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カテゴリー: IT酒場放浪記

長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第58回 株式会社大都 代表取締役 CEO 山田岳人さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第58回のゲストは、「DIY FACTORY」ブランドでDIY関連用品のオンライン販売と店舗運営を手がける株式会社大都の山田岳人さん(代表取締役 CEO)です。会社を立て直した波乱万丈の経緯やDIY用品業界の課題、東急ハンズとのコラボの可能性など、様々な話題で盛り上がりました。

DIY FACTORYと東急ハンズが組む可能性は?

長谷川: 山田さんと初めてお会いしたのは、「アドテック関西」ですよね。

山田: そうそう。その時は確か、長谷川さんと今オイシックスにいる西井さんとか、何人かの方がパネルディスカッションをされていて、僕はたまたま会場で聞いていたんです。そしたら、僕のことを知ってくれていたみたいで、「ちょっと話して」って、いきなり壇上に上げられたんですよ。

長谷川: 僕はその前から、大都さんのこと気になってたんです。それで、会場になんか見たことある人いるなと思って、名札をジーっと見たら「大都」って書いてあったから。

山田: 初めて会ったのに、無茶振りです(笑)。

長谷川: 東急ハンズって、DIYのイメージが強いんですよね。それで僕も、モノタロウさんとか御社のDIY FACTORYとか、(DIY商品のオンライン販売をやっている会社を)よく見ていたんです。一時期、通販事業部長をやっていた時代もあって、大都さんのような会社を買収したいな、と思ってたんですよ。

山田: そうでしたか。

長谷川: もう、自分たちだけでやってる場合じゃない、同じ志のあるところと組んでいけばいいと思ってたんですね。ちなみに、ほんの数週間前、このIT酒場放浪記に来られたのがカインズの土屋さんで……。
(注:大都さんとカインズさんは、2017年に資本・業務提携しています)

山田: マジで!?(笑)

長谷川: 僕も業務提携のことを知ってたから、土屋さんに「今度、大都の山田さんも来るんですよ」と言ったんです。そしたら、「ジャックか! ジャックが出るなんて超嬉しいわ」みたいな感じで、自分のことのように喜んではりました。

山田: そうか、スマイリーと対談したのか……。僕らの会社は全員イングリッシュネームで呼ぶんですよ。僕はジャックで、誰も社長って呼ばない。で、パートナーさんとか社外取締役にもそういう名前を付けるんです。土屋さんはスマイリーです。

長谷川: 確かに、土屋さんはスマイリーという感じがする。

山田: 本人が決めたんですよ。

長谷川: そのときも、僕が大都さんのことを狙っていたという話をしたんですよ。カインズさんが先に業務提携されたんで、悔しかったと。そしたら土屋さんは「ハンズさんも一緒にやったらいいと思いますよ。面白いじゃないですか」って。
もちろん、うちの人間がすぐ「やろう」とは言わないだろうけど、僕はDIYとかヘルス&ビューティとか、それぞれのカテゴリーでECが得意な会社さんと組むのもいいんちゃうか、という考えなんです。だから@cosmeさんなんかにも一緒にやってもらえたらいいな、と思うんですよ。
例えばDIYは御社から全部仕入れるから、DIYのオンラインは全部御社に任せる、みたいな。そういう座組は、あり得ないですか?

山田: いえ、面白いと思いますよ。

結婚の条件だったから、会社のことを何も知らずに入社

長谷川: 僕の理解だと、御社はもともとお父さんの時代にDIY関連の卸をやっていて、山田さんの代になってから「卸だけじゃ先がないから、ECでダイレクトに売るんだ」とDIY FACTORYというブランドを作ってやってきたんですよね?

山田: そうです。僕は大学を出てからリクルートという会社に行って、6年くらい営業をやっていました。学生の頃から付き合っていた彼女が、大都の先代社長の一人娘だったんです。

長谷川: え、婿養子なの?

山田: 養子ではないんですけど、「娘さんをください」と言いに行ったら、「娘をやるから会社を継げ」と言われて。

長谷川: それまでに、何回お父さんと会ってるんですか?

山田: 彼女と付き合っているときから、一緒にゴルフに行ったりしてましたよ。

長谷川: じゃあ、ゴルフやったりして、なんとなく「こいつだったら、俺の後を継がしても大丈夫やな」と?

山田: そうかもしれない。リクルートでの働きぶりとかも、多分彼女がお父さんに言っていたと思うので。
僕はもともと起業するつもりでリクルートに行っていたんです。でも、何がやりたいというわけじゃなかったので、求められて経営やらせてもらえるんなら、ということで「やります」と言って、結婚して1年後にリクルートを辞めて今の会社に入りました。

長谷川: 当時何歳ですか?

山田: 28歳。その当時は社員数15人くらいで、僕の次に若い人は45歳とかでした。

長谷川: 一般論としては、卸って未来がある業態ではないですよね。当時から「ECでやってやろう」と思っていたのか、それとも彼女が好きでしょうがないから、とりあえず結婚して会社入ってから考えよう、という感じだったんですか?

山田: 後者ですね。結婚するには家業を継がなきゃいけないという状況だったから、何をやっているかは詳しく知らずに「分かりました」と。

長谷川: 詳しく知らないのに突っ込んだということ?

山田: 当然、決算書も見てないです。求められているんだから、とりあえず行きますと。
初めて出社した日はリクルートの時のまんま、スーツにアタッシュケースで行ったら「なんでスーツで来たんや? 着替えろ」って社員さんに言われました。作業着に着替えたら「配達行くから運転しろ」と言われ、社員さんに横に乗ってもらって4トントラックを運転しました。トラックなんて生まれてこの方乗ったことないし、ミッションなんて何年も運転してないから、ずっとエンストですよ。

長谷川: 配達というのは、小売業さんへ?

山田: そうそう。それで、初日に「このビジネス大丈夫かな?」と思いましたね。配達先は、それまで入ったこともなかった金物屋さんとか普通の家だったりして、伝票の金額を見たら1000円とかです。そんなんをグルーっと配達して回る、これはどう考えても儲かってへんやろなって。

長谷川: 僕は勝手に、コーナンさんとか大きなところに卸していて、年商何百億とか何千億とか、相当やってはったのかと思ってました。

山田: いやいや、売上は当時で4〜5億、月3千万とか4千万の会社ですよ。

長谷川: マジっすか? それは想像だにしませんでした。

山田: びっくりしましたよね。「これ、ヤバイな」って。

長谷川: ですよね。

山田: だから最初はずっと、もう辞めたい、リクルートに帰りたいって思ってました。でも後継ぎとして入ったので、当時のスタッフたちが「若いのが来た」って、すごく歓迎してくれたんですよ。当時は会社の2階が先代の自宅という、「The 中小企業」です。うちの嫁さんが生まれた時に建てたビルなので、彼女が子どもの時から知っているという人ばかり。
で、僕は入社してから5年間トラックに乗ってたんですけど、もうどうにもならない、新しいビジネスモデルを作らないと、と考えていました。問屋業って、バイイング・パワーがないと安く仕入れられないので、小さいところは勝てるはずがないんです。でも、仕入先のメーカーさんとは創業時からの付き合いなので、メーカーさんとの直接口座はもっていた。これを活かした新しいビジネスモデルが何かないかと。そうしたら2001年の忘年会で、友だちから「Eコマースっていうのが、これからくるんじゃない?」と言われたんです。次の日に嫁さんと2人でパソコンを買いに行きました。

当時の社員を全員解雇して再出発

長谷川: ECは、パソコンを買うところから始めたんですね。

山田: 最初は楽天さんに出店するところから、1人でやりました。昼間はトラックに乗って、夜は商品ページを作ったりお客さんとやり取りをしたり、一生懸命やっていましたね。
最初の頃、福島県から注文がきたときにびっくりしました。問屋業としては大阪より東は行ったことがなかったのに、福島県から注文がくるなんて、ECってもしかしたらすごいことになるかもしれないと思いました。それが2002年くらいで、その頃は同業者でECをやっているところがなかったんですよ。僕ら、商品数がすごく多い業界で、ホームセンターにも、それこそハンズさんにも置いていない商品がいっぱいあるんです。だから商品登録をどんどんしていったら、ワーッと売上が増えていった。

長谷川: その頃、僕はITの仕事をしていたんですけど、インターネットに関する感度が弱くて、そっちが来るとは思えなかったんですよね。先輩に「今から勉強するならマイクロソフトのWindows Serverか、インターネットかどっちかだ」と言われて、インターネットってわけわからん、バブルちゃうの? みたいに思ってたんです。そんな頃にパソコンを買って、楽天に出店して、というのをどんどん実行していくのはすごいですね。

山田: 背に腹は代えられない状況だったんですよ。会社の収益の状況がすごく悪くて辞めたかったけれど、一応「3代目やります!」と言って入っているし、社員にも家族がいるのでとにかくなんとかしなければと。
僕らは問屋としてホームセンターさんに、定価1000円のものを500円で売りますけど、その仕入れ値は480円だったりするんですよ。だから小売をやればめっちゃ儲かると思いました。でも、リアル店舗を出すには投資が必要で、当時はとてもできない。ECなら数十万でスタートできるというので始めたんです。

長谷川: 確かにね。

山田: ところが、昼間トラックに乗って夜作業していると、大体その日に帰れないんですよ。当時ADSLだったから画像もビーっと徐々に出てくるとか、そんな時で。送り状を印刷する仕組みとかもなかったから手で書きましたし、カードのオーソリなんてファックスで確認するんです。カード信販会社に「このカード番号のこの注文がきたけどどうですか?」とファックスで送ったら「OKです」と返ってくるっていう……。

長谷川: 今じゃ考えられない……。

山田: しんどかったですけど、そこに人を充てる余裕がなくて、月商100万円にいったら1人採用しようと決めてたんです。1年半経ってその目標を達成し、近所でパソコンが得意だっていう女の子を1人採用しました。昼間、その子が僕がやりたかったことを全部やってくれるようになって、そこから売上がすごく増えました。だから、もっと早く採用すべきだったと後悔しましたね。儲かったら採ろうじゃなくて、儲かるために人を入れなあかんねんな、ということを理解しまして、そこから積極的に採用するようになりました。

長谷川: なるほど。

山田: でも、ECはいっても月何百万で、問屋事業の方の落ち込みに全然追いつかないんですね。それで2006年に先代に、「このままじゃ全員路頭に迷うことになるから、廃業させてくれ」ってお願いしました。だけど先代が「親父から引き継いだ会社だから、とにかく残してほしい、お前の好きなようにやったらいい」と言うので、当時いた社員さんたちに「もう1年やって赤字だったら廃業しますから、そのつもりでやりましょう」と言って、続けました。そして1年後に見事赤字だったんです。それで退職金をお支払いして、15人くらいいた社員全員を解雇してもう1度最初からスタートしました。

長谷川: マジで!? 情熱大陸とか、そっち系の話みたい(笑)

山田: 会社は今年で創業81年ですけど、実質は2007年にできたベンチャー企業なんですよ。

DIY業界特有の慣習がある中でビジネスモデルを転換

長谷川: 会社名はそのままで、100%EC専業に切り替えたということですか?

