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【連載!中国の小売・サービス事情vol.13】中国人が年収200万円でもポルシェを買える理由


「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

昔の中国のイメージしかない日本人が上海に初めて来て一番驚くのは、豊かになったその生活ぶりだ。近代的な高層ビルの数々に高級車が行き交う街並み。上海ではポルシェをはじめ、マセラティ、ジャガー、レンジローバー、メルセデスベンツ、BMW、テスラなど本当に数多くの高級車を見かける。ポルシェにとって世界最大のマーケットは中国であり、その中でも最も売れる都市が上海だそうだ。

一方、彼ら中国人の給与事情はどうか?データの取り方で大きく変わってくるが、2018年の上海の平均年収は約10万元(約160万円)と言われている。毎年給与は上昇しているが、それでもまだ日本の平均の400万円強とは大きな開きがある。もちろんあくまで平均なので職種によって大きく異なるし、中国人は本業とは別に副業している人間も多い。だが、それでも給料ベースで1,000万円以上もらっているような人はまだまだ少ないのが実態である。

では、なぜそのような給与でこのような高級車が買えるのだろうか?車が安いわけではない。むしろ日本より高い。さらに現在、上海などの大都市は車の台数を制限している為、新規でナンバープレートを早期に取得しようと思えば、車両代とは別に100万円以上のお金も必要になる。

それには不動産価格の上昇と、中国語で「動遷(ドンチエン)」と呼ばれる不動産開発に絡む立ち退きが大きく絡んでいる。中国に住んだことのある人なら必ず一度は耳にしたことがある類の話だが、今回はこの仕組みについて紹介したいと思う。

上海の富裕層の割合

まず、現在上海にはどれくらいの富裕層がいるのか?「Hurun Wealth Report 2018」によれば、600万元(約1億円)以上の資産を保有している家庭は上海で59.4万戸とのこと。仮に1家庭が3人家族とすると約180万人。上海の人口は2018年で約2,400万人なので、実に上海の7.5%の人が資産1億円以上の生活をしていることになる。

[出典]速递:2018年中国高净值家庭财富报告 发布_资产

では日本はどうかと言うと、野村総合研究所が2018年に作成した「2017年の純金融資産保有額別世帯数と資産規模についての推計」に寄れば、資産1億円以上の世帯は日本全国で118万世帯あるらしい。これは日本全国の数字なので上海のそれとは比較できないが、仮に半分が東京圏とすると上海と同じ約60万世帯。東京圏の人口は約3,500万いるので、その比率は上海の方が高くなる。

格安で不動産を手に入れた都市部の住民

中国で富裕層が増えた理由として、もちろんビジネスで成功して富を築いた人も少なくないが、最も大きな要因になっているのが不動産価格の上昇だ。但し、それには中国特有の不動産の歴史を認識する必要がある。

1949年の建国から1980年前後までの計画経済の時代、中国の都市部の大部分の住民は企業から提供された「社宅」に住んでいた。都市と農村では事情は異なるが、ここでは都市部の話に限定する。工業生産を重視する社会背景の中で都市部に生まれた数多くの国営の大型工業企業は、大量の労働力を都市に集中させた。その膨大な労働力をコントロールするために整備されたのが社宅である。

[画像出典]再来晒晒曹杨新村老照片(哈啦哨编辑) – 欢网2011的日志 – 网易博客

社宅は医療や教育と同様に福利厚生の一環として考えられていたので、家賃は非常に低価格に抑えられ、一説には世帯収入の1.4%前後とも言われている。どんな家に住めるかは所属する企業、企業内での職位、勤続年数、家族構成などに応じて決められた。社宅は会社の敷地内にあるのが普通で、役所や有力国営企業ほど街の中心部にあることが多かった。これが後に大きなポイントになる。

しかし、この社宅政策はその安すぎる家賃等が原因で、建設投資の回収はおろか維持費さえ賄えきれず、その不足を補っていた国の財政はどんどん逼迫されていた。その状況を打開すべく、1978年の改革開放の流れを受けて着手されたのが住宅制度改革である。

従来の福利厚生としての住宅実物分配をやめ、住宅補助の形式で賃金にその枠を設けて、企業が補助を行う方式へ転換された。そして、土地や建物の所有権と使用権を分け、不動産の所有権は国家にあるが、その使用権については個人や法人に帰属することを認め、その売買や貸借も認めた。この住宅制度改革は1980年代から約20年かけて緩やかに広がっていった。

住宅制度改革の具体的な取り組みににはいくつかあるが、最も大きな影響を与えたのが90年代に入って行われた社宅の払い下げだ。従業員に提供していた社宅の使用権を譲り渡すというものである。社宅の払い下げも福利厚生であり、従業員の職歴や勤務年数に応じて、大幅に割り引かれて販売された。最初は所定の手数料を支払い、自分名義に書き換えるだけというごくごく簡単なものだったようだ。払い下げ後、一定期間転売は禁じられていたが、1994年上海市が全国に先がけて許可した。

このような流れを経て、中国の大都市では社宅に住んでいた数多くの人が格安の値段で、都市中心部にある不動産のオーナーになるという状況が実現した。

[参考文献]
中国人が豊かになったメカニズム – 中国風
上海における住宅制度の転換と住宅市場化-住宅開発に着目して
中国都市住宅制度改革により更新された社宅団地の居住者要求と住環境計画に関する研究

高騰する不動産価格

わずか20〜30年前に格安で手に入れた不動産がその後どうなったか?

