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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第57回 株式会社カインズ 代表取締役社長 土屋裕雅さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第57回のゲストは、ホームセンター大手の株式会社カインズ 代表取締役社長、土屋裕雅さんです。昨年はラスベガスで行われたAWSのイベントre:Inventに自ら出かけ、年初の朝礼で「IT企業宣言」をしたという土屋さんに、今後の小売業の方向性やご自身のリーダーシップのあり方、日本の若者に対する期待などを伺いました。

昨年のAWS re:Invent参加を経て、年初の朝礼で“IT企業宣言”

長谷川: 土屋さんと初めてお会いしたのは、昨年(2017年)の11月から12月にかけてラスベガスで開催された、AWSの「re:Invent」ですよね。確か、カインズさんは8名くらいで来られていて。

土屋: そうです。

長谷川: 全日空システムズの幸重さんとかPARCOの林さんとか、re:Inventに来られていた人たちで現地で食事をご一緒したときでした。僕が驚いたのは、カインズの社長が自ら来られたということなんです。日本の会社の情シス部長とかCIOみたいな人が来ることはあっても、普通、社長は来ないですよ。
会食の翌日、AWS社が用意してくれたリテイル企業向け昼食会では、ノードストロームだとかロウズだとか、グローバルのリテーラーの人たちがいたんですけど、土屋さんがロウズのCIOにどんどん英語で質問しているのが、非常に印象的でした。そんなトップはあまり見たことがないですよ。自分の得意領域であれば別でしょうけど、ITとかクラウドに関しては、ITの担当の人に「任せた、お前聞いてこい」という人が普通ですよね。

土屋: ありがとうございます。一緒に行ったITの担当者も英語はしゃべれなくて。でも、興味が語学力とか恥ずかしさを超えてしまうことってありますよね。それに、あのときに僕が聞いていたのはITのことではなく店舗のオペレーションのことだったんですよ。そちらについては一応プロなので、聞きたいことが山のようにありました。とても貴重な機会でした。

長谷川: そうでしたか。とにかく、自分からどんどん質問しているのを見て、すごい人だな、と思いました。

土屋: でもね、re:Inventのキーノートとかを聞いていて、周りの人が「うわー、こんなサービスができるのか!」と感動していても、僕にはその感動が分からないんですよ。もともと何ができて、何ができてないかを知らないから。だから、自分でも「うわー」とか言って、感動を味わえるようになりたいと思いましたね。長谷川さんと出会ったことなんかも刺激になって、カインズにももっとテクノロジーを取り入れないとダメだな、と強く思ったんです。それで、今年の年頭朝礼では「うちはIT企業に変わります」という“IT企業宣言”をしたんですよ。

長谷川: それはまた、社員はビビるでしょうね(笑)

土屋: 何を言い出すのかと(笑) ここで飲みながら言っているのとは違って、全社員に対して朝礼で言ったんですからね。それでIT企業になるためにはどうすればいいかと考えたのですが、あまり妙案が浮かばなかったので、まずは「IT酒場放浪記」に呼んでもらおうと思ったわけです。

長谷川: SIerの方を除いて、自薦で来られるというのは初めてですよ。土屋さんから直接メッセージいただいて、「広報の人は了解しているのかな」とか、心配しました(笑)

欧米、そして中国の状況に焦りを感じる

長谷川: 年が明けてからまたアメリカで、CES(コンシューマーエレクトロニクス関連の展示会)とNRFという全米小売業協会の大会に行ってきたんですよ。CESは、初めての参加で、巨大な展示場所に、自動運転、ホームIoT、VR/ARなどすごい数の商品が展示されていて、圧倒されました。自分のスピード感がまだまだ甘かったと思うのは、「こういうことができたらいいよね」というのは、素人考えでたくさん思いつくじゃないですか。でも、それがだいたいCESにある(笑)。日本の家電量販店には、IoT家電は少数なんで、現実にはまだまだなのかと思っていたんです。ところがCESに行くと全部揃ってるんですね。「え、もう売ってるの?」みたいな。
面白いな、と思ったのは、中国の電球のOEMメーカーが自社ブランドで出展しているわけなんですけど、IoTって電気とネットワークの2つが必要ですよね。ホームIoTの場合は、自宅からwifiなどがあるんで、あとは給電方法をどうするかの問題。電球メーカーが、電球にスピーカーが一体化したものだとか、玄関口のライトにカメラが付いたものだとか、発売しているんですよ。それもスピーカーはJBLと組んでいる。そうすると、取り付け工事とか不要になるんで、ホームIoT普及の素晴らしいアイデアだなと思いました。そういうのがすごく楽しいというか……、正直に言うと焦りしか生まれなかったです。中国、米国、そしてフランスも政府あげてフレンチテックを推奨している。我々、マズイなと。