山田: そう。でも問屋業はいきなり止めると仕入先さんや卸先に迷惑をかけます。うちからしか仕入れないという金物屋さんもあったので、1件ずつ「あそこに行ってあげて」と同業者に渡していって、問屋業がゼロになったのは2012年です。

長谷川: せっかく売り上げがあるから、全員解雇せずに何人かは残ってもらって続ける、ということは考えなかったんですか?

山田: 詳しく説明すると、当時は赤字なんだけど粗利はあるので、赤字にならない人件費を計算して、「これだったら赤字にならないので、このお給料でいいですか?」と聞いたんです。それが大体、元の給料の半分くらいでしたから、結局全員辞めました。それは、そうですよね。
限られたリソースになったので、これから伸びる、もしくは夢のある方に張らせてくださいと、ECをやることに決めました。
結局、会社は残ったけれど問屋事業は残らなかったんですね。だけど仕入先さんは、ありがたいことに同じなんです。むしろ、当時は4億くらいだった売上が今は40億ですから、メーカーさんにとっては売上が10倍になったという感じで。

長谷川: そんな歴史があったんですね。

山田: こういう経験があって、僕は組織に対してすごいこだわりがあるんです。以前のうちの会社は、「赤字になったら廃業しますよ」って言っても、みんな定時で帰るんですよ。何十年もそうやってきたから、それが文化になっていたんですね。営業先は21時までやっていても18時で帰る。リクルートにいる頃は売るまで帰るなっていう営業をしてたから、すごいギャップがありました。その時のことは組織を変えられなかった失敗として、僕にとってトラウマみたいになっています。やっぱり組織をしっかり作らないと会社はうまくいかないんだ、というのを実体験として理解して、だから採用とか組織とかに強いこだわりがあるんです。

長谷川: 僕、DIY FACTORY以降しか知らなかったから、まさに「ジャック!」みたいな今時の会社だと思ってたけど、かなり泥臭いことを経験されてきたんですね。

山田: 業界も、昔からの慣習が根強いですしね。何もないところで急に「工具のECやりますよ!」と言っても、誰も商品を供給してくれないんですよ。新規参入しようにもメーカーさんとの新しい口座を作れない。

長谷川: どうしてですか?

山田: これまでのおつきあいをすごく気にする業界なんです。代理店がたくさんあって、そこの代理店さん経由で買ってくださいと言われるんです。例えば電動工具のメーカーのマキタさんと、直接口座を持っている代理店は日本に10社しかありません。うちはその1社で、直接マキタさんから仕入れてホームセンターさんなんかに卸していたんです。ところがマキタさんの場合、代理店は直接ユーザーに売ってはいけないというルールがあるんです。それではうちからネットで売ることができないわけです。日本一の品揃えと言っているのに、ユーザーさんにも「なんでお宅はマキタさんの商品だけないんですか?」と聞かれます。それで、5年くらい前にうちを代理店からはずしてもらって、今は別の代理店からマキタさんの商品を仕入れて売っているんです。「今まで、何百社と代理店になりたいというオファーがあった。代理店から下ろしてくれって言われたのは世界で初めてだ」と、マキタさんには言われましたが。

顧客も取引先も社員も幸せなハッピートライアングルを作りたい

長谷川: 消費者が欲しいと言っているんだから、それまでの関係を清算してでも新しいスキームを作ったということですよね。そもそも卸を100%やめてしまうとか、そういう思いきったことがどうしてできるんですか? 人間て、情とか迷いとかもあって、なかなか決断、実行できないものだと思うんですけど。

山田: やっぱりリクルートの影響は大きいと思います。あとは、全くの素人として入ったから業界の常識に疑問を抱けたのかもしれません。例えばこの業界では約束手形で支払うのが当たり前なんですよ。でも、不渡りなんかも多くて、今だから言えますけど、社長さんやその家族のところまで「金払ってくれ」と行ったこともあって、大変な思いをしました。だからそういうのはもうやめよう、と変えていきました。

長谷川: 僕は前職ではリテールのお客さん中心にやってきたんですが、仰る通り、川下のスーパーさんとかホームセンターさんとかが強いんですよね。俺たちが客押さえてるんだから、言うこと聞いてくれよ、というマインドがあって、例えば店の棚割りを仕入先に作らせるとか。
そういう点では、東急ハンズはちょっと違うんですよ。すごく仕入先さんを大事にするので、もし何かのミスで支払いが滞ったりしたときは、社内の怒りようが半端ないんです。「あり得ない! 今すぐ銀行行って払え!」みたいな感じですよ。

山田: 僕は東急ハンズさんが大好きで、取り引きはなかったんですけど、問屋やっているときには何回も営業に行きましたよ。ハンズさんには、こだわりの商品とか、どこにも置いていない商品がありますよね。
ホームセンター業界って、おっしゃるように問屋に売場づくりをさせるから、同質化するんです。ぱっと見た時にどこのお店か分からないくらい。僕もよく手伝いに行かされましたけど、そういうアンハッピーな取り引きは良くないですよね。Amazonも、カスタマーファーストと言っているけど、サプライヤーの方で泣いている人がいっぱいいるわけですよ。誰かを幸せにするために誰かを泣かせるというのは、絶対に続かないと思うんです。だから、うちの会社のミッションは「ハッピートライアングルから、健全な未来へ。」なんです。お客さんを幸せにするのは当たり前ですが、取引先さんも、うちの社員も、みんなが綺麗な三角形でハッピーになれるようなビジネスをやろうね、と。取引先さんに対して絶対に偉そうに言ってはいけないし、売り上げでも貢献しなきゃいけない。そして、うちの社員もハッピーにならないと意味がない。そういうことを、すごく言うようになったんです。後付けですけどね。ハンズさんのことを悪く言うメーカーさんはいないので、そういう意味でも、僕はハンズさんのお店をよく見ていました。

日本のホームセンターはなぜネットで店舗在庫公開できないか

山田: 東急ハンズって、オムニチャネルの走りですよね。最近はどんなことを考えてるんですか?

長谷川: 僕が考えているのはかなり単純なことで、いわゆるオムニチャネルって、インターネットを活かしてお客様の課題を解決することなんだと思ってるんですね。だから、Twitterとかソーシャルメディアが流行った時に考えたのが、店舗にかかってくる電話の課題を解決しようと思ったんです。電話のうちの7〜8割は「この商品は◯◯店にありますか?」というものなんですよ。それで在庫があるとわかったら、「届けてくれへん?」という人と、自分で買いに来る人がいる。要するに、店に行って無駄になるのが嫌やから、買いたいものがあるかどうか知りたいということなんですね。それを解決せずにTwitterでウェーイとやることに何の意味があるのか、と思って、まずは店舗在庫の公開をすることにしたんです。

山田: 店舗在庫を公開したのはいつですか?

長谷川: Twitterが出たときに、Googleでキーワード検索するみたいなのじゃなく、「こういう商品がほしい」「あるよ」とか、会話みたいなことができないかな、と思っていろいろ探したらチームラボが「僕たちできます」と言うんで、「コレカモ.net」というのを作ったんですよ。

山田: え、コレカモ.net、すごい見てた!

長谷川: 今は、スマホのアプリで各店の在庫が見られます。これからはAIとか色々あるけれど、お客さんの困りごとをなくすということをやっていこう、というのは変わらないですね。

山田: 日本のホームセンターで、そういうことやっているところはないですよね?

長谷川: そうかもしれない。スマホアプリを作る時、この辺はアメリカの方が進んでいたから聞いたら、アメリカは実数、つまり下駄を履かせないというんですよ。で、仲良くしていた無印良品さんに聞くと、その当時は下駄はかせてるって。例えば5個以上は実数で、2〜5個は残り少し、2個以下は無し、と表示するとか。無印の場合、だいたい5個くらいは在庫があるというのでそれができたわけだけど、僕らは1個とか2個しか在庫がないものがめっちゃあるんですよ。結局は店舗に迷惑をかけちゃいけないというので、下駄を履かせて、1個しかないものは無し、と出るようにしたんですけど、それは工具とかの変わった商品だと機会損失になるんですよね。

山田: 日本のホームセンターで買い物しようとすると、例えば「この金具が5個必要」というとき、あるかないか分からないけど店に行ってみるんですよね。車を駐車場に駐めて、売り場を探し回って、やっと見つけたら4個しかない。とりあえず4個取ってレジで並んで買って、もう1件ホームセンター行こう、みたいなことをしているわけです。でも、イギリスなんかはもうそうじゃないんですよね。全部在庫が公開されているので、ウェブで在庫を見てその場で決裁を済ませる。店に行くとカウンターに5個置いてあるんで、それを受け取って帰るだけです。
こんな単純なことが、なんで日本ではできないんですかと聞くと、例えば、ウェブ上では5個あった商品を、別のお客さんが買い物カゴに入れていたらどうするんですか、と。リアルタイムで在庫を管理するにしても、お客さんがカゴに入れてレジに来て、POSを通るまでは分からないから、その間のことを気にするんですね。
だけど、それで困る人がどれだけいるんですか? 海外ではそれを気にしていなくて、ホーム・デポとかも全部在庫を公開しています。商品1つ1つにタグが付いているわけじゃないでしょうから、確かにズレは起きるんでしょうけど、それを気にするよりも多くのお客さんを幸せにしたほうがいいですよね。

長谷川: 全くそう思います。日本の人って完璧主義というか、ちょっとでもアカンところがあったら、こんなものまだ出したらアカン、みたいなところがありますね。
そういう意味で、シリコンバレーと中国はヤバイと思っています。中国の人たちって、グレーなときはゴー、というところがあるから特にイノベーションの分野で先に行くんでしょうね。

DIY文化を浸透させ、日本の住環境を変えたい

山田: ハンズさんは、リアルイベントやったらいいと思うんですよ。

長谷川: 確かにね。

山田: 例えば東京ドームを借りてクリエイターさん集めたりとか、ハンズさんが今までお世話になってるような納品業社さん集めてイベントやったら、めちゃくちゃ来ると思いますよ。夏休みの自由研究をハンズでやろうぜ! みたいな企画をぶち上げて8月とかにやったら、めちゃくちゃ子供たちが来るでしょう。10万人の子供を楽しませる計画とかやったら、すごい面白いと思います。

長谷川: それはすごい!