下記は1999年からのデータだが上海の状況を見ると、20年ほど前は1平米3,000〜4,000元(約48,000円〜76,000円)だったものが、2016年には約25,000元(約40万円)、実に8倍以上の価格に上昇している。これは上海全体の平均なので、市内中心部に限れば、その上昇率はもっと高くなる。

[出典]中国:上がり続ける不動産価格と政府の土地依存

下記は不動産のサイトで見た上海各地区の中古物件の情報だ。上段が物件数、下段が1平米あたりの平均価格を表している。

1平米7万元〜10万元の値が目につく。中国の不動産物件の面積の記載方法は、共用部分を含んだ面積で表示するので、部屋の実効面積はその70〜80%ほどになる。

つまり、例えば1平米7万元ほどの上海の市内中心部で、70平米(実際は100平米ほどが必要)の部屋を中古で買おうと思えば、低く見積もっても 7万元/1平米 × 100平米=700万元(約1億1200万円)もの金額が必要になるということだ。

具体的な物件を見てみよう。これは地下鉄2号線と3・4号線が乗り入れる中山公園の駅前の物件。

中山公園とは日本人の駐在員も多く住んでいる便利な場所だが、決して高級住宅街という雰囲気の街ではない。東京で言えば上野くらいのイメージだろうか。その街にある156平米(実質は110〜125平米)と広めの部屋だが、2000年築の物件。私もこのマンションを知っているが、外観は決して豪華な作りではなく、ごく普通のマンション。それが1,260万元(約2億円)である。

これは決して極端な例ではない。これくらいの価格の物件は上海市内を見渡せば普通に存在する。近年はやや落ち着きを見せ出しているとはいえ、異常な速度で高騰したのが上海の不動産事情である。

富を生み出す動遷の仕組み

格安で手に入れた家が、わずか十数年で価格が急激に上昇。ある者は複数手に入れた物件のうち一つを売却して大金を手にしたり、ある者は親から譲り受けた部屋を元手に新規の住宅を投資目的で購入したり、基本的にお金を増やすことが得意な中国人の国民性と合間って、このビッグチャンスを生かした人が多かった。

とは言え、払い下げされた社宅は決して豪華とは言えない。作りそのものは簡素な上、老朽化しており、共同の便所も珍しくない。立地として価値は高いが、誰も好き好んでそんな部屋は買いたがらない。そんな中で、多くの人が大金を手にするきっかけになったが「動遷(ドンチエン)」である。簡体字で「动迁」と書く言葉は、住民を立ち退かせることを意味する。

急速に経済が発展する過程で、都市部を中心に異常な速度で開発が進んでいく。多くのデベロッパー(市政府も)が古びた家が残る区画を一括で買い上げ、大規模な高層ビルやマンション、商業施設などを次々と建設していった。その際、開発対象の区画に住む住民への補償の基準になるのが動遷政策だ。

補償額は、取り壊す住居の市場価格をベースとして、①部屋の大きさと、②その部屋に住民として登録されている戸籍数で算出される(※現在このルールは変更されている)。今でこそ上海でも核家族化は進みつつあるが、以前は祖父母〜孫までが一緒に暮らす大家族が一般的。そこに6〜7人でも住んでいれば、それに応じた補償がされた。

そして、補償の提供方法としては、①郊外にそれ相当の住居を提供される方法(複数の家を提供されることも珍しくなかった)、②補償額を現金で受け取る方法、③住居と現金の組み合わせで貰う方法もある。こちらで聞いた話では、予め動遷されること見越して、敢えてそこに親戚などの戸籍を移しておいたり、偽装結婚して戸籍を増やすような輩もいたとか。また、動遷で支給された郊外の家も、この不動産価格高騰の波に乗って当初の数倍の価値になることもあったようだ(※数年は売却禁止の規則あり)。

その結果、貰っている給与は200万円にも満たない額にも関わらず、ある日突然、数千万円〜億円もの大金を手に入れる人が続出したのである。

一方、動遷待ちという人も大勢いることをお伝えしておく。要は市内中心部の立地の良い場所に、今も昔からの家に住んでいる人だ。その不動産自体の価値は非常に高い。もし動遷が起きれば、相当な金額を手に入れることができるのだが、未だに動遷がなく、老朽化した家に大家族で今も住まざるを得ない人たちも存在する。

ちなみに、この不動産価格の高騰は行政にとっても重要な収益源になっている。彼らもかなりの不動産を保有しているので(或いは農民から買い上げたり)、そこの不動産価値が高くなれば、相当な売却益を手にすることができる。以前、上海では今も郊外中心に凄まじいペースで商業施設が開発されていることを記載したが(1年で日本の百貨店の総面積が開発される上海)、その開発のパワーの源になっているのも不動産である。行政が郊外の土地を用意し、そこに延伸し続ける地下鉄を通し、デベロッパーがマンション、商業施設、病院、学校など街全体を作り出し、周辺一体の不動産の価値を上げる。結果、多額の売却益が入ってくるという仕組みだ。

図らずも手に入れた富によって、市民の生活は僅か十数年で急激に豊かになった。以前は物質的な欲求ばかりを追い求めていた彼らが、今は心の豊かさを求めるようになっている。嗜好も急速に成熟している。中国の経済発展において、この不動産が彼らに与えた影響は計り知れない。

転載元:中国人が年収200万円でもポルシェを買える理由 2019/7/15掲載