土屋: 同感です。その焦りはAWSのイベントでもありましたし、昨今の中国に対しても、すごく感じます。日本はこれでいいのかと。日本の中の小売業同士でなんだかんだ言っているのは、所詮コップの中の嵐ですよ。

長谷川: そうですよね。

土屋: 今、早稲田大学で『マーケティング戦略の実像』というカインズの寄付講座を持っているんです。半年間、色々な方を呼んで講義をしてもらうのですが、私も一番最初に少しSPAの話をしまして、口で言ってもなかなか分からないから、宿題を出したんですよ。カインズのSPAのポイントをお話した上で、「もしみんなが商品を作るとしたら、どういうものを作りますか?」という。昨日、100名以上が提出したものから優秀なものを発表しました。最優秀賞は商品ではないのですが、買い物のときにカートが後ろからついてくる、自分で持って歩かなくていい、というものだったんですね。なるほど、と思わせて、すぐにできそうだし、学生らしいアイデアです。ところが、授業の後で中国からの留学生の女の子が、「さっきの最優秀賞のやつ、中国にあります」と言ってきたんです。厳密には、もうすぐできるということだったんですが、北京で近々オープンする店が、動くカートというのを作るんだそうです。その学生はアリババに就職が決まっているという話も聞いて、いろいろと思うところがありました。こんなことやっていていいのかな、と反省しきりですよ。

長谷川: うちも少し前まで中国に出店していましたが、本当に向こうの方が進んじゃっていますね。特に決済のシステムなんかは中国に学ぶところがあります。
技術革新の具現化にしても、日本だと「グレーはストップ」みたいなところがありますが、シリコンバレー(米国)と中国は「グレーなものはGOだ」という考え方が非常に似ています。

自分に影響を与える50人に会うというノルマで、IT業界人とつながった

長谷川: 小売業としての歴史の話ですが、東急ハンズの場合、やっぱりインターネットが出てきたというのがひとつの転機になっているんですけど、カインズさんにとって、そういうターニングポイントはどこにありましたか?

土屋: 実は、僕個人の感覚で言うと去年です。やっぱりAWS re:Inventの影響が大きくて。

長谷川: そうなんですか!?

土屋: 個人的には、ですよ。もちろん現代の企業でインターネットを使わないところはほとんどないわけですが、その度合いとして「どうせやるんだったら、イノベーションを興すようなところを目指そう」という思いが出てきたのは去年で、それが今年の「IT企業宣言」に繋がったわけです。

長谷川: なるほど。re:Inventに行こうと思ったきっかけは?

土屋: 野村證券時代に身に着けた癖なんですけど、僕はノルマを決めるのが好きなんです。毎年、年間で1000km走ろうとか、映画を何十本観ようといったノルマを決めて、それを超えることで、あるべき自分に近づけたかな、と思えるので。それで去年は、50歳を過ぎたということもあって新しいことにチャレンジしようと思い、自分に影響を与える50人に会おうと決めたんです。

長谷川: 面白いですね。

土屋: 50人ということは、だいたい1週間に1人会っていればいいわけです。なんとかなると思っていましたが、年の後半にきて「このままじゃ50人いかないな」と分かってきて……。なんとか増やすには、既に知っている人たちの集まりに行っても増えない。それで、全然知らないIT系の集まりに行けば増えるに違いないということで、後半はIT系の人たちばかりに会いました。そうすると、相手によってちょっとずつ言うことが違ったりして、正直すごく混乱しています。でも1年前は混乱どころか知りもしなかったわけですから、すごく楽しいんですよ。

長谷川: なるほど。ノルマを決めたことで新しい学びがあって、それが会社の方にも影響しているということなんですね。

土屋: もちろん、以前から薄っすらとITのことは気になってはいたんですよ。知らないままCEO面していていいのかという、漠たる不安があった。たくさん人に会って、それが確証に変わったという感じですね。当社はもちろんですが、日本としてこんなのでいいの? という思いが強くなりました。

創業者と2代目の違い。創業者の目の届きにくいところだから好きにやりやすかった

長谷川: 土屋さんは、偉ぶらないというか、会話をしていても、相手が誰であってもフラットにコミュニケーションされている印象ですけど、そういう姿勢はどうやって身につけられたんですか?

