飲んでみよう」と判断するとか。

長谷川:中国ではインターネット環境が制限・制御されているわけだけど、それは変なことだっていう自覚はみんなあるの?

江口:制限されていることは知っている。ただ、人口が1億強で、比較的統率の取れている日本と、人口13億で、各々が自分の利益をひたすらに追求している中国を比べることはできないという側面は確かにある。これは個人的な意見だけど、「中国を民主化しよう」というのはナンセンスだと思う。自分勝手な13億人が民主主義でまとまる訳がないから。もし中国に民主化されたらみんなバラバラに動くからこんな成長できなかったと思うんだよね。そういう意味では共産党のトップの人たちは、いわばタイタニックのようなこの大国の運転法がわかっていて、「一人っ子にしなさい!」とか言えちゃうし、「個別の権利よりも共産党一党独裁が重要」とか割り切って決めていくことができちゃう。中国らしいペースでいくためには多かれ少なかれ必要なことかもしれないという認識があるかな。

長谷川:そういう環境で、「じゃあ国外で生活しよう」とか、「なんだかんだ居心地いいから中国でやっていこう」とかはどんな感じ?

江口:日本語を話せる人だったら、日本に国籍変えようかって人もいる。もしくは家族は日本へやって、自分は中国に残るとかね。この残る人っていうのが何を考えているかというと、まだ中国にチャンスがあると感じているんだよね。中国はバブルだとか、中国はもう成長しないとか日本では言われていると思うけど、それでも平均で6パーセントくらい伸びているの。そうなるとやっぱり、富を大きくするには日本よりも中国だと思う。

長谷川:アメリカ人と中国人の違いはどういうところ?

江口:ダイレクトに意見を言うところは、中国人は日本人よりはアメリカ人と似ていると言えるけど、俺の知っているアメリカ人は「ジェントルマンであれ」という言動もあるから、そのあたりは、いつも本音じゃなくて、建前を言うよね。中国はもっとストレートにやりあって、アメリカのジェントルマンであれ、という建前はないんじゃないかな。

長谷川:中国人は省とか直轄区とか分けられているけど、実際住民はどういう意識なの? 帰属意識は強いのか。

江口:地域に属しているという感覚は日本人以上にある。言葉も違うし。上海人は上海人が一番だと思っているし、北京人は北京人が一番だと思っている節はあるね。上海は顕著で、上海人の中でもさらに区別があるくらい。ルーツも元々上海なのか、それとも親が別の地域から来て上海に根を下ろしたのか、とか。

長谷川:言葉そんなに違うの?

江口:全然違う。日本で言うなら青森のおばあちゃんがしゃべる方言くらいのものじゃないかな。と言っても若い世代は普通語(北京語)は普通にしゃべれるし、逆に上海にいても上海語しゃべれないっていう人もいるみたいだけど。

普及率90パーセント超えの電子マネー

長谷川:中国で、日本より明らかに進んでいることは?

江口:電子マネー。中国ではもう、現金はほとんど使わない。2強がAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウィ―チャットペイ)なんだけど、ホテル、飛行機、新幹線、タクシーはアプリで予約して払ったり、割り勘も電子マネーですぐ払えちゃう。アリペイはおもしろい仕組みがあって、その日に初めて電子マネーを使うとき、毎回くじ引きができて、0~1元がランダムで当たるの。それを月~金で集めて土日に使えるっていう。0~1元ていうのは、日本円にして16円くらいだからどうでもいい金額なんだけど、このくじ引きのような仕組みがよくて、ついつい楽しんじゃうんだよね。お年玉も電子マネーだよ。これもね、くじ引き仕様にできて、たとえば「みんなに合計2万円あげまーす! でも比率はランダムです!」みたいなことができちゃう。「あなた1万2千円、あなた200円」とか。

長谷川:それ、アプリに元から実装されている機能なの?

江口:そうそう。中国人は楽しいことが好きだから、お年玉もただもらうんじゃなくて、エンタメ要素があると受けるんだよね。

長谷川:カバー率はどれくらいなの?

江口:どうだろう、多分9割くらいじゃないかな。2つとも使えない店っていうのは、ほとんどない。コンビニも全部使えるし。飲食店側にもメリットあるからね。バイトが現金をかすめていっちゃうこともないし、そもそも汚いお札を触らなくていいし。

長谷川:でもそれだけ普及するって、どういうモチベーションで導入されてるの?

江口:利益。中国人はみんな合理的だから利益があればどんどん使う。始まりは、タクシーアプリだった。アプリで呼べば、手を上げて拾う必要もないし、しかも安く乗れますよっていう。運転手に対しては、導入すれば+2000円払う仕組みにして、どんどん推し進めたんだよね。いざ使って見ると便利だし、運転手も乗客もお互いに評価できる制度があるから、変な運転手に当たらないしその逆もしかりっていうのがいい。

長谷川:中国は随分前に行ったきりなんだけど、タクシーの取り合いがすごく激しかった。近くにタクシーが停まろうものなら、私が乗るんだ、私が乗るんだ、ってみんなすごい主張で。

江口:そこで譲ったらもう、延々と乗れないからね(笑)。いくら待っても次の人に割りこまれちゃう。だったらもう、その人に恨まれたとしてもどうせ二度と会わないし、自分の利益を優先させて絶対に譲らないぞ、という発想になる。

長谷川:電子マネーの、支払いの仕組みはどうなっているの?

江口:銀行口座に繋がっていて、デビットカードみたいな感じで随時落ちていく。ウォレット機能ではチャージや現金化もできる。

長谷川:でもそれって日本で言ったら、たとえばヤフーが三井住友銀行に「アプリ作るからダイレクトと連携させるわ~、リアルタイムで減算もお願いね~」ってことでしょ?日本ならかなり難しいね。

江口:中国の銀行経営者は、共産党の役人が3年位の任期で勤めてどんどん変わっていくから、あまり長期的な視点を持っていないと思う。あと、中国には信頼っていうものがないから、すぐに送金されるデビットが親和性高かったというのも大きい。クレジットは全然普及してないけど、95年以降に生まれた世代はクレジット使う人も増えているかな。クレジットの場合、支払い時に預金がなくても買えちゃうから。

長谷川:ところでさ、中国の小売業界では、入金してから納品? 納品してから入金?

江口:場合によるんだけど、端的に言うと強い方が勝つ。提供する側とか客側とかじゃなくて、強い方がすごい条件を突きつけるの。びっくりしたのは、中国にある百円ショップチェーンがあるんだけど、その会社が支払うべき債務だと認識するタイミングが中国的なんだよね。日本だったら仕入先から請求書を受け取ったら、これは支払うべき債務かもしれないと認識すると思うんだけど、その百円ショップは請求書を受け取っても債務だと認識しないわけ。じゃあ、いつ債務(かもしれない)と認識するかというと、仕入先が「請求書渡したのに期日が大分過ぎても払わないのはなぜだ」って怒鳴り込んできて初めて、「これ払わなきゃいけないものかもしれない」って認識するっていう話があったけど、これがThe 中国という感じ。

長谷川:東急ハンズなら、もし万が一何かの間違いで仕入れ先様に支払いできなかったら大問題で、速攻支払い手続きするね。

中国に学ぶビジネスのヒント

長谷川:中国で先端技術を学ぼうと思ったらどこのエリアがいいの? また、日本人は、欧米に学べという意識はあっても、中国に学ぼうって思っている人は少ないんだけど。

江口:深圳(しんせん)かなあ。中国のシリコンバレーなんて呼ばれてるけど。でも、完成された“先端”ではないから、見に行ったとしてもまだまだっていうふうに見えると思う。でもそこからの修正能力とか競争力とかはぜひ注目するべき。逆に、中国では医療とかEVのような信頼度が99.9パーセント必要というサービスはなかなか発展しないから、そういう分野は日本の方が強いかな。

長谷川:江口は、中国でビジネスをしていこうと決断して、中国で生活しているわけだけど、日本でがんばるドメスティックなビジネスマンに対してコメントはある?

江口:価値観の違う人とどう接するかというのを意識していくといいと思う。同じ価値観の中でだけ閉鎖的に働いていると発展がないし、チャンスも少なくなる。それに、ある日、自分が働いている会社の経営者や株主が中国系になるかもしれないしね。たとえば中国人が電車の中で大声で携帯をかけていたら、日本では常識はずれだけど、実際は彼らなりに考えや理由がある。中国では、会議中でもどんどん電話取るのが当たり前だから。前提条件が違うことを理解できると、その人たちとコラボしたり、戦ったりすることだってできる。

あとは、グレーに慣れるということ。今は変化の時代で中途半端な状況も出てくると思うんだよね。そのときに何が何でも決着をつけたがらずに、AかもしれないしBかもしれないっていう状態を割り切って置いておくっていうことも必要じゃないかと。日本人は職人が多いけれど商人が少ない。机を挟んでニコニコしながら会話しているけど、机の下では蹴り合いをしている関係がもっとあってもいいと思うんだよね。相手を少し儲けさせて、こっちはもっと儲けるというしたたかさがあるといいと思う。

長谷川:なるほど、聞いていて関西人は、中国人と似ているとこあると思うんだよね。大阪が日本の首都になったら、いろいろ変わるんじゃないかって思う。ガツガツいくし、儲けを考えながら、なんやかんややるみたいな。

江口:そうかもね。時代によって適性がありそう。たとえば平安時代だったら東京がよさそうだけど、今はいわば戦国時代みたいな時代だから。副作用はあるかもしれないけど、ガツガツ行ける関西の体質の方がトータル的にはいいかもしれないね(笑)。

長谷川:本日は、ありがとうございました。また上海に行ったときには、連絡しますので飲みましょう。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第53回 株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬浩之さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第53回目は株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長の小和瀬浩之さんに登場いただきました。情報システム部門こそ事業や組織をドラスティックに変える力を持っていると語る小和瀬さん。花王での八面六臂の活躍や、新天地を求めてLIXILに入社してからの奮闘を伺いながら、その“熱さ”の源泉に迫ります。

株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬浩之さん
1963年11月埼玉県生まれ。1986年に早稲田大学理工学部を卒業後、花王株式会社入社。システム開発部にて、国内流通システムや海外関連会社システムなど構築を担当。1995年より、タイ花王に出向し、ITディレクターとして基幹系システムなど業務改善を推進。2000年より花王グループの業務標準化と業務改善に従事し、2004年に同社情報システム部門グローバルビジネスシンクロナイゼーション部部長、2012年10月に情報システム部門統括に就任。2014年1月より、株式会社LIXILに入社。執行役員 IT推進本部本部長となり、2015年12月より上席執行役員 CIO兼IT情報システム本部本部長。2016年7月より理事CIO兼 情報システム本部本部長(現職)に就任。

とんがった人間も活きる
自由でフラットな組織に 

長谷川小和瀬さんと知り合ったのは、日経ITイノベーターズの幹事会員になったことがきっかけですかね。当時からはっきりモノをおっしゃる方で、すごく印象的でした。

小和瀬:いや、長谷川さんほどではないですよ(笑)。お互い、あまり取り繕っても意味がないと考えるタイプですからね。

長谷川:LIXILに入られてまだ1~2年目だったと思いますが、花王みたいな会社を辞められて、チャレンジングな方なんだろうなと思ったら、実際そうでした。

小和瀬:花王はすごくいい会社でしたが、27年間思う存分やらせていただいて、このまま残るよりLIXILに行く方がきっと苦労するだろうと。それであえて出ることにしたんです。それまでの経験から、苦労した方がその後に得る喜びが大きいことが分かっていましたから。

