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カテゴリー: IT酒場放浪記

「進藤さん、ローソンやめるってよ」
IT酒場放浪記 第60回 株式会社ローソン 進藤 広輔さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第60回のゲストは、ローソンからAWSへ衝撃の転職をされる、株式会社ローソン 業務システム統括本部 システム基盤部の進藤 広輔さんです。ユーザー企業からベンダー企業へと移り、新たなスタートを切る進藤さんに、AWSとのこれまでとこれからのお話をうかがいました!
 ※社名、所属は取材時のものです。

ローソンでAWSと出会って

――早速ですが、お二人の出会いは?

進藤:講演は以前から見ていたんですけど、僕が長谷川さんの前で初めてしゃべったのは、2015年あたりのE-JAWS(Enterprise JAWS-UG)でしたね。ベンダーに関するテーマでパネルディスカッションしてて、「ベンダーが全然使い物にならないから、自分たちでやるしかないんだよ!」みたいな話をしてたら、最前列に座っていた長谷川さんが大爆笑されていて。それが多分最初ですね。

長谷川:進藤さんってローソンは中途ですよね。何年入社?

進藤:2013年。今年で丸5年です。

長谷川:あ、案外短いんだ。10年くらいやってるのかと思ってました。AWSに関わるきっかけは?

進藤:前職までは、AT&Tとかでネットワークやセキュリティまわりのプリセールスをやってたんですね。ローソンはたまたま転職エージェントの方に教えてもらって「これは面白そう!」と転職を決めたんですけど、最初はネットワーク担当の予定でした。それが3カ月ほど経ったころに「AWSって誰か分かる?」という話になって、誰も手を挙げなかったので「じゃ、俺やろうかな」という感じで。

長谷川:ということは、ローソンで公式にAWSを使い始めたのは2013年で、進藤さんが最初っていうことですか?

進藤:そうですね。で、2015年にはだいぶガッツリと、大きな仕組みで使い始めていて、業務の肝となる発注の仕組みの一部もAWSで稼働させました。

長谷川:移行スピードが速いんですね。そもそもローソンさんは何故AWSに移行しようと思ったんですか? 例えば、大企業でクラウドに移行するとなると理屈が必要じゃないですか。既存ベンダーも食い止めようとするだろうし。そこはなんでサクサク進んでいったの?

進藤:まあ、社内にも資産を持ちたくないという考えは間違いなくあったと思いますね。当時、業務の肝となるシステムの構築を検討していたんですけど、それをすべてオンプレでやると膨大な金額がかかる、と。さらに、その頃クラウドといえばAWS一択だった。それならAWSでできないかという話が始まっていたんです。

長谷川:なるほど。普通は肝となるシステムは最後にして、まずは軽いシステムからやろうということになると思うんですけど、そういう感じでもなかった?

進藤:いや、実際の構築はそれこそ軽いものからでした。規模が大きくて割と重要なシステムが本稼働したのは2015年秋ぐらいでしたが、それまでに実験的な仕組みをぶわーっとリリースしていくやり方でしたね。それこそ10個近くは一気に構築したかな。

長谷川:AWSによる開発・構築は外注?

進藤:アプリケーションは外注でしたけど、インフラまわりはローソン側でしっかり握ろうということで、内製でしたね。といってもローソンの社員だけでは足りないので、業務支援という形でベンダーから出向してもらいました。でも、実は社員は僕一人だったんですよ。

長谷川:なにー!? それは回らないですね。

進藤:そうですね(笑)。最初は本当に一人で全部やってました。設計・デザインから、コンセプト資料を作って、社内でプレゼンし、GOサインが出たらアプリベンダーと打ち合わせして。

長谷川:すごいな。ちょっと変態ですね(笑)

進藤:コンビニって24時間365日営業じゃないですか。だから、ローソンに入ると決めたときに、僕も24時間365日稼働だなって思ったんですよ。プライベートと仕事のオンオフを一切なしにしようと決めて。

長谷川:とにかくやったろうと。

進藤:ええ。ただ、これいうと「えっ!?」って言われるんですけど、ベンダー時代に僕はサーバーって一度も触ったことがなかったんですよ。ずっとネットワーク屋だったので、Linuxなんていじったこともなくて。でも、自分で一からやると面白いじゃないですか。アカウント作って、コマンド勉強して、すると段々理解も深まって、素人でも作れるじゃんって楽しくなっていく。それじゃあ、全部やっちゃおうって感じでしたね。

で、15年に本格稼動した「肝となるシステム」というのが、一日数時間・数回のバッチ処理を行う、発注の半自動化の仕組みだったんです。色々なデータを入れて機械学習させて、お弁当とかの発注推奨値を各店舗に提示する。オーナーさんがOKならそのまま発注できて、だめなら調整できるっていう。

長谷川:リテールからすると心臓部ですよね。それがばらつくと、欠品して機会損失となったり、多すぎて廃棄が増えたり。

進藤:そうですね。当時はベンダーも含めものすごく忙しかった。2015年当時にAWSをガッツリ使うということ自体が試行錯誤でしたね。

長谷川:僕も2012年10月にAWSをやると決めて、ベンダーに色々相談したんですけど、「やったことありません」ってところばかりで。どこも「経験ないよ~うんぬんかんぬん」と。僕は「よかったねえ。お金もらいながら経験できて」なんて嫌味言いながら(笑)

進藤:その頃はまだ「AWSに基幹システム移すとか有り得んわ」みたいなノリでしたからね。

長谷川:ベンダーも「うちらのサーバー守らんと!」ってな感じで。

進藤:まさに。ローソンでもベンダーには「クラウドなんかで我々のサービスは保証できません」とかずっと言われてましたね。そことの戦いが最初のミッションでした。

数年経って当時と比べると、クラウドもデファクトになった感がありますよね。転職でも「AWSの経験ありますか」とエージェントに訊かれたりするそうですよ。で、ないと答えると「書類で落ちるからやめましょう」と。

長谷川:へぇ。じゃあ、AWSができる人は引っ張りだこなんですね。

進藤:わはは(笑)

進藤さん、ローソン辞めるってよ

長谷川:今回の本題なんですけど、AWSに転職されるそうで。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第59回 株式会社アクセルラボ COO新貝文将さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第59回のゲストは、日本のスマートホーム、ホームIoTの最先端を切り開いている株式会社アクセルラボの新貝文将さん(COO)です。海外の新サービスを日本に持ち込むという仕事のスタイルができた経緯や今注目のホームIoT関連サービス、日本のスマートホーム市場の拡大の見込みなど、大いに語っていただきました。

新卒で入社した会社がたまたま外資系になり 海外に関わるように

長谷川: 新貝さんと初めてお会いしたのは、2018年1月にラスベガスで行われたConsumer Electronics Show(CES)でしたね。

新貝: つい3ヶ月ほど前ですね。

長谷川: 僕は、初めてのCESだったんですよ。いつもニューヨークで開催されるNational Retail Federation(NRF)という全米の小売業のテックカンファレンスに参加していて、例年だとCESの開催時期と被っているか、間が1週間くらい空いちゃっているようなタイミングが多かったんです。今年はちょうどCESが終わってすぐNRFで、CESの方が面白いっていう話も聞いていたので、ぜひ行こうと。

新貝: もともと我々が入れていた米国企業アポに長谷川さんも同席されることになって、アポの直前にエレベーターホールで初めてお会いしたんですよね。長谷川さんは僕のことを女性だと思っていたという(笑)

長谷川: 名前にFumiと書いてあったから、英語を喋れるかわいい子が来るのかなと思ったら「あれ? おっさん? おかしいな」みたいな(笑)。
でも初めてのCESだったから、新貝さんに色々案内してもらって本当に良かったですよ。

新貝: 本当ですか。良かったです。

長谷川: かなり衝撃を受けたんですよ。僕らが「あったらいいな」と考えるようなIoT商品は大体CESで出展されていることも分かったし、「ここにはこんなにあるのに、日本ではIoT商品が全然売ってないな」ということも改めて気づきました。

新貝: そうですね。

長谷川: CESでお会いした時は、今のアクセルラボに移る前で、コネクティッド・デザインという会社でしたよね?

新貝: そうです。東急電鉄グループのIoTの会社です。

長谷川: もともと東急なんですか?

新貝: 違います。結構転職しているので経緯を説明すると長くなるのですが、新卒で入ったのはインテュイットという会社です。

長谷川: アメリカの、「弥生」みたいな会計ソフトの会社ですね。

新貝: よくご存知ですね。もともとは「弥生」を作っていた日本の会社に内定していたんですけど、入社したらインテュイットと統合して外資系の会社になったんですよ。そこで4年ほど社内システムなんかをやっていたら、あるときインテュイットの日本法人の中で検索エンジンの「エキサイト」のプロジェクトが立ち上がって。

長谷川: あの「excite」?

新貝: そうです。当時アメリカにExcite@Homeという会社があって、それは検索エンジンのexciteとケーブルテレビ網を使った高速インターネットサービスの@Home Networksが合併した会社だったんです。
日本ではexcite Japanを伊藤忠が立ち上げたんですが、住商とJ:comがExcite@Homeと1999年に@Home Networksの日本法人にあたる@NetHomeというジョイントベンチャーを立ち上げ、僕はそこにスタートアップメンバーとして入ったんです。
最初の仕事が北米で動いているバックエンドシステムを日本で立ち上げるというのと、J:comのインターネットサービスの立ち上げでした。それから2年後くらいにITバブルが崩壊して本社が潰れちゃったので、色々なオペレーションをテイクオーバーさせるために海外のプロダクトを引っ張ってきて日本仕様にカスタマイズするようなプロジェクトを、いくつか中心になってやらせてもらいました。

輸入したスマートホームのプラットフォームが注目され、新会社設立のきっかけに

長谷川: どういう経緯でIoTに関わるようになったんですか?