土屋: 僕自身は、メインストリームではなくアウトサイダーとかチャレンジャーでいるのが好きなんですよね。
僕が社長になったのは2002年です。それまでホームセンターの売上はカインズがトップでしたが、社長になった直後にDCMという売上高が2倍くらいの会社が発足しました。そのときはショックだったけれど、チャレンジャーでいられるという意味では、却って良かったと思っているんですよ。
もうひとつ、震災の経験も大きいです。カインズは東日本に店舗が多かったので、震災が起きて88店舗をいったん閉店しました。どうやって復旧するかとか、従業員とその家族の安全をどう確保するかとか、数ヶ月の間、ものすごく集中して対応しました。その時に思ったのは、後悔はしたくないな、ということです。何かあって店をいっぺんに閉めなければいけないこともあるんだけれど、せっかくこの大人数でやっているんだから、やるべきだと思うことは、いつかではなく、今やらなければと、強烈に思ったんです。

長谷川: なるほど。土屋さんは、二代目の経営者ですよね。僕が非常に興味があるのは、創業家の会社とそうでない会社の違いなんです。単純に言うと、今の日本では、会社の方向性を大きく変えるのは創業家でないと無理なんじゃないかと思うんですよ。サラリーマン社長で、あと3年の任期だから……、みたいな人にはできないし、みんなもついていかないだろうと。御社の場合、どうですか?

土屋: それは、(創業家経営者とサラリーマン経営者は)全く違いますね。ただ、創業家の中でも創業者とそれ以外は全然違うんですよ。創業者は自分で作った人で、会社が自分そのものだから、自分で会社を潰すのもありなんです。創業者じゃない創業家の人は、創業者と同じような感覚の人もいれば、ともすると正反対に出ることもあるでしょうね。僕も、カインズがこければ死ぬな、とは思うんですが、一方で、カインズが自分の子ども、みたいな感覚もないんです。

長谷川: 二代目や三代目が創業家の人の場合と、そうでない場合もありますが、それについてはどんな違いが出てくると思いますか?

土屋: 社員から社長になる場合、やっぱり思い切った手は打ちづらいのかもしれないですね。ただ、個人のキャラクターの違いということもあって、一概には言えません。僕がラッキーだったのは、父である会長はグループの本部に出社して、カインズにはあまり来ない。すると目が届かないから、割りと好きなことができたんです。創業者というのは、その性として気になることがあったら言わずにはいられないですからね。

日本の企業はもっと手を組んでチャレンジをすべき

長谷川: 僕は今の会社に転職して入っているので、プロパーの人が言いにくいことを言うのが自分の役割だとも思っているんですよ。入社年次、過去の栄光だとか、役職上下関係なんかは僕には全く関係ないので。

土屋: 僕もそうですよ。日本の企業で、遠慮なく「違うんじゃないですか」と言えるところはなかなか少ないですよね。

長谷川: ええ。

土屋: ちょっと面白い会社がありまして、去年カインズと資本提携した「大都」です。そこでは肩書きというものがなくて、社長はジャックと呼ばれています。広報の女の子はズッキー。この間、早稲田でも話をしてもらったんですけど、最初にジャックが、後半はズッキーが出てきて、ズッキーがジャックより目立っている(笑)。まだ4年目くらいの若手なんですけどね。

長谷川: 実は僕、個人的には、大都さんの運営している「DIY FACTORY」との業務提携したいなーと思ってたんですよねー。

土屋: そうなんですか!?

