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【連載!中国の小売・サービス事情vol.5】中国で無人レジは広がるのか?

【連載!中国の小売・サービス事情vol.5】中国で無人レジは広がるのか?
「連載!中国の小売・サービス事情」は、上海在住で日系百貨店に勤める洞本宗和さんの個人ブログ 「ONE HUNDREDTH」の転載になります。本連載は、洞本さんより、日本の小売業界の向上の一助になれば、と転載許可をいただき掲載しております。

かなり日があいてしまったが、前回の中国のモバイル決済に関するエントリーは多くの方に読んでいただいた。日本でもこの分野に関する関心が非常に高いことを痛感。また、ブログを始めたばかりの自分の文章が、多くの方に見てもらえる「喜び」を感じると共に、「発信することの責任」を感じる良い経験となった。そして、この個人ブログがハンズラボ(株)のブログに転載されることになり、より多くの方の目に触れることになった。機会をいただいた代表の長谷川秀樹さんには、この場を借りて御礼申し上げたい。

コンビニでセルフ会計がスタート

さて今回は、上海のコンビニエンスストアでたて続けに無人レジが始まったということなので、週末視察に行ってみた。一つは7月から始まった上海の「ローソン」、もう一つは9月から始まった新興コンビニの「24鮮」。
“無人” と言うと、一見「Amazon Go」や中国の「Bingo Box」のような “無人店舗” を想像しがちだが、あくまで “無人レジ” なのでそのレベルは大きく異なる。さらに言うと、タイトルに付けた “無人レジ” という表現にも少々語弊がある。要は、顧客自身に会計をしてもらう「セルフ会計システム」なのだが、日本人がイメージする “無人レジ” とはアプローチが異なる。セルフ会計システムは、日本でも大手スーパーではしばしば見られるようになったが、コンビニへの導入はまだまだこれからだ。
今年の7月に入って、日本のローソンがオフィス内で菓子やカップ麺などをセルフ販売する設置型コンビニ「プチローソン」に、交通系電子マネー専用セルフレジを導入したとの事だが、一般店舗での導入は聞いたことがない。
<参考資料>非現金化セルフレジ専用の設置型オフィス内コンビニ「プチローソン」7月3日(月)より、東京都23区内先行でサービス開始|ローソン

24鮮 fresh+

まず最初に見に行ったのが2017年開業の新興コンビニ「24鮮」。現在、11店舗展開しているとのことだが、視察に行ったのは日本人が多く住む娄山関路駅から10分ほど歩いた仙霞路にある店舗。24鮮の取り組みは、アリババ傘下のO2Oサービス「口碑(Kǒubēi コウベイ)」(※後述)との協業によるものである。

店外にも、店内にも、セルフ会計の告知が派手になされている。24鮮が、この取り組みにかなり力を入れていることが分かる。

《使い方》

  1. POPに掲示されているQRコードをAlipayでスキャン。Alipay内のタブに設定されている「口碑」の24鮮のページが開くので、「自助結帳(セルフ会計)」を選択。
  2. スキャナーで購入商品のバーコードを読み取る。
  3. カートに入った商品をAlipayで支払い。
  4. 支払い完了画面を店員に提示して、確認してもらった上で退店。



使ってみた感想は、特に分かり辛い点もなく、非常にスムーズに購入できた。口碑はAlipayから自動的に起動されるので、特にアプリのインストールも必要ない。しかし、しばらく店内の様子を見ていたが、セルフ会計を利用する客は全くいない。皆、有人レジで普通に入金している。私がセルフ会計の支払い完了画面を提示した時も、店員の反応は「あー、それね」ぐらいの冷めた反応だった。

ローソン

1996年に初めて中国に進出したローソン。上海中心部だけで言うと、日系コンビニではファミリーマート、ローソン、セブンイレブンの順で店舗を見かける。視察したのは、上海高島屋と同じ建物内になる国際財富中心の中にあるローソン。ローソンのセルフ会計は、「火星兔子」というサードパーティのアプリを使うのだが、そのアプリで対象店舗の一つに出てきたローソンがこの店舗だった。

店内に入ると24鮮のようなセルフ会計の告知は一切されていない。嫌な予感…。
《使い方》

  1. 「火星兔子」のアプリをダウンロードして、携帯番号&承認番号を入力して、IDを登録。利用店舗を選ぶ。
  2. 「火星兔子」内のスキャナーで購入商品のバーコードを読み取る。
  3. カートに入った商品をWeChat or Alipayで支払い(火星兔子からWeChat or Alipayを呼び出す)。
  4. 支払い完了画面を店員に提示し、店員がバーコードを読み取って確認(消し込み)したのち、退店。