長谷川:変革、改革って本当にパワーが必要ですからね。小和瀬さんのすごいところは、システムに対してもそうですが、組織改革にも当然のように取り組んでいらっしゃる。

小和瀬:これからの時代、変化に対応していくためには、フラットな組織で情報がどんどん流通して、どんどん変われるような組織である必要があるのは明らかですからね。服装も呼称もカジュアルにしたいし、コミュニケーションそのものをフラットにしたいんですよ。

瀬戸さん(瀬戸欣哉社長)も現場を大切にする方だし、本気でカルチャーを変えようとしています。私がジャケットを着ていたら、「IT部隊こそ、もっと自由な方がいいんじゃないですか」って指摘されて(笑)。実際、うちの部署はTシャツ、ジーパン、短パンOKですよ。

長谷川:えっ、そこまでフリーなんですか。

小和瀬:ええ、住宅設備のメーカーですが、メンバーには「業界内だけを意識するな」と言っています。これからはどこが競合やパートナーになるのかわからないですから、今、意識するなら、GoogleやAmazonのようなオープンでフラットなコミュニケーションが強みになっている企業でしょうと。

長谷川:確かにGoogleやAmazonなどは普通に30〜40代の役員がいますからね。

小和瀬:そう、自分を振り返っても一意思決定が早いのは40代だし、フットワークも軽い。年齢を重ねれば別の強みも出てくるけれど、スピード感は断然違いますから。長谷川さんも新しいものを躊躇なく取り入れて、成果を出している。さすがだなと思いますよ。

長谷川:小和瀬さんほどではないですが(笑)、「ファーストペンギン」ですよね。面白そうだ、行けそうだと思うと、つい飛び込んでしまうんですよ。前例がないほど、燃えてしまう(笑)。

小和瀬:新しい可能性を見極める目って大切ですよね。ITはとんがった人の力が発揮されやすい部分ですから、“オタク”を大切にするようにしているんです。実際、運用管理部門にいた人で携帯端末を10種類くらい持っている人がいて、飲み会で話したらすごく面白かった。それで、ビッグデータやAIのような最先端の研究だけをやっているインフォメーションエクセレンス部に異動させたんです。VRが大好きで嬉々としてやってますね。

システムは現場で
使ってこそ価値が生まれる

長谷川:とんがった人間って、とんがった人間とつながっていますよね。

小和瀬:そう、その彼が紹介してくれたのがクラウドネイティヴの齊藤愼仁さんで、彼とは考え方が一致して、うちの基幹ネットワークの構築を依頼したんです。まだまだ日本の会社、特に製造業はインターネットの活用が十分とは言えません。それを打開する人が必要なんです。とんがった外部の人とつながって、刺激を受けながら旧態依然とした組織を変えていく。長谷川さんもアクセンチュアでは、関係する会社に影響を与えてきたんじゃないですか。

長谷川:いやいや、とんでもないです。やはり、東急ハンズに来てからは、自分の責任でできるので、最高に楽しいです。外部からの支援は限界があると感じていました。特に、ファーストペンギン系のことは(笑)。

小和瀬:私自身も、花王に入社してすぐ、システム開発部で日本全国の販売会社を回っていた経験が、その後の仕事の基盤になったように思います。日本の北から南まで50拠点くらいを3週間ほど滞在して、システムをメインフレームに切り替えるために、導入だけでなく、オペレーターに説明したり、ピッキングを手伝ったりいろいろやっていましたね。つくった本人が一番システムをわかっているわけですから、とにかく動きを確かめて、使いやすさを調整して、現場に根付かせようと一生懸命でした。でも、現場の若い女性がダム端末のテンキーを私の倍くらいの早さで打つんです。そして、あっという間になれてしまう(笑)。現場はやっぱりすごいわけですよ。

タイ、インドネシアやマレーシアの海外関連会社を、数ヶ月かけて出張で回ったこともあります。その後、出張での海外支援では不十分だと思ったので、タイ花王に出向させてもらいました。その時も18カ所に拠点があったのでタイはかなり隅々まで行きましたね。未だ専用線が完備されていないところもあって、パラボラアンテナでつないだこともありました。

長谷川:それは楽しそう。それ以降、ずっと情報システム部門にいらっしゃったんですか。

小和瀬:そう、若い頃はずっと現場現場で、本社の仕事をしたことがなかったんです。まるで出世コースとは外れていました。ただ当時としては育てる余裕もあったのでしょう、「海外出張に行くなら観光もして来い」と、特に一流のモノに触れるようにと言われて、よく美術館などに行きました。ある先輩なんて、「自分で何をやるか考えてやれ」っていわれて、米国に行かされましたよ。

 

急激な業務改善効果に
本社からお偉いさんが見学に!

長谷川:花王ってそんな会社だったんですか。知っていたら入っていたかもしれない(笑)。

小和瀬:いい会社でした。時代もあるのかもしれませんが、今と比べると締め付けが少なくて、一人ひとりの自由度が高かったと思います。それが、日本全体で言えることですが、いつの間にかリスク管理が厳しくなりましたよね。システムも同様で、管理系ばかりになっていますが、現場の人は手間がかかるばかりで、誰も喜ばないんですよ。やっぱり情報システム部門の仕事は、一緒に業務改革に取り組んで「やったね!」と手を取り合えるようなものでありたいじゃないですか。

長谷川:本当にそうですね。

小和瀬:とにかくシステムによる業務改革を推進して現場で成果を上げること。それしか当時は頭にありませんでした。タイでは結構な額の借金があったのですが、売掛金の支払日の見える化と厳格な回収管理や、出荷データの統計処理による需要予測と自動補充による在庫管理など自動化や効率化を図ったら、みるみる赤字がなくなって5年で借金が消えたんです。

また社長が利益をタイ人の社員にもしっかり還元する人で、利益が出た分はしっかりボーナスで還元し、経験を積んで引き抜かれそうな有能な人は倍のサラリーを出すなどして、全社的なモチベーションがどんどん上がっていきました。社長自身もその後本社の常務になるなど出世しましたし、いったいタイで何が起きているんだと本社のお偉いさんが見学に来るなどして、ちょっとした話題になりました。

長谷川:確かに、それは放ってはおかないでしょう。

小和瀬:ええ、本社に呼ばれて、他のアジアの国にも展開しろと言われて、「アジア標準化プロジェクト」を立ち上げてプロジェクトリーダーになりました。それが32歳のことです。

長谷川:いい会社ですね。やっぱり、口だけじゃなくて手を動かして成果を上げた人が評価されるというのは、他から見ても気持ちがいいですからね。

小和瀬:もう張り切りましたよ(笑)。まずやったのが、コードやKPIの統一です。当時の海外拠点はもう「各自でやれ」という雰囲気だったので、もちろん商品コードは各国バラバラで売上げの定義も違う。アジア全体の売上げを集計するのに3週間もかかっていたんです。それを全部統一して、ボタン1つで見られるようにしました。そうした業務改善をみんなでコツコツやっていったら、かつては「日本では強いけど、海外では勝てない」なんて陰口を叩かれていたんですが、中国も含めて各国No.1になったんです。当時買収したカネボウにも同様に業務改善を行なって、そこでも大きな効果がありました。

長谷川:いやあ、気持ちがいいなあ。情報システム部門って、以前は「御用聞き」のように言われていたじゃないですか。それが率先してプロジェクトを牽引して、成果を出していくというのは、情シスの鏡ですよね。

小和瀬:たぶん、ITの技術ばかりやっていたらダメだったでしょうね。私も当時は経理だの流通だの、業務についていろいろ勉強しました。全部英語で覚えたので、今も勘定科目の名称は英語の方が得意です(笑)。

鳥と虫の目を持つ情シスが
組織と業務を改革できる

長谷川:その意味でも既存の情シスの人じゃないみたいですよね。経営企画とか、社長直下のエリート部隊の仕事じゃないですか。

小和瀬:いや、そこはやっぱり情シスの仕事なんですよ。だって、情報システムを新たに入れる時なんて、業務改革の好機じゃないですか。それがわかるのは情シス部門の人でしょう。確かに先ほど長谷川さんがおっしゃったように、部分的にしか見させてもらえないことで部分最適化しかできない人が増えているのは事実かもしれません。でも、部門としての情シスは全部を見ることができる「鳥の目」も持てるし、製品1つの掛け率調整みたいな「虫の目」も持てる。会社を大きく牽引する花形部門になるはずなんです。

長谷川:若い人にもそれは伝えたいですね。小和瀬さんの仕事の仕方から見ると、要望の通りにシステムを作るのって、「さぼっている」のと同意義ですよね。

小和瀬:もちろん業務担当者の意見をしっかり聞くことは大切ですよ。でも、テクノロジーを抑えていて、違う角度からみることもできるんですから、意見を出せて当然じゃないですか。そのためには技術の勉強もしなければならないし、他社の優れた事例や考え方にも触れていなければならない。社内だけで見ていてもダメだと思います。

長谷川:そうした小和瀬さんを育んだものって、やっぱり花王という組織文化なんでしょうか。

小和瀬:それは大きいと思います。花王って役職がつくのが部長からで、基本的にはフラットなんです。あるチームのグループリーダーでも、他のチームに異動したら単なるメンバーということもよくありましたから。人材の流動性が図られていましたね。

長谷川:それは確かに理想的ですね。現在、変化の激しい時代に柔軟に戦うには、日本型ヒエラルキー型からフラット型に転換するのが望ましいと言われています。

小和瀬:そう思います。そうした組織の中で、私は25歳でグループリーダーになり、30代で部長、45歳で本部長になったんですが、これは花王の中でも異例なことでした。でも、自分でも若いうちに全体を見る目を養い、40代で経営に関わられたというのは、とても幸せなキャリアを積ませてもらったと思っています。その実感もあって、LIXILでもフラットな組織と若い経営層を実現させたいと考えるようになったのでしょう。

長谷川:とても理想的なキャリアで、出世を考えれば、その後も花王にというのが自然な選択だと思うんですが、なぜまたLIXILに入られたんですか。

小和瀬:花王が業務改革で成果を出しているというので、たくさんの方が見学に来られて、いろいろとお話を伺うと日本の製造業の問題がだんだん見えてきたんです。これでは日本企業はヤバいなと。それでカンファレンスで話したり、メディアに出たりしていたんですが、そんな時に前社長である藤森さん(藤森義明氏)に誘われて、思いを同じくしていることがわかり、LIXILに入社したんです。

話を聞くことと「Quick Win」が
新天地で仕事を進めるコツ

長谷川:小和瀬さんのLIXIL入社は、CIOのキャリアチェンジの成功事例と言えますよね。経験があって行動力があるCIOが増えて各社を改革していければ、もう少し日本企業の変革も進むんじゃないでしょうか。

小和瀬:いやいや、私自身まだまだ思うように進んでいないので、がんばらなくてはと思っています。やっぱり会社の風土は大切ですね。5社が統合してできた会社なので、それぞれの社風がまだ融合せずに残っているんです。そのせいもあってか、フラットにみんなで会社を変えていこう、という雰囲気にはなりにくいところがあります。

長谷川:確かに。私は幸い幸せな転職ができたと思っているんですが、同じころに転職した人の中には「こんなはずじゃなかった」という人も少なくないんですよね。話を聞くと、改革のために転職してきたのに、社長からセーブするように言われたり、現場が足を引っ張ったりするというんです。もうそうなると、アイディアや技術スキル以上に大切なのはヒューマンスキルなんじゃないかと。行った会社の風土や経営層の考え方の当たり外れはあると思いますが、新しい会社でいかに信頼関係を築き上げていくかは、改革の成否に大きく影響しますよね。

その意味で、よくぞまあ、5社統合の難しい潮目に行かれて、どっかーんとシステムを入れ替えるというのは、さすが小和瀬さんというべきかと。

小和瀬:あの時は「花王での10倍の労力がかかるよ」と言われていたんですが、本当にそのとおりでした。花王では人的なネットワークもあるし、信頼関係もある。ですが、LIXILでは、それが少ない環境下でやる必要がありましたからね。