新貝: J:comでは、エンジニアでありながら海外のプロダクトをもってきて日本で新規事業を立ち上げるということを7年くらいやらせてもらえました。J:comのインターネットサービス、デジタルテレビサービス、VoIP型の固定電話サービスの立ち上げにすべて関わらせてもらったのですが、あまりにも忙しすぎてちょっと疲れてしまい、少し楽をしたいと思ってITや通信業界を離れようと製造業の会社に行ったんです。
そこで1年ほど経ち前線での忙しさが懐かしくなってきた頃、J:com時代に導入したカナダのソフトウェアの会社から「アジア展開したいから手伝って欲しい」という声がかかったので、一念発起して個人事業主になってそこと契約し、営業活動や日本法人の立ち上げをやりました。そのときのお客さんが、東急電鉄グループのイッツ・コミュニケーションズ(イッツコム)だったんです。それがきっかけでイッツコムから「うちに移籍してくれ」と言われ、2011年にイッツコムに入りました。

長谷川: なるほど。そこからコネクティッド・デザインに?

新貝: はい。最初はイッツコムの事業としてやっていたんですけど、なかなかスケールしにくくて。あるとき、スマートホームのプラットフォームで世界最大手だったiControl Networksという会社を日本に引っ張ってきたんです。それが日経の一面に出たんですよ。「東急グループがアメリカ最大手と提携してスマートホームの事業を立ち上げる」って。それをきっかけに色々な会社から問い合わせが入るようになり、その中にニフティがありました。一緒に会社を作りましょう、という打診があって、それでニフティとイッツコムと東急電鉄でコネクティッド・デザインという会社を作りました。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第58回 株式会社大都 代表取締役 CEO 山田岳人さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第58回のゲストは、「DIY FACTORY」ブランドでDIY関連用品のオンライン販売と店舗運営を手がける株式会社大都の山田岳人さん(代表取締役 CEO)です。会社を立て直した波乱万丈の経緯やDIY用品業界の課題、東急ハンズとのコラボの可能性など、様々な話題で盛り上がりました。

DIY FACTORYと東急ハンズが組む可能性は?

長谷川: 山田さんと初めてお会いしたのは、「アドテック関西」ですよね。

山田: そうそう。その時は確か、長谷川さんと今オイシックスにいる西井さんとか、何人かの方がパネルディスカッションをされていて、僕はたまたま会場で聞いていたんです。そしたら、僕のことを知ってくれていたみたいで、「ちょっと話して」って、いきなり壇上に上げられたんですよ。

長谷川: 僕はその前から、大都さんのこと気になってたんです。それで、会場になんか見たことある人いるなと思って、名札をジーっと見たら「大都」って書いてあったから。

山田: 初めて会ったのに、無茶振りです(笑)。

長谷川: 東急ハンズって、DIYのイメージが強いんですよね。それで僕も、モノタロウさんとか御社のDIY FACTORYとか、(DIY商品のオンライン販売をやっている会社を)よく見ていたんです。一時期、通販事業部長をやっていた時代もあって、大都さんのような会社を買収したいな、と思ってたんですよ。

山田: そうでしたか。

長谷川: もう、自分たちだけでやってる場合じゃない、同じ志のあるところと組んでいけばいいと思ってたんですね。ちなみに、ほんの数週間前、このIT酒場放浪記に来られたのがカインズの土屋さんで……。
(注:大都さんとカインズさんは、2017年に資本・業務提携しています)

山田: マジで!?(笑)

長谷川: 僕も業務提携のことを知ってたから、土屋さんに「今度、大都の山田さんも来るんですよ」と言ったんです。そしたら、「ジャックか! ジャックが出るなんて超嬉しいわ」みたいな感じで、自分のことのように喜んではりました。

山田: そうか、スマイリーと対談したのか……。僕らの会社は全員イングリッシュネームで呼ぶんですよ。僕はジャックで、誰も社長って呼ばない。で、パートナーさんとか社外取締役にもそういう名前を付けるんです。土屋さんはスマイリーです。

長谷川: 確かに、土屋さんはスマイリーという感じがする。

山田: 本人が決めたんですよ。

長谷川: そのときも、僕が大都さんのことを狙っていたという話をしたんですよ。カインズさんが先に業務提携されたんで、悔しかったと。そしたら土屋さんは「ハンズさんも一緒にやったらいいと思いますよ。面白いじゃないですか」って。
もちろん、うちの人間がすぐ「やろう」とは言わないだろうけど、僕はDIYとかヘルス&ビューティとか、それぞれのカテゴリーでECが得意な会社さんと組むのもいいんちゃうか、という考えなんです。だから@cosmeさんなんかにも一緒にやってもらえたらいいな、と思うんですよ。
例えばDIYは御社から全部仕入れるから、DIYのオンラインは全部御社に任せる、みたいな。そういう座組は、あり得ないですか?

山田: いえ、面白いと思いますよ。

結婚の条件だったから、会社のことを何も知らずに入社

長谷川: 僕の理解だと、御社はもともとお父さんの時代にDIY関連の卸をやっていて、山田さんの代になってから「卸だけじゃ先がないから、ECでダイレクトに売るんだ」とDIY FACTORYというブランドを作ってやってきたんですよね?

山田: そうです。僕は大学を出てからリクルートという会社に行って、6年くらい営業をやっていました。学生の頃から付き合っていた彼女が、大都の先代社長の一人娘だったんです。

長谷川: え、婿養子なの?

山田: 養子ではないんですけど、「娘さんをください」と言いに行ったら、「娘をやるから会社を継げ」と言われて。

長谷川: それまでに、何回お父さんと会ってるんですか?

山田: 彼女と付き合っているときから、一緒にゴルフに行ったりしてましたよ。

長谷川: じゃあ、ゴルフやったりして、なんとなく「こいつだったら、俺の後を継がしても大丈夫やな」と?

山田: そうかもしれない。リクルートでの働きぶりとかも、多分彼女がお父さんに言っていたと思うので。
僕はもともと起業するつもりでリクルートに行っていたんです。でも、何がやりたいというわけじゃなかったので、求められて経営やらせてもらえるんなら、ということで「やります」と言って、結婚して1年後にリクルートを辞めて今の会社に入りました。

長谷川: 当時何歳ですか?

山田: 28歳。その当時は社員数15人くらいで、僕の次に若い人は45歳とかでした。

長谷川: 一般論としては、卸って未来がある業態ではないですよね。当時から「ECでやってやろう」と思っていたのか、それとも彼女が好きでしょうがないから、とりあえず結婚して会社入ってから考えよう、という感じだったんですか?

山田: 後者ですね。結婚するには家業を継がなきゃいけないという状況だったから、何をやっているかは詳しく知らずに「分かりました」と。

長谷川: 詳しく知らないのに突っ込んだということ?

山田: 当然、決算書も見てないです。求められているんだから、とりあえず行きますと。
初めて出社した日はリクルートの時のまんま、スーツにアタッシュケースで行ったら「なんでスーツで来たんや? 着替えろ」って社員さんに言われました。作業着に着替えたら「配達行くから運転しろ」と言われ、社員さんに横に乗ってもらって4トントラックを運転しました。トラックなんて生まれてこの方乗ったことないし、ミッションなんて何年も運転してないから、ずっとエンストですよ。

長谷川: 配達というのは、小売業さんへ?

山田: そうそう。それで、初日に「このビジネス大丈夫かな?」と思いましたね。配達先は、それまで入ったこともなかった金物屋さんとか普通の家だったりして、伝票の金額を見たら1000円とかです。そんなんをグルーっと配達して回る、これはどう考えても儲かってへんやろなって。

長谷川: 僕は勝手に、コーナンさんとか大きなところに卸していて、年商何百億とか何千億とか、相当やってはったのかと思ってました。

山田: いやいや、売上は当時で4〜5億、月3千万とか4千万の会社ですよ。

長谷川: マジっすか? それは想像だにしませんでした。

山田: びっくりしましたよね。「これ、ヤバイな」って。

長谷川: ですよね。

山田: だから最初はずっと、もう辞めたい、リクルートに帰りたいって思ってました。でも後継ぎとして入ったので、当時のスタッフたちが「若いのが来た」って、すごく歓迎してくれたんですよ。当時は会社の2階が先代の自宅という、「The 中小企業」です。うちの嫁さんが生まれた時に建てたビルなので、彼女が子どもの時から知っているという人ばかり。
で、僕は入社してから5年間トラックに乗ってたんですけど、もうどうにもならない、新しいビジネスモデルを作らないと、と考えていました。問屋業って、バイイング・パワーがないと安く仕入れられないので、小さいところは勝てるはずがないんです。でも、仕入先のメーカーさんとは創業時からの付き合いなので、メーカーさんとの直接口座はもっていた。これを活かした新しいビジネスモデルが何かないかと。そうしたら2001年の忘年会で、友だちから「Eコマースっていうのが、これからくるんじゃない?」と言われたんです。次の日に嫁さんと2人でパソコンを買いに行きました。

当時の社員を全員解雇して再出発

長谷川: ECは、パソコンを買うところから始めたんですね。

山田: 最初は楽天さんに出店するところから、1人でやりました。昼間はトラックに乗って、夜は商品ページを作ったりお客さんとやり取りをしたり、一生懸命やっていましたね。
最初の頃、福島県から注文がきたときにびっくりしました。問屋業としては大阪より東は行ったことがなかったのに、福島県から注文がくるなんて、ECってもしかしたらすごいことになるかもしれないと思いました。それが2002年くらいで、その頃は同業者でECをやっているところがなかったんですよ。僕ら、商品数がすごく多い業界で、ホームセンターにも、それこそハンズさんにも置いていない商品がいっぱいあるんです。だから商品登録をどんどんしていったら、ワーッと売上が増えていった。