山田: ハンズのバリューも上がるし、ハンズって楽しい場所なんだって、子供達にも思ってもらえますから。

長谷川: いいですね。店ではゴールデンウィークとか、子供向けのワークショックとかもやるんだけど、どうしてもこじんまりしちゃうんですよね。ドーン! とやるのがDNA的に苦手なんです。

山田: でもね、何年か前に大阪府の住宅供給公社と一緒に団地をリノベーションするっていうのをやったんです。実は、その時の行政の公社の担当者が元ハンズの人だったんです。ハンズにいた頃からこういうのをやりたかった、と。DIY FACTORYの大阪の一号店ができたときから知っていてくれたらしく、声をかけてくれはって、一緒にやることになったんですよ。

長谷川: へぇ、そうなんですか。

山田: 日本の住まいって、めちゃくちゃ不自由なんですよ、衣食住の中でも、衣や食って自由に選べるじゃないですか。でも、日本の住まいって自分で選ぶということができない、賃貸だったら何も触っちゃいけない、みたいな。外国の人からは、日本の賃貸の住まいって真っ白な壁紙で「病室ですか」って言われるんです。でも、もっと自由にできるはずで、そこを牽引していくのは、やっぱりリテールなんですよ。実際の小売業がそこを牽引していかないと、ECだけではたかだか数%の世界なので変えられないんです。だから、僕らがカインズと提携したのも、ここを変えましょう、ということなんです。「日本にDIY文化を浸透させる」、それだけを基本合意契約書の内容にしましょうと言って、そういう契約をしたんですね。数字がない契約書って異例なものだと思いますが。
そういうことって、カインズだけでも当然できないし、やっぱり色々なプレイヤーがそこに参加してほしいんですね。それでいくと、ハンズさんは筆頭プレイヤーなんですよ。日本のユーザーにとって、住まいを良くするお店として一番最初に思いつくところでしょう? だから、ぜひ一緒に面白いことしましょう。

長谷川: ぜひ、やりたいですね! 今日はありがとうございました。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第57回 株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第57回のゲストは、ホームセンター大手の株式会社カインズ 代表取締役社長、土屋裕雅さんです。昨年はラスベガスで行われたAWSのイベントre:Inventに自ら出かけ、年初の朝礼で「IT企業宣言」をしたという土屋さんに、今後の小売業の方向性やご自身のリーダーシップのあり方、日本の若者に対する期待などを伺いました。

昨年のAWS re:Invent参加を経て、年初の朝礼で“IT企業宣言”

長谷川: 土屋さんと初めてお会いしたのは、昨年(2017年)の11月から12月にかけてラスベガスで開催された、AWSの「re:Invent」ですよね。確か、カインズさんは8名くらいで来られていて。

土屋: そうです。

長谷川: 全日空システムズの幸重さんとかPARCOの林さんとか、re:Inventに来られていた人たちで現地で食事をご一緒したときでした。僕が驚いたのは、カインズの社長が自ら来られたということなんです。日本の会社の情シス部長とかCIOみたいな人が来ることはあっても、普通、社長は来ないですよ。
会食の翌日、AWS社が用意してくれたリテイル企業向け昼食会では、ノードストロームだとかロウズだとか、グローバルのリテーラーの人たちがいたんですけど、土屋さんがロウズのCIOにどんどん英語で質問しているのが、非常に印象的でした。そんなトップはあまり見たことがないですよ。自分の得意領域であれば別でしょうけど、ITとかクラウドに関しては、ITの担当の人に「任せた、お前聞いてこい」という人が普通ですよね。

土屋: ありがとうございます。一緒に行ったITの担当者も英語はしゃべれなくて。でも、興味が語学力とか恥ずかしさを超えてしまうことってありますよね。それに、あのときに僕が聞いていたのはITのことではなく店舗のオペレーションのことだったんですよ。そちらについては一応プロなので、聞きたいことが山のようにありました。とても貴重な機会でした。

長谷川: そうでしたか。とにかく、自分からどんどん質問しているのを見て、すごい人だな、と思いました。

土屋: でもね、re:Inventのキーノートとかを聞いていて、周りの人が「うわー、こんなサービスができるのか!」と感動していても、僕にはその感動が分からないんですよ。もともと何ができて、何ができてないかを知らないから。だから、自分でも「うわー」とか言って、感動を味わえるようになりたいと思いましたね。長谷川さんと出会ったことなんかも刺激になって、カインズにももっとテクノロジーを取り入れないとダメだな、と強く思ったんです。それで、今年の年頭朝礼では「うちはIT企業に変わります」という“IT企業宣言”をしたんですよ。

長谷川: それはまた、社員はビビるでしょうね(笑)

土屋: 何を言い出すのかと(笑) ここで飲みながら言っているのとは違って、全社員に対して朝礼で言ったんですからね。それでIT企業になるためにはどうすればいいかと考えたのですが、あまり妙案が浮かばなかったので、まずは「IT酒場放浪記」に呼んでもらおうと思ったわけです。

長谷川: SIerの方を除いて、自薦で来られるというのは初めてですよ。土屋さんから直接メッセージいただいて、「広報の人は了解しているのかな」とか、心配しました(笑)

欧米、そして中国の状況に焦りを感じる

長谷川: 年が明けてからまたアメリカで、CES(コンシューマーエレクトロニクス関連の展示会)とNRFという全米小売業協会の大会に行ってきたんですよ。CESは、初めての参加で、巨大な展示場所に、自動運転、ホームIoT、VR/ARなどすごい数の商品が展示されていて、圧倒されました。自分のスピード感がまだまだ甘かったと思うのは、「こういうことができたらいいよね」というのは、素人考えでたくさん思いつくじゃないですか。でも、それがだいたいCESにある(笑)。日本の家電量販店には、IoT家電は少数なんで、現実にはまだまだなのかと思っていたんです。ところがCESに行くと全部揃ってるんですね。「え、もう売ってるの?」みたいな。
面白いな、と思ったのは、中国の電球のOEMメーカーが自社ブランドで出展しているわけなんですけど、IoTって電気とネットワークの2つが必要ですよね。ホームIoTの場合は、自宅からwifiなどがあるんで、あとは給電方法をどうするかの問題。電球メーカーが、電球にスピーカーが一体化したものだとか、玄関口のライトにカメラが付いたものだとか、発売しているんですよ。それもスピーカーはJBLと組んでいる。そうすると、取り付け工事とか不要になるんで、ホームIoT普及の素晴らしいアイデアだなと思いました。そういうのがすごく楽しいというか……、正直に言うと焦りしか生まれなかったです。中国、米国、そしてフランスも政府あげてフレンチテックを推奨している。我々、マズイなと。

土屋: 同感です。その焦りはAWSのイベントでもありましたし、昨今の中国に対しても、すごく感じます。日本はこれでいいのかと。日本の中の小売業同士でなんだかんだ言っているのは、所詮コップの中の嵐ですよ。

長谷川: そうですよね。

土屋: 今、早稲田大学で『マーケティング戦略の実像』というカインズの寄付講座を持っているんです。半年間、色々な方を呼んで講義をしてもらうのですが、私も一番最初に少しSPAの話をしまして、口で言ってもなかなか分からないから、宿題を出したんですよ。カインズのSPAのポイントをお話した上で、「もしみんなが商品を作るとしたら、どういうものを作りますか?」という。昨日、100名以上が提出したものから優秀なものを発表しました。最優秀賞は商品ではないのですが、買い物のときにカートが後ろからついてくる、自分で持って歩かなくていい、というものだったんですね。なるほど、と思わせて、すぐにできそうだし、学生らしいアイデアです。ところが、授業の後で中国からの留学生の女の子が、「さっきの最優秀賞のやつ、中国にあります」と言ってきたんです。厳密には、もうすぐできるということだったんですが、北京で近々オープンする店が、動くカートというのを作るんだそうです。その学生はアリババに就職が決まっているという話も聞いて、いろいろと思うところがありました。こんなことやっていていいのかな、と反省しきりですよ。

長谷川: うちも少し前まで中国に出店していましたが、本当に向こうの方が進んじゃっていますね。特に決済のシステムなんかは中国に学ぶところがあります。
技術革新の具現化にしても、日本だと「グレーはストップ」みたいなところがありますが、シリコンバレー(米国)と中国は「グレーなものはGOだ」という考え方が非常に似ています。

自分に影響を与える50人に会うというノルマで、IT業界人とつながった

長谷川: 小売業としての歴史の話ですが、東急ハンズの場合、やっぱりインターネットが出てきたというのがひとつの転機になっているんですけど、カインズさんにとって、そういうターニングポイントはどこにありましたか?

土屋: 実は、僕個人の感覚で言うと去年です。やっぱりAWS re:Inventの影響が大きくて。

長谷川: そうなんですか!?

土屋: 個人的には、ですよ。もちろん現代の企業でインターネットを使わないところはほとんどないわけですが、その度合いとして「どうせやるんだったら、イノベーションを興すようなところを目指そう」という思いが出てきたのは去年で、それが今年の「IT企業宣言」に繋がったわけです。

長谷川: なるほど。re:Inventに行こうと思ったきっかけは?

土屋: 野村證券時代に身に着けた癖なんですけど、僕はノルマを決めるのが好きなんです。毎年、年間で1000km走ろうとか、映画を何十本観ようといったノルマを決めて、それを超えることで、あるべき自分に近づけたかな、と思えるので。それで去年は、50歳を過ぎたということもあって新しいことにチャレンジしようと思い、自分に影響を与える50人に会おうと決めたんです。

長谷川: 面白いですね。

土屋: 50人ということは、だいたい1週間に1人会っていればいいわけです。なんとかなると思っていましたが、年の後半にきて「このままじゃ50人いかないな」と分かってきて……。なんとか増やすには、既に知っている人たちの集まりに行っても増えない。それで、全然知らないIT系の集まりに行けば増えるに違いないということで、後半はIT系の人たちばかりに会いました。そうすると、相手によってちょっとずつ言うことが違ったりして、正直すごく混乱しています。でも1年前は混乱どころか知りもしなかったわけですから、すごく楽しいんですよ。

長谷川: なるほど。ノルマを決めたことで新しい学びがあって、それが会社の方にも影響しているということなんですね。

土屋: もちろん、以前から薄っすらとITのことは気になってはいたんですよ。知らないままCEO面していていいのかという、漠たる不安があった。たくさん人に会って、それが確証に変わったという感じですね。当社はもちろんですが、日本としてこんなのでいいの? という思いが強くなりました。

創業者と2代目の違い。創業者の目の届きにくいところだから好きにやりやすかった

長谷川: 土屋さんは、偉ぶらないというか、会話をしていても、相手が誰であってもフラットにコミュニケーションされている印象ですけど、そういう姿勢はどうやって身につけられたんですか?

土屋: 僕自身は、メインストリームではなくアウトサイダーとかチャレンジャーでいるのが好きなんですよね。
僕が社長になったのは2002年です。それまでホームセンターの売上はカインズがトップでしたが、社長になった直後にDCMという売上高が2倍くらいの会社が発足しました。そのときはショックだったけれど、チャレンジャーでいられるという意味では、却って良かったと思っているんですよ。
もうひとつ、震災の経験も大きいです。カインズは東日本に店舗が多かったので、震災が起きて88店舗をいったん閉店しました。どうやって復旧するかとか、従業員とその家族の安全をどう確保するかとか、数ヶ月の間、ものすごく集中して対応しました。その時に思ったのは、後悔はしたくないな、ということです。何かあって店をいっぺんに閉めなければいけないこともあるんだけれど、せっかくこの大人数でやっているんだから、やるべきだと思うことは、いつかではなく、今やらなければと、強烈に思ったんです。

長谷川: なるほど。土屋さんは、二代目の経営者ですよね。僕が非常に興味があるのは、創業家の会社とそうでない会社の違いなんです。単純に言うと、今の日本では、会社の方向性を大きく変えるのは創業家でないと無理なんじゃないかと思うんですよ。サラリーマン社長で、あと3年の任期だから……、みたいな人にはできないし、みんなもついていかないだろうと。御社の場合、どうですか?

土屋: それは、(創業家経営者とサラリーマン経営者は)全く違いますね。ただ、創業家の中でも創業者とそれ以外は全然違うんですよ。創業者は自分で作った人で、会社が自分そのものだから、自分で会社を潰すのもありなんです。創業者じゃない創業家の人は、創業者と同じような感覚の人もいれば、ともすると正反対に出ることもあるでしょうね。僕も、カインズがこければ死ぬな、とは思うんですが、一方で、カインズが自分の子ども、みたいな感覚もないんです。

長谷川: 二代目や三代目が創業家の人の場合と、そうでない場合もありますが、それについてはどんな違いが出てくると思いますか?