長谷川:あえてそれでも成功させるコツみたいなものって、なにかあるんですか。

小和瀬:まずは「話を聞くこと」でしょうか。入社後3ヶ月間はいろんな人に時間を作ってもらい、直属の部下である部長クラスはもちろん、メンバーにも話を聞きました。その際には、システムに対する考え方とか、その人のベースを理解することを徹底しました。

あとは「Quick Win」 でしょう。まず小さくてもなんらかの成果をいくつか出すこと。入社直後は「お手並み拝見」で遠巻きに見ている人も、どんなことができるのかを見せると「じゃあ、やろうか」という雰囲気になります。そもそも内部の人にはできなかったから呼ばれたわけで、そういうことをやってバリューを認めてもらうことが大切ですね。

長谷川:その後、藤森さんから瀬戸さんに社長交代になりましたよね。そこでかなり役員も減らされたと思いますが、その時にも残っていらっしゃる。

小和瀬:おそらく、いろんな人と信頼関係を結べていたからではないかと思います。加えてそれなりに結果を出せていないと、残るのは難しかったかもしれないですね。

熱意ある能動的なIT
停滞した組織を変える

長谷川:ちなみに瀬戸さんにはお会いしたことがないのですが、どんな方なんですか。

小和瀬:ご存知かと思いますが、もとは住友商事でアントレプレナーのプロとして活躍し、その後はMonotaROの社長をされています。MonotaRO時代のお話を伺うと、設立当初は人材確保だけでも大変だったようですね。現在、MonotaROはEC業界で目立つ存在になっていますが、相当苦労してスタートアップされたようです。それだけに、とにかく現場主義で、財務諸表が悪くても「それが今のうちの実力だ」って動じない。ITにもすごく詳しいですね。

長谷川:そういえばMonotaROの執行役 IT部門長だった安井さんには何度かお会いしたことがあります。今、あの方もLIXILに入られて、40代になったばかりですよね。

小和瀬:ええ、理事であり、マーケティング本部 デジタルテクノロジーセンター センター長で、瀬戸さんの住商時代からの右腕であるCDOの金澤さんとも同年代で仲がいいんです。二人ともとても熱意がある方だし、一緒になっていい会社にしていきたいと思いますね。ITで風穴は空けられると私も彼らも信じていると思います。とはいえ、カルチャーを変えないとならないし、問題は山積みですが。

だから、長谷川さんがいろいろと斬新な取り組みをされていると伺うと大いに刺激になります。

長谷川:いや、もともとは東急ハンズの社内システム自体をクラウドサービス化したいと思っているんです。通常、企業は拠点からデータセンターまでVPNなどでネットワーク構築していますが、G-SuiteにVPNを張ってないじゃないですか。そうすると、各店舗からクラウド上の業務システムを利用するなら、VPNでなくてもいいんじゃないかと。あと回線を1つに集めるとスループットが集中して太い線をひく必要があるし、ボトルネックになってリスクも高い。かといって各拠点に、IPS、IDS(不正侵入検知・防御システム)を全部入れるのはコストが厳しいなと。それで信用のおけるところには各拠点から直でつないで、それ以外のどこにつながるかわからない部分にはIPS、IDSを入れればいいと、そんなふうに考えたわけです。

小和瀬:なんだかセキュリティの話をすると、どんどん過剰防衛というか、複雑になっていますよね。でも、たぶん目指すべきそこじゃないような気がしています。

長谷川:そうですね、セキュリティー対策には、終わりはないですけど、私の考えは、SaaSなどインターネット上のサービスを業務で使うのであれば、インターネット接続を前提とした全体設計をして行かないといけないと思っています。ちょっと乱暴ですが、LAN/WANがない方がいいんじゃないかと。Google Chromeで業務システムを全て動かせるようにしていこうと考えているところです。

小和瀬:それは面白そうですね。ただChromeは予告なしにバージョンアップされるのがきついかなあ。突然システムが動かなくなる可能性があるので。ただ、これまでは「オフィスで仕事をする」のが普通でしたけど、これからどこでも仕事ができるようになる時代にあって、閉域網でFirewallを入れて“ここだけはキレイな世界”なんていうのをつくってもなあ…、って私も思います。今後は1つ1つのコンテンツを守る仕組みができて、ネットワークはオープンというような方向に進むのではないでしょうか。

長谷川:私もそんな気がしています。先日、某大企業のセキュリティ担当の方に、IPS/IDSの話を伺ったら、「IPS,IDSを導入すると、逆に、データが出ているのがわかるだけで、防げるわけではない(笑)」というような話をされていて、やはり、古い資産(サポート切れはもちろんのこと)がネットワーク上にあると、ダメなんだなと思いました。

ちなみに私はソフトウエアの最新化が、大好きなんですよ。新入社員の時はWindowsPCも毎日アップデートのボタンを押してから仕事をしていましたし、今もMacOS、Chromeは1日数回アップデートボタンを押してしまいます(笑)。毎回目立つ改善はないんですが、アップデートされていると「なんかよくなってる〜」みたいな気がするんですよね。

業務改革の要は組織改革

小和瀬:実は花王も自分で何でもつくっていましたね。情シス部門だけでなく、製品も独自性を重視していました。当時は外から持ってきた製品は「ニベア」ブランドくらいでしたよ。システムも「バーティカル・インテグレーション」を信条としていて、それを私たち情シスの強みと捉えていました。

長谷川:そもそも自分たちのコアになるシステムを買ってくる情シス部門って、単なる購買部じゃないですか。

小和瀬:そうなんですよね。自分でやらないでどうするつもりなんだと。技術者なのに要件定義しかしないという人とか、何が楽しいのかと。でも、花王は自前で作るからこそIT予算が少なかったんですよ。システムを作った後の検収に時間を掛けていたから、そこがボトルネックになってしまって。でも、使わない、使えないシステムなんていらないですからね。

LIXILでも今は、たとえばSalesForceの資格もガンガン取らせて、コンサルがいなくても自分たちでどんどんつくれるようにしているんです。C#を標準にして、コーディングも自分たちでどんどんできるようにしたいんですよね。新入社員にも研修期間中にダミーではなくて、本当のシステムを作らせたんです。やっぱりシステムは「使われてなんぼ」ですからね。

長谷川:そうなんですよね。どうしてもシステムって失敗すると大ブーイングで、動いて当然みたいなところがあるから萎縮してしまいますけど、そのリカバリで経験値が上がっていくわけですから。

小和瀬:将棋棋士の藤井聡太くんも、あの強さは細かいミスや間違いをし続けて、それをどんどんリカバリできるからという話ですよね。人工知能だってトライアルアンドエラーで賢くなる。会社が傾くような失敗は困りますが、小さな失敗がどんどんできて、リカバリできる環境をつくるのは上司の役割だと思いますね。

長谷川:失敗が怖くないなら挑戦もしやすいですからね。

小和瀬:もうね、失敗しながらも成功に到達する喜びは、一度味わうとやみつきですからね(笑)。もちろんすんなり進んでくれるのが一番ですが、難しくて成果が上がるものほど失敗しないわけがないですから。それはもうドラマと変わらない。日曜9時の「下町ロケット」とか、もうたまらないですね。

長谷川:あの枠ですよね。いつも見て、胸を熱くしていますよ。

小和瀬:あえて大変な道を歩く、その喜びを若い世代にも知ってもらいたいと思いますね。

長谷川:いいですね、ぜひうちと合同ハッカソンやりませんか。技術を競うというより、発想を楽しんだり、外部の人と触れ合ったりというのが主目的で、いわばお祭りなのですが。案外、研修に行くより、お互いに刺激し合って、気づきがあるようなんですよ。

小和瀬:ぜひ、やりたいですね。よろしくお願いします。

長谷川:近いうちに実現させましょう。今日はありがとうございました。

 

 

 


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第52回 早稲田大学准教授 入山章栄さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第52回のゲストは、気鋭の経営学者、早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授の入山章栄さんです。子ども教育から今の時代の大学・大学院の意味や経営者に必要なリーダーシップについてなど、幅広く伺いました。

経営学ごときで、ビジネスの答えなんか出ない?

長谷川: 入山先生と最初にお会いしたのは、日経BP社がやっている「日経ITイノベーターズ」という会合ですね。企業のITの責任者をしている、ちょっと変わり者の人たちの集まりで、年に何回か勉強会みたいなことをしています。そこで入山さんの講演を聴かせてもらって、今までにないアカデミックに閉じ籠もらないオープンかつ実践的な先生だなと思いました。率直に言いますが、大学の先生の中では嫌われていますよね?(笑)

入山: ははは、嫌われているというか……(笑)。僕は5年前、アメリカにいた時に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という本を出しているんですけど、すごく平たく言うと「世界の経営学は欧米でもアジアでも国際標準化が進んでいるのに、日本の経営学はガラパゴス化している」的なことを書いたんですね。ガラパゴスがいいか悪いかは別として、「国際標準の経営学は、日本で理解されているものとは全然違う」ということを書いたので、僕のことを陰で悪口言っている人とかはいるのかもしれませんね(笑)。

長谷川: 僕、どっちかというと実学派なんですね。日経ITイノベーターズに出ているCIOって、みんなそうだと思うんです。で、そういう人達の前で入山先生は、学術専門的な話もありながら、「結局、そんなフレームワークだとかは関係なくて、こうなんだよ」というような実学派にわかりやすい話をされていて、でも結局は「俺は経営学を学問として突き詰めていきたい」とガツンと言う、そういう妙なバランス感にびっくりしました。こんなことを言う人が。世の中にいるんだなと。

入山: そうでしたか。本にも書いているんですけど、「経営学が役に立つ」とかいう議論が、僕はもう全然理解できないんですよ。そもそも「役に立つ」ということ自体がすごく曖昧というかいいかげんな言葉ですし。長谷川さんには釈迦に説法ですけど、ビジネスってものすごく複雑で大変で、経営学ごときでパッと答えが出るわけがないですよね。

だけど、ビジネスというのは答えが出ない中でも「決断」はしないといけない。そのためには、ずっと学習するしかないと思うんです。例えば稲盛和夫さんみたいなすごい経営者の話を聞くのもひとつの学習だし、先輩の話を聞くのも学習です。でもそういう機会がない人には、一応は世界中で何万というそこそこ頭のいい学者たちが、真剣に科学的に研究をして、例えば「10万社のデータを使って統計解析したら、全体の経営行動指標はこうなりました」とか、そこまでは伝えられるのが経営学です。ただ、「それであんたの会社がどうなるかまでは、俺は知らん」ということで……。僕は逆に、学者にできるのはそこまでだと思うんです。だから「答えが出ます」と平気で言う学者がいるとしたら、一番信用できないですね。

今の時代にMBA留学の意味はあるか

長谷川: 日本の企業は、バブルの頃から社員をMBAに送るというのをずっとやってますよね。最近はMBAに日本人はいなくて、中国人とインド人が多いという話も聞きますけど。今でも、企業は社員にMBA留学させた方がいいんでしょうか?