事前に現地メディアでもオペレーションを確認して店舗に行ったが、支払い完了画面を提示すると、店員がこのシステムの事を分かっていない。普通に私がWeChatやAlipayで支払いをするかのように、バーコードを読み取ろうとする。当然、POSレジでは、エラーで弾かれる。私が拙い中国語で既に支払済であることを伝えても、お金を払えとのこと。結果、商品を持ち出すことができず、そのまま退散する羽目に…。

中国式セルフ会計システムの評価

中国でもスタートしたばかりのコンビニのセルフ会計だが、この仕組みは今後広がっていくだろうか?ローソンは論外だとしても、24鮮でも当面利用する人はかなり限られるだろう。
しかし、日本のオフィス街のコンビニで毎朝見かける10人、20人とレジに並ぶ長蛇の列。「自分は水一つ買うだけなのに早くして」と思ったことがある人は多いはずだ。この光景は中国も同じである。セルフ会計のメリットは色々あるだろうが、コンビニとって顧客への一番のベネフィットは「便利さ」であることに間違いない。顧客がコンビニに対して抱いているであろう大きな不満の一つを、このセルフ会計システムは解消してくれる可能性を秘めている。このシステムが今後拡大してくれることを期待する。

中国のセルフ会計システムから学ぶべき点

この分野では世界を牽引している中国でもまだまだ普及していないセルフ会計システムだが、日本が学ぶべき点はないのだろうか?もちろん、この手法が必ずしも正解ではないだろうが、日本も参考にした方が良いと思ったのが下記3つの視点。

1. 物理的レジを無くしたセルフ会計システム

セルフ会計を考える時、日本人は多くは “無人のレジ” を想像するだろう。実際、日本のスーパーで導入されているのは、店員の代わりに客が自分でレジを操作するものだし、前述のプチローソンも同様の方式だ。また、日本のローソンで実験的に導入されたというセルフ会計システムは、レジ操作を店員の代わりに機械がやってくるというもの。
業界初!完全自動セルフレジ「レジロボ(R)」がこちら。 | TABI LABO
いずれせによ、レジという物理的な筐体を無くす発想はない。しかし、コンビニで無人のセルフレジを置くことは、現実的にはかなり難しいと思う。

理由① 処理スピードの問題

上記記事内でこのようなコメントがある。

「導入して以降、『今日は有人レジが混んでいるからレジロボを使おう』と、個人で判断して使っている方が多いです」と同店舗の店長。

無人のセルフレジになれば、本当に会計待ちの行列を早く処理できるだろうか?使い方を分かっていない顧客が利用すれば、間違いなく余分に時間が掛かる。セルフレジの利用者が少ないうちは有人レジより早く入金できるかもしれないが、このセルフレジに客が並び出した場合、恐らく処理スピードは有人の方が早いのではないか?そもそもの業態特性として、スーパーとコンビニでは顧客から求められる会計スピードに決定的な違いがある。

理由② 設置スペースの問題

本格的にコンビニでセルフレジを導入しようと思えば、恐らく会社ごとに専用端末の開発が必要であるし、初期費用もかなりのものになる。加えて、店舗運営側にとって初期費用よりも大きな問題になりそうなのは、大切な売場面積をセルフレジに取られてしまう点だろう。都心店に多い売場面積50〜75平米ほどの店にセルフレジを設置して、専用のオペレーションスペースも確保する必要があるとなれば、セルフレジを導入しようと思うコンビニオーナーは少ないはずだ。
一方で、この中国のコンビニ2社の事例は、セルフ会計専用のレジは必要とせず、顧客のスマホをレジとして代用している。顧客のスマホがレジ代わりになるのであれば、上記のような処理スピードの問題や設置スペースの問題は解消してくれる。

2. レジの代わりを果たすアプリ

顧客のスマホをレジ代わりにするには、スマホ側にそれなりの機能が必要だ。ハードの投資はなくても、ソフト面でのシステム対応が必要になってくる。
端末側の機能で言えば、位置情報を取りながら店舗を確定し、カメラ機能を制御し、スキャンされたバーコード情報に基づいて商品マスタを照会、AlipayやWeChatペイメントとの連携などが必要だ。これらをWebアプリで実現するのは、なかなか難しい。ネイティブアプリが必要になる。
しかし、中国ではソーシャルメディアの影響力が大きい為か、自社サイト等のOwned Mediaは軽視されがちで、自社の独自アプリを出している企業は日本ほど多くない。結果、サードパーティのアプリを使うことになるが、この時、どのプラットフォームを利用するかが重要になる。

