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連載!中国の小売・サービス事情vol.7【マーケター向け】中国視察の前に準備しておくべきこと

連載!中国の小売・サービス事情vol.7【マーケター向け】中国視察の前に準備しておくべきこと
「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

世界を代表するモバイル先進国になった中国。「シリコンバレーの次は中国だ」と、中国へ視察に来る日本のマーケターが増えている。

  • スマホ決済を使ってキャッシュレス社会を体験してみたい
  • 話題のシェアバイクに乗ってみたい
  • 無人店舗を見てみたい
  • 顔認証システムを試したい
    等々、凄まじいスピードで生み出される中国発のサービスに興味を持っている人は多いはずだ。

しかし、事前準備がないままに中国へ来ても、多くのサービスは自分自身で体験することができない。 基本的に中国の多くのサービスは、まだまだ「中国人のため」「中国に住む人のため」に設計されているので、外国人の出張者・旅行者がそのサービスを教授することは難しい。せっかく中国まで来たのに、使っている人を見るだけ、コーディネーターに教えてもらうだけで終わってしまう。
そんな方々の為に、今回は中国へ視察に来る前に準備しておくべきことをまとめてみたい。視察目的でなくても、短期出張で中国に来る人にも参考になると思うので是非確認いただきたい。
以下に日本人マーケターに立ちふさがる中国の壁を挙げていく。

壁① グレートファイヤーウォール

ご存知のように、中国は「グレートファイヤーウォール」のもと、インターネットの世界ではことごとく外資を閉め出している。VPNを使わなければ、日本で一般的に使っている殆どのサービスは中国で利用できない(注)。
(注)日本のスマホでも、現地でローミングするならば利用可能
これまでも中国でGoogleが使えないことは有名だったが、2017年9月には、現地日本人の多くが使っていたYahoo!の検索サービスが急に使用できなくなり、日本人の間で話題になった。2017年に施行された「インターネット安全法」の絡みとか、10月に実施された共産党の党大会(19大)を控えての言論統制とか、色々な噂が囁かれた。
グレートファイヤーウォールは中国製のサービスを利用するには問題ないのだが、日本人マーケターが中国に来てからアプリの使用方法を調べたり、中国から日本の会社・友人と連絡を取り合おうと思っているなら、対応は必須である。
そもそも、AndroidユーザーならGoogle Playにもアクセスできないので、中国ではVPNがなければアプリの追加もできない。
【参考】VPNが無ければ中国では使えないサービスの一例(※筆者確認分)
Search … Google,Yahoo
SNS … Facebook,Twitter,instagram,Pinterest,Tumblr 等々
Messenger・Mail … LINE,Facebookメッセンジャー,Gmail,WhatsApp 等々
Video・Audio … Youtube,AbemaTV,netflix,Tuneln Radio 等々
Map … Google map
Cloud … Dropbox
Others … naverまとめ,2ch,アダルト全般,Pokemon GO,MarkeZine,livedoorドメイン,Slideshare 等々
上記以外にも、SNSアカウントでログインするようなサービスもVPNが無ければ使えないし、一般的なWEBサイトを見るだけでも、サイトにSNSのシェアボタンが貼り付いていたりすると見辛かったりする。自身のこのはてなブログもVPNが無いと開きづらいのが実情である。

まとめ:VPN付きモバイルルーターの携帯は必須

壁② アカウント登録に必要な中国携帯

もはやスマホ無しでは生活できない中国にとって、スマホ・携帯電話はほぼ身分証の代わりになっている。銀行口座を作るにも携帯電話番号が必要だ。
その為か、何か新しいサービスを使おうと思うと、まず携帯電話番号を入力させられることが多い。日本や欧米のサービスだと、メールアドレスやSNSアカウントがIDになることが多いが、中国のサービスは異なる。携帯電話番号がIDになっていることが多い。
電話番号を入力すると、確認の為にSMS(ショートメッセージ)で承認番号が飛んでくるので、その承認番号を入力すればID登録が完了するという流れだ。
下記は、私が中国に来てから登録したサービスの一部だが、いずれもID登録は同じ仕様になっている。