入山: 難しい質問ですけど、何を求めるかですね。MBAに行って勉強しても、もしかしたら期待したようなことは、100%は身につかないかもしれない。でも、MBAに行く価値はそれだけじゃない。すごくハードな状況で追い詰められて勉強する経験とか、何より、圧倒的に重要なのが「人との出会い」です。MBAでは、教員も同級生も、今まで会えなかったような人と会えて切磋琢磨できます。行った先ですごく強烈な出会いがあるかどうかということが、すごく重要だと思います。

MBAじゃなくてもいいですけど、海外に一度は行って暮らすのはすごくいい経験になると思います。というのは、僕がアメリカにいるときにすごく感じたのは、地の能力でいったら、日本人の能力の高さってやっぱりかなり高いんですよ。同じビジネススクールの中で比べたら、一般に留学生に比べてアメリカ人は、能力的に落ちることも多い。でも彼らは英語というアドバンテージがあるので、最初は向こうの方が何となく頭よさそうに感じちゃうわけですね。1年目はそれで済むんだけど、2年目になると留学生も英語が分かるようになって、「あいつら頭よさそうなこと言っていたけど、意外とたいしたことないよね」って話になる。――ということとかを知るだけでも全然違いますよ。

長谷川: なるほど。

入山: 本にも書きましたけど、アメリカはすごい国で、「お前どこから来た?」ってほとんど聞かないんですよね。いろんな国の人がいて、本当に切磋琢磨しているんです。僕はそれがすごく好きです。ピッツバーグ大学の博士課程で先生1人に学生4、5人で経営学の論文について、当然ながら英語でみんなで熱く議論していたとき、ふと「あれっ、オレいまアメリカの大学の博士課程にいるけど、アメリカ人誰もいないわ」と気づいたんですよね。日本人の僕、中国人が2人、メキシコ人が1人、あとインド人が1人だったかな。アメリカの大学はそういうのがけっこう普通だったりするので、もっと多くの人がそれを経験した方がいいなと思います。本当に実力だけで勝負するのが普通の世界をね。

長谷川: 勉強だけじゃなくて、仲間とか異文化とか、いろんなところでの成長があるということですね。でも、企業に戻るとみんな辞めちゃいますよね。それはポストとか処遇の問題なのか、大企業には戻らないような「体」になっちゃうのか分かりませんが……。

入山: 僕は元々、日本の大企業が欧米のMBAへの留学支援をするなんて何考えてるんだろう、と思ってましたよ。だって実力つけたら、今の会社に留まるのがばかばかしくなるのは当然でしょう。

長谷川: よく言われる、日本は出る杭は打たれる、アメリカはそうでもない、というのは、本当にそんな感じなんですかね? 「日本人はイノベーションを興すのは無理だから諦めたら」なんて話もありましたが。

入山: アメリカも結構、出る杭は打たれますけどね。アメリカ人って日本人よりもよほど空気を読みますし、すごい学歴社会だから、僕は「アメリカ人は自由だ」みたいな言葉は、あまり信用していないです。

日本にいると、アメリカのすごいところだけが見えがちですけど、ものすごい競争社会なので、本当にごく一部の神様みたいな天才が競争で勝ち上がっているだけ。マーク・ザッカーバーグみたいなのは本当に1%、もしくは0.01%なんですよ。残りの99.99%は普通というか、失礼な言い方をすると、アベレージなら日本人より低いかもしれない。それをどう見るかですね。

長谷川: そうすると、暮らしていく上で、アメリカのいいところ、日本のいいところって、どんなところでしょう?

入山: 日本は食べ物がおいしいところですね(笑)。これはもう圧倒的。あと安全だし、暮らしやすい。大好きですね、僕は。

アメリカのすごいと思うところは、やっぱり多様性かな。僕は「お前日本人だから、、、」と言われたこと、一回もない。普通に「アキエ、よく来たな」みたいな感じで、個人として扱ってくれる感覚とか、ああいうのはすごいですよね。でも、しんどい国だなと思います。競争も激しいし、それなりに人の裏表もある。

僕は今、日本で早稲田大学にいて、正直こういうの嫌なんですけど、多分このまま無難にやり過ごせば、定年までどうにかなる可能性がかなりある。こういう感覚は、アメリカにいたら一生ないかもしれないですね。永久在住権とって准教授になっても、結局教授になるためにはまた競争が必要で、教授になったら今度は冠付き教授(Chair Professor)になる必要があって、、、無限ドラクエみたいな感じです。レベルが上がるたびに強い敵が出てくるみたいな(笑)。だから、あそこで勝ち上がるのは本当にすごいなと思います。

子どもに身につけてほしいのは数学と英語

長谷川: 今、お子さんはおいくつですか?

入山: 10歳の男の子と6歳の女の子です。

長谷川: 僕も小4の男の子がいるんですが、例えばその10歳の男の子に対して、どんな教育プランを考えていますか?

入山: 2つだけです。ひとつは、僕は日本の「礼儀正しく」が好きなので、ちゃんとして欲しいというのはあります。あとは息子には「英語と数学だけできれば、あとはどうでもいいから」と言っています。数学をやってプログラミング言語ができる素養が身につけば、息子は一応帰国子女なので、あとは要らないというのが僕のスタンス。もちろん国語とか、美術とか、色々と重要なこともあるけど、それは好きに感性ベースでやってくれればいい。

長谷川: 今まで、というか今も日本は学歴社会ですが、そういう意味で、こうなってくれたらいいなという、理想のようなものはありますか? もちろん最後はお子さんが自分で選択するものだと思いますが。

入山: 僕は子どもが好きで、子離れできなさそうなので(笑)、「なるべく一緒にいてほしいな」という思いはあります。だから葛藤もありますけど、それを無視すれば、最強のパターンは、「日本でそこそこいい大学に行って、大学院でアメリカに行くこと」かなと思います。

長谷川: なぜですか?

入山: 学部で向こうに行くよりも、母国で大学ぐらいまでちゃんとやってから、問題意識を持ってアメリカに行く人の方が、僕の周りでは力がある場合が多いかな、と思っているんです。あくまで個人ベースの経験則ですが。

長谷川: うちは嫁が英語好きで、子どもにもずっと英語をやらせてるんですね。僕はIT系なので、絶対というわけではないけれど、コンピューターはやってほしい。要するに英語とコンピューター以外は、学校の成績どうでもいいと思ってるんです。とはいえ、僕はもともと三重県出身で、中学受験とか全くない世界だったので、この東京では、みんなどうしてるのかなと、気にもなって。

入山: すごくわかります。難しいですよね。うちは、嫁さんがお受験とか悩む派なんですよ。僕はそんなのどうでもいいと思っていたんですけど。

長谷川: 中学受験をさせる予定は?

入山: 検討中です(笑)。息子は今は公立の小学校に行っているんですけど、中学受験するなら中高一貫か、一番いいのは大学まで行ければと。息子は僕と違って数学の素質がありそうだし、アメリカに6歳までいたので基礎的な英語はしゃべれるんですね。アメリカ国籍もあって。だからもう放っておいて、好きなことやればいいんじゃないの、という気持ちもあるんです。個人的には息子に任せています。長谷川さんはどうですか?

長谷川: ひとつだけ思っているのは、大企業終身雇用みたいな所謂王道(に思える)のレールを信じるのではなく、「俺はこっちが幸せだから」とレールから横っ飛びするような、そういう感じになってほしいな。それだけ考えてやってますね。

お受験でトップ校行かないんだったら、むしろ変わったところに行ってほしいなと。僕はどっちかというと、アジアかなと思ってるんです。アジアの人たちがいっぱいいるような中学や高校なんかに行って、「俺の実家来いよ」って誘われて、ちょっと向こうの国に行って遊んでくるみたいなのがいいなと。

入山: それはいいですね。子どもの教育のためにアジアの別の国に移住する人も出てきていますからね。

大学の価値、先生の役割は変化している

長谷川: お子さんには大学院からアメリカに行ってほしいと言われる一方で、MBA留学するとしたら海外でネットワークを作れるところに価値があるという話でしたよね。GDPでいくと、アメリカはまだ伸びるとは言われてますが、一方でアジアの時代が来るということもあり、アジアの大学に行くというのはどうなんでしょう。

入山: それはありだと思いますよ。例えばアメリカに行っても、下手すると同じ母国の人とつるみがちなので、1〜2年留学したくらいだと、結局そんなに欧米の友達はできない人もいます。できても、別れれば疎遠になる。そう意味では、僕の勤めている早稲田大学のビジネススクールの方が、ある意味面白いかも知れません。うちのMBAはいま世界30ヶ国近くから人が来ていて、しかも北米や欧州からも来るけど、メインはアジアからなんですよね。先日なんかも、うちのゼミ生の台湾の女の子が修士論文のテーマを「私のファミリービジネス」に決めたいと言うんです。何かと思ったら、台湾で一番大きなトヨタの輸入代理店のお嬢さんだったんです(笑)。そういう子が結構いるので、「(アメリカに行くよりも)ここで人脈つくった方がよっぽどいいかもよ」という話は、学生にたまにしています。

長谷川: 大学や大学院の教育ってどう変わっていくんでしょう? インターネットの前後で違うのではないでしょうか。昔は、大学でも、先生が「こうだ」と言ったことを信じて勉強していたのが、最近は、その場で、ググったりとかして、「この人が違うこと言っていますけど、どうなんですかね?」みたいなことってあるんじゃないですか。消費者が賢くなるのはまだいいとしても、学生がそうなると、授業をするのも難しくなってくると思うんですけど。

入山: それ、素晴らしいポイントです。もう基礎的な知識で大学に行かないと学べないことは減ってきているので、「先生が何を教えるか」だけでは、大学の価値はなくなってきていますよね。

必要なのは2つで、まず「その大学を出た」ということです。経済学で「シグナリング理論」というんですけど、例えば東大に入るのは大変じゃないですか。それでも入りたがるのはなぜかというと、ものすごく勉強して受験競争を勝ち抜いて、日本のトップ校に入ったことで、「それだけ努力していて、地頭がいいんだな」ということをリクルーティングする人に伝えられるから。大学で何を勉強したかはどうでもいいわけです。

もうひとつは、繰り返しですが、いろんな人と出会えるということですね。僕は学部は慶應だったんですけど、特にゼミの先生とか、ゼミで出会ったら奴らには面白い人が多くいました。そのまま友達でいられますし。

その2つが大事で、大学教員がこういうのはまずい気もするんだけど、「何を学んだか」のウェイトは下がってきていると思います。だから個人的には、早稲田大学のビジネススクールも、より人との出会いとか、面白いことが起きているコミュニティとか、さらにそういう風になればいいと思っています。まあ、うちは、かなりそうなっているとは思うのですが。

長谷川: スタンフォードは結構座学が多くて、ハーバードはディスカッションが多いと聞いたりしますね。先生が教えるというよりも、学生同士に議論させると。

入山: ハーバードではもう、教授はただの司会者みたいな感じのようです。

長谷川: モデレーターみたいな。

入山: そう。教授はほとんど持論を述べないで、ひたすらディスカッションをさばく。ビジネスには答えがないので、教授が「こうだ」と答えを言っても仕方がないじゃないですか。そうじゃなくて、「こいつがこういうふうに考えるんだ」とか、「こういう考え方もあるんだ」という、多様な考え方を、世界中から来た優秀な人達から引き出すことが、教授に必要な能力になってきているのだと思います。ハーバードはそれが一番徹底している印象です。

大企業とベンチャーで必要とされるリーダーは重なってきている

長谷川: もうひとつお聞きしたいことがあって。リーダーに関してなんですけど、大企業に向いているリーダーと、ベンチャーに向いているリーダーって、やっぱり素養とか何かが違うんですか?

入山: 僕はオーバーラップしてきていると思っています。なぜかというと、今は大企業でも普通にやっていたらつぶれちゃうので、ベンチャー的になっているんですね。

僕はデロイトトーマツというコンサルティング会社が開催している「人材流動化研究会」の座長をやっているんです。先日はたまたまGEの人が来ていたんですが、GEの発想はすごくベンチャー的になってきてますよね。「そうでないと俺たちつぶれる」と言っていて。だから、求められる人材は重なってきているのかもしれません。

先の分からない世界なので、やるしかないわけです。でも不確実性があるとみんな不安なので、いかにリーダーが周りの人たちに、「うちの会社はこれからこうなる。そうすれば社会でバリューが出せて、すごく魅力的なことができるんだぜ」というのをちゃんと語れるかがすごく重要です。ベンチャーは昔からそうですが、感度の高い大企業も少しずつそうなってきています。

長谷川: 大企業って、課長や部長ぐらいまでは業務成績がよければ「あいつ、すげえじゃん」と評価されるけれど、どこかからか「イエッサー」の人だけが上がっていくというところがありますよね。あるいは減点主義の中で、マイナスの奴は落とされていくようなところが。今おっしゃったようなベンチャー的なリーダーを受け入れて、上に上げていくように変わっていくんですかね?