①火星兔子

ローソンが使っているプラットフォームは「火星兔子」というアプリ。北京火星盒子科技有限公司という会社が開発したセルフ会計専用のシステムだ。日本のAppStoreでもダウンロードできるので、興味ある方はチェックしてもらいたい。現在、上海市内で利用できる店舗として表示されるのは、ローソンとローカルスーパーの「家得利」。家得利では試したことはないが、いずれにせよ、アプリの利用店舗はかなり限られている。顧客からすると、この為に “わざわざ” ダウンロードしなければならないアプリだろう。

②口碑

24鮮が使っているプラットフォームはアリババ傘下の「口碑(Kǒubēi)」だ。もともとは口コミサービスとしてスタートした口碑(中国語で口碑は口コミの意)だが、今では飲食店のレビューだけでなく、スーパーや商業施設で使える会員向けクーポンや、ホテルの予約、映画のチケット販売、美容・マッサージ等のクーポンやチケット販売など、様々なO2Oサービスを手がけている。同じくアリババ傘下の「餓了么(Èleme)」による宅配サービスもメニューの一つに入っている。
もともとアリババは、同じようなサービスを手がけていた「美団(Měituán)」に出資していたが、飲食の口コミで絶対的な人気をほこりテンセントの資本が入った「大衆点評(Dàzhòngdiǎnpíng)」と美団が合併したこと機に資本を引き上げ、アリババ独自サービスとして口碑に力を注いでいった。今では、Alipayアプリ内の下部4つのタブの一つが口碑になっている。ローソンが使っている火星兔子と違い、殆どの人のスマホに既に入っているアプリである為、顧客の利用に対するハードルも低い。口碑にとっても、今回の24鮮との取り組みは、アリババが掲げる “新小売” の一つのケースになっていくはずに違いない。
残念ながら、日本でこのようなプラットフォームは聞いたことがない。主なフローは、Offline(商品バーコード読み取り)→ Online(決済)→ Offline(画面提示)であり、機能の中心になるのはOnlineの決済部分だ。選択された商品を顧客のカートに入れて、選択された支払い方法で会計処理、機能としてはECに近い。当然、小売側のシステム対応(商品マスタ連携・売上データ取込・売掛金管理など)があっての話であるし、日本の大手コンビニなら自社アプリを作ってしまいそうだが、既存のECプラットフォーマーでも十分対応できそうな機能だと思われるので、今後是非、日本でもこのようなサービスが提供されることを期待する。

3. 完璧を求めない

最後は、一番中国らしいとも言える。意図してか、意図せずかは分からないが、考え方の違いだ。
ここまで読んでいただいた方なら、商品の確認方法に疑問を持った人がいるかもしれない。たしかにスマホの画面は提示するが、商品1点1点きちんと確認できるのか?現地メディアにも、利用者のコメントで「殆ど確認されなかった」というような声も挙がっている。日本人的発想だと「これでは盗難の危険がある。会計済みの商品かどうか分からない。システムでガードを掛ける必要あり。」とかになりそうだ。しかし、本当に(ほぼ)完璧にシステムでチェックしようと思えば、Bingo Boxのような「RF-ID」を全商品につけない限り、無理だろう。
また、サードパーティのアプリを使っているので、コンビニ各社の会員カードは使えないし、決済方法は限られている。袋が欲しくても袋代は支払えない(中国では多くの店がビニール袋は有料)。セルフ会計だと、できないことが多い。
日本の企業だと「システムが不完全」「既存の機能が使えない」等々、全体最適を重視する傾向から、できない理由を挙げて物事が一向に進まないケースが多いように思う。 “Try and Error” の “Try” を実現するまでに異様に時間を要する。その間に世の中はどんどん変わっていってしまい、最初に考えていた “Try” を実施する頃には、その施策は既に周回遅れになっているという笑えない状況に陥る。もちろん「完璧」が実現できるのであればそれに越したことはないが、特にこれだけデジタル環境が目まぐるしく変わる今の世の中においては、完璧でなくても「実施」を優先する中国企業のこの姿勢は大いに見習う必要があると思う。
システムでチェック仕切れないのであれば、運用でカバーしたら良い。コンビニの会計待ちの行列なら、せいぜい朝の通勤時と昼食時の1時間ずつ程度だろう。その時だけ出入口にスタッフが立って、スマホ画面と商品をチェックするようにすれば、十分牽制になるのではないか? さらには、日本のコンビニでも毎回しつこいくらいに会員カードの有無を聞かれるが、僅かばかりのポイントが獲得できるより早く会計してくれることを望む顧客も少なくないはずだ。日本でもこの中国式の仕組みで運用できそうな気がする。
いずれにせよ、こういった動きは遅かれ早かれ今後間違いなく広がっていくと思うので、日本でも是非検討いただきたい。
転載元:中国で無人レジは広がるのか?2017/9/20掲載

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