長谷川: オンラインで実業をやっている企業と、オフラインの我々みたいな企業が組むのは、一番ジャンプアップできる形になるんじゃないかと思っていて。例えば、東急ハンズのDIY用品は大都から仕入れるから、代わりにオンラインのDIY部門の販売を大都に全部任せる――という形でがっつり組めばいいんじゃないかと考えていたんですよ。

土屋: いいアイデアですね。

長谷川: そんなことを考えていたら、カインズさんと業務提携というニュースを知って、「うわー、やられた」と(笑)。
大都(DIY FACTORY)の山田社長(ジャック)とはアドテックというオンライン広告のカンファレンスが関西であったときに、たまたま知り合ったんです。実は、今度の酒場放浪記に出てもらうことも決まってるんですよ。

土屋: ジャックがですか? それはすごく嬉しいな。僕、会社の事業に関連して自分ほどの情報通はいないという自負があるんです。でも、ジャックは僕より早いところがあるんですよ。だからジャックより先にIT酒場放浪記に来られたというのは、すごく嬉しいです。
僕は、うちも含めてハンズさんも一緒に組めばいいと思いますよ。

長谷川: 本当ですか?

土屋: ええ。マーケットが違うし、あまりカニバっている感じもしないでしょう。つまり、日本でそんなこと言っている場合じゃないんです。海外での激変を考えると、日本でももっと新しいことを生み出さないと。

長谷川: これは、僕個人の考え方ですが、DIYやインテリアは、ホームセンターさんやニトリさん、IKEAさんがどんどん弊社の近隣に出店される中で、厳しいんですよ。中でも、ノンブランドコモディティ商品群は、大量生産し安く消費者に提供した方がいいと思うんですよね。例えば、収納ケース、テープなどいっぱいあると思うんです。そういうコモディティで付加価値競争のない商品は、やっぱり安い方がいい。そういう商品は東急ハンズのコアな商品ではないと考えて、例えば、カインズさんから仕入れるという形で組んだ方がいいと思うんですよね。

土屋: とても長谷川さんらしい考え方ですね。

IT業界と小売業界に共通する自前主義、秘密主義の問題点

土屋: 日本の企業は、競争分野とそうでないところを分けずに、なんでも自前でやろうとするのが問題だと思いますね。例えば、日本の小売業にとってAmazonはライバルだからAWSも使わないとか……。
IT投資の中身も秘密にして、経験を共有しない。でも、競争分野でないところはもっとオープンにすれば、お互いつまらない投資をしなくて済むわけですよね。長谷川さんのすごいところは、その主役を企業の中の個々人に置き換えていっているところだと思います。それぞれの経験や失敗を明らかにする場所を作ろうというのは、コペルニクス的といってもいいくらいの、発想の転換だと思いました。

長谷川: 僕の考え方が大きく変わったのは、東急ハンズに入って、通販(EC)を担当するようになってからなんですよ。EC業界はベンチャー企業が多くて、絶対生き抜くんだという強い意思を持って勉強しあっているんですね。「小粒な俺たちがそれぞれに戦ったところで、どうにもならない。それよりもお互いに知っていることを教え合って、どんどん大きくしていこうぜ」ということを綺麗事なしにやっていたんです。そういうのに触れてから、社外の付き合いがグッと増えて、通販だけでなくITでも同じようにやり始めたんです。

土屋: ITの業界で、そんな人はいなかったんでしょう?

長谷川: そうですね。IT業界と言ってもSI業界とネット系業界に区別されるんですが、SI業界の集まりだと、「営業する側、される側」みたいになってしまうんですけど、最近は、日経イノベーターとかAWSコミュニティー(JAWS)は、テーマに沿って勉強会があるので、うまく機能していると思います。特に、AWSは、企業と大手ではないが技術力のある会社を繋げるようなことにもなっているんで、日本のSI業界(クラウド業界)もだんだんと、いい方向になっているのではないでしょうか。

土屋: 業界に風穴が空いたような感じですか?

長谷川: ええ。クラウドというのは,下克上ができる世界なんですよ。それまでは、スーパーコンピューターみたいなものを持てる大手企業にしかできなかったことを、ITスキルが高ければ所属企業の大小関係なくできるし、できるやつがスターだ、となっている。それが面白いですね。

土屋: それに逆行するような話ですが、小売業界はより秘密主義になっていっているような気がします。僕がこの業界に来て最初に入ったのはアイシーカーゴという物流会社だったのですが、当時はSEIYUだとかイオン系のカジュアルブランドの会社とか、アポを取ると快く受け入れてくれて、色々教えてくれたんです。海外の会社も同じで、ウォルマートもターゲットも、みんな喜んで物流センターを見せてくれました。それが、2000年以降からでしょうか、今は日本の企業がターゲットの物流センターを見たいと言っても、絶対見せないですね。それがSCM(Supply Chain Management)のキーだからということかもしれないけれど、そこまで秘密にする必要があるのかと。そんな体験があるので、ITでも同じ問題があるのかな、と思ったんです。