土屋: 社員から社長になる場合、やっぱり思い切った手は打ちづらいのかもしれないですね。ただ、個人のキャラクターの違いということもあって、一概には言えません。僕がラッキーだったのは、父である会長はグループの本部に出社して、カインズにはあまり来ない。すると目が届かないから、割りと好きなことができたんです。創業者というのは、その性として気になることがあったら言わずにはいられないですからね。

日本の企業はもっと手を組んでチャレンジをすべき

長谷川: 僕は今の会社に転職して入っているので、プロパーの人が言いにくいことを言うのが自分の役割だとも思っているんですよ。入社年次、過去の栄光だとか、役職上下関係なんかは僕には全く関係ないので。

土屋: 僕もそうですよ。日本の企業で、遠慮なく「違うんじゃないですか」と言えるところはなかなか少ないですよね。

長谷川: ええ。

土屋: ちょっと面白い会社がありまして、去年カインズと資本提携した「大都」です。そこでは肩書きというものがなくて、社長はジャックと呼ばれています。広報の女の子はズッキー。この間、早稲田でも話をしてもらったんですけど、最初にジャックが、後半はズッキーが出てきて、ズッキーがジャックより目立っている(笑)。まだ4年目くらいの若手なんですけどね。

長谷川: 実は僕、個人的には、大都さんの運営している「DIY FACTORY」との業務提携したいなーと思ってたんですよねー。

土屋: そうなんですか!?

長谷川: オンラインで実業をやっている企業と、オフラインの我々みたいな企業が組むのは、一番ジャンプアップできる形になるんじゃないかと思っていて。例えば、東急ハンズのDIY用品は大都から仕入れるから、代わりにオンラインのDIY部門の販売を大都に全部任せる――という形でがっつり組めばいいんじゃないかと考えていたんですよ。

土屋: いいアイデアですね。

長谷川: そんなことを考えていたら、カインズさんと業務提携というニュースを知って、「うわー、やられた」と(笑)。
大都(DIY FACTORY)の山田社長(ジャック)とはアドテックというオンライン広告のカンファレンスが関西であったときに、たまたま知り合ったんです。実は、今度の酒場放浪記に出てもらうことも決まってるんですよ。

土屋: ジャックがですか? それはすごく嬉しいな。僕、会社の事業に関連して自分ほどの情報通はいないという自負があるんです。でも、ジャックは僕より早いところがあるんですよ。だからジャックより先にIT酒場放浪記に来られたというのは、すごく嬉しいです。
僕は、うちも含めてハンズさんも一緒に組めばいいと思いますよ。

長谷川: 本当ですか?

土屋: ええ。マーケットが違うし、あまりカニバっている感じもしないでしょう。つまり、日本でそんなこと言っている場合じゃないんです。海外での激変を考えると、日本でももっと新しいことを生み出さないと。

長谷川: これは、僕個人の考え方ですが、DIYやインテリアは、ホームセンターさんやニトリさん、IKEAさんがどんどん弊社の近隣に出店される中で、厳しいんですよ。中でも、ノンブランドコモディティ商品群は、大量生産し安く消費者に提供した方がいいと思うんですよね。例えば、収納ケース、テープなどいっぱいあると思うんです。そういうコモディティで付加価値競争のない商品は、やっぱり安い方がいい。そういう商品は東急ハンズのコアな商品ではないと考えて、例えば、カインズさんから仕入れるという形で組んだ方がいいと思うんですよね。

土屋: とても長谷川さんらしい考え方ですね。

IT業界と小売業界に共通する自前主義、秘密主義の問題点

土屋: 日本の企業は、競争分野とそうでないところを分けずに、なんでも自前でやろうとするのが問題だと思いますね。例えば、日本の小売業にとってAmazonはライバルだからAWSも使わないとか……。
IT投資の中身も秘密にして、経験を共有しない。でも、競争分野でないところはもっとオープンにすれば、お互いつまらない投資をしなくて済むわけですよね。長谷川さんのすごいところは、その主役を企業の中の個々人に置き換えていっているところだと思います。それぞれの経験や失敗を明らかにする場所を作ろうというのは、コペルニクス的といってもいいくらいの、発想の転換だと思いました。

長谷川: 僕の考え方が大きく変わったのは、東急ハンズに入って、通販(EC)を担当するようになってからなんですよ。EC業界はベンチャー企業が多くて、絶対生き抜くんだという強い意思を持って勉強しあっているんですね。「小粒な俺たちがそれぞれに戦ったところで、どうにもならない。それよりもお互いに知っていることを教え合って、どんどん大きくしていこうぜ」ということを綺麗事なしにやっていたんです。そういうのに触れてから、社外の付き合いがグッと増えて、通販だけでなくITでも同じようにやり始めたんです。

土屋: ITの業界で、そんな人はいなかったんでしょう?

長谷川: そうですね。IT業界と言ってもSI業界とネット系業界に区別されるんですが、SI業界の集まりだと、「営業する側、される側」みたいになってしまうんですけど、最近は、日経イノベーターとかAWSコミュニティー(JAWS)は、テーマに沿って勉強会があるので、うまく機能していると思います。特に、AWSは、企業と大手ではないが技術力のある会社を繋げるようなことにもなっているんで、日本のSI業界(クラウド業界)もだんだんと、いい方向になっているのではないでしょうか。

土屋: 業界に風穴が空いたような感じですか?

長谷川: ええ。クラウドというのは,下克上ができる世界なんですよ。それまでは、スーパーコンピューターみたいなものを持てる大手企業にしかできなかったことを、ITスキルが高ければ所属企業の大小関係なくできるし、できるやつがスターだ、となっている。それが面白いですね。

土屋: それに逆行するような話ですが、小売業界はより秘密主義になっていっているような気がします。僕がこの業界に来て最初に入ったのはアイシーカーゴという物流会社だったのですが、当時はSEIYUだとかイオン系のカジュアルブランドの会社とか、アポを取ると快く受け入れてくれて、色々教えてくれたんです。海外の会社も同じで、ウォルマートもターゲットも、みんな喜んで物流センターを見せてくれました。それが、2000年以降からでしょうか、今は日本の企業がターゲットの物流センターを見たいと言っても、絶対見せないですね。それがSCM(Supply Chain Management)のキーだからということかもしれないけれど、そこまで秘密にする必要があるのかと。そんな体験があるので、ITでも同じ問題があるのかな、と思ったんです。

長谷川: そうですね、情報システム部も、僕らも含め、旧来のITの人が勘違いしていたのは、自社が何のミドルウエア、OSを使っているとか、サーバーが何台あるとか、セキュリティーソフト、アプリケーションソフト何使っているとか言っちゃいけないんだろうと思っていたんですよね。でも、そんなことを言ったところで売上には響かないし、関係ないんですよね。

若者が第一線の人たちの話を聞いて「自分にもできる」と思ってほしい

土屋: 大企業とベンチャーが組んでうまくいくことが少ないのも、大企業の方が一方的に良いとこ取りをしようというような姿勢があるからじゃないでしょうか。カインズは大企業というわけではないですけど、ベンチャーでないのも確かなので、大都とは良い化学反応を起こしたいですね。大都もカインズも、今まで持っていなかったようなことを生み出して、世の中にインパクトのあるようなことができたらと、本当に思っているんですよ。

長谷川: IT企業宣言をされたということですが、これからの小売業はどういう方向に行くべきだと思われますか?

土屋: 先日、イオンの岡田さんが「Amazonに学ぶべきところがあったと反省している」とコメントされているのを見ましたが、それは小売業全般に言えることかもしれません。Amazonが全て良いというわけではないですが、自分たちのお客さんがどういう人達で、何を求めているか、もう一度真摯に考え直す時期だろうと思います。

長谷川:ECに関しては、小売業のプロほど誤っていた面があるんですよね。AmazonがCDや本を売るのはみんな納得していました。あれはどれも品質が同じだし腐りもしないから、と。でも、生鮮食品は絶対ない、ファッションも試着しないで買うなんてありえない、みたいなことを小売業界の人ほど言ってたんですよ。それがもう、ドカーンとやられてしまった。だから、自分の経験からくる固定観念で判断してはいけないな、と。

土屋: 全てにおいて安泰ということはないわけですよね。いろんなことがあり得る中で、じゃあ何をするかを考えることが重要だと思います。その中で、やっぱりIT化というかテクノロジーを使うということ、特にお客さんにとって良いことは何か、アイデア合戦みたいなことになるんでしょうね。

長谷川: 小売業の中で、土屋さんが注目している会社というのはありますか?

土屋: マツモトキヨシさんとか、どんなことをしているのか興味がありますね。

長谷川: なぜですか?

土屋: アウトサイダーだからでしょうか。大手ドラッグの中では、ちょっと違う路線を取ろうとされているように見えます。
他に気になるところは、やっぱりユニクロさんですかね。

長谷川: ユニクロで注目しているポイントというのは?

土屋: 柳井さんですね。志の高さが素晴らしいな、と思います。彼について読んだ中で、柳井さんが昔、有名なSPAの企業の社長のところに行って話を聞き、「この人にできるんだったら、俺にもできると思った」というエピソードがありました。その感覚って、すごく大事だと思うんです。僕自身も、柳井さんにアドバイスをもらったことがあるんですが、もっと早く出会っていたら違ったかもしれない。
早稲田の授業も、そういう思いでやっているんです。例えば、今の学生が玉塚 元一さんに会うことによって、何か化学反応が起こればいいな、と。だから、これからの日本を背負う学生に影響を与える人たちに話をしてもらいたいと思って、僕がぜひ、と思う人に講義をお願いしているんです。

長谷川: 「俺にもできる」とどんどんやってみる若い人たちを作っていきたい、ということですか。

土屋: そうです。きっかけを早くもってもらいたい。こういう言い方が良いかどうか分かりませんが、玉塚さんの話とか、C Channelの森川 亮さんの話とか、すごいところもあるけれど、社長だから特別なんだという風に思わないで、自分と同じ人間なんだって、大したことないんだって感じてもらいたいんですよね。柳井さんだって、かなり特殊ですけれど、話をしているとすごくよく分かるところもあって、同じ人間だという気がするんです。テクニックというよりは、そういうことを感じてほしいんです。

長谷川: なるほど。僕も今日お話を伺って、御社と一緒にできることとか、色々考えてみたいなと思いました。

土屋: ええ、業界とか会社を超えて、強いものを作っていきたいですね。

長谷川: はい。今日はどうもありがとうございました。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第56回 株式会社東急スポーツオアシス 代表取締役社長 平塚秀昭さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第56回のゲストは、同じ東急のグループ会社の経営者として懇意にさせていただいている、東急スポーツオアシスの代表取締役社長、平塚秀昭さんです。笑いの絶えないトークを通じ、従業員が楽しく仕事ができる職場づくりの極意や、新しいことに臆さず挑戦していくマインドの源泉を探りました。

シリコンバレー視察での出会いと第一印象

長谷川: 平塚さんとの出会いは確か、東急不動産グループの6社くらいの、情シス部長やIT好きな人達が、シリコンバレーに視察に行ったときですね。
平塚さんと初めて会ったのが成田空港で、うるさいおっさんがおるな〜、面白いな〜、というのが最初の印象でした(笑)

平塚: 僕も長谷川さんのこと、変なやつおるな、と思いましたよ。東急不動産グループって、真面目な人が多いのに、なんか不真面目な人がいて、僕とは違うなと(笑)

長谷川: 平塚さん、向こうに着いた時の税関みたいなところで、申告書をちゃんと書いていないみたいなことで連れて行かれちゃって……。

平塚: そうそう。僕は英語がしゃべれないんで困ってたら、長谷川さんが来てワーッと話してくれて、そしたらOKが出た。アメリカ入国の恩人ですわ。

長谷川: シリコンバレー視察中では、平塚さんがiPhoneかiPadかをよく使っていて、結構そういうの使うんだな、と意外に思ったんですよね。やたら質問もするし、ITの担当というわけでもないのに、ITに非常に前のめりな感じに、ちょっとびっくりしまして。
平塚さん、今60歳くらいですか?