入山: 多分、そうやっていない会社はつぶれちゃうと思いますよ。ただ難しいのは、日本企業で評価するのは「成功か、失敗か」なんですよね。失敗か成功しかなくて、失敗したら減点になるやつです。もちろん勝たなきゃだめなんだけど、そのプロセスでものすごい失敗があってもいいはずで、そういうのを認められる方にいかないと勝てないというのは間違いないですね。

長谷川: リーダーの「素養」というと「生まれ持ったもの」という意味になっちゃうのかもしれないですけど、リーダーに必要なものとは、どういうものでしょう?

入山: これからの時代ということでいうと、まず未来を見抜ける能力だと思います。これは重要で、良い経営者はみんな未来を見ている。当たり前ですけどね。

ただ問題は、未来が本当にそうなるかなんて分からないんですよね。それでも「絶対こうなる」と見定めて、それに対して「うちの会社はこういうアップセットがあって、こういうリソースがあるから、こうやって価値を出すんだ」ということをちゃんと語れる、巻き込めるリーダーというのが決定的に重要だと思います。

長谷川: 孫(正義)さんも、「情報が7割ぐらいのときに決定できるのがリーダーで、10割で判断するのは一般社員でもできる」と言っていますよね。

入山: 孫さんなんて、きっとあの人2、3割で決定していますよ! クレイジーだと思いますけど、未来は分からなくても「こっちなんだ」と言って、ステークホルダーを巻き込んで「こっちに投資しよう」とやっている間に、経済はそっちになっちゃうんですよね。「セルフフルフィリング」といって学術的な理論もありますが、やっているうちに本当に実現させる、つまり未来をつくり出すんです。

孫さんは最近10兆円のファンドを作ったり、昔ボーダフォンを買ったときもそうですけど、普通は絶対引き出せない金を引き出せる。それは語る能力が異常にあるからだと思います。「世の中わからないけど、とりあえずこっちなんだ。だから金出せ」と(笑)。僕が言うのもおこがましいけど、これからの経営者に一番必要な素養を持っている方なのだと思います。

これからのリーダーに必要なのは、魅力あるビジョンを語る力

長谷川: 最近注目している経営者は、どんな人たちですか?

入山: 好きな経営者は何人かいます。孫さんは直接お会いしたことがないので、お会いした中ですごいな思うのは、やはり日本電産の永守さんですね。もう70ですけど、怪物ですよ。グローバルのGEとかが組織でやっていることを、永守さんはひとりでやっているんですよ。モーターの会社で、「モーターは産業のコメになる」というビジョンをもっています。なぜなら、車が自動運転になれば全部モーターが入るし、加えてドローンもあると。しかもドローンは近いうちに自家用の「マイドローン」になる、「15年したらドローンで通勤するんだ」と、そういう絵を描いているわけです。日本電産は世界のモーター市場の8割を押さえていて、ドローンってモーターが絶対必要だから、ドローン市場が伸びたら、日本電産の売り上げもガッと伸びるんですよ。永守さんが「あと10年で10兆円にする」と言っているのもあながち夢じゃないなと思います。話を聞いていると「この人、あまりにも言っていることが壮大だけど、ついていってもいいかな」と思っちゃうような方です。

長谷川: ただのほら吹きおやじで、人がついてこない人との違いは何でしょう?

入山: 面白いのは、永守さんは「10兆円にするというのはホラだ」と言っているんです。でもワクワクするんですよね。本当にキャラが濃いので、部下になったらすごく大変でしょうね。日本電産は最近も経営幹部が辞められていますが、でもやっぱり残っている人たちは魅力を感じているのだと思います。それがリーダーなんだと思いますよ。孫さんもそういう感じみたいですが。

長谷川: そういう意味では、大ボラ3兄弟と言われているのがファーストリテイリングの柳井さんと、永守さんと、孫さん……。

入山: 僕が言うのも僭越すぎますが、あの3人は似ていますよね。みんな一見すると信じられないようなことも多く話して、でも実現しているじゃないですか。だから結局投資家にしても、バリュエーションなんかどうでもいいのかもしれない。その人のビジョンとか考え方にいかに共感できるかなので。そういう人間力みたいなのがもっと重要になると思います。多分日本で一番それがあるのが孫さん、柳井さん、永守さんなのかも。

長谷川: 入山先生自身は、これから何がやりたいとか、あるいは世の中をこうしていきたいとか、そういう希望はありますか?

入山: 僕の場合、面白いことが好きだから、「面白いことだけやるし、面白くなかったらやらない」というだけなんですよね。最近はみんな、「人の役に立ちたい」「世の中の役に立ちたい」という感覚が結構あるみたいですけど、僕はいまだに全然興味がない。今は個人的に面白いことをやれているので、ものすごく楽しいです。

長谷川: 仮に10人中10人に、「それは全然面白くないですよね」と言われても、自分が面白かったら全然いいということですか? それとも、さすがに10人中10人に面白くないと言われると、「俺ちょっと違うかな」みたいに思います?

入山: 多分、自分が面白いなと思っていることが、全員かどうかはわからないけれど、ある程度は他の人の興味ともマッチしているからハッピーなんでしょうね。それがすごくずれているという状態は、想像したことがないから何とも言えないですけど。

長谷川: 面白いことが他の人にとってマイナスなことはそんなにないはずで、社会の役に立つことにも連鎖しているだろうという感じでしょうか。

入山: それはそうだと思います。周りの人たちに面白がってもらっているというのを「役に立っている」と考えれば、そうだと思います。

長谷川: なるほど、それは確かにハッピーな状態ですね。よくわかりました。

今日はお忙しい中、ありがとうございました!


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第51回 株式会社IDOM 執行役員 北島昇さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第51回のゲストは、中古車売買の「ガリバー」を運営する株式会社IDOMの北島昇さん(新規事業・人事・広報管掌 執行役員)です。自動運転の時代を見据えた新規事業開発から組織風土の変革まで、難題に果敢に取り組む北島さん。その大胆な考え方の背景に迫りました。

株式会社IDOM 新規事業・人事・広報管掌 執行役員 北島 昇さん
2007年IDOM(旧ガリバーインターナショナル)に入社。
人事、経営企画、マーケティング、店舗フォーマット開発、
事業提携などに従事。2015年より現職。C2C事業(クルマジロ)、サブスクリプション事業(NOREL)、コネクティッドカー事業などの新規事業開発やアクセラレータープログラムをはじめとしたオープンイノベーションの責任者を務める。
IDOMへの社名変更とともに、「クルマの売買」から「Mobility Platform」への事業変革と文化変革を推進中。

自動運転で車がサービス化される時代に備え、今やるべきこと

長谷川: 自動車業界はこれから、「自動運転」を軸にものすごい変化があるだろうと言われていますよね。IDOMさんとしては、自社への影響や打ち手をどういうふうにお考えですか?

北島: 自動車のこれからの変化って、自動運転のような自動化の流れと、シェアリングエコノミーをはじめとするUBERのようなサービス化の流れと、2軸あるんです。将来は2つの流れが交わり、運転手のいない車をスマホ1つで呼び出せるようなサービスが出てくるでしょう。それがいつなのかは人によって考えが違いますが、IDOMが存在し続ける限り、それを無視できなくなる時代がくると思っています。そう考えて、今は店舗数を増やして中古車の流通を伸ばしていくと同時に、新規事業としてサービス化に取り組んでいます。
「Car as a Service」でCaaSと呼んでいるんですけど、車を売る、買う、貸す、借りる、使うということに関わるビジネスをどんどん立ち上げてプラットフォーム化し、ドライバーIDをどんどん蓄積していこうとしているんです。

長谷川: ドライバーIDというのは、要するに運転する人のIDということですか?

北島: うちで売った人、買った人、借りた人、貸した人……、それぞれのユーザーさんたちのIDです。最終的にはその人達に価値を提供する、IDOMのプラットフォームを作りたい。要は「買った車を貸せます」、「借りている車を買えます」、もしくは「買った車をボタンひとつでCtoCに出品できます。急いでるんだったら、ガリバーが買い取ります」ということができるように、売る、買う、貸す、借りる、使う、全部を抽象化して、ひとつの中に入れちゃおうと。
例えば、長谷川さんがうちで車を買ったとします。3週間沖縄に行きますというときは、ボタンひとつポチッと押してくれたら、その間はIDOMが長谷川さんの車を貸してお金を稼がせておきます。長谷川さんが帰ってくるときには、ちゃんと車を戻しておきます。で、沖縄で長谷川さんが乗る車も、僕らのプラットフォーム内で用意します――、みたいなことを実現しようというのがCaaSです。

長谷川: なるほど。

北島: でも、このビジネスは自動運転で移動がサービス化する時代になると、無効化されるんですね。自動運転の車って、所有者も流通方法も変わって、僕らが今やっている買取や販売が割り込む余地がなくなるでしょうから。
そういう時代になるまでにプラットフォームをちゃんと作っておいて、最初は「車のプラットフォーム」だったものを、いずれは「移動のプラットフォーム」に変えたい。どこに行ってどれだけ滞在するのかによって、車と新幹線と飛行機、どれで行くのがいいのか、あるいはオンデマンドバスか、ロボットタクシーか、そういうところまで含む移動のプラットフォームです。
まだまだ不確実で、ぼんやり考えてる状況ですけど、そのときに備えて僕らが今持つべきは、調達力や与信という意味も含めた「お金」、そしてもうひとつはドライバーIDとそれに紐付くものも含めた「データ」です。コネクテッドカーと言うんですけど、車のIoTですね。ドライバーの移動経路と運転の仕方のデータを収集するための事業にも投資をしていきます。

大手メーカーに学ぶ未来への備え方

長谷川: 自動運転て、最近になって急に進化しているように見えるんですよね。ちょっと前までは、安全性とか法律とか、色々な面でまだまだ難しいと言われていたものが、トヨタも「2020年までにやる」と言ってみたりして、「いきなりどうしたん?」と不思議に思うんですけど。

北島: いや、言うほど速くないですよ。

長谷川: そうですか? DeNAも「オリンピックのときには無人タクシーを実用化する」と言ったりしてましたよね。

北島: あれも、場所と用途が限定されるからできるということでしょう。僕自身は、がんばって進めてより早く実現して欲しいと思ってますけどね。免許持ってない僕が言ってもリアリティがないんですけど(笑)

長谷川: え、免許持ってないんですか?