携帯番号の入力が必要なID登録画面

ここで国番号を選んで、日本の携帯電話番号で登録できたら何の問題もないのだが、サービスによっては中国の携帯番号にしか対応していないものがある。いや、むしろ中国携帯にしか対応していないサービスの方が多い。

かつては、外国人でも街の露天商等で簡単にスマホ・携帯(※中国はハードとキャリアを別々に購入・契約する事が多いが、ここではキャリアの意)を購入できたらしいが、今は身分証としての役割が大きくなっているので、スマホ購入にはパスポートの登録が必須になっている。言葉の問題もある上、時間も掛かるので、短期の出張者・旅行者がこの為だけに中国携帯に加入するのはかなり面倒である。
そうなると、出張者・旅行者にとって代替手段はなく、海外の携帯電話にも対応しているサービスしか利用できないのが現実だ。
【参考】海外携帯への対応状況(※2017年12月時点での筆者確認分)

主要サービスの海外携帯対応状況(※筆者作成)

【参考】WiFi使用にも中国携帯必須の場合あり

壁①でVPN付きモバイルルーターを必須アイテムに挙げたが、「ネットワークさえあればVPNはなくても良い、中国はどこでもWiFiが整備されているのでしょ?」という方もいるかもしれない。 たしかに様々な商業施設・飲食店等でWiFiは完備されているのだが、このWiFiを利用する為にも、ID登録で中国携帯番号が必須になっているところも多いので要注意である。

【参考】中国App Storeからもダウンロード必要な場合あり

上記サービスのうち、海外携帯にも対応したサービスは大抵日本のApp Store(※Google Playは未確認)からダウンロード可能だが、一部、中国のApp Storeでないとダウンロードできないものも存在する。詳細の方法は割愛するが、Apple IDの「国または地域」を変更して、事前に準備いただきたい。
参考:【iPhone・iPad】日本に無い海外のアプリをダウンロードする方法 | あびこさん@がんばらない

まとめ:日本のスマホでも登録可能なサービスか事前に確認しておく

 