平塚: そう、11月で60。

長谷川: もともとITが好きだったんですか?

平塚: 大好き。一応、こう見えても理系やから、パソコンが出てきたくらいからローンでPC買って触ってましたけど、買うよりも自分で組み立てたほうが安いんで、だんだん自作するようになったんです。東京で言うと秋葉原みたいなところで、大阪に日本橋ってあるんですよ。そこに部品を買いに行って。でも、相性があって、組み立ててもなかなか動かない。で、夜も寝ながら考えていて「せやっ!」って思いついたらバッと起きて作り出して、「動いた!」ってガッツポーズしたりして。

長谷川: それ、いつ頃のことですか?

平塚: 25〜26の時。そのうちソニーのVAIOが出て、それはソフトが入った状態で売ってたんですね。自分で組み立てて、後からソフトを買って入れるより安かったんで、そこからはVAIOを買うようになりましたけど。

長谷川: へえ。じゃあ、iPhoneが出たときは、すぐに買った方ですか。

平塚: いや、iPhoneは最近で、4Sからかな。

長谷川: もともとMac好きでiPhoneやiPadを使ってる人なのかと思ってました。

平塚: Macは昔は高かったし使い方もよく分からなかったから、順番としてはiPhone、iPad、MacBookやね。去年ひとつのOfficeライセンスでWindowsとMac両方で使えるようになって、やっとMacを使うようになりました。俺ね、スタバでMacを開くっていうのが夢やってん(笑)

長谷川: Macって、やっぱり楽しいですよね。Windowsってどこのメーカーのでも、箱を開けると黒くてでっかい電源とよく分からん説明書がついてくるけど、Macはパカっと開けた瞬間からカッコイイ。電源入れた時に「ようこそ」みたいなのを見た時の高揚感も、俺はクリエイターになるんじゃなかろうか……、みたいな(笑)

平塚: そうそう。遅まきながら、そういうところがいいもんだな、と思ってます。

不動産開発・運営からフィットネス業界への転身

長谷川: 平塚さんは元々東急不動産に入って、今はオアシス(東急スポーツオアシス)の社長になられていますけど、全然違う業種の社長になるというのはどうだったんですか?

平塚: 真面目な質問ですね。これは語ったら長いよ。
僕、もともと理系で、土木で東急不動産に入ったんです。スキー場作ったりゴルフ場作ったりの、現場監督とか色々やってました。そしたら、こんなキャラなので「運営に行け」という話になって、東急リゾートサービスでゴルフ場、スキー場、ホテルの運営をやりました。

開発業から運営業になったわけですけど、個人的には何の壁もなくて、自分の作ったものをそのまま運営するので、かえっておもろかった。こんなキャラなので、とりあえずみんなと楽しくやりましょう、という話でね。ただ、ホテル業というのは、支配人、料理長っていう偉い人がいて、徒弟制度だから下の人にはキツイという中、やっぱり風通しが悪かったんです。どうしようかなと思っていたら、東急スポーツオアシスでは、みんな“さん付け”で呼んでいるのを知りました。社長でも平社員でも、加藤さん、田中さんって呼ぶわけです。そうすると役職の壁がなくなってコミュニケーションが取りやすいですよね。

これはいいなと思って、リゾートサービスでも“さん付け”をやろうとしたんですけど、みんなが反対するんですよ。ホテル業というのは、支配人が憧れなんです。支配人って呼ばれたいがために頑張ってきて、やっとなれた時に“さん付け”じゃガクッとくる、と。料理長、板長って呼ばれなくなったらやる気なくなる、みたいな。そんなことで総スカンを食らって、結局変わらなかった。

長谷川: なるほどね。

平塚: ホテルの従業員って、「お客様、御用はございませんか?」という受け身の姿勢で動くので、発想も受け身なんです。自分らで動かない。これはおもろないなと思って、またオアシスを参考にしました。オアシスでは元インストラクターで、お客さんに対して「どこが悪いんですか? じゃあ、こうしましょう」と提案してきた社員が多いから、こうしましょう、ああしましょう、という声が出てくるんですね。あんなふうな会社にしたいな、と思っていたら、本社に呼ばれて「お前異動だ」って。「え、異動!? リゾートサービスにいたらゴルフできるのに、嫌やな」と思って「どこですか?」と聞いたら「オアシスや」と。「分かりました!」ということで、来たという感じですね。

IT化、データの可視化で、入会数の落ち込みが回復

長谷川: フィットネス事業の社長となると、もちろん勉強はされたと思いますけど、門外漢ですよね。最初はよく分からない中でも方針や指示を出して、決めないといけないというところで、どういう風にやってきたんですか。

平塚: ええこと聞くね。僕、元々はスポーツクラブ否定派やってん。サッカーやっていたので、金払って屋根の下で汗かくんだったら無料で山の中走ったらええやんけ、というタイプでした。でも、オアシスに行くことになったので、まずは「何してるのかな?」と見てみて、そしたらスポーツクラブの良いところも分かってきた。暑い日でも空調効いてるし、仲の良いスタッフが正しい指導をしてくれるし。でも月1万円ずっと払う、その継続をどうするかという話になるんやけれども……。最初はやっぱり、細かいことは言わなかったです。俺は素人だから、好きにやってくれと。
うちは会社が好きな人間が多いんですよ。ハンズもそうでしょう?

長谷川: 多いですね。

平塚: うちも、オアシス大好きで、アルバイトから社員になるやつがいっぱいいるんです。年に1回社員登用試験があるんだけど、5年連続で落ちてもまだ受けるようなやつが多い。変でしょ?

長谷川: 変ですね。

平塚: 落とす方も落とす方で、受ける方も受ける方(笑)。そんなおもろい会社で、基本的には好きなようにやってくれ、という風にしてました。
たまたま僕が入った2013年は入会が多くて業績が良かったんですよ。「なんや楽勝や、なんもすることないわ」と思ってたら、14年、15年はガンガンガンと入会が落ちていって。新店があったので、売り上げはなんとかキープ、もしくはちょっと上がってたけれど、既存店の会員数がどんどん減っていたんです。
これはヤバイと思って、IT化を始めました。

それまで入会者を増やすというのは、チラシを配る、看板を出す、たまたま来てくれた人を適当にキャッチする、という偶然の産物だったんですよ。偶然を必然にせなアカンということで、来てくれた人のデータを全部残すようにしました。前は紙ベースだったから、見学で名前書くんですけど、入会するとなったら、また名前書いてたんです。ネット入会も、ネットで入力して来店したらまた紙に書かなあかん。うっとうしいやん。そんなもの1回書いてもらったら、「あ、この前お越しでしたね、じゃあこれで」って、お客さんの負担をなくせということで、入会や見学のペーパーの申込書を全部電子化したんです。iPadで、「SalesForce」をベースにして。

長谷川: いいですね。

平塚: 電子化して、セールスフォースでデータを整理しました。でも、なんか見づらいんですね。なんとかならないかと言っていたら、ウイングアーク1stの「MotionBoard」というBIツールがあって、一気に見やすくなりました。
それまでは、入会の情報も週報でしか見られなかったんですよ。毎週日曜日に顧客管理のシステムからデータを出して、担当者がExcelで打ち込んで、月曜日に紙ベースで報告するという。それだと、今週調子悪いな、というときに間に合わへん。なんとか日報にできへんかということで、SalesForceとMotionBoardをつないで実現しました。

長谷川: なるほど。

平塚: それから、今月はどういう率でいったらいいかの予定と実績をグラフで表示するようにしました。予定より上を行っていれば勝ちでグリーン、7%以内で下回っているときはイエロー、それより下ならレッド。それを店舗ごとに1日単位で翌日には出すようにしたら、人間て面白いもんで、他の店舗のも見るんですよ。あそこの店と比べて、俺のとこまずいやん、という気になる。イエローゾーンに入ったら次の策を考えて、レッドに入った瞬間にそれをやれ、という風にしたら、ワーッと動き出して。
その仕組みは去年6月から動き出して、結局負けたのは11,12月だけ。今年に入ってからは6月は負けたんやけども、あとは全部勝ってるんですよ。

仕事は楽しいのが一番

長谷川: 「ITで見える化して良くなりました」という話はよくありながらも、ちょっとフワッとしている話も多い中、今のお話は数字的にも実績が出てるし、ITと人間の心とか思いみたいなものをうまく掛け合わせてうまくいっているのが面白いですね!
東急ハンズでも、本社が何かしろと言うよりも、店舗同士が競い合って、かつ協力し合うような、そういう土壌ができると、勝手にものすごいやっていくっていうのがありますね。

平塚: 勝手にやる方がパワー出るんですよ。こっちから、こうやれ、ああやれって言ったって、「わかりましたー」って返事だけで動けへん。それを、あえて言わないで、「ちょっとお前、イエローきてるで、どないすんねん、考えてるか?」「考えてます」「とりあえずやってみいや、別に失敗してもかまへんし、失敗なんてしれてるで」と。

以前は、今月の目標に届かないとなると諦めて、今月入ったお客さんも来月に回してたんですよ。例えば、今月95パーセントで負けてるぐらいなら、80パーセントで負けて、15パーセントを翌月に送った方が、翌月がラクだから。

今は日々の数字が分かるから、自ずと前倒ししてくる。そうすると、来月しんどいわけだけど、「今月あと3日しかないぞ。来月はまだ31日あるやろ」と。「だったら、今月に前倒しして、来月また考えた方がええやんけ」って言い出したら、どんどん遅れが減ってきまして。

長谷川: ほう。

平塚: こうなったら、社長はラクですよ。細かいこと言う必要もないし、言わんでも動きよるから無茶苦茶ラク。
するとまた、次のところに目を向けるんです。オアシスは、やっぱり入会が一番大事だから、会員数の確保のために色々やってきたわけ。それが軌道に乗ってきて、今度はスクールとかキッズのスイミングとか、そういうところの入会に目を向けられるようになりました。

長谷川: それはいいですねぇ。

平塚: 話を戻すと、スクールの内容とか、トレーニングの内容とか、そんなことは、分からないから、自由にやってくれと。大事なのは、オアシスの根源となる部分の確保を、「やらされ感」じゃなくて「やってる感」で動くようにするということですよね。それをどんどんやっていく。

1年目、2年目の話に戻ると、中身はよう分からんから、要はどうやったら仕事をしたくなるかっていう、そこじゃないですか。で、「enjoyb(エンジョイブ)」っていうのを言うようになりました。これは、enjoyとjobの造語ね。

この2つをくっつけたら、「enjob(エンジョブ)」ってなりそうですけど、エンジョイブにしたのは2つ理由があって。エンジョイ、楽しむってすごく語感がいいじゃないですか。その語感を残したいということと、ジョブとの間に”y”を残したのは、ワイワイ言いながら仕事しようやっていう意味です。

まあ、ギャグですけどね。こうやってマークも作って、パソコンに貼ったり、資料に入れて配ったりしてね。

親指にenjoybの文字をデザインしたマークを見せる平塚さん。

 

長谷川: そのステッカーは、自分で勝手に作ったんですか? 会社で作ったんですか?