北島: うち、「要マニュアル免許」なんですけどね。ガリバー(現IDOM)に入る時、あまりにもポンポンと決まったので、自分だけ免許の有無をチェックし忘れたみたいですよ(笑)

長谷川: え〜(笑)

北島: まあ、それでも思うわけですよ。車って、友達を乗せたり子どもを乗せたりしながら、事故を起こして人を殺す可能性がある。どれだけ気をつけていても、向こうからぶつかってくることもあります。語弊を恐れずに言えば結構恐ろしい乗り物なんですよね。そういう意味においては、自動運転とか、自動運転までいかなくてもADAS(先進運転支援システム)と呼ばれている自動ブレーキの技術などは、本当に大事だなと。自動車がそっちの方向に発展していくのは、すごく健全で、正しいことだと思いますよ。

長谷川: 確かに、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とか自動追従のシステムとか、各社が昔から取り組んでいましたよね。でも、ここにきて自動運転が急速に伸びてきているように見えるのは、なんでなんかな、と。

北島: ひとつは、テスラを含め、リーンに物事を進めちゃうスタートアップが出てきたというのがありますね。概念としてあったものが、具体的にプロダクトとして目に見えることで物事の進みが早くなることは、自動車に限らず多くの産業で起こったことだと思います。あとは、アメリカを中心とした政治と経済の話です。車の排ガス規制って、カリフォルニアが一番厳しくて、あそこを起点に世界のスタンダードが決まっていくんです。いっときはプリウスがドンと売れたけど、ハイブリッドはエコカー認定されないということになって、EVをやらなきゃいけなくなったりする。車の開発は政治と経済に揺さぶられるところがかなりあるんですよ。自動運転も、その文脈の中にあると思います。日本のメーカーもそういう流れに振り回されているように見えます。

長谷川: 急に「やらなきゃ」となってできるというのは、もともと技術はあったということですか。

北島: 世に出すのが遅いだけで、技術は持ってますね。安心安全第一で、何年もかけて、実験しているんです。
メーカーがすごいのは、自動運転、EV、ハイブリッド、燃料電池……、どのシナリオがきてもいけるように研究開発してるんですよ。それ見て、新規事業のあり方をすごく考えさせられましたね。スタートアップはひとつの未来に賭けざるをえないかもしれないけれど、ある程度の規模の会社は、あらゆる文脈に張っておかないといけないんだなと。ある種、未来が変わったときのための、挑戦的保険ですよね。僕も新規事業を担当してますけど、未来がどうなるかは分かりません。でも、「こうなったときにはこれで受けとめる」というのをたくさん用意しておくことはできるんです。
その点が、お金があって優秀な人たちがいっぱいいるメーカーだと全然レベルが違うというのを、すごく感じます。「この人たち、こんなに給料もらって、なんでこんな研究を?」という人たちがたくさんいる。あの厚みがすごいなと、思いますね。

自動運転が車とデータの所有権のあり方を変える

長谷川: 最近トヨタの人の話を聞く機会があって、車って人やモノを乗せるものだったけど、これからは情報を集めるものとしての可能性が大きいというんですね。
確かに、車載カメラのようなものでいろんな情報が取れますよね。「ここの道はそろそろ補修せなあかん」というのも分かるし、道沿いのガソリンスタンドの写真から今のガソリンの値段をリアルタイムに集計することもできる。子どもが通学に使う道とか、じいちゃんばあちゃんがよく歩く道、なんていうのも自動的にマップが作れる。その情報が、すごい資産価値になるんだと。

北島: そうなると思いますよ。ホンダの方から伺ったんですが、例えばGセンサー(加速度計)で道路の舗装の痛み具合なんかが分かるので、その情報をもとに都市の保全計画に活かしているそうです。ただ、問題なのは、そうやって取れる情報は誰のものなのかという話です。もともとの解釈では販社が努力して得たお客様の情報だから、メーカーのものではないというものだったんです。次に、では販社のものなのか、いやいやユーザーのものなのかという、この辺の議論がこれから結構出てくると思いますし、既に動き始めいてるメーカーもいます。

長谷川: そうなんですね。

北島: 例えば車で事故を起こした瞬間、タイヤの圧力の変化とか傾きとか、いろんなデータが車には溜まってるんですよ。車検の際に故障診断をするときに、そのデータをボコッと抜いて使ったりするんです。だからそれがあれば、ドライブレコーダーで事故の現場を撮っていなくても、事故の状況がある程度わかるんです。なぜ今までやっていないかというと、情報の所有権の問題があるからです。アメリカでは既に関連した裁判が行われていて、ユーザーが「この情報、俺のだろ」と開示請求したら、応じなければいけないという判例が出ています。

長谷川: なるほどね。

北島: でも、この議論の流れは、自動運転になると一気に変わってきます。自動運転の場合は車の所有者も変わりますしメーカの立場も強くなります。サービスを提供する側がより強くなると思うんですよ。

長谷川: 自動運転が実現するまでに、何年くらいかかると思います?

北島: まだまだ時間がかかると思いますよ。一番アグレッシブなシミュレーションをしているあるグローバルコンサルティンググループでさえ、2035年の完全自動運転のシェアが約10%という見込みです。

長谷川: 2035年でも?

北島: そう言われています。僕は局所最適かな、と思っていて。さっきお話したCtoCプラットフォームの話だって、地方に住んでいて、車が必須の生活様式の方で更に車のインテリアにこだわるような人にとっては「は?」という感じじゃないですか。「別に他人に貸したくないよ」と。こういう話は、国単位じゃなくて、都市単位で合う合わないがあるんだと思うんです。
Uberも一番フィットする人たちがいるエリアから順番に広がっていくでしょう。現に僕らもCtoCとかサブスクリプションモデルについては、例えば東名阪でやったら、その次は日本の地方よりもロンドンに行った方がいいんじゃないかというタイプの議論をします。最適なモビリティポートフォリオを、都市のタイプごとに実装していくというのは、これから広がっていくのではないかと思います。

車を所有したい層を「サービスとしての車」の利用者に変える

長谷川: 『NOREL』のサービスはどうですか? もっと在庫を増やしてくれという話が多いんじゃないですか?

(IDOMが2016年8月に開始した月額定額クルマ乗り換え放題サービス『NOREL(ノレル)』。https://norel.jp/)

北島: おかげさまで会員はどんどん増えているんですけど、超絶苦労してますよ!

長谷川: 在庫を増やすのが難しい?

北島: それはあんまり難しくないです。もちろん調達をどうするかというのもテーマですけど……、自分のものじゃない車って、所有されている車よりも価値の低減が早いんですよね。

長谷川: 荒っぽく乗っちゃうんですね?

北島: そういう傾向があるので、例えば事故の発生率や乗り換えで戻ってきた車両の価値減損などのデータを一生懸命取って分析しています。この半年やってみて、本当にいろんな学びがあったので、その上で、サービスパッケージをどう変えるかという話を今まさにしていて。春以降、高いコース、安いコースに細分化したり、あるターゲット向けの車を増やしたり、より良いサービスにしていくべくNORELチームが絶賛試行錯誤中です。

長谷川: 長い目で見て、どうしていこうとしていますか?

北島: 『NOREL』は、今はIDOMが買い取った車だけでやってるんですけど、この後、IDOMグループで買った人の車なんかも連携させる。また、月額定額だけでなくスポット利用も許容して、車の『Airbnb』を内包したようなものにしたいんです。
ただ、カーシェアの市場って2014年で約150億円で、所有の市場は10兆円以上なんですよ。だから戦略上は、今所有したい人、しなきゃいけない人に、どうやってサービスとしての車に向き合わせるかということの方が優先順位は高いと判断しています。また、僕らとしては、今所有してるユーザーとの接点が既存事業で大量にあるので、そのユーザーに所有ではなくサービスとして車に向き合うことに慣れてもらう、その後で、CtoCも内包するプラットフォームにしていく方がリーズナブルだと思っています。

長谷川: 自分たちが在庫や流通を持っているからできる、ということですね。

北島: はい。僕らは今、この3年位で変われるかどうか、自動車産業の変革を生意気ながらもリードできる立場になれるかどうか、勝負のときだと思っています。風呂敷広げて「やるぞー!」って言って、企業なり人なりを巻き込んで実現するというフェーズです。メーカーのコンサルをしているある人には、「メーカーさんがIDOMを過大評価してます」って言われました(笑)。「あいつら、なんかやるんじゃないか」と思ってくれてるんですね。

長谷川: そういう雰囲気はすごく感じます。

北島: 「過大評価言うな」って感じですけど、成長戦略って確率論もありますが、本質的にはハッタリというか意志の問題で、ゴールへの確からしさなんて大して求めなくていいんです。そういうリスクを背負ってでもやりたい人を集めて「一緒にやろうぜ、ウェイ!」みたいなノリが、すごく大事だと思っているので。ちょっと軽いかな。会社に戻ったら怒られるかも(笑)

女子バレー部みたいな組織にしたい

長谷川: そうやってどんどん新しいことをやっていこうという雰囲気なのは、トップが創業者だからですか?

北島: それは絶対ありますね。今は2代目で、兄弟ふたりで社長をやっているんですけど、この2人は創業メンバーなんです。お父さんがビジョンと企画力で立ち上げた会社で、彼らはエグゼキューションをやってきた。だから営業組織も本部組織も今の社長たちが作ったんです。すごいのは、それを自己否定も厭わない姿勢でいること。CtoCも売買のオンライン化も『NOREL』も、単純に言えば今の買取や販売の既存事業とカニバる可能性があるわけです。それを、人に食われるくらいなら社内で競い合うくらいでちょうといいというスタンスで「次に行こう」って言えるのはすごいです。手前味噌な言い方で恐縮ですが、危機感のあるオーナーが率いる会社というのは、変化の質が違うと思います。

長谷川: 経営会議って、月に何回くらいやってますか?

北島: ないです。

長谷川: ない? じゃあ、各部門長が社長のところに「これやりたい」と決裁を仰ぎに行くような感じですか?

北島:もちろん横串組織もあるんですが、それに近い形でしたね。今、経営会議をはじめとしたガバナンス改革もしているところではあるんですが、本音を言えば形式的な経営会議なんて○○喰らえで、共通の価値感をベースにした思考のシンクロをすごく大事にしたいんですよね。あくまでイメージですが、廊下ですれ違いざまの5分で喋って、「OKやっといて」って、50億の新規事業の意思決定ができるような会社にしたい。

長谷川: 確かに、杓子定規に会議をやっても何も進まないということはありますよね。その後飲みに行ったら、ああでもない、こうでもないという話になって、あんがいアイデアもわんさか出てきたりして。

北島: そうなんですよ。そういう質の高いコミュニケーションに使う時間の比率をいかに増やすかだと思います。

最近は、Whyで語り合う組織にしたいよね、と言っています。社長が正にそうで、プランを持っていくとWhatじゃなくてWhyを聞かれるんですよ。「なぜそう考えたのかプロセスを教えてくれ」と言うので話すと、「そう考えたわけね。俺だったらこの答えは出さないけど、プロセスの質が高いからいいよ」と任せてくれる。思想と思考とレビューがメインで、そこを合わせておけば、組織は大きくなっていくと思っているんでしょうね。

長谷川: 社長は今、何歳ですか?

北島: 兄の由宇介が46で、弟の貴夫が45です。
今、全社で挑戦していることの1つに、新たな文化づくりというのがあるんですが、そんな中での一つの課題認識に横の一枚岩感の希薄さってのがあるんですよ。例えば、経営幹部、部長や課長、リーダー職、女性、中途入社など様々なカテゴリで一枚岩になっている組織にしたいんです。そのために、「女子バレー部にしよう」って言ってるんですよ。

長谷川: 女子バレー部?

北島: 高校の女子バレー部の3年生。練習終わった後に集まって、「ヒロミ、今日声出てなかったよね? キャプテンとしてあの姿勢はないと思う。私たちも手伝うけどキャプテンらしくしてもらわなきゃ困る!」とか、トシコが「私たちこのままだったら都大会行けない。東高校、こんな練習してるらしいよ。明日から練習変えようよ!」って言ってすぐに練習メニューを変えたりとか。そんな暑苦しい議論をね、縦じゃなくて横でしなきゃいけない。そういう場を作ろうぜと。

長谷川: それ、女子バレー部じゃないとダメ?

北島: 男はプライドもあって、お互いを慮るでしょ。女子の方が、ゴールが決まれば、あけすけじゃないですか。ちなみにこの話、社員とよくしてるんですけど、本当に女子バレー部だったメンバーがいて、「女子は女子で大変なんです、あなたはわかってない!」って怒られました、まあイメージです、すみません(笑)

長谷川: 高校の時に女子バレー部の子が好きだったんじゃないですか?