長谷川: その頃、僕はITの仕事をしていたんですけど、インターネットに関する感度が弱くて、そっちが来るとは思えなかったんですよね。先輩に「今から勉強するならマイクロソフトのWindows Serverか、インターネットかどっちかだ」と言われて、インターネットってわけわからん、バブルちゃうの? みたいに思ってたんです。そんな頃にパソコンを買って、楽天に出店して、というのをどんどん実行していくのはすごいですね。

山田: 背に腹は代えられない状況だったんですよ。会社の収益の状況がすごく悪くて辞めたかったけれど、一応「3代目やります!」と言って入っているし、社員にも家族がいるのでとにかくなんとかしなければと。
僕らは問屋としてホームセンターさんに、定価1000円のものを500円で売りますけど、その仕入れ値は480円だったりするんですよ。だから小売をやればめっちゃ儲かると思いました。でも、リアル店舗を出すには投資が必要で、当時はとてもできない。ECなら数十万でスタートできるというので始めたんです。

長谷川: 確かにね。

山田: ところが、昼間トラックに乗って夜作業していると、大体その日に帰れないんですよ。当時ADSLだったから画像もビーっと徐々に出てくるとか、そんな時で。送り状を印刷する仕組みとかもなかったから手で書きましたし、カードのオーソリなんてファックスで確認するんです。カード信販会社に「このカード番号のこの注文がきたけどどうですか?」とファックスで送ったら「OKです」と返ってくるっていう……。

長谷川: 今じゃ考えられない……。

山田: しんどかったですけど、そこに人を充てる余裕がなくて、月商100万円にいったら1人採用しようと決めてたんです。1年半経ってその目標を達成し、近所でパソコンが得意だっていう女の子を1人採用しました。昼間、その子が僕がやりたかったことを全部やってくれるようになって、そこから売上がすごく増えました。だから、もっと早く採用すべきだったと後悔しましたね。儲かったら採ろうじゃなくて、儲かるために人を入れなあかんねんな、ということを理解しまして、そこから積極的に採用するようになりました。

長谷川: なるほど。

山田: でも、ECはいっても月何百万で、問屋事業の方の落ち込みに全然追いつかないんですね。それで2006年に先代に、「このままじゃ全員路頭に迷うことになるから、廃業させてくれ」ってお願いしました。だけど先代が「親父から引き継いだ会社だから、とにかく残してほしい、お前の好きなようにやったらいい」と言うので、当時いた社員さんたちに「もう1年やって赤字だったら廃業しますから、そのつもりでやりましょう」と言って、続けました。そして1年後に見事赤字だったんです。それで退職金をお支払いして、15人くらいいた社員全員を解雇してもう1度最初からスタートしました。

長谷川: マジで!? 情熱大陸とか、そっち系の話みたい(笑)

山田: 会社は今年で創業81年ですけど、実質は2007年にできたベンチャー企業なんですよ。

DIY業界特有の慣習がある中でビジネスモデルを転換

長谷川: 会社名はそのままで、100%EC専業に切り替えたということですか?

山田: そう。でも問屋業はいきなり止めると仕入先さんや卸先に迷惑をかけます。うちからしか仕入れないという金物屋さんもあったので、1件ずつ「あそこに行ってあげて」と同業者に渡していって、問屋業がゼロになったのは2012年です。

長谷川: せっかく売り上げがあるから、全員解雇せずに何人かは残ってもらって続ける、ということは考えなかったんですか?

山田: 詳しく説明すると、当時は赤字なんだけど粗利はあるので、赤字にならない人件費を計算して、「これだったら赤字にならないので、このお給料でいいですか?」と聞いたんです。それが大体、元の給料の半分くらいでしたから、結局全員辞めました。それは、そうですよね。
限られたリソースになったので、これから伸びる、もしくは夢のある方に張らせてくださいと、ECをやることに決めました。
結局、会社は残ったけれど問屋事業は残らなかったんですね。だけど仕入先さんは、ありがたいことに同じなんです。むしろ、当時は4億くらいだった売上が今は40億ですから、メーカーさんにとっては売上が10倍になったという感じで。

長谷川: そんな歴史があったんですね。

山田: こういう経験があって、僕は組織に対してすごいこだわりがあるんです。以前のうちの会社は、「赤字になったら廃業しますよ」って言っても、みんな定時で帰るんですよ。何十年もそうやってきたから、それが文化になっていたんですね。営業先は21時までやっていても18時で帰る。リクルートにいる頃は売るまで帰るなっていう営業をしてたから、すごいギャップがありました。その時のことは組織を変えられなかった失敗として、僕にとってトラウマみたいになっています。やっぱり組織をしっかり作らないと会社はうまくいかないんだ、というのを実体験として理解して、だから採用とか組織とかに強いこだわりがあるんです。

長谷川: 僕、DIY FACTORY以降しか知らなかったから、まさに「ジャック!」みたいな今時の会社だと思ってたけど、かなり泥臭いことを経験されてきたんですね。

山田: 業界も、昔からの慣習が根強いですしね。何もないところで急に「工具のECやりますよ!」と言っても、誰も商品を供給してくれないんですよ。新規参入しようにもメーカーさんとの新しい口座を作れない。

長谷川: どうしてですか?

山田: これまでのおつきあいをすごく気にする業界なんです。代理店がたくさんあって、そこの代理店さん経由で買ってくださいと言われるんです。例えば電動工具のメーカーのマキタさんと、直接口座を持っている代理店は日本に10社しかありません。うちはその1社で、直接マキタさんから仕入れてホームセンターさんなんかに卸していたんです。ところがマキタさんの場合、代理店は直接ユーザーに売ってはいけないというルールがあるんです。それではうちからネットで売ることができないわけです。日本一の品揃えと言っているのに、ユーザーさんにも「なんでお宅はマキタさんの商品だけないんですか?」と聞かれます。それで、5年くらい前にうちを代理店からはずしてもらって、今は別の代理店からマキタさんの商品を仕入れて売っているんです。「今まで、何百社と代理店になりたいというオファーがあった。代理店から下ろしてくれって言われたのは世界で初めてだ」と、マキタさんには言われましたが。

顧客も取引先も社員も幸せなハッピートライアングルを作りたい

長谷川: 消費者が欲しいと言っているんだから、それまでの関係を清算してでも新しいスキームを作ったということですよね。そもそも卸を100%やめてしまうとか、そういう思いきったことがどうしてできるんですか? 人間て、情とか迷いとかもあって、なかなか決断、実行できないものだと思うんですけど。

山田: やっぱりリクルートの影響は大きいと思います。あとは、全くの素人として入ったから業界の常識に疑問を抱けたのかもしれません。例えばこの業界では約束手形で支払うのが当たり前なんですよ。でも、不渡りなんかも多くて、今だから言えますけど、社長さんやその家族のところまで「金払ってくれ」と行ったこともあって、大変な思いをしました。だからそういうのはもうやめよう、と変えていきました。

長谷川: 僕は前職ではリテールのお客さん中心にやってきたんですが、仰る通り、川下のスーパーさんとかホームセンターさんとかが強いんですよね。俺たちが客押さえてるんだから、言うこと聞いてくれよ、というマインドがあって、例えば店の棚割りを仕入先に作らせるとか。
そういう点では、東急ハンズはちょっと違うんですよ。すごく仕入先さんを大事にするので、もし何かのミスで支払いが滞ったりしたときは、社内の怒りようが半端ないんです。「あり得ない! 今すぐ銀行行って払え!」みたいな感じですよ。

山田: 僕は東急ハンズさんが大好きで、取り引きはなかったんですけど、問屋やっているときには何回も営業に行きましたよ。ハンズさんには、こだわりの商品とか、どこにも置いていない商品がありますよね。
ホームセンター業界って、おっしゃるように問屋に売場づくりをさせるから、同質化するんです。ぱっと見た時にどこのお店か分からないくらい。僕もよく手伝いに行かされましたけど、そういうアンハッピーな取り引きは良くないですよね。Amazonも、カスタマーファーストと言っているけど、サプライヤーの方で泣いている人がいっぱいいるわけですよ。誰かを幸せにするために誰かを泣かせるというのは、絶対に続かないと思うんです。だから、うちの会社のミッションは「ハッピートライアングルから、健全な未来へ。」なんです。お客さんを幸せにするのは当たり前ですが、取引先さんも、うちの社員も、みんなが綺麗な三角形でハッピーになれるようなビジネスをやろうね、と。取引先さんに対して絶対に偉そうに言ってはいけないし、売り上げでも貢献しなきゃいけない。そして、うちの社員もハッピーにならないと意味がない。そういうことを、すごく言うようになったんです。後付けですけどね。ハンズさんのことを悪く言うメーカーさんはいないので、そういう意味でも、僕はハンズさんのお店をよく見ていました。

日本のホームセンターはなぜネットで店舗在庫公開できないか

山田: 東急ハンズって、オムニチャネルの走りですよね。最近はどんなことを考えてるんですか?

長谷川: 僕が考えているのはかなり単純なことで、いわゆるオムニチャネルって、インターネットを活かしてお客様の課題を解決することなんだと思ってるんですね。だから、Twitterとかソーシャルメディアが流行った時に考えたのが、店舗にかかってくる電話の課題を解決しようと思ったんです。電話のうちの7〜8割は「この商品は◯◯店にありますか?」というものなんですよ。それで在庫があるとわかったら、「届けてくれへん?」という人と、自分で買いに来る人がいる。要するに、店に行って無駄になるのが嫌やから、買いたいものがあるかどうか知りたいということなんですね。それを解決せずにTwitterでウェーイとやることに何の意味があるのか、と思って、まずは店舗在庫の公開をすることにしたんです。

山田: 店舗在庫を公開したのはいつですか?