壁③ 中国の銀行口座

中国視察において、恐らく最もニーズが高いのがスマホ・モバイル決済ではないだろうか?3つ目は、この決済に関する壁である。
「Alipay(支付宝)」或いは「WeChat-pay」を使って世界最先端のキャッシュレス社会を体験したいと思っている人は多いはずだ。しかし、日本人がAlipayとWeChatのアプリをダウンロードして中国にやってきても、そのまま支払いに使うことはできない。
また、Alipay・WeChat-Payが使えないという事はそれ自体の問題に留まらず、Alipay・WeChat-Payはオンライン上で支払いが発生する様々な有料サービスの決済プラットフォームになっているので、ベースとなるAlipay・WeChat-Payが使えないと、その他多くのサービスも利用できないということに陥ってしまう。
以前『中国でモバイル決済が普及した本当の理由』で記したように、中国のスマホ(モバイル)決済の特徴は、日本のスマホ決済のように、クレジットカードの清算プラットフォーム上で稼働していないということだ。日本のように、例えば店頭ではOrigamiを使って支払いするが、請求は自分がアプリに紐づけた◯◯カードから来るというような仕組みではない。アリババやテンセントが自ら消費者・小売・銀行と繋がって金の出し入れをおこない、消費者の「支払い」から「清算」までを一体運営している。
日本のスマホ(モバイル)決済と同じような感覚で、Alipay・WeChat-Payに日本人が普段使っているクレジットカード(VISA、Master、Amex、JCB等)を紐付けようとしても、今のところ中国での支払いには使えない。Alipay・WeChat-Payで支払いをおこなうには、原則、中国の銀行口座が必要になる。
では、出張者も中国の銀行口座を作れば良いじゃないかということになるが、現状、外国人にとって中国での銀行口座開設は非常に難しくなっている。
経済成長と共に中国では、他人名義の口座を利用した金融犯罪やマネーローンダリングに絡む事件が増加したり、スマホ(モバイル)決済の普及によって資金の流れが不透明になったことなどを背景に、2016〜2017年に掛けて、個人口座の開設等に関わる規制が大幅に強化された。
結果、外国人の口座開設・口座保有に関わる銀行手続きも厳格化され、口座開設申込時には、パスポートの他に中国に住所があることを示す「居留許可証」、連絡先となる「携帯電話番号」が必要となった。つまり、中国内に登記住所のない短期出張者・旅行者は、原則、口座開設ができなくなった(注)
https://www.ncbank.co.jp/hojin/asia_information/chuzaiin_news/pdf_files/shanghai_201707.pdf
(注)地域や銀行(或いは担当者)によって、ルールの遵守レベルが異なるらしく、居留許可証がなくても口座開設できたという声もあり。私が2017年3月に上海の「中国銀行」で開設した際は、居留許可証・携帯電話番号の両方が必要であった。
いずれにせよ、出張者には言葉の問題・時間の問題もあり、携帯電話同様にわざわざ中国の銀行口座を開設することが難しいことには変わりない。
では、出張者は、中国のスマホ決済を全く使用することができないのか?
Alipay・WeChat-Payの使い方には、①中国の銀行カードとアプリを紐付け、登録した銀行カードの口座から即座に引き落とす、②プリペイドカードのようにアプリ内に事前にチャージ(友人からお金を受け取る or 自分の銀行口座からお金を移す)した金額から支払う、この2通りがある。
このうち、②の方法で、既にAlipay・WeChat-Payを使っている友人から送金してもらうなどして、事前にAlipay、WeChatに事前にお金をプールしておけば、その範囲内では決済が可能である。プリペイド方式で使用するということである。
この方法なら、日本からの出張者でもスマホ決済を使用することが可能だ。それぞれの手順は下記の通り。

WeChatの場合

(1) ウォレットを有効にする
まず最初の作業は、WeChatに「WeChat-Pay」の機能を出現させることである。日本でダウンロードしたWeChatには、WeChat-Payのメニューが存在していない。正確には存在しないのではなく、メニューが隠されている。
有効にする方法は一つ。既にWeChat-Payを使っている友人からお金を送ってもらうのである。この時は1元でもいくらでも良い。送金されたメッセージをタップして確認ボタンを押すと、お金の受け取りが可能である。

お金を受け取ると、WeChatの初期時点の画面にはなかった「ウォレット」のメニューが出現する。これでまずWeChat-Payが使える環境が整った。

(2) 本人認証
次が本人認証である。上記画面の「ウォレット」を選択、遷移後のウォレットのメイン画面(下記左の画面)で右上の「•••」をタップ、「支払い管理」を選択して、アカウントの登録画面(下記右の画面)へ。
「実名認証」を選択して、本人のID確認をおこなう。クレジットカードもしくはパスポートでの確認が選択できる。クレジットカードの場合は、日本で使っている普通のクレジットカードを登録すれば良い(※一部対応していないカードあり)。
ここでのクレジットカードの登録はあくまで本人確認の為のもの。そのクレジットカードを使って、WeChatで支払いをすることは現状できない。

あとは、パスワード6桁の登録等をするだけである。
※2018年1月22日追記:WeChatの仕様が変わったようで、先に本人認証が終わっていないと友人からのお金の受け取りもできない模様。
送金受け取り時に下記画面が表示されたら「添加銀行卡」を選んで、入力画面で日本で使用しているクレジットカードの番号を入力(「銀行卡」と書かれているが、一般のクレジットカードで登録可能である)。これで本人認証が完了するので、(1)のお金の受け取りが可能になり、次は(3)へ。