長谷川: そうですね、情報システム部も、僕らも含め、旧来のITの人が勘違いしていたのは、自社が何のミドルウエア、OSを使っているとか、サーバーが何台あるとか、セキュリティーソフト、アプリケーションソフト何使っているとか言っちゃいけないんだろうと思っていたんですよね。でも、そんなことを言ったところで売上には響かないし、関係ないんですよね。

若者が第一線の人たちの話を聞いて「自分にもできる」と思ってほしい

土屋: 大企業とベンチャーが組んでうまくいくことが少ないのも、大企業の方が一方的に良いとこ取りをしようというような姿勢があるからじゃないでしょうか。カインズは大企業というわけではないですけど、ベンチャーでないのも確かなので、大都とは良い化学反応を起こしたいですね。大都もカインズも、今まで持っていなかったようなことを生み出して、世の中にインパクトのあるようなことができたらと、本当に思っているんですよ。

長谷川: IT企業宣言をされたということですが、これからの小売業はどういう方向に行くべきだと思われますか?

土屋: 先日、イオンの岡田さんが「Amazonに学ぶべきところがあったと反省している」とコメントされているのを見ましたが、それは小売業全般に言えることかもしれません。Amazonが全て良いというわけではないですが、自分たちのお客さんがどういう人達で、何を求めているか、もう一度真摯に考え直す時期だろうと思います。

長谷川:ECに関しては、小売業のプロほど誤っていた面があるんですよね。AmazonがCDや本を売るのはみんな納得していました。あれはどれも品質が同じだし腐りもしないから、と。でも、生鮮食品は絶対ない、ファッションも試着しないで買うなんてありえない、みたいなことを小売業界の人ほど言ってたんですよ。それがもう、ドカーンとやられてしまった。だから、自分の経験からくる固定観念で判断してはいけないな、と。

土屋: 全てにおいて安泰ということはないわけですよね。いろんなことがあり得る中で、じゃあ何をするかを考えることが重要だと思います。その中で、やっぱりIT化というかテクノロジーを使うということ、特にお客さんにとって良いことは何か、アイデア合戦みたいなことになるんでしょうね。

長谷川: 小売業の中で、土屋さんが注目している会社というのはありますか?

土屋: マツモトキヨシさんとか、どんなことをしているのか興味がありますね。

長谷川: なぜですか?

土屋: アウトサイダーだからでしょうか。大手ドラッグの中では、ちょっと違う路線を取ろうとされているように見えます。
他に気になるところは、やっぱりユニクロさんですかね。

長谷川: ユニクロで注目しているポイントというのは?

土屋: 柳井さんですね。志の高さが素晴らしいな、と思います。彼について読んだ中で、柳井さんが昔、有名なSPAの企業の社長のところに行って話を聞き、「この人にできるんだったら、俺にもできると思った」というエピソードがありました。その感覚って、すごく大事だと思うんです。僕自身も、柳井さんにアドバイスをもらったことがあるんですが、もっと早く出会っていたら違ったかもしれない。
早稲田の授業も、そういう思いでやっているんです。例えば、今の学生が玉塚 元一さんに会うことによって、何か化学反応が起こればいいな、と。だから、これからの日本を背負う学生に影響を与える人たちに話をしてもらいたいと思って、僕がぜひ、と思う人に講義をお願いしているんです。

長谷川: 「俺にもできる」とどんどんやってみる若い人たちを作っていきたい、ということですか。

土屋: そうです。きっかけを早くもってもらいたい。こういう言い方が良いかどうか分かりませんが、玉塚さんの話とか、C Channelの森川 亮さんの話とか、すごいところもあるけれど、社長だから特別なんだという風に思わないで、自分と同じ人間なんだって、大したことないんだって感じてもらいたいんですよね。柳井さんだって、かなり特殊ですけれど、話をしているとすごくよく分かるところもあって、同じ人間だという気がするんです。テクニックというよりは、そういうことを感じてほしいんです。

長谷川: なるほど。僕も今日お話を伺って、御社と一緒にできることとか、色々考えてみたいなと思いました。

土屋: ええ、業界とか会社を超えて、強いものを作っていきたいですね。

長谷川: はい。今日はどうもありがとうございました。