長谷川: Twitterが出たときに、Googleでキーワード検索するみたいなのじゃなく、「こういう商品がほしい」「あるよ」とか、会話みたいなことができないかな、と思っていろいろ探したらチームラボが「僕たちできます」と言うんで、「コレカモ.net」というのを作ったんですよ。

山田: え、コレカモ.net、すごい見てた!

長谷川: 今は、スマホのアプリで各店の在庫が見られます。これからはAIとか色々あるけれど、お客さんの困りごとをなくすということをやっていこう、というのは変わらないですね。

山田: 日本のホームセンターで、そういうことやっているところはないですよね?

長谷川: そうかもしれない。スマホアプリを作る時、この辺はアメリカの方が進んでいたから聞いたら、アメリカは実数、つまり下駄を履かせないというんですよ。で、仲良くしていた無印良品さんに聞くと、その当時は下駄はかせてるって。例えば5個以上は実数で、2〜5個は残り少し、2個以下は無し、と表示するとか。無印の場合、だいたい5個くらいは在庫があるというのでそれができたわけだけど、僕らは1個とか2個しか在庫がないものがめっちゃあるんですよ。結局は店舗に迷惑をかけちゃいけないというので、下駄を履かせて、1個しかないものは無し、と出るようにしたんですけど、それは工具とかの変わった商品だと機会損失になるんですよね。

山田: 日本のホームセンターで買い物しようとすると、例えば「この金具が5個必要」というとき、あるかないか分からないけど店に行ってみるんですよね。車を駐車場に駐めて、売り場を探し回って、やっと見つけたら4個しかない。とりあえず4個取ってレジで並んで買って、もう1件ホームセンター行こう、みたいなことをしているわけです。でも、イギリスなんかはもうそうじゃないんですよね。全部在庫が公開されているので、ウェブで在庫を見てその場で決裁を済ませる。店に行くとカウンターに5個置いてあるんで、それを受け取って帰るだけです。
こんな単純なことが、なんで日本ではできないんですかと聞くと、例えば、ウェブ上では5個あった商品を、別のお客さんが買い物カゴに入れていたらどうするんですか、と。リアルタイムで在庫を管理するにしても、お客さんがカゴに入れてレジに来て、POSを通るまでは分からないから、その間のことを気にするんですね。
だけど、それで困る人がどれだけいるんですか? 海外ではそれを気にしていなくて、ホーム・デポとかも全部在庫を公開しています。商品1つ1つにタグが付いているわけじゃないでしょうから、確かにズレは起きるんでしょうけど、それを気にするよりも多くのお客さんを幸せにしたほうがいいですよね。

長谷川: 全くそう思います。日本の人って完璧主義というか、ちょっとでもアカンところがあったら、こんなものまだ出したらアカン、みたいなところがありますね。
そういう意味で、シリコンバレーと中国はヤバイと思っています。中国の人たちって、グレーなときはゴー、というところがあるから特にイノベーションの分野で先に行くんでしょうね。

DIY文化を浸透させ、日本の住環境を変えたい

山田: ハンズさんは、リアルイベントやったらいいと思うんですよ。

長谷川: 確かにね。

山田: 例えば東京ドームを借りてクリエイターさん集めたりとか、ハンズさんが今までお世話になってるような納品業社さん集めてイベントやったら、めちゃくちゃ来ると思いますよ。夏休みの自由研究をハンズでやろうぜ! みたいな企画をぶち上げて8月とかにやったら、めちゃくちゃ子供たちが来るでしょう。10万人の子供を楽しませる計画とかやったら、すごい面白いと思います。

長谷川: それはすごい!

山田: ハンズのバリューも上がるし、ハンズって楽しい場所なんだって、子供達にも思ってもらえますから。

長谷川: いいですね。店ではゴールデンウィークとか、子供向けのワークショックとかもやるんだけど、どうしてもこじんまりしちゃうんですよね。ドーン! とやるのがDNA的に苦手なんです。

山田: でもね、何年か前に大阪府の住宅供給公社と一緒に団地をリノベーションするっていうのをやったんです。実は、その時の行政の公社の担当者が元ハンズの人だったんです。ハンズにいた頃からこういうのをやりたかった、と。DIY FACTORYの大阪の一号店ができたときから知っていてくれたらしく、声をかけてくれはって、一緒にやることになったんですよ。

長谷川: へぇ、そうなんですか。

山田: 日本の住まいって、めちゃくちゃ不自由なんですよ、衣食住の中でも、衣や食って自由に選べるじゃないですか。でも、日本の住まいって自分で選ぶということができない、賃貸だったら何も触っちゃいけない、みたいな。外国の人からは、日本の賃貸の住まいって真っ白な壁紙で「病室ですか」って言われるんです。でも、もっと自由にできるはずで、そこを牽引していくのは、やっぱりリテールなんですよ。実際の小売業がそこを牽引していかないと、ECだけではたかだか数%の世界なので変えられないんです。だから、僕らがカインズと提携したのも、ここを変えましょう、ということなんです。「日本にDIY文化を浸透させる」、それだけを基本合意契約書の内容にしましょうと言って、そういう契約をしたんですね。数字がない契約書って異例なものだと思いますが。
そういうことって、カインズだけでも当然できないし、やっぱり色々なプレイヤーがそこに参加してほしいんですね。それでいくと、ハンズさんは筆頭プレイヤーなんですよ。日本のユーザーにとって、住まいを良くするお店として一番最初に思いつくところでしょう? だから、ぜひ一緒に面白いことしましょう。

長谷川: ぜひ、やりたいですね! 今日はありがとうございました。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第57回 株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第57回のゲストは、ホームセンター大手の株式会社カインズ 代表取締役社長、土屋裕雅さんです。昨年はラスベガスで行われたAWSのイベントre:Inventに自ら出かけ、年初の朝礼で「IT企業宣言」をしたという土屋さんに、今後の小売業の方向性やご自身のリーダーシップのあり方、日本の若者に対する期待などを伺いました。

昨年のAWS re:Invent参加を経て、年初の朝礼で“IT企業宣言”

長谷川: 土屋さんと初めてお会いしたのは、昨年(2017年)の11月から12月にかけてラスベガスで開催された、AWSの「re:Invent」ですよね。確か、カインズさんは8名くらいで来られていて。

土屋: そうです。

長谷川: 全日空システムズの幸重さんとかPARCOの林さんとか、re:Inventに来られていた人たちで現地で食事をご一緒したときでした。僕が驚いたのは、カインズの社長が自ら来られたということなんです。日本の会社の情シス部長とかCIOみたいな人が来ることはあっても、普通、社長は来ないですよ。
会食の翌日、AWS社が用意してくれたリテイル企業向け昼食会では、ノードストロームだとかロウズだとか、グローバルのリテーラーの人たちがいたんですけど、土屋さんがロウズのCIOにどんどん英語で質問しているのが、非常に印象的でした。そんなトップはあまり見たことがないですよ。自分の得意領域であれば別でしょうけど、ITとかクラウドに関しては、ITの担当の人に「任せた、お前聞いてこい」という人が普通ですよね。

土屋: ありがとうございます。一緒に行ったITの担当者も英語はしゃべれなくて。でも、興味が語学力とか恥ずかしさを超えてしまうことってありますよね。それに、あのときに僕が聞いていたのはITのことではなく店舗のオペレーションのことだったんですよ。そちらについては一応プロなので、聞きたいことが山のようにありました。とても貴重な機会でした。

長谷川: そうでしたか。とにかく、自分からどんどん質問しているのを見て、すごい人だな、と思いました。

土屋: でもね、re:Inventのキーノートとかを聞いていて、周りの人が「うわー、こんなサービスができるのか!」と感動していても、僕にはその感動が分からないんですよ。もともと何ができて、何ができてないかを知らないから。だから、自分でも「うわー」とか言って、感動を味わえるようになりたいと思いましたね。長谷川さんと出会ったことなんかも刺激になって、カインズにももっとテクノロジーを取り入れないとダメだな、と強く思ったんです。それで、今年の年頭朝礼では「うちはIT企業に変わります」という“IT企業宣言”をしたんですよ。

長谷川: それはまた、社員はビビるでしょうね(笑)

土屋: 何を言い出すのかと(笑) ここで飲みながら言っているのとは違って、全社員に対して朝礼で言ったんですからね。それでIT企業になるためにはどうすればいいかと考えたのですが、あまり妙案が浮かばなかったので、まずは「IT酒場放浪記」に呼んでもらおうと思ったわけです。

長谷川: SIerの方を除いて、自薦で来られるというのは初めてですよ。土屋さんから直接メッセージいただいて、「広報の人は了解しているのかな」とか、心配しました(笑)