(3) お金のチャージ
最後が、自身のWeChat-Pay(=ウォレット)へのお金をチャージだ。中国の銀行口座を持たない日本人がチャージする方法には、現状下記2つがある。
①友人から送金してもらう
先のWeChat-Payを有効にした時と同様に、友人に送金してもらう方法だ。これは中国に入ってからでも良いので、現金を友人に渡して、その金額分をそのまま送金してもらえば良い。送金手数料は掛からないので、中国に友人がいない人でも、コーディネーターや通訳・運転手、場合によってはホテルのスタッフに頼んでもやってくれるかもしれない。
②「ポケットチェンジ」を使ってチャージ
もう一つは、2016年に登場したサービス「ポケットチェンジ」を使用する方法だ。もともとポケットチェンジは、海外旅行で余った外貨を電子マネーや各種ギフト券に交換できるサービスだが、この交換先にWeChat-Payが選択できるようになっている。これを使えば、日本円から直接、元建てのWeChat-Payにチャージすることが可能である。
ポケットチェンジHP
設置場所も徐々に増えており、空港だと羽田空港国際線ターミナルや関西国際空港、千歳空港など、街中では東京だと歌舞伎町、大阪だと大丸心斎橋店にも設置されているようなので、詳しくは下記オフィシャルサイトで確認いただきたい。
(4) WeChat-Payを使って支払い
これで準備は整った。後は、街中至るところで使用可能なWeChat-Payを使うだけ。WeChat-Payでの支払い方法については、既に様々なサイトで紹介されているので、ここでは割愛させていただく。

Alipayの場合

Alipayも基本的に登録方法は同じである。但し、WeChatとは異なる点がいくつかある。

  • WeChatのようにメニューが隠されていることはないので、(1)の作業は不要。
  • 本人認証の方法はパスポートのみ。
  • 「ポケットチェンジ」は今のところ(2017年12月)Alipayには対応していないので、チャージ方法は、既にAlipayを使っている友人から送金してもらうしかない。※AlipayにもWeChat同様に友人とのコミュニケーション機能があるので、それを使って送金してもらう。

友人とお金をやり取りするには、たしかに「コミュニケーション」をベースとしてスタートしたWeChatの方がスムーズだが、実際の肌感覚としては、Alipayを使って支払いをしている中国人の方が多いように感じる。

まとめ:Alipay・WeChatは友人他から送金してもらえば使用可能

 
(参考)Alipay・WeChat-Payがなくても支払いできるサービス
前述の通り、中国の有料オンラインサービスの殆どは、AlipayかWeChat-Payでないと支払いができないのだが、たまに日本人が使っている一般的なクレジットカードでも支払いができるサービスがある。
壁②で記載した海外携帯にも対応したサービスの中で言えば、日本にも進出済みの「Mobike」、タクシーの配車アプリ「DiDi」は、クレジットカードで支払いできるようになっている。つまり、中国の携帯電話も、中国の銀行口座も持たず、Alipay・WeChat-Payの準備をしていない出張者であっても、MobikeとDiDiなら使用することが可能ということである。

 

結論

①〜③まで3つの壁を挙げたが、実は日本人(外国人)が中国のサービスを使う時に立ちふさがる壁にはもう一つある。
それは「身分証明証」だ。サービスのID登録の際、外国人にとっての身分証明証である「パスポート」や「クレジットカード」を認めず、中国人が保有している「身分証明証」しか認めていないサービスがいくつかある。詳細は割愛するが、こういうサービスだと、外国人にはどうやっても使用できないということになる。
いずれにせよ、最後にもう一度まとめると、
①VPN付きモバイルルーターをレンタルして、
②海外の携帯でも登録可能なサービスを事前に確認し、
③友人他から送金してもらってAlipay・WeChatにチャージしておく
これらの準備をしておけば、主要な中国のサービスは自分自身で体験することができる。
「Alipay」「WeChat」のスマホ(モバイル)決済を使って世界一のキャッシュレス社会を体験し、「Mobike」に乗って街中を観光してまわり、アリババが出資して話題のスーパー「盒馬鮮生」で買い物して、帰りは「DiDi」でタクシーを配車してホテルに帰る、こんな視察ツアーが体験できるはずである。
転載元:【マーケター向け】中国視察の前に準備しておくべきこと 2017/12/31掲載

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