北島: いや、おふくろがバレー部だったからかな。マザコンですかね(笑)
でも本当に全て「話せばわかる、話してないからわからない」、それだけと言っても過言ではないなと思います。僕は文化を競争優位の源泉にしたいので、そのために人事も制度設計とその運用だけではなく、文化作り、深耕をゴールにしてやれば会社により貢献できると思い、メチャメチャ楽しんでやらせて頂いています。

優秀な人が力を出し切れる組織に

長谷川: 北島さん、今の会社で何社目なんですか?

北島: 僕、IDOMが1社目です。

長谷川: え? 勝手に、3社目くらいかと持ってました。

北島: 大学中退して会社を起こして、30になるまで9年は自分で会社やってました。

長谷川: そうなんですか。何系の会社?

北島: アメフトをやっていたので、周りに医者とか理学療法師とかトレーニングコーチとか体に携わる色んなプロがいたんです。彼らが「スポーツ業界で食いたいけど食えない」っていうから、「そんなことあるかい!」って仕事とってきてたら、それがどんどん大きくなっちゃいまして。ただ、派遣とか業務委託ばかりだと、Jリーグの仕事でも1年やったらバシッと契約切れたりしてボラティリティが激しくてしんどいので、トレーニングジムとか治療院とか接骨院とかベースになる生活基盤作ろうぜと、箱を13ヶ所作りました。
最初はビジネスとは思ってなかったんですけど、そんなことをやってるうちにそこそこ成長して、28くらいのときに初めて「これ儲かるじゃん」とビジネスっぽい考え方をするようになったんです。でも、色々あったのですが大きかったのは資金繰りの拙さで苦しむようになり、最後は潰してしまったんです。
こんなキャラだけど、さすがに参りましたね。ビジネスを初めて1年くらいだったらピボットというのもありなんですけど、9年やって潰したので、経営者として確実にダメなんだと落ち込みました。どうしようかと思っているときに、「ガリバーっていう会社があるよ」と知り合いが話を持ってきたんです。僕、就職活動って一切したことなかったので、どんな会社が良いかという判断基準もなく、なんとなくフィーリングが合ったので「もういいや」とポンと入って、今9年です。

長谷川: そうだったんですね。でも、1回自分で会社をやった人って、またやりたくなりません?

北島: 以前は「北島さんってなんで自分でやらないんですか? いつ辞めるんですか」って、よく言われてましたよ。独立して自分がやりたいことを責任持ってやる自由さと、大企業でスケールとかレバレッジをきかせてやるのとどっちがいいか、よく比較されますよね。そういう中で、僕が出した答えは両取りだったんですよ。思考と能力を磨いて、力をつけて、扱える領域を拡大して、IDOMを通して世の中を変えていこうと。
それからは結構やり方を変えて、経営チームとして経営陣やリーダー陣と思考をシンクロさせながら全社を動かす上でやるべきことをやる、というのを大事にしています。それと、僕、株は大して持ってないですけど、社長とどっちがオーナーシップを持っているか、会社の将来のことを考えてるか、という部分で思考の戦いをしているつもりです。ほぼ負けるんですけど、姿勢としてはそうありたいと常に思っています(笑)

長谷川: もう3社目くらいなのかなって、勝手に思ってました。外資系コンサル出身みたいなイメージで。

北島: ありがたいことにそう見えるみたいですけど、ITもマーケも何もかも、この会社に来て学ばせてもらいました。おこがましい言い方ですが、経験も知識も少ないけど、オーナーシップだけは強いと思っていて、ポジション関係なく、持ってる力を出し切れるんです。5しか持ってないけど4.8ぐらい出せる。世の中には、10持ってる優秀な人はいっぱいいるんですよ。でもその人たちは、ポジションとか遠慮とか忖度によって力が出し切れていないことが多い。これが、「話せばわかる、話さなきゃわからない」で思考がシンクロされた一枚岩の組織になれたら、10の人たちがもっと力を発揮できる、活躍できるようになるはずです。
今は人事として外部の優秀な人の採用もしているので、いずれ自分がいらなくなったら勝ちだと思ってるんですよ。自分よりできる人が入ってくると、一抹の寂しさや不安は感じるんですけどね。でも、いらなくなったら自分の力がそんなもんだということなんで仕方ない、くらいの腹決めでいます。

長谷川: いやー、大したもんですね、その割り切りは。

北島: 寂しいですけど、オーナーシップって、そういうものかなと思うんです。でも、長谷川さんだって同じじゃないですか。フェイスブックなんか見ていると結構グサッととくることを書かれていて、すごく共感するし、元気をもらってます。こういう、大企業でがんばっている人達が集まって何かできないかな、といつも思ってるんですよ。一緒にやりましょうよ。

長谷川: 「みんなでやっちゃうか!」というノリ、いいですね。ぜひ、面白いことしましょう!


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第50回 フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二さん 


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第50回のゲストは、「セカエレ」を標榜し、グローバルにビジネスを行うエレベータ・エスカレータのメーカー、フジテック株式会社 情報システム部長 友岡賢二さん(常務執行役員 情報システム部長)です。お互い共感するところが多いという長谷川と、これからの日本企業でCIOや情シスが果たすべき役割について語り合いました。

フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡 賢二さん

1989 年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。独英米に計 12 年間駐在。株式会社ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014 年フジテック株式会社入社。一貫して日本企業のグローバル化を支える IT 構築に従事。

「ようわからんけど好きにして」と言ってくれる会社でやるのが面白い

長谷川: 僕ね、インタビュー記事か講演かで友岡さんのことを知ったとき、絶対気が合うと思ったんですよ。次に何を言い出すか完全に分かるわ、という感じ。ITに対する考え方とか、やることなすこと、すごく似てるなって。一般的には、新しいことをやるときって他社事例があるかを気にするんだけど、そんなもんどうでもいい、良いものならやるし、そうでなければやらない、それだけ。そんな感じでどんどん進めていくでしょう。

友岡: 他でやってないって言われたほうが、むしろワクワクするもんね(笑)。かといって、マイノリティーのままだと死に絶えてしまう。だから、次の大きな潮目の先端、波頭をどうやって見つけるかっていうことに対しては、いつもアンテナを張ってます。そういうところも似てますよね。日清食品CIOの喜多羅さんなんかも同じ感じで、僕らは武闘派CIOと言ってますけど、これが3人だけじゃなくてもっと増やしていきたいですよね。

長谷川: なかなか増えていかないのは、どうしてなんですかね?

友岡: 長谷川さんも喜多羅さんも僕も、外から中途採用されているじゃないですか。そういう人って現状否定しないとダメですよね、そのために来ているんだから。

長谷川: 役割ですよね。

友岡: でも、大きい会社になればなるほど、それなりに人材がいて、外からは採らない。そうなると、前任者否定ってできないんですよね。だから僕は大きい企業は面白くないんです。「人がいないんで、友岡さん頼むわ。ITはよう分からんけども好きにしてええよ」っていうぐらいのサイズ感の会社の方が面白いよね。

長谷川: 友岡さんの2,000億円理論ですね。

友岡: そうそう。売上2,000億円くらいまでの会社がちょうどいい。あと、僕のキャリアで一貫しているのは、事業会社であるということと、日本から世界に出ている会社ということ。外資系は外しているんですよ。

長谷川: さすが、「セカエレ」!


(“セカエレ”という言葉には「世界中に安心・安全なエレベータ・エスカレータを届けたい」というフジテックの思いが込められている)

友岡: 外資系に入っちゃうと、よくて担当できる範囲がアジア・パシフィックじゃないですか。それだと面白くないので、日本から世界に挑戦していくというのがいいんです。僕、アメリカやヨーロッパに合わせて12年間住んでいたんですけど、海外で暮らしてみると、やっぱり日本っていいな、と思えるんですよ。それって僕らの親世代が頑張ったからであって、子供の世代にも日本はええな、と思ってもらえるようにするには、やっぱり日本企業で働きたい。外資はダメというわけじゃなくて、人それぞれの役割分担の中で、僕はこういう役割をする、ということですけど。

創業経営者のいる会社の強みとは

長谷川: 今の日本企業の成長スピードについてはどう思ってますか?

友岡: デフレが長く続いたので、成長しなくてもいいという雰囲気になったけれど、それを変えたのがユニクロですよね。成長しなきゃダメだという考えで、実際にものすごく成長している。日本企業の新しいOSというか、日本発のグローバル企業の新しい姿を明確に示していると思います。

長谷川: 友岡さんがユニクロにいらしたのって、いつ頃ですか?

友岡: 2012年から2013年頃です。

長谷川: じゃあ、もうグローバルにも結構出ていた時期ですね。僕も、過去にはユニクロに転職しようかと一瞬考えたことがあるくらいで、柳井さんの考え方にはすごく勉強させてもらってます。ああいう、挑戦する企業を増やすにはどうしたらいいんですかね?

友岡: 僕が最初に入ったのは松下電器なんだけど、その頃ってまだ松下幸之助が生きてたし、大企業というよりメガベンチャーという感じだったんですよ。ソニーや松下は、旧財閥系のトラディショナルな大企業に対抗するようなポジションでね。だけどその後、挑戦する会社が少なくなったというのは、僕らの世代が不甲斐ないからかもしれないよね。

長谷川: 僕は、創業者が社長じゃないといけないんじゃないかと思ってるんです。

友岡: 創業経営者が一番強いですよね。絶対的なカリスマ性があるということと、朝令暮改が当たり前にできる。「ごめん、間違ってた」と言っても失脚しないのがすごく大きいと思います。創業者じゃなくても、ものすごく若い人を抜擢して全く違う風を入れられるようなシステムがあればいいですけど、大企業ほど、長い経験をして、それなりに成功を収めた人しかなれないから、社長になったときには結構な歳になっている。潮目が変わっていても新しいことに挑戦するのは難しいんですよね。そういう意味では、特に若いエンジニアは、創業経営者がいる会社で働くのがおすすめですよ。

日本においてCIOという職業を確立したい

長谷川: 今のお話を聞くと、創業者みたいなカリスマ性がないんだったら、経営者はボンクラの方が下は動きやすいかもしれませんね。何か提案したら、「お、おう。じゃあ、それやろうか」みたいな。

友岡: 任せてしまえばうまくいくっていうのは、あるでしょうね。でも、任せるのも経営判断だから、賢くないとできないでしょう。だからトップは、情報システムのことも勉強しないといけないんです。そのためには、社長に直接情報をインプットできるようなITの人がいないとね。つい最近の調査で、日本で専任のCIOがいる会社は1割くらい、兼任を含めても5割くらいらしいです。5割の会社でCIOがいないのは、すごく大きな問題ですよ。兼務のCIOがいても、経営会議の場でITの話には、なかなかならないんじゃないですか。ITについて経営者として知っておかなきゃいけないところがあるのに、それが理解されないまま経営をやってる……、みたいなところが結構あるのが、僕はちょっと怖いと思うんです。

長谷川: 友岡さんが考えるCIOの役割というのは?

友岡: 会社の経営課題と、情報システム部門でやろうとしていることのヒモ付けをきちんとできること。それができないと、経営者にとってITは鉛筆とか消しゴムとかの文房具と一緒なんですよ。消耗品だと思われている。投資しがいのあるものだと思ってもらえる、説得力のある説明ができないといけないんですよね。

長谷川: そういうことができる人って、どれくらいいると思います?