欧米、そして中国の状況に焦りを感じる

長谷川: 年が明けてからまたアメリカで、CES(コンシューマーエレクトロニクス関連の展示会)とNRFという全米小売業協会の大会に行ってきたんですよ。CESは、初めての参加で、巨大な展示場所に、自動運転、ホームIoT、VR/ARなどすごい数の商品が展示されていて、圧倒されました。自分のスピード感がまだまだ甘かったと思うのは、「こういうことができたらいいよね」というのは、素人考えでたくさん思いつくじゃないですか。でも、それがだいたいCESにある(笑)。日本の家電量販店には、IoT家電は少数なんで、現実にはまだまだなのかと思っていたんです。ところがCESに行くと全部揃ってるんですね。「え、もう売ってるの?」みたいな。
面白いな、と思ったのは、中国の電球のOEMメーカーが自社ブランドで出展しているわけなんですけど、IoTって電気とネットワークの2つが必要ですよね。ホームIoTの場合は、自宅からwifiなどがあるんで、あとは給電方法をどうするかの問題。電球メーカーが、電球にスピーカーが一体化したものだとか、玄関口のライトにカメラが付いたものだとか、発売しているんですよ。それもスピーカーはJBLと組んでいる。そうすると、取り付け工事とか不要になるんで、ホームIoT普及の素晴らしいアイデアだなと思いました。そういうのがすごく楽しいというか……、正直に言うと焦りしか生まれなかったです。中国、米国、そしてフランスも政府あげてフレンチテックを推奨している。我々、マズイなと。

土屋: 同感です。その焦りはAWSのイベントでもありましたし、昨今の中国に対しても、すごく感じます。日本はこれでいいのかと。日本の中の小売業同士でなんだかんだ言っているのは、所詮コップの中の嵐ですよ。

長谷川: そうですよね。

土屋: 今、早稲田大学で『マーケティング戦略の実像』というカインズの寄付講座を持っているんです。半年間、色々な方を呼んで講義をしてもらうのですが、私も一番最初に少しSPAの話をしまして、口で言ってもなかなか分からないから、宿題を出したんですよ。カインズのSPAのポイントをお話した上で、「もしみんなが商品を作るとしたら、どういうものを作りますか?」という。昨日、100名以上が提出したものから優秀なものを発表しました。最優秀賞は商品ではないのですが、買い物のときにカートが後ろからついてくる、自分で持って歩かなくていい、というものだったんですね。なるほど、と思わせて、すぐにできそうだし、学生らしいアイデアです。ところが、授業の後で中国からの留学生の女の子が、「さっきの最優秀賞のやつ、中国にあります」と言ってきたんです。厳密には、もうすぐできるということだったんですが、北京で近々オープンする店が、動くカートというのを作るんだそうです。その学生はアリババに就職が決まっているという話も聞いて、いろいろと思うところがありました。こんなことやっていていいのかな、と反省しきりですよ。

長谷川: うちも少し前まで中国に出店していましたが、本当に向こうの方が進んじゃっていますね。特に決済のシステムなんかは中国に学ぶところがあります。
技術革新の具現化にしても、日本だと「グレーはストップ」みたいなところがありますが、シリコンバレー(米国)と中国は「グレーなものはGOだ」という考え方が非常に似ています。

自分に影響を与える50人に会うというノルマで、IT業界人とつながった

長谷川: 小売業としての歴史の話ですが、東急ハンズの場合、やっぱりインターネットが出てきたというのがひとつの転機になっているんですけど、カインズさんにとって、そういうターニングポイントはどこにありましたか?

土屋: 実は、僕個人の感覚で言うと去年です。やっぱりAWS re:Inventの影響が大きくて。

長谷川: そうなんですか!?

土屋: 個人的には、ですよ。もちろん現代の企業でインターネットを使わないところはほとんどないわけですが、その度合いとして「どうせやるんだったら、イノベーションを興すようなところを目指そう」という思いが出てきたのは去年で、それが今年の「IT企業宣言」に繋がったわけです。

長谷川: なるほど。re:Inventに行こうと思ったきっかけは?

土屋: 野村證券時代に身に着けた癖なんですけど、僕はノルマを決めるのが好きなんです。毎年、年間で1000km走ろうとか、映画を何十本観ようといったノルマを決めて、それを超えることで、あるべき自分に近づけたかな、と思えるので。それで去年は、50歳を過ぎたということもあって新しいことにチャレンジしようと思い、自分に影響を与える50人に会おうと決めたんです。

長谷川: 面白いですね。

土屋: 50人ということは、だいたい1週間に1人会っていればいいわけです。なんとかなると思っていましたが、年の後半にきて「このままじゃ50人いかないな」と分かってきて……。なんとか増やすには、既に知っている人たちの集まりに行っても増えない。それで、全然知らないIT系の集まりに行けば増えるに違いないということで、後半はIT系の人たちばかりに会いました。そうすると、相手によってちょっとずつ言うことが違ったりして、正直すごく混乱しています。でも1年前は混乱どころか知りもしなかったわけですから、すごく楽しいんですよ。

長谷川: なるほど。ノルマを決めたことで新しい学びがあって、それが会社の方にも影響しているということなんですね。

土屋: もちろん、以前から薄っすらとITのことは気になってはいたんですよ。知らないままCEO面していていいのかという、漠たる不安があった。たくさん人に会って、それが確証に変わったという感じですね。当社はもちろんですが、日本としてこんなのでいいの? という思いが強くなりました。

創業者と2代目の違い。創業者の目の届きにくいところだから好きにやりやすかった

長谷川: 土屋さんは、偉ぶらないというか、会話をしていても、相手が誰であってもフラットにコミュニケーションされている印象ですけど、そういう姿勢はどうやって身につけられたんですか?

土屋: 僕自身は、メインストリームではなくアウトサイダーとかチャレンジャーでいるのが好きなんですよね。
僕が社長になったのは2002年です。それまでホームセンターの売上はカインズがトップでしたが、社長になった直後にDCMという売上高が2倍くらいの会社が発足しました。そのときはショックだったけれど、チャレンジャーでいられるという意味では、却って良かったと思っているんですよ。
もうひとつ、震災の経験も大きいです。カインズは東日本に店舗が多かったので、震災が起きて88店舗をいったん閉店しました。どうやって復旧するかとか、従業員とその家族の安全をどう確保するかとか、数ヶ月の間、ものすごく集中して対応しました。その時に思ったのは、後悔はしたくないな、ということです。何かあって店をいっぺんに閉めなければいけないこともあるんだけれど、せっかくこの大人数でやっているんだから、やるべきだと思うことは、いつかではなく、今やらなければと、強烈に思ったんです。

長谷川: なるほど。土屋さんは、二代目の経営者ですよね。僕が非常に興味があるのは、創業家の会社とそうでない会社の違いなんです。単純に言うと、今の日本では、会社の方向性を大きく変えるのは創業家でないと無理なんじゃないかと思うんですよ。サラリーマン社長で、あと3年の任期だから……、みたいな人にはできないし、みんなもついていかないだろうと。御社の場合、どうですか?

土屋: それは、(創業家経営者とサラリーマン経営者は)全く違いますね。ただ、創業家の中でも創業者とそれ以外は全然違うんですよ。創業者は自分で作った人で、会社が自分そのものだから、自分で会社を潰すのもありなんです。創業者じゃない創業家の人は、創業者と同じような感覚の人もいれば、ともすると正反対に出ることもあるでしょうね。僕も、カインズがこければ死ぬな、とは思うんですが、一方で、カインズが自分の子ども、みたいな感覚もないんです。

長谷川: 二代目や三代目が創業家の人の場合と、そうでない場合もありますが、それについてはどんな違いが出てくると思いますか?

土屋: 社員から社長になる場合、やっぱり思い切った手は打ちづらいのかもしれないですね。ただ、個人のキャラクターの違いということもあって、一概には言えません。僕がラッキーだったのは、父である会長はグループの本部に出社して、カインズにはあまり来ない。すると目が届かないから、割りと好きなことができたんです。創業者というのは、その性として気になることがあったら言わずにはいられないですからね。

日本の企業はもっと手を組んでチャレンジをすべき

長谷川: 僕は今の会社に転職して入っているので、プロパーの人が言いにくいことを言うのが自分の役割だとも思っているんですよ。入社年次、過去の栄光だとか、役職上下関係なんかは僕には全く関係ないので。

土屋: 僕もそうですよ。日本の企業で、遠慮なく「違うんじゃないですか」と言えるところはなかなか少ないですよね。

長谷川: ええ。

土屋: ちょっと面白い会社がありまして、去年カインズと資本提携した「大都」です。そこでは肩書きというものがなくて、社長はジャックと呼ばれています。広報の女の子はズッキー。この間、早稲田でも話をしてもらったんですけど、最初にジャックが、後半はズッキーが出てきて、ズッキーがジャックより目立っている(笑)。まだ4年目くらいの若手なんですけどね。

長谷川: 実は僕、個人的には、大都さんの運営している「DIY FACTORY」との業務提携したいなーと思ってたんですよねー。

土屋: そうなんですか!?

長谷川: オンラインで実業をやっている企業と、オフラインの我々みたいな企業が組むのは、一番ジャンプアップできる形になるんじゃないかと思っていて。例えば、東急ハンズのDIY用品は大都から仕入れるから、代わりにオンラインのDIY部門の販売を大都に全部任せる――という形でがっつり組めばいいんじゃないかと考えていたんですよ。

土屋: いいアイデアですね。

長谷川: そんなことを考えていたら、カインズさんと業務提携というニュースを知って、「うわー、やられた」と(笑)。
大都(DIY FACTORY)の山田社長(ジャック)とはアドテックというオンライン広告のカンファレンスが関西であったときに、たまたま知り合ったんです。実は、今度の酒場放浪記に出てもらうことも決まってるんですよ。

土屋: ジャックがですか? それはすごく嬉しいな。僕、会社の事業に関連して自分ほどの情報通はいないという自負があるんです。でも、ジャックは僕より早いところがあるんですよ。だからジャックより先にIT酒場放浪記に来られたというのは、すごく嬉しいです。
僕は、うちも含めてハンズさんも一緒に組めばいいと思いますよ。

長谷川: 本当ですか?