平塚: 会社で。

要は楽しくやろう、と。お客さんは楽しむために来てるんやから、自らも楽しもう、ということです。でも、楽しむには、やっぱりしっかり考えて仕事せなあかん。「楽しむ」と「楽(ラク)」って同じ字だけど違うぞ、と。ラクしたらあかん、楽しむんや、ということを、最初に言いまくったんです。

まあだから、業界が違ってても、いかにスタッフが、仕事しやすいようにするかという意味で、根本は同じですよね。売り上げ上げるとかね、ギャアギャア言うのは先の話で、その前に動きやすくなれば、勝手に上がると思ってんねん。

長谷川: どの社長も、みなさんそう言うてはると思うんですね。従業員が楽しくやるのが一番事で、売り上げは後でついてくるって。ただ、「よっしゃこれええやん」って言ってステッカー作ってベタベタ貼るぐらいやらないと、やっぱり従業員って「前の社長も同じこと言うてたし……」みたいなところがありますよね。平塚さんの場合、わけのわからんダジャレをかまして本気でやってるところが、従業員に「あのおっさん、ほんまに楽しんでやろうと思ってはるに違いない」と伝わってる気がします。

アルバイトに伝わるシンプルなかけ声が気持ちをひとつにする

平塚: ほら、こんな俺の顔入りのカレンダーも作って、各店舗に貼ってます。

 

長谷川: 普通の人は恥ずかしくてやらないですよ、こんなこと。それを、やってはるのが、平塚さんですね。

平塚: ウケだけでやってんねん。けど、分かりやすいかけ声が大事だな、というのは、実はスキー場で経験したことなんですよ。

スキー場でお客さんとじゃんけん大会があってね、僕も社員としてお客さんとじゃんけんしてたんです。よく「最初はグー、じゃんけんポイ」ってやるじゃないですか。でも、おもろないと。「スキージャム」っていうスキー場だったので、「どこのスキー場行く?」というときに、「やっぱりジャムやろ」って言ってほしいなということで、「最初はグー」を「やっぱりジャム、じゃんけんポイ」にしたんです。「人差し指と親指で”J”の形にして『やっぱりジャム』ですよ。グー出したら失格ですよ」とか言って、盛り上げて。お客さんも俺のことを「ジャムおじさん」とか言い出してね。

そしたら、アルバイトがむっちゃ反応してきたんです。仕事終わったアルバイト同士で「やっぱりジャム、やっぱりジャム」って言って肩組んで歩き出して、ジャムじゃんけんやってるわけですよ。これって結構効くなと思って。単純なことでも、大勢の全然価値観の違うアルバイト陣が、ひとつになれるわけですよね。だから、かけ声大事やなと思って。

長谷川: へぇ。

平塚: オアシスもアルバイト多いんです。アルバイトさんの力で動いてる会社って、アルバイトさんが来なかったら終わりやし、アルバイトさんが勝手な行動に移ったら終わりやから、なんとかこう、少なくとも会社に目を向けてもらわなあかん。そうしたときに、「我が社は売り上げ◯◯で、今後日本のために、どうのこうの……」って言ったって、絶対来ないでしょ。一言でなんか言わないと。最初は、「楽しくなければ仕事じゃない」って言ってたけど、やっぱり長いから、「エンジョイブ」を考えて、これをオアシスでバーっと広げました。短く分かりやすくて、ギャグにもなる。一石二鳥ですよ。

大企業より中小企業の社長の方が楽しい

長谷川: オアシスでは、日本で初めて「AppleWatchをつけて泳いでもいいですよ」としたんですよね。専用のシリコンのカバー用意して、泳いでる人に当たっても大丈夫なような対策をしながら。僕はそれを記事で見たときに、やっぱり平塚さんのApple愛って相当やな、と(笑)

平塚: Apple愛というか、やっぱり「日本初」ってやりたいじゃないですか。世界初はなかなか難しいからね。

長谷川:  日本人って、ちょっとしたリスクを取るのを嫌がる人が多いですけど、「日本初」で喜ぶというこのマインドがいいですよね。前例がないからやる、と口ではみんな言うと思いますけど、ほんまにやる社長ってやっぱり少ないと思います。

平塚: みんな、考えすぎなんですよね。僕は考える前に動いてるから。それがエンジョイブなんですよ、考えて考えて、やっぱり危険があるからやめようかって、それおもろないやん。だったらやってみて、極端な話、何か事故があったら止めます、それでええと思う。所詮そんな大きな事故にならへんわけで、せいぜいクレームでペケが付くくらい、全然OKでしょ。

長谷川: ベンチャーの人っぽい発想ですね。大会社、大グループの人は、なかなか思っててもチャレンジしない人の方が多いですよね。

平塚: 俺は、大手の会社のトップとか執行役員とかにはなれないね。もっと規模が小さくて、パンパンパンっていく組織の方が向いてると、最近常々思うんですよ。やっぱり東急不動産の時に周りを見ていると、「ここがダメ、あれがダメ」って否定する言葉が多かった。それって面白くないんですね。これやってみたらおもろいちゃうんか、やろうやって言ってできるのは、オアシスぐらいがちょうどいい。

長谷川: 僕もそうですね。

平塚: 僕、いつもおもろいか、おもろないかで考えるけども、大手の社長っておもろいんかどうかで言ったら、わかれへんよ。世間からいっぱい注目されてて、業績あげなあかん、だからいろんな事故起きてるよね、粉飾とか。あれって、世間の期待に応えるためという、自分の意思とは違うところでやってるので、絶対面白くないよね。給料は違うかもしれないけど、そんなに注目を浴びない小規模のところで、好き勝手に切った張ったやった方が絶対面白い。

長谷川: 今のはすごい真理ですね。平塚さんは大グループの中と、今の立場と、両方経験されてそれを実感されたんだと思いますけども。

僕が大好きな情シス部長で、エレベーターのフジテックという会社の友岡さんっていう人がいるんですけど、彼は年商2000億以上の会社にいったらあかん。何もおもろない、と言っています。友岡さんは、パナソニック、ファーストリテイリングという大会社を経て、今フジテックなんですけどね。2000億以上の会社のCIOになったところで、なんにも動かれへん。なんかちょびっと言ったところで、全然下に響かないし、すぐ動かへんから、面白くないと。

平塚: うん、分かるわ。

社長は役割。立場が変わっても自分は変わらない

長谷川: あと、平塚さんがすごいのは、中小企業といっても300人規模の会社で、アルバイトさんにそこまで近づく社長ってなかなかいないですよ。

平塚: 俺は、「社長ってみんな偉いと思うてるやろ? ちゃう。役割やねん」って言ってます。いろんな部署があって、それをどう動かすかということを指示する役割というだけで、偉いからなってるんちゃう、とみんなに言うんです。だから、役職で呼ばないで”さん付け”。

長谷川: ここはいろんな勘違いの部分で、社長というのはエリート街道をやってきたすごい人、みたいなイメージで見られますよね。平塚さんは、そんなの関係ない、と。普通の人間同士として喋って何が悪いんや、ということですよね。
でも、社長の中には、自分はできる人間を演じないといけないとか、できる人間じゃないと下はついて来ないっていうような、プレッシャーとか思い込みがある人も結構多いと思うんですけどね。

平塚: 立場が変わったら、自分もそれに合わせて変わらなあかんっていう人もいるでしょ。でも、僕は逆に変わりたくないし、変わろうと思ってないし、そのまんまでええと思ってるので。所詮平塚って、こんな人間なので、こんな人間を社長にして間違ったらいつでもやめたらええやんけって、思ってるぐらいなんですよね、自分の立場が変わったことによって、自分のキャラを変えるつもりは全くないし、社長やからって偉く振る舞わなあかんとも思ってない。

長谷川: なるほど、それが平塚スタイルだと。

平塚: そう、平塚スタイル。

長谷川: なるほどね。僕はこう見えて、場面によって変わるというか、周りの期待に合わせちゃうようなところはあるんですよね。

平塚: そうなんや。見えへんね。

長谷川: 見えへんかもしれないですけど、色々考えてるんですよ(笑)。そういう意味でも、平塚さんは面白いな、と。
いつも仲良くしていただいているんですけど、今日は普段より真面目な話をたくさんさせていただいて、勉強になりました。これからもよろしくお願いします!

平塚: こんな話で良かったんかな? どうも、ありがとうございました。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第55回 株式会社コーセー 情報統括部長 小椋敦子さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第55回のゲストは、コーセーのシステムの内製化やクラウド化に力を入れてきた小椋敦子さん(情報統括部 部長)です。本シリーズ初となる女性の情シス部長を迎え、大企業における情シスの役割から女性の活躍まで、長谷川が気になっていたアレコレを伺いました。

震災でサーバー移設を余儀なくされ、内製化の価値を実感

長谷川: 小椋さんと最初にお会いしたのはいつでしたっけ?

小椋: 2014年にE-JAWS(※)が発足したときです。私も最初から参加していて、長谷川さんはコミッティメンバーでいらして。長谷川さんからいただいた名刺は、E-JAWSのロゴが入っているものでした。
(※E-JAWSはEnterprise JAWS-UGの略で、AWSを利用する企業のためのクローズドなユーザーコミュニティのこと)

長谷川: あの幻の名刺! E-JAWSができるときに作ったんですよね。

小椋: 当時は三井物産、今はDELLのCTOの黒田(晴彦)さんが会長で、長谷川さんは副会長でしたね。他に積水化学の原(和哉)さんやミサワホームの宮本(眞一)さんもメンバーで、すごいユーザー会だな、と思ったのを良く覚えています。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第54回 智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)ゼネラルマネージャー 江口征男さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第54回のゲストは、智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)でゼネラルマネージャーを務める江口 征男さんです。長谷川とは、アクセンチュア株式会社に新卒入社した際の同期だったという江口さん。MBA留学を経て中国で事業を起こし11年、人口13億という巨大市場の中で目にしたチャンスとリスクとは?

中国で勝負するということ

長谷川:江口さんは、中国在住で11年ビジネスをしていて、今日は中国でのビジネスについていろいろ聞きたいと思っているんだけど、そもそもなぜ、中国でビジネスをしようと思ったの?