友岡: 情報部門って、そもそも色々なことをやらないといけないところだから、ポテンシャルのある人は多いと思ってますよ。経営感覚がないとか言うけれど、経営にタッチさせてもらえなかったら、その感覚は身につかないですよね。下駄履かせてでも執行役員にすればいいんです。そうすると執行役員会議に出て、経営のあらゆる情報にアクセスできるようになります。そしてもっと重要なのは、他の役員に対して、情報システムに関するインプットができるようになるということです。だから、日本においてCIOという職業を確立させなければならない。僕はそれが自分の一番大きなミッションだと感じていて、そのためにあっちこっちに出ていって話をしたりしているんですよ。

ユーザー部門からのリクエストを断ることもできるのが良いSE

長谷川: 一方で、情報システム部門には「このボタンの大きさをこうしてほしい」みたいなユーザー部門からのリクエストもどんどんくるわけじゃないですか。経営課題に直結するところのやるべきことと、「もうちょっと使いやすくしてよ」みたいな要望への対応と、どうバランス取ったらいいんでしょうね。

友岡: 趣味とか好みで言ってくるのと、本当に生産性を向上する施策とを、どう切り分けるかですよね。日本ですごく失敗しているのが、1990年代後半から2000年代にかけてERPブームがあって、その前にBPR(Business Process Re-engineering)ブームがあったじゃないですか。で、その土台にはABC(Activity Based Costing)やABM(Activity Based Management)という考え方があったんですけど、そのあたりをすっ飛ばしているんですよ。これは何かというと、プロセスをファンクションでひとつひとつ区切ったときに、例えばインボイス1件当たりの処理コストはいくらなのかを可視化して、ファンクションごとに自分達でやるのか、シェアードサービス化するのか、アウトソースでやるのか……みたいな形で、ホワイトカラーの仕事を徹底的に細分化して最適化するということなんですね。さっきの話で行くと、単に画面のボタンの話じゃなくて、このプロセスを終えるためにどれくらいの時間とコストがかかっているか、というところで考えていった時に、やった方がいいかどうかというのが出てくるはずなんです。

長谷川: そうですね。

友岡: 改善するためにかけるコストがあまりに高かったら、「やめとけ」というのもありなんです。僕は、ユーザー部門に対して「それは手でやっとけ」と説得できるのが腕のいいSEだと思います。

長谷川: そのSEというのは、社内、社外、どちらの立場でも?

友岡: 社外の人は言えないでしょうね。言ったら売上を失うから。「そんなんやめとけ」って言うためにも、社内に情報システム部門を持っておかないといけないんですよ。だから僕、情報子会社は絶対反対なんです。外販できるんならいいですけど、社内向けの子会社は意味がない。そこはどう思います?

長谷川: 同じく大反対です。意味がないし、親子関係になると、やっぱり子はつらいですし。

友岡: 客と業者になっちゃうんですよね。

長谷川: そうなんです。その上、見積もりとって、他社とも比較して、みたいなルールができると、やればやるほど会社がガタガタになりますよ。

友岡: そうなんだよね。依頼書とか発注書みたいなものがないと動けないというのは、最大のスローダウンになっちゃう。フジテックも、僕が入った時は部門から要請書というのを出さないと動かなかったんだけど、それをやめて企画書にしよう、と言ったんです。ユーザーからは立ち話とかメールや電話でいいから、それを聞いてこっちが企画書を作って提案するという形で、流れを逆向きにしました。そうじゃないと、イニシアティブ取れないので。

有力者からのリクエストは真の課題解決のチャンス

長谷川: 情報システム部門というと、一般的にはユーザー部門からリクエストがあったことをやるのが普通で、よっぽどのことがない限り、「こんなの意味ないからやめよう」なんて言わないですよね。決められたことをいかに低コストで早くやるかが情シス部門のミッションとされている会社はすごく多いと思うんです。そういう状況を友岡さんは、どうやって変えていったんでしょう?

友岡: ひとつは、お願いされたことをやっても感動って生まれないんですよね。その通りやっても「今できたんか? 遅いやん」みたいな話でね。一番いいのは、頼まれてもいないことで、向こうが想像すらできないようなことをポンっとデリバリーする。そうすると感動しますよね。インターネットが生まれ、クラウド、モバイルになった今って、そういうことができるんです。でも、現場の人からの要望って、「この画面で、F7キーを押したときにこれが出てくれたら嬉しい」みたいな、限られた知識の中で、彼らが「これだったらIT部門がやってくれるに違いない」と思うことしか要望として出てこないんですよ。自分のスマホでオフィスにいる人とライブでチャットがしたいなんて要望は、現場からは上がってこないですよね。

長谷川: そうですね。

友岡: 僕は行動観察しろって言ってるんだけれども、現場のプロセスを観察すると、「そもそもなんでこんなことやってるの?」みたいなことが見えてくるんですよね。情報システム部がそれに気づいて、「最新のツールだとこんなことできますよ」と提案していかないと革新は生まれてきません。

長谷川: そうやってやるべきことを見つけながら、同時に経営陣からは「それよりも、これをやらんかい」みたいな圧力がかかってきたりもしますよね。多分、どこの情シスの部長も、ものすごくたくさんのリクエストを受けていて、リソースが限られた中で、どう優先順位を付けるかが課題だと思うんですけれども。

友岡: 僕は、社内の政治力学を全く無視してやれって言ってるわけじゃないんですよね。声の大きい人の政治力学を、どう利用するかということで。

長谷川: 逆に利用する?

友岡: そう。声の大きい役員や部長からリクエストが来たときに、その人の課題意識がどこにあるのかを知るために、懐に入っていかなきゃいけないんですよ。その人が持っている根本的な課題と、僕らに投げられているリクエストって、実はズレてる場合が結構あるんです。

声が大きい、政治力学的な生態系のトップにいる人からボールを投げられたら、まず「何がお困りですか? こういうリクエストきてますけども、そもそも何が課題なんですか?」と聞きに行って、そもそも論をやらないといけません。それをやらずに頼まれたことを無条件でやるのは、企業としてものすごくリソースが無駄になってしまう。だから、ええチャンスやと思ってもう一歩踏み込むというのをやらないといけないんです。

長谷川: それは、さっきのCIOの必要性の議論ともつながってきますね。あまりペーペーが聞きに行っても話にならないし。

友岡: そこなんですよ。エライ人と話せないからね、やっぱり。とは言え、僕だって、すごく難しいし、「しゃあないなぁ」と思いながらやらないといけない部分はありますね。声の大きい人とのバーターみたいなところもあるから、そんな綺麗には分けられないです。でも、そういうのって人生そのものですよね。「世の中って自分の思い通りにはなるわけない」という前提でいれば、全然傷つかない。感情をもった動物が暮らしてるのが世の中で、その中で少しでも自分の思うところに近づけたらガッツポーズする、そんな感じでいいんじゃないですかね。

社内に2割いるイノベーターの要望を受け止めろ

長谷川: 友岡さんの中で、妥協しなければいけないこともあるよね、という部分と、あるべき理想にしたがって行動できるところと、だいたい何対何くらいですか?

友岡: いくらチャレンジとかイノベーションとか言っても、本質的には人間は変わることを望んでないんですよ。だから新しいところが多すぎるとみんなついていかない。希望としては6対4になればいいけど、実態としては旧態依然としているのが8で新しいのが2ぐらいかもしれませんね。

長谷川: 面白いですね。エンジニアって、業務のことがどれだけ分かっているかは別として、あるべき論が好きな人が多いと思うんです。それでも理想的にやっていけるのは2割程度だよ、ということですか。

友岡: 「ニッパチの法則」って言ってますが、大体企業って2割の人が尖ったことをやっていて、6割のフォロワーがいて、あとの2割は何やっても反対するような人たちなんですよ。僕は、企業の中の尖った感覚をもった2割の人達がハイパフォーマーなので、そこに着目した方がいいと言ってるんです。仕事の総量じゃなくてね。2割のハイパフォーマーに響くものをやっていけばいいんじゃないかと。

長谷川: イノベーティブな人っていうのは大体2割ぐらいだろうと。その人たちの言う案件とかシステム改善をやるのがいいんじゃないかと、そういうことですね?

友岡: そう。マーケティングの世界では、イノベーターとアーリーアダプターが16パーセントいて、それを超えたらキャズム超えって言いますね。いわゆるキャズムで言うところのイノベーターとアーリーアダプターに相当する人たちがユーザー部門にもいるんですよ。その人たちに響くことをやって、16%、つまり約2割いけばあとは自然に流れていくんです。逆に、その2割をしっかり受け止めないと、情シス部門に頼んでもダメだというので、ハイパフォーマーの人はシャドーITにいっちゃうわけですよね。

長谷川: 情シス部門としては、その2割の人を見つけて、彼らが言うことを理解して、それを実現する能力というのが必要だと。

友岡: そうです。そういう人たちに提案したり、彼らが満足できるアプリケーションを提供する。会社として提供できるものがなければ、彼らが使っているものを「俺が認めてあげるから使いなさい」と許可するとかね。

AI時代の情シスの役割

長谷川: 今までの情シスだと、SIerの持ってくるものを比較し、導入して、生産性の違いといっても2倍、3倍の世界だったのが、AIが本当に使われるようになってきたら、100万倍、1000万倍の生産性を実現するものを自社に導入できるかという話になってくるんじゃないですか。そうなると、情シスの目利き力の差が相当出てきますよね。

友岡: そうなんですよ。元々情シス部門は経理部門の一部として伝票処理の効率化みたいなことをやっていたところから始まっているわけですけど、今は全く潮目が変わっているんですよね。IoTとか、オペレーションテクノロジーの世界にも入っていかないといけなくて、1人でカバーするのは無理になってきています。そうすると、本当に狭いところの専門家をどう活用していくかっていうのが、すごく重要になってきますよね。羊飼いみたいな世界です。いろんな羊がいるところで、「こっち、こっち」って言いながら方向感をいかに出せるか、どれだけ多くの羊が飼えるか、みたいなね。すごく面白いけども、すごく難しい時代になってきてますね。

長谷川:もうSIerに業界動向なんかを聞いている場合ではなくて、自分たちの会社のことは自分たちで決めるということですよね。

友岡: これからの情シスの本質的な価値は、SaaSで全く手がかからないようなもの、コストが安いものをどれだけ早く取り入れられるかという、目利きと意思決定をするところにあると思うんです。GoogleのG Suiteを使うのにエンジニアはいらないですよね。だから僕は、目指すところはエンジニアレスだと思っています。そう簡単にはなくならないですけどね。汎用化されたもの以外のところのごく狭いコアの部分は、自分たちで作るでしょうし。

長谷川: エンジニアの一部は、目利きマンにジョブチェンジがあるかもしれませんね。

友岡: そうです。だから、アーキテクト思考というのはすごく重要で。事業会社においては、やっぱり事業に片足を突っ込んどかないといけません。エンジニアの方だけに両足突っ込んでいる人っていうのは、事業に使えるかどうかの目利きができないですから。かといって、マーケティング担当のちょっとITに詳しい人が、全部分かるかというとそうでもない。最後はやっぱり、自分のところの事業に対する愛情とか愛着とか、「この事業を他よりも勝たせないかん」みたいな思いがすごく重要だと思います。その事業に対して誰にも負けない愛情をもっている人が一番強いんです。ただ、これもひとりの人間に全てを求めるのは無理なので、やっぱり役割分担ですね。組織の長がやるべきなのは、オーケストレーションです。自分だけで全部の楽器を演奏できないから、ひとりひとりの特徴を活かしながら、全体としてそういうことができたらいいっていうふうに思います。

長谷川:これからも、挑戦する情シスを増やしていくために、頑張っていきましょう。今日はありがとうございました!


友岡さん、長谷川も登壇!! 7月5日開催「SORACOM Conference “DisCovery」が開催されます。
“Discovery”2017の詳細・お申し込みはこちら

 


  • IT酒場放浪記 記事一覧
  • エンジニア募集中!