土屋: ええ。マーケットが違うし、あまりカニバっている感じもしないでしょう。つまり、日本でそんなこと言っている場合じゃないんです。海外での激変を考えると、日本でももっと新しいことを生み出さないと。

長谷川: これは、僕個人の考え方ですが、DIYやインテリアは、ホームセンターさんやニトリさん、IKEAさんがどんどん弊社の近隣に出店される中で、厳しいんですよ。中でも、ノンブランドコモディティ商品群は、大量生産し安く消費者に提供した方がいいと思うんですよね。例えば、収納ケース、テープなどいっぱいあると思うんです。そういうコモディティで付加価値競争のない商品は、やっぱり安い方がいい。そういう商品は東急ハンズのコアな商品ではないと考えて、例えば、カインズさんから仕入れるという形で組んだ方がいいと思うんですよね。

土屋: とても長谷川さんらしい考え方ですね。

IT業界と小売業界に共通する自前主義、秘密主義の問題点

土屋: 日本の企業は、競争分野とそうでないところを分けずに、なんでも自前でやろうとするのが問題だと思いますね。例えば、日本の小売業にとってAmazonはライバルだからAWSも使わないとか……。
IT投資の中身も秘密にして、経験を共有しない。でも、競争分野でないところはもっとオープンにすれば、お互いつまらない投資をしなくて済むわけですよね。長谷川さんのすごいところは、その主役を企業の中の個々人に置き換えていっているところだと思います。それぞれの経験や失敗を明らかにする場所を作ろうというのは、コペルニクス的といってもいいくらいの、発想の転換だと思いました。

長谷川: 僕の考え方が大きく変わったのは、東急ハンズに入って、通販(EC)を担当するようになってからなんですよ。EC業界はベンチャー企業が多くて、絶対生き抜くんだという強い意思を持って勉強しあっているんですね。「小粒な俺たちがそれぞれに戦ったところで、どうにもならない。それよりもお互いに知っていることを教え合って、どんどん大きくしていこうぜ」ということを綺麗事なしにやっていたんです。そういうのに触れてから、社外の付き合いがグッと増えて、通販だけでなくITでも同じようにやり始めたんです。

土屋: ITの業界で、そんな人はいなかったんでしょう?

長谷川: そうですね。IT業界と言ってもSI業界とネット系業界に区別されるんですが、SI業界の集まりだと、「営業する側、される側」みたいになってしまうんですけど、最近は、日経イノベーターとかAWSコミュニティー(JAWS)は、テーマに沿って勉強会があるので、うまく機能していると思います。特に、AWSは、企業と大手ではないが技術力のある会社を繋げるようなことにもなっているんで、日本のSI業界(クラウド業界)もだんだんと、いい方向になっているのではないでしょうか。

土屋: 業界に風穴が空いたような感じですか?

長谷川: ええ。クラウドというのは,下克上ができる世界なんですよ。それまでは、スーパーコンピューターみたいなものを持てる大手企業にしかできなかったことを、ITスキルが高ければ所属企業の大小関係なくできるし、できるやつがスターだ、となっている。それが面白いですね。

土屋: それに逆行するような話ですが、小売業界はより秘密主義になっていっているような気がします。僕がこの業界に来て最初に入ったのはアイシーカーゴという物流会社だったのですが、当時はSEIYUだとかイオン系のカジュアルブランドの会社とか、アポを取ると快く受け入れてくれて、色々教えてくれたんです。海外の会社も同じで、ウォルマートもターゲットも、みんな喜んで物流センターを見せてくれました。それが、2000年以降からでしょうか、今は日本の企業がターゲットの物流センターを見たいと言っても、絶対見せないですね。それがSCM(Supply Chain Management)のキーだからということかもしれないけれど、そこまで秘密にする必要があるのかと。そんな体験があるので、ITでも同じ問題があるのかな、と思ったんです。

長谷川: そうですね、情報システム部も、僕らも含め、旧来のITの人が勘違いしていたのは、自社が何のミドルウエア、OSを使っているとか、サーバーが何台あるとか、セキュリティーソフト、アプリケーションソフト何使っているとか言っちゃいけないんだろうと思っていたんですよね。でも、そんなことを言ったところで売上には響かないし、関係ないんですよね。

若者が第一線の人たちの話を聞いて「自分にもできる」と思ってほしい

土屋: 大企業とベンチャーが組んでうまくいくことが少ないのも、大企業の方が一方的に良いとこ取りをしようというような姿勢があるからじゃないでしょうか。カインズは大企業というわけではないですけど、ベンチャーでないのも確かなので、大都とは良い化学反応を起こしたいですね。大都もカインズも、今まで持っていなかったようなことを生み出して、世の中にインパクトのあるようなことができたらと、本当に思っているんですよ。

長谷川: IT企業宣言をされたということですが、これからの小売業はどういう方向に行くべきだと思われますか?

土屋: 先日、イオンの岡田さんが「Amazonに学ぶべきところがあったと反省している」とコメントされているのを見ましたが、それは小売業全般に言えることかもしれません。Amazonが全て良いというわけではないですが、自分たちのお客さんがどういう人達で、何を求めているか、もう一度真摯に考え直す時期だろうと思います。

長谷川:ECに関しては、小売業のプロほど誤っていた面があるんですよね。AmazonがCDや本を売るのはみんな納得していました。あれはどれも品質が同じだし腐りもしないから、と。でも、生鮮食品は絶対ない、ファッションも試着しないで買うなんてありえない、みたいなことを小売業界の人ほど言ってたんですよ。それがもう、ドカーンとやられてしまった。だから、自分の経験からくる固定観念で判断してはいけないな、と。

土屋: 全てにおいて安泰ということはないわけですよね。いろんなことがあり得る中で、じゃあ何をするかを考えることが重要だと思います。その中で、やっぱりIT化というかテクノロジーを使うということ、特にお客さんにとって良いことは何か、アイデア合戦みたいなことになるんでしょうね。

長谷川: 小売業の中で、土屋さんが注目している会社というのはありますか?

土屋: マツモトキヨシさんとか、どんなことをしているのか興味がありますね。

長谷川: なぜですか?

土屋: アウトサイダーだからでしょうか。大手ドラッグの中では、ちょっと違う路線を取ろうとされているように見えます。
他に気になるところは、やっぱりユニクロさんですかね。

長谷川: ユニクロで注目しているポイントというのは?

土屋: 柳井さんですね。志の高さが素晴らしいな、と思います。彼について読んだ中で、柳井さんが昔、有名なSPAの企業の社長のところに行って話を聞き、「この人にできるんだったら、俺にもできると思った」というエピソードがありました。その感覚って、すごく大事だと思うんです。僕自身も、柳井さんにアドバイスをもらったことがあるんですが、もっと早く出会っていたら違ったかもしれない。
早稲田の授業も、そういう思いでやっているんです。例えば、今の学生が玉塚 元一さんに会うことによって、何か化学反応が起こればいいな、と。だから、これからの日本を背負う学生に影響を与える人たちに話をしてもらいたいと思って、僕がぜひ、と思う人に講義をお願いしているんです。

長谷川: 「俺にもできる」とどんどんやってみる若い人たちを作っていきたい、ということですか。

土屋: そうです。きっかけを早くもってもらいたい。こういう言い方が良いかどうか分かりませんが、玉塚さんの話とか、C Channelの森川 亮さんの話とか、すごいところもあるけれど、社長だから特別なんだという風に思わないで、自分と同じ人間なんだって、大したことないんだって感じてもらいたいんですよね。柳井さんだって、かなり特殊ですけれど、話をしているとすごくよく分かるところもあって、同じ人間だという気がするんです。テクニックというよりは、そういうことを感じてほしいんです。

長谷川: なるほど。僕も今日お話を伺って、御社と一緒にできることとか、色々考えてみたいなと思いました。

土屋: ええ、業界とか会社を超えて、強いものを作っていきたいですね。

長谷川: はい。今日はどうもありがとうございました。


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第56回 株式会社東急スポーツオアシス 代表取締役社長 平塚秀昭さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第56回のゲストは、同じ東急のグループ会社の経営者として懇意にさせていただいている、東急スポーツオアシスの代表取締役社長、平塚秀昭さんです。笑いの絶えないトークを通じ、従業員が楽しく仕事ができる職場づくりの極意や、新しいことに臆さず挑戦していくマインドの源泉を探りました。

シリコンバレー視察での出会いと第一印象

長谷川: 平塚さんとの出会いは確か、東急不動産グループの6社くらいの、情シス部長やIT好きな人達が、シリコンバレーに視察に行ったときですね。
平塚さんと初めて会ったのが成田空港で、うるさいおっさんがおるな〜、面白いな〜、というのが最初の印象でした(笑)

平塚: 僕も長谷川さんのこと、変なやつおるな、と思いましたよ。東急不動産グループって、真面目な人が多いのに、なんか不真面目な人がいて、僕とは違うなと(笑)

長谷川: 平塚さん、向こうに着いた時の税関みたいなところで、申告書をちゃんと書いていないみたいなことで連れて行かれちゃって……。

平塚: そうそう。僕は英語がしゃべれないんで困ってたら、長谷川さんが来てワーッと話してくれて、そしたらOKが出た。アメリカ入国の恩人ですわ。

長谷川: シリコンバレー視察中では、平塚さんがiPhoneかiPadかをよく使っていて、結構そういうの使うんだな、と意外に思ったんですよね。やたら質問もするし、ITの担当というわけでもないのに、ITに非常に前のめりな感じに、ちょっとびっくりしまして。
平塚さん、今60歳くらいですか?

平塚: そう、11月で60。

長谷川: もともとITが好きだったんですか?