江口:新卒入社のアクセンチュア卒業後、アメリカでMBAとって、上場間近のアパレルの事業会社に転職したんだよね、実業やりたいなと思って。そのときの本音は、「給料はガクンと下げて転職して来てあげたんだから、権限よこせ」という感じ。「一年自由にやらせてもらってだめだったら、クビにしても、給料減らしてもいいから」と。今、考えると我ながらアホかと思うけど(笑)。今は自分で会社をやっているから分かるけど、そのアパレル会社もオーナー企業だったので「江口なんかに自由にやらせられる訳無いだろ。お前が自由にやって1億損したら、お前が辞めるだけで責任取れる訳ないだろ。お前が自分の損したら全額補填するなら、自由にやらせてやる」ということなんだよね。もちろんそんなことは直接言われなかったけど、結局そういうことなんだよね。で、当然のごとく、提案はできても、最終的な経営上の意思決定はオーナー経営者が決めることなる。これは資本の原理で仕方がないんだけど、なんとなく自分的には違和感があったんだよね、「俺ってこれがやりたかったのか」っていう。でも会社の同僚とか部下の人達に恵まれたのもあって、自分の違和感にフタをして、なんとか仕事をこなしていたんだけど、あるとき急に顔が半分動かなくなってしまって。

長谷川:顔面麻痺ってやつ?

江口:そうそう。朝起きたら娘に、「パパ、顔が変だよ」って言われて鏡見たら、身体はぴんぴんしているのに、確かに顔が半分動かないわけ。 医者に診てもらったら、「一生顔動かなくなってもいいならいいけど、少しでも回復したいなら即入院ですよ」と言われて、2週間入院。毎日3回喉元に麻酔注射するんだけど、それ以外は暇だから病室にノートPC持ち込んでバリバリに仕事をしていたけど(笑)。顔面麻痺の原因は、精神的なものだって言うから、「これも神様のお告げか」と思って、これをキッカケにアパレル会社を辞めて独立しようと決意しました。それで、しばらく日本でフリーランスでコンサルタントをやっていたんだけど、これも面白くないなぁと思っていた頃に、友人の社長から「中国に現地法人作るから手伝わない?給料は出せないけど、ビザは出してあげるから」と誘われて、「これだ!」って。

長谷川:え!? 給料出さないけどって、江口にとって何が得なの?ビザ?

江口:そうそう。まあ実は中国に来てみたら中国のビザって実は簡単に取れるんだけどさ、そのときはアメリカのイメージがあって「就業ビザ取るのはすごく大変なんだろう」って思ってたから。いずれにせよ、日本国内市場はこれ以上マーケットが広がらないなと思っていたし、家族もいろんな事情で中国に行きたがってたからそれも後押しになった感じかな。当然既に娘も生まれていたので、リスク軽減のために日本にも仕事は残して、月に一週間日本に出稼ぎに戻って仕事するっていう生活を2年続けた。やっと、2年くらい経って、日本に出稼ぎに来なくてもよくなった(笑)。

長谷川:2年も、ガッツあるね! 普通もっと早く撤退しない?

江口:いざ中国に行ったら、凄いんだよね中国人。中国の人って目の色が違うんだよ。みんな、チャンスがあれば絶対掴んでやろうという雰囲気が半端なくて、ものすごくストイック。ブルーワーカーもね。これは、日本のぬるま湯環境に浸かっていたらだめだって危機感を持ったので中国で頑張ろうと思ったんだよね。

長谷川:なるほどね。でもよく事業が立ち上がったね。

江口:運や縁もあるんだよね。最初は、中国人の弁護士に「蘇州で仕事を始めたいと思っている」と声をかけられたのがはじまり。蘇州で日系企業向けの弁護士サービスをするから、日本人が必要だと。でも本当にこれから立ち上がる事業だから、給与を払う社員としてではなく、完全成功報酬の株主として入って、儲かったら分けましょうという話だった。その弁護士は友達の友達の友達っていうくらいの間柄だから信用もできないし、成功するかなんてまったくわからないけど、ここで勝負しないと先はないと思って。結局もう一人、日本語も話せない蘇州人を加えて3人でスタートしたんだけどこれが意外とうまくいって、事業をスタートして1年後に利益も何百万と残ったの。

でも一年間やってみて、3人の間に不協和音が生まれてきて。というのも、共同経営者の1人の蘇州人の貢献度が明らかに低かったんだよね。最初のふれこみは、彼は政府の役人とコネがあるということだったんだけど、蓋をあけてみれば全然そんなことなくて、しかも交際費として一日に5万円とか10万円とか頻繁に使うわけ。これで利益の山分けは不公平だということになって、翌年度から利益の分配率を変えよう、そして経費を使う場合には、共同経営者3人の事前許可を取るようにしようと決めたら、数日後にその蘇州人の共同経営者に「お前はクビだ」って言われてさ。「クビって、どっちかというと役立たずのお前がクビだろ!」って思ったんだけど、その蘇州人が、会社の金と印鑑を持って逃げちゃったんだよね。

中国に来て1年目でこんな失敗を経験した「中国ってやっぱ大変だなぁ…」って他人事見たいに感じていたんだけど、極めつけは、同じく被害者で味方だと思っていた中国人弁護士も、実は不利益なことは(自分ではなく)僕にまわるように仕組んでいたことに気づいたんだよね。まさに「The 中国」という感じ(笑)。でも当時も「中国人は信用できないから、もう日本に帰ろう」とは全く思わずに、「そうだよね、自分の身は自分で守るしかないよね」、とはじめて気づいたわけ。

中国はすごくストレートで、「自分の身は自分で守る」、「人はその人の損得で動く」という文化。そこを理解することが重要だと思う。実際、その中国人弁護士とは今でも共同経営者として会社を経営しています。もちろん100パーセントは信用していないんだけど、相手も僕のことを100%は信用していないと思うんだよね。だからこそパートナーとして一緒に会社を経営できるという感じかな。お互いに長期的にはwin-winでないパートナー関係が成り立たないということが分かっているからこそ、相手にも譲るし、相手も譲ってくれる。でももし利益相反したら戦いになるかもしれないという最悪の事態も覚悟しているからこそ、逆にそうならないために、相手の利益にも敏感になるし、ケンカにならないようにお互いに努力するという。僕はこれからもずっと長い期間一緒に会社をやって行きたいと個人的には思っているからこそ、100%は彼のことを信用しないということなんだけど、分かるかな、この一見矛盾した考え(笑)。今彼と共同経営している会社は中国にあるので、自分と相手の利益が30:70くらいだと自分が思う位がバランスがいいと思っています、出資は50:50なんだけど。僕は日本人としてアウェイの中国で仕事をさせてもらっているという感覚があるのと、公平感というのは究極的には主観できまるので、僕自身が30:70と感じるくらいが、彼にとって50:50だと感じてくれると思うんだよね。もちろん、僕自身が20:80だと感じたら、「それは違うでしょ」と相手にストレートに言うようにしています。

ビジネスにおける日本人と中国人の差異とは

長谷川:ビジネスマンとしての、日本人と中国人の違いってなに? 働き方の違いとか。まったく中国の勉強をしていない日本人が「よし、今から中国のビジネスコミュニティの中に飛び込むぞ」ってなったときに、どんなアドバイスができる?

江口:中国人は、個人の利益で動くんだよね。日本人は、世間体とか会社の利益も考えるじゃん。でも中国では、自分の利益が減ると思ったら上司に対してでも会社に対してでもストレートに言うんだよね。そのストレートトークの方が正しい訳、中国では。残業とかも、日本なら当然空気読むようなシーンで中国人はそれをしない。中国でも従業員が社長に愛想良くするのは日本と同じなんだけど、その理由は、その社長が自分の給料を決めるからであって、空気作りとかではないのよ。日本人も本心では自分の利益が最優先だと思うけど、中国人はそれがもっとはっきりと表面化してるの。

あとね、視野がすごく手前にあるのも中国人の特徴かな。今日は今日のことしか考えなくて、あさってのことはあさって考えればいいじゃないという考え方。たとえばね、最近ウチの会社で父親を亡くした従業員がいたんだけど、その従業員が「すごくショックなので1ヶ月会社休んでもいいですか?」って言うんだよね。親が亡くなったとしても日本では1ヶ月休むのはありえないよね。でもその従業員にとっては「最愛の父親が亡くなって、ものすごいショックだから1ヶ月仕事はできない」というのが当たり前なんだよね。もし僕が「それは困るから1ヶ月休むのはダメ」って言ったら、その従業員は多分辞めてしまうんだよね。中国では、環境や法律がコロコロ変わるのに慣れている中国人は「まわりの変化や他人はコントロールできないから、せめて自分でコントロールできる変数は自分でコントロールしよう」っていう考え方になっていると思う。だからみんな個人ベースで動いてなかなかまとまらないし、「会社全体でがんばりましょう!」 みたいな団結感はほとんどない。その代わりというか、中国人は自分の利益中心だけに、他人が利益中心に行動することに寛容っていうのはあると思う。

長谷川:サラリーマンの最大の権利は「辞めること」だと思っているんだけど、日本は人材流動性が低い。中国では、転職は当たり前なの?

江口:日本に比べたら、会社はステップアップで変わっていく方が当たり前。むしろ終身雇用の方が変わってるねって感じ。転職をせず1つの会社で勤め上げる人は、逆に「能力無くて誰も誘ってくれないんだね」って思われるかも。40歳くらいになって子供もいて家もあって、ゆっくり過ごしたいって思っている場合はあえて同じ会社に残る人もいるけど、そういう人はあんまり仕事しないんだよね。あくまで自分の利益のためにやっていることだから。

長谷川:日本ではさ、普通企業研修とか受けさせると義理を感じて、研修直後はしばらく勤めたりするけど。

江口:ないない、中国では99%いないよ、そんな人。たとえば中国人が日系企業に勤めることになって、会社の研修で日本にしばらく駐在して日本語話せるようになったとするよね。そうしたら、彼らは、「自分の日本語力はアップしているから、会社はもっと給与を払うべきだ」と本心から思う訳。「会社のおかげで日本語力がUPしてありがとう」という考え方は期待しない方がいいんだよね。だから給与を市場価格にあげてあげないと平気で転職しちゃうんだよね。

長谷川:日本企業でも、優秀な人にMBA取らせると辞めちゃうもんね。

江口:律儀な人は、授業料を返して辞めるケースもあるよね。日本人だって、投資銀行とかコンサルとかに誘われて、給与が1.5倍になったり、自分のキャリアチェンジができる場合は、義理より自分の利益と取るわけじゃん。

長谷川:給料だけじゃなくて、挑戦のために辞めていく人もいるんでしょ?

江口:そうだね。中国の言葉で「発展空間」って言うんだけど、特に若い人は、どういう傾きで成長できるかっていうのをみんな気にしているんだよね。この会社に居続けた場合、どれだけ早く上に行けて、市場価値が上がるかっていうのを中国人は真剣に考えているんだよね。だからもし国内や欧米のトップ企業に行ける機会があれば、日系企業は早々に見限っちゃうだろうね。

あと中国では、個人の評価がすごくシビア。中国の青島(チンタオ)ビールの評価制度なんかは超合理的で、売上成長率等のKPIで地域代表の評価が決まっていて、下位何パーセントかはクビになる。このKPIは、伸びしろのあるエリアだろうが、頭打ちのエリアだろうが全く同じ基準で決まるわけ。その標準的な基準をそのまま適用すると、たまたま運が悪く、その年のKPIが悪かった優秀な人をクビにしないかも知れないけど、それは仕方ないっていう考え方。これが日本だとさ、このエリアでこの目標は現実問題難しいからってさじ加減で調整しちゃったりするでしょ。でも中国では、どこに配属になったかという要素も含めて実力だと考えて、公平な評価で運用することを優先するんだよね。泣いて馬謖(ばしょく)を切るとはこのことかと思ったよ。

長谷川:日本ではほとんどなくなっているけど、帰属意識を生むために社内旅行やったりとか運動会したりとかは?