平塚: 大好き。一応、こう見えても理系やから、パソコンが出てきたくらいからローンでPC買って触ってましたけど、買うよりも自分で組み立てたほうが安いんで、だんだん自作するようになったんです。東京で言うと秋葉原みたいなところで、大阪に日本橋ってあるんですよ。そこに部品を買いに行って。でも、相性があって、組み立ててもなかなか動かない。で、夜も寝ながら考えていて「せやっ!」って思いついたらバッと起きて作り出して、「動いた!」ってガッツポーズしたりして。

長谷川: それ、いつ頃のことですか?

平塚: 25〜26の時。そのうちソニーのVAIOが出て、それはソフトが入った状態で売ってたんですね。自分で組み立てて、後からソフトを買って入れるより安かったんで、そこからはVAIOを買うようになりましたけど。

長谷川: へえ。じゃあ、iPhoneが出たときは、すぐに買った方ですか。

平塚: いや、iPhoneは最近で、4Sからかな。

長谷川: もともとMac好きでiPhoneやiPadを使ってる人なのかと思ってました。

平塚: Macは昔は高かったし使い方もよく分からなかったから、順番としてはiPhone、iPad、MacBookやね。去年ひとつのOfficeライセンスでWindowsとMac両方で使えるようになって、やっとMacを使うようになりました。俺ね、スタバでMacを開くっていうのが夢やってん(笑)

長谷川: Macって、やっぱり楽しいですよね。Windowsってどこのメーカーのでも、箱を開けると黒くてでっかい電源とよく分からん説明書がついてくるけど、Macはパカっと開けた瞬間からカッコイイ。電源入れた時に「ようこそ」みたいなのを見た時の高揚感も、俺はクリエイターになるんじゃなかろうか……、みたいな(笑)

平塚: そうそう。遅まきながら、そういうところがいいもんだな、と思ってます。

不動産開発・運営からフィットネス業界への転身

長谷川: 平塚さんは元々東急不動産に入って、今はオアシス(東急スポーツオアシス)の社長になられていますけど、全然違う業種の社長になるというのはどうだったんですか?

平塚: 真面目な質問ですね。これは語ったら長いよ。
僕、もともと理系で、土木で東急不動産に入ったんです。スキー場作ったりゴルフ場作ったりの、現場監督とか色々やってました。そしたら、こんなキャラなので「運営に行け」という話になって、東急リゾートサービスでゴルフ場、スキー場、ホテルの運営をやりました。

開発業から運営業になったわけですけど、個人的には何の壁もなくて、自分の作ったものをそのまま運営するので、かえっておもろかった。こんなキャラなので、とりあえずみんなと楽しくやりましょう、という話でね。ただ、ホテル業というのは、支配人、料理長っていう偉い人がいて、徒弟制度だから下の人にはキツイという中、やっぱり風通しが悪かったんです。どうしようかなと思っていたら、東急スポーツオアシスでは、みんな“さん付け”で呼んでいるのを知りました。社長でも平社員でも、加藤さん、田中さんって呼ぶわけです。そうすると役職の壁がなくなってコミュニケーションが取りやすいですよね。

これはいいなと思って、リゾートサービスでも“さん付け”をやろうとしたんですけど、みんなが反対するんですよ。ホテル業というのは、支配人が憧れなんです。支配人って呼ばれたいがために頑張ってきて、やっとなれた時に“さん付け”じゃガクッとくる、と。料理長、板長って呼ばれなくなったらやる気なくなる、みたいな。そんなことで総スカンを食らって、結局変わらなかった。

長谷川: なるほどね。

平塚: ホテルの従業員って、「お客様、御用はございませんか?」という受け身の姿勢で動くので、発想も受け身なんです。自分らで動かない。これはおもろないなと思って、またオアシスを参考にしました。オアシスでは元インストラクターで、お客さんに対して「どこが悪いんですか? じゃあ、こうしましょう」と提案してきた社員が多いから、こうしましょう、ああしましょう、という声が出てくるんですね。あんなふうな会社にしたいな、と思っていたら、本社に呼ばれて「お前異動だ」って。「え、異動!? リゾートサービスにいたらゴルフできるのに、嫌やな」と思って「どこですか?」と聞いたら「オアシスや」と。「分かりました!」ということで、来たという感じですね。

IT化、データの可視化で、入会数の落ち込みが回復

長谷川: フィットネス事業の社長となると、もちろん勉強はされたと思いますけど、門外漢ですよね。最初はよく分からない中でも方針や指示を出して、決めないといけないというところで、どういう風にやってきたんですか。

平塚: ええこと聞くね。僕、元々はスポーツクラブ否定派やってん。サッカーやっていたので、金払って屋根の下で汗かくんだったら無料で山の中走ったらええやんけ、というタイプでした。でも、オアシスに行くことになったので、まずは「何してるのかな?」と見てみて、そしたらスポーツクラブの良いところも分かってきた。暑い日でも空調効いてるし、仲の良いスタッフが正しい指導をしてくれるし。でも月1万円ずっと払う、その継続をどうするかという話になるんやけれども……。最初はやっぱり、細かいことは言わなかったです。俺は素人だから、好きにやってくれと。
うちは会社が好きな人間が多いんですよ。ハンズもそうでしょう?

長谷川: 多いですね。

平塚: うちも、オアシス大好きで、アルバイトから社員になるやつがいっぱいいるんです。年に1回社員登用試験があるんだけど、5年連続で落ちてもまだ受けるようなやつが多い。変でしょ?

長谷川: 変ですね。

平塚: 落とす方も落とす方で、受ける方も受ける方(笑)。そんなおもろい会社で、基本的には好きなようにやってくれ、という風にしてました。
たまたま僕が入った2013年は入会が多くて業績が良かったんですよ。「なんや楽勝や、なんもすることないわ」と思ってたら、14年、15年はガンガンガンと入会が落ちていって。新店があったので、売り上げはなんとかキープ、もしくはちょっと上がってたけれど、既存店の会員数がどんどん減っていたんです。
これはヤバイと思って、IT化を始めました。

それまで入会者を増やすというのは、チラシを配る、看板を出す、たまたま来てくれた人を適当にキャッチする、という偶然の産物だったんですよ。偶然を必然にせなアカンということで、来てくれた人のデータを全部残すようにしました。前は紙ベースだったから、見学で名前書くんですけど、入会するとなったら、また名前書いてたんです。ネット入会も、ネットで入力して来店したらまた紙に書かなあかん。うっとうしいやん。そんなもの1回書いてもらったら、「あ、この前お越しでしたね、じゃあこれで」って、お客さんの負担をなくせということで、入会や見学のペーパーの申込書を全部電子化したんです。iPadで、「SalesForce」をベースにして。

長谷川: いいですね。

平塚: 電子化して、セールスフォースでデータを整理しました。でも、なんか見づらいんですね。なんとかならないかと言っていたら、ウイングアーク1stの「MotionBoard」というBIツールがあって、一気に見やすくなりました。
それまでは、入会の情報も週報でしか見られなかったんですよ。毎週日曜日に顧客管理のシステムからデータを出して、担当者がExcelで打ち込んで、月曜日に紙ベースで報告するという。それだと、今週調子悪いな、というときに間に合わへん。なんとか日報にできへんかということで、SalesForceとMotionBoardをつないで実現しました。

長谷川: なるほど。

平塚: それから、今月はどういう率でいったらいいかの予定と実績をグラフで表示するようにしました。予定より上を行っていれば勝ちでグリーン、7%以内で下回っているときはイエロー、それより下ならレッド。それを店舗ごとに1日単位で翌日には出すようにしたら、人間て面白いもんで、他の店舗のも見るんですよ。あそこの店と比べて、俺のとこまずいやん、という気になる。イエローゾーンに入ったら次の策を考えて、レッドに入った瞬間にそれをやれ、という風にしたら、ワーッと動き出して。
その仕組みは去年6月から動き出して、結局負けたのは11,12月だけ。今年に入ってからは6月は負けたんやけども、あとは全部勝ってるんですよ。

仕事は楽しいのが一番

長谷川: 「ITで見える化して良くなりました」という話はよくありながらも、ちょっとフワッとしている話も多い中、今のお話は数字的にも実績が出てるし、ITと人間の心とか思いみたいなものをうまく掛け合わせてうまくいっているのが面白いですね!
東急ハンズでも、本社が何かしろと言うよりも、店舗同士が競い合って、かつ協力し合うような、そういう土壌ができると、勝手にものすごいやっていくっていうのがありますね。

平塚: 勝手にやる方がパワー出るんですよ。こっちから、こうやれ、ああやれって言ったって、「わかりましたー」って返事だけで動けへん。それを、あえて言わないで、「ちょっとお前、イエローきてるで、どないすんねん、考えてるか?」「考えてます」「とりあえずやってみいや、別に失敗してもかまへんし、失敗なんてしれてるで」と。

以前は、今月の目標に届かないとなると諦めて、今月入ったお客さんも来月に回してたんですよ。例えば、今月95パーセントで負けてるぐらいなら、80パーセントで負けて、15パーセントを翌月に送った方が、翌月がラクだから。

今は日々の数字が分かるから、自ずと前倒ししてくる。そうすると、来月しんどいわけだけど、「今月あと3日しかないぞ。来月はまだ31日あるやろ」と。「だったら、今月に前倒しして、来月また考えた方がええやんけ」って言い出したら、どんどん遅れが減ってきまして。

長谷川: ほう。

平塚: こうなったら、社長はラクですよ。細かいこと言う必要もないし、言わんでも動きよるから無茶苦茶ラク。
するとまた、次のところに目を向けるんです。オアシスは、やっぱり入会が一番大事だから、会員数の確保のために色々やってきたわけ。それが軌道に乗ってきて、今度はスクールとかキッズのスイミングとか、そういうところの入会に目を向けられるようになりました。

長谷川: それはいいですねぇ。

平塚: 話を戻すと、スクールの内容とか、トレーニングの内容とか、そんなことは、分からないから、自由にやってくれと。大事なのは、オアシスの根源となる部分の確保を、「やらされ感」じゃなくて「やってる感」で動くようにするということですよね。それをどんどんやっていく。

1年目、2年目の話に戻ると、中身はよう分からんから、要はどうやったら仕事をしたくなるかっていう、そこじゃないですか。で、「enjoyb(エンジョイブ)」っていうのを言うようになりました。これは、enjoyとjobの造語ね。

この2つをくっつけたら、「enjob(エンジョブ)」ってなりそうですけど、エンジョイブにしたのは2つ理由があって。エンジョイ、楽しむってすごく語感がいいじゃないですか。その語感を残したいということと、ジョブとの間に”y”を残したのは、ワイワイ言いながら仕事しようやっていう意味です。

まあ、ギャグですけどね。こうやってマークも作って、パソコンに貼ったり、資料に入れて配ったりしてね。

親指にenjoybの文字をデザインしたマークを見せる平塚さん。

 

長谷川: そのステッカーは、自分で勝手に作ったんですか? 会社で作ったんですか?