江口:それは逆に日本以上にやる。何もやらないと個人の利益で動くから、まったく求心力が働かないから、「社内の社員は、みんな仲間なんですよ」って意識を作っていくことは中国では特に重要。でも中国って、日本みたいに会社や組織に対するロイヤリティはあんまりつかないんだよね。でもロイヤリティは個人にはつく。さっき社長に愛想よくするって話があったけど、会社という組織よりも、誰が自分に給料を払っているかっていう部分をすごく気にするから。

長谷川:プライベートと仕事の考え方はどうなの?

江口:もちろんプライベートは大事にする。例えば、会社にとってものすごく重要なプレゼンがあったとしても、そのキーパーソンの中国人社員の親や子どもが病気になった場合、「当然プレゼンを優先するよね」と会社が言おうものなら「従業員を大切にしない冷たい会社だ」って思われて、もうついてこなくなってしまう。

人口13億を擁する、中国の今

長谷川:中国人の情報源は?情報はどこから入ってくるの? 新聞とかテレビとか。

江口:うーん、新聞は見ていない人も多いし、テレビも見ない。中国人は日本人よりずっと、テレビを信用していない。企業宣伝も信用しない。じゃあ何が信用できるかっていうと、家族とか親友の意見やなんだよね。逆を言うと、信じすぎちゃうという側面もあると思う。例えば、知り合いがAという飲料を飲んでいるものなどがあると「じゃあ良いものに違いない、自分も飲んでみよう」と判断するとか。

長谷川:中国ではインターネット環境が制限・制御されているわけだけど、それは変なことだっていう自覚はみんなあるの?

江口:制限されていることは知っている。ただ、人口が1億強で、比較的統率の取れている日本と、人口13億で、各々が自分の利益をひたすらに追求している中国を比べることはできないという側面は確かにある。これは個人的な意見だけど、「中国を民主化しよう」というのはナンセンスだと思う。自分勝手な13億人が民主主義でまとまる訳がないから。もし中国に民主化されたらみんなバラバラに動くからこんな成長できなかったと思うんだよね。そういう意味では共産党のトップの人たちは、いわばタイタニックのようなこの大国の運転法がわかっていて、「一人っ子にしなさい!」とか言えちゃうし、「個別の権利よりも共産党一党独裁が重要」とか割り切って決めていくことができちゃう。中国らしいペースでいくためには多かれ少なかれ必要なことかもしれないという認識があるかな。

長谷川:そういう環境で、「じゃあ国外で生活しよう」とか、「なんだかんだ居心地いいから中国でやっていこう」とかはどんな感じ?

江口:日本語を話せる人だったら、日本に国籍変えようかって人もいる。もしくは家族は日本へやって、自分は中国に残るとかね。この残る人っていうのが何を考えているかというと、まだ中国にチャンスがあると感じているんだよね。中国はバブルだとか、中国はもう成長しないとか日本では言われていると思うけど、それでも平均で6パーセントくらい伸びているの。そうなるとやっぱり、富を大きくするには日本よりも中国だと思う。

長谷川:アメリカ人と中国人の違いはどういうところ?

江口:ダイレクトに意見を言うところは、中国人は日本人よりはアメリカ人と似ていると言えるけど、俺の知っているアメリカ人は「ジェントルマンであれ」という言動もあるから、そのあたりは、いつも本音じゃなくて、建前を言うよね。中国はもっとストレートにやりあって、アメリカのジェントルマンであれ、という建前はないんじゃないかな。

長谷川:中国人は省とか直轄区とか分けられているけど、実際住民はどういう意識なの? 帰属意識は強いのか。

江口:地域に属しているという感覚は日本人以上にある。言葉も違うし。上海人は上海人が一番だと思っているし、北京人は北京人が一番だと思っている節はあるね。上海は顕著で、上海人の中でもさらに区別があるくらい。ルーツも元々上海なのか、それとも親が別の地域から来て上海に根を下ろしたのか、とか。

長谷川:言葉そんなに違うの?

江口:全然違う。日本で言うなら青森のおばあちゃんがしゃべる方言くらいのものじゃないかな。と言っても若い世代は普通語(北京語)は普通にしゃべれるし、逆に上海にいても上海語しゃべれないっていう人もいるみたいだけど。

普及率90パーセント超えの電子マネー

長谷川:中国で、日本より明らかに進んでいることは?

江口:電子マネー。中国ではもう、現金はほとんど使わない。2強がAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウィ―チャットペイ)なんだけど、ホテル、飛行機、新幹線、タクシーはアプリで予約して払ったり、割り勘も電子マネーですぐ払えちゃう。アリペイはおもしろい仕組みがあって、その日に初めて電子マネーを使うとき、毎回くじ引きができて、0~1元がランダムで当たるの。それを月~金で集めて土日に使えるっていう。0~1元ていうのは、日本円にして16円くらいだからどうでもいい金額なんだけど、このくじ引きのような仕組みがよくて、ついつい楽しんじゃうんだよね。お年玉も電子マネーだよ。これもね、くじ引き仕様にできて、たとえば「みんなに合計2万円あげまーす! でも比率はランダムです!」みたいなことができちゃう。「あなた1万2千円、あなた200円」とか。

長谷川:それ、アプリに元から実装されている機能なの?

江口:そうそう。中国人は楽しいことが好きだから、お年玉もただもらうんじゃなくて、エンタメ要素があると受けるんだよね。

長谷川:カバー率はどれくらいなの?

江口:どうだろう、多分9割くらいじゃないかな。2つとも使えない店っていうのは、ほとんどない。コンビニも全部使えるし。飲食店側にもメリットあるからね。バイトが現金をかすめていっちゃうこともないし、そもそも汚いお札を触らなくていいし。

長谷川:でもそれだけ普及するって、どういうモチベーションで導入されてるの?

江口:利益。中国人はみんな合理的だから利益があればどんどん使う。始まりは、タクシーアプリだった。アプリで呼べば、手を上げて拾う必要もないし、しかも安く乗れますよっていう。運転手に対しては、導入すれば+2000円払う仕組みにして、どんどん推し進めたんだよね。いざ使って見ると便利だし、運転手も乗客もお互いに評価できる制度があるから、変な運転手に当たらないしその逆もしかりっていうのがいい。

長谷川:中国は随分前に行ったきりなんだけど、タクシーの取り合いがすごく激しかった。近くにタクシーが停まろうものなら、私が乗るんだ、私が乗るんだ、ってみんなすごい主張で。

江口:そこで譲ったらもう、延々と乗れないからね(笑)。いくら待っても次の人に割りこまれちゃう。だったらもう、その人に恨まれたとしてもどうせ二度と会わないし、自分の利益を優先させて絶対に譲らないぞ、という発想になる。

長谷川:電子マネーの、支払いの仕組みはどうなっているの?

江口:銀行口座に繋がっていて、デビットカードみたいな感じで随時落ちていく。ウォレット機能ではチャージや現金化もできる。

長谷川:でもそれって日本で言ったら、たとえばヤフーが三井住友銀行に「アプリ作るからダイレクトと連携させるわ~、リアルタイムで減算もお願いね~」ってことでしょ?日本ならかなり難しいね。

江口:中国の銀行経営者は、共産党の役人が3年位の任期で勤めてどんどん変わっていくから、あまり長期的な視点を持っていないと思う。あと、中国には信頼っていうものがないから、すぐに送金されるデビットが親和性高かったというのも大きい。クレジットは全然普及してないけど、95年以降に生まれた世代はクレジット使う人も増えているかな。クレジットの場合、支払い時に預金がなくても買えちゃうから。

長谷川:ところでさ、中国の小売業界では、入金してから納品? 納品してから入金?

江口:場合によるんだけど、端的に言うと強い方が勝つ。提供する側とか客側とかじゃなくて、強い方がすごい条件を突きつけるの。びっくりしたのは、中国にある百円ショップチェーンがあるんだけど、その会社が支払うべき債務だと認識するタイミングが中国的なんだよね。日本だったら仕入先から請求書を受け取ったら、これは支払うべき債務かもしれないと認識すると思うんだけど、その百円ショップは請求書を受け取っても債務だと認識しないわけ。じゃあ、いつ債務(かもしれない)と認識するかというと、仕入先が「請求書渡したのに期日が大分過ぎても払わないのはなぜだ」って怒鳴り込んできて初めて、「これ払わなきゃいけないものかもしれない」って認識するっていう話があったけど、これがThe 中国という感じ。

長谷川:東急ハンズなら、もし万が一何かの間違いで仕入れ先様に支払いできなかったら大問題で、速攻支払い手続きするね。

中国に学ぶビジネスのヒント

長谷川:中国で先端技術を学ぼうと思ったらどこのエリアがいいの? また、日本人は、欧米に学べという意識はあっても、中国に学ぼうって思っている人は少ないんだけど。

江口:深圳(しんせん)かなあ。中国のシリコンバレーなんて呼ばれてるけど。でも、完成された“先端”ではないから、見に行ったとしてもまだまだっていうふうに見えると思う。でもそこからの修正能力とか競争力とかはぜひ注目するべき。逆に、中国では医療とかEVのような信頼度が99.9パーセント必要というサービスはなかなか発展しないから、そういう分野は日本の方が強いかな。

長谷川:江口は、中国でビジネスをしていこうと決断して、中国で生活しているわけだけど、日本でがんばるドメスティックなビジネスマンに対してコメントはある?

江口:価値観の違う人とどう接するかというのを意識していくといいと思う。同じ価値観の中でだけ閉鎖的に働いていると発展がないし、チャンスも少なくなる。それに、ある日、自分が働いている会社の経営者や株主が中国系になるかもしれないしね。たとえば中国人が電車の中で大声で携帯をかけていたら、日本では常識はずれだけど、実際は彼らなりに考えや理由がある。中国では、会議中でもどんどん電話取るのが当たり前だから。前提条件が違うことを理解できると、その人たちとコラボしたり、戦ったりすることだってできる。

あとは、グレーに慣れるということ。今は変化の時代で中途半端な状況も出てくると思うんだよね。そのときに何が何でも決着をつけたがらずに、AかもしれないしBかもしれないっていう状態を割り切って置いておくっていうことも必要じゃないかと。日本人は職人が多いけれど商人が少ない。机を挟んでニコニコしながら会話しているけど、机の下では蹴り合いをしている関係がもっとあってもいいと思うんだよね。相手を少し儲けさせて、こっちはもっと儲けるというしたたかさがあるといいと思う。

長谷川:なるほど、聞いていて関西人は、中国人と似ているとこあると思うんだよね。大阪が日本の首都になったら、いろいろ変わるんじゃないかって思う。ガツガツいくし、儲けを考えながら、なんやかんややるみたいな。

江口:そうかもね。時代によって適性がありそう。たとえば平安時代だったら東京がよさそうだけど、今はいわば戦国時代みたいな時代だから。副作用はあるかもしれないけど、ガツガツ行ける関西の体質の方がトータル的にはいいかもしれないね(笑)。

長谷川:本日は、ありがとうございました。また上海に行ったときには、連絡しますので飲みましょう。