平塚: 会社で。

要は楽しくやろう、と。お客さんは楽しむために来てるんやから、自らも楽しもう、ということです。でも、楽しむには、やっぱりしっかり考えて仕事せなあかん。「楽しむ」と「楽(ラク)」って同じ字だけど違うぞ、と。ラクしたらあかん、楽しむんや、ということを、最初に言いまくったんです。

まあだから、業界が違ってても、いかにスタッフが、仕事しやすいようにするかという意味で、根本は同じですよね。売り上げ上げるとかね、ギャアギャア言うのは先の話で、その前に動きやすくなれば、勝手に上がると思ってんねん。

長谷川: どの社長も、みなさんそう言うてはると思うんですね。従業員が楽しくやるのが一番事で、売り上げは後でついてくるって。ただ、「よっしゃこれええやん」って言ってステッカー作ってベタベタ貼るぐらいやらないと、やっぱり従業員って「前の社長も同じこと言うてたし……」みたいなところがありますよね。平塚さんの場合、わけのわからんダジャレをかまして本気でやってるところが、従業員に「あのおっさん、ほんまに楽しんでやろうと思ってはるに違いない」と伝わってる気がします。

アルバイトに伝わるシンプルなかけ声が気持ちをひとつにする

平塚: ほら、こんな俺の顔入りのカレンダーも作って、各店舗に貼ってます。

 

長谷川: 普通の人は恥ずかしくてやらないですよ、こんなこと。それを、やってはるのが、平塚さんですね。

平塚: ウケだけでやってんねん。けど、分かりやすいかけ声が大事だな、というのは、実はスキー場で経験したことなんですよ。

スキー場でお客さんとじゃんけん大会があってね、僕も社員としてお客さんとじゃんけんしてたんです。よく「最初はグー、じゃんけんポイ」ってやるじゃないですか。でも、おもろないと。「スキージャム」っていうスキー場だったので、「どこのスキー場行く?」というときに、「やっぱりジャムやろ」って言ってほしいなということで、「最初はグー」を「やっぱりジャム、じゃんけんポイ」にしたんです。「人差し指と親指で”J”の形にして『やっぱりジャム』ですよ。グー出したら失格ですよ」とか言って、盛り上げて。お客さんも俺のことを「ジャムおじさん」とか言い出してね。

そしたら、アルバイトがむっちゃ反応してきたんです。仕事終わったアルバイト同士で「やっぱりジャム、やっぱりジャム」って言って肩組んで歩き出して、ジャムじゃんけんやってるわけですよ。これって結構効くなと思って。単純なことでも、大勢の全然価値観の違うアルバイト陣が、ひとつになれるわけですよね。だから、かけ声大事やなと思って。

長谷川: へぇ。

平塚: オアシスもアルバイト多いんです。アルバイトさんの力で動いてる会社って、アルバイトさんが来なかったら終わりやし、アルバイトさんが勝手な行動に移ったら終わりやから、なんとかこう、少なくとも会社に目を向けてもらわなあかん。そうしたときに、「我が社は売り上げ◯◯で、今後日本のために、どうのこうの……」って言ったって、絶対来ないでしょ。一言でなんか言わないと。最初は、「楽しくなければ仕事じゃない」って言ってたけど、やっぱり長いから、「エンジョイブ」を考えて、これをオアシスでバーっと広げました。短く分かりやすくて、ギャグにもなる。一石二鳥ですよ。

大企業より中小企業の社長の方が楽しい

長谷川: オアシスでは、日本で初めて「AppleWatchをつけて泳いでもいいですよ」としたんですよね。専用のシリコンのカバー用意して、泳いでる人に当たっても大丈夫なような対策をしながら。僕はそれを記事で見たときに、やっぱり平塚さんのApple愛って相当やな、と(笑)

平塚: Apple愛というか、やっぱり「日本初」ってやりたいじゃないですか。世界初はなかなか難しいからね。

長谷川:  日本人って、ちょっとしたリスクを取るのを嫌がる人が多いですけど、「日本初」で喜ぶというこのマインドがいいですよね。前例がないからやる、と口ではみんな言うと思いますけど、ほんまにやる社長ってやっぱり少ないと思います。

平塚: みんな、考えすぎなんですよね。僕は考える前に動いてるから。それがエンジョイブなんですよ、考えて考えて、やっぱり危険があるからやめようかって、それおもろないやん。だったらやってみて、極端な話、何か事故があったら止めます、それでええと思う。所詮そんな大きな事故にならへんわけで、せいぜいクレームでペケが付くくらい、全然OKでしょ。

長谷川: ベンチャーの人っぽい発想ですね。大会社、大グループの人は、なかなか思っててもチャレンジしない人の方が多いですよね。

平塚: 俺は、大手の会社のトップとか執行役員とかにはなれないね。もっと規模が小さくて、パンパンパンっていく組織の方が向いてると、最近常々思うんですよ。やっぱり東急不動産の時に周りを見ていると、「ここがダメ、あれがダメ」って否定する言葉が多かった。それって面白くないんですね。これやってみたらおもろいちゃうんか、やろうやって言ってできるのは、オアシスぐらいがちょうどいい。

長谷川: 僕もそうですね。

平塚: 僕、いつもおもろいか、おもろないかで考えるけども、大手の社長っておもろいんかどうかで言ったら、わかれへんよ。世間からいっぱい注目されてて、業績あげなあかん、だからいろんな事故起きてるよね、粉飾とか。あれって、世間の期待に応えるためという、自分の意思とは違うところでやってるので、絶対面白くないよね。給料は違うかもしれないけど、そんなに注目を浴びない小規模のところで、好き勝手に切った張ったやった方が絶対面白い。

長谷川: 今のはすごい真理ですね。平塚さんは大グループの中と、今の立場と、両方経験されてそれを実感されたんだと思いますけども。

僕が大好きな情シス部長で、エレベーターのフジテックという会社の友岡さんっていう人がいるんですけど、彼は年商2000億以上の会社にいったらあかん。何もおもろない、と言っています。友岡さんは、パナソニック、ファーストリテイリングという大会社を経て、今フジテックなんですけどね。2000億以上の会社のCIOになったところで、なんにも動かれへん。なんかちょびっと言ったところで、全然下に響かないし、すぐ動かへんから、面白くないと。

平塚: うん、分かるわ。

社長は役割。立場が変わっても自分は変わらない

長谷川: あと、平塚さんがすごいのは、中小企業といっても300人規模の会社で、アルバイトさんにそこまで近づく社長ってなかなかいないですよ。

平塚: 俺は、「社長ってみんな偉いと思うてるやろ? ちゃう。役割やねん」って言ってます。いろんな部署があって、それをどう動かすかということを指示する役割というだけで、偉いからなってるんちゃう、とみんなに言うんです。だから、役職で呼ばないで”さん付け”。

長谷川: ここはいろんな勘違いの部分で、社長というのはエリート街道をやってきたすごい人、みたいなイメージで見られますよね。平塚さんは、そんなの関係ない、と。普通の人間同士として喋って何が悪いんや、ということですよね。
でも、社長の中には、自分はできる人間を演じないといけないとか、できる人間じゃないと下はついて来ないっていうような、プレッシャーとか思い込みがある人も結構多いと思うんですけどね。

平塚: 立場が変わったら、自分もそれに合わせて変わらなあかんっていう人もいるでしょ。でも、僕は逆に変わりたくないし、変わろうと思ってないし、そのまんまでええと思ってるので。所詮平塚って、こんな人間なので、こんな人間を社長にして間違ったらいつでもやめたらええやんけって、思ってるぐらいなんですよね、自分の立場が変わったことによって、自分のキャラを変えるつもりは全くないし、社長やからって偉く振る舞わなあかんとも思ってない。

長谷川: なるほど、それが平塚スタイルだと。

平塚: そう、平塚スタイル。

長谷川: なるほどね。僕はこう見えて、場面によって変わるというか、周りの期待に合わせちゃうようなところはあるんですよね。

平塚: そうなんや。見えへんね。

長谷川: 見えへんかもしれないですけど、色々考えてるんですよ(笑)。そういう意味でも、平塚さんは面白いな、と。
いつも仲良くしていただいているんですけど、今日は普段より真面目な話をたくさんさせていただいて、勉強になりました。これからもよろしくお願いします!

平塚: こんな話で良かったんかな? どうも、ありがとうございました。