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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第54回 智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)ゼネラルマネージャー 江口征男さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第54回のゲストは、智摩莱商務諮詞(上海)有限公司(GML上海)でゼネラルマネージャーを務める江口 征男さんです。長谷川とは、アクセンチュア株式会社に新卒入社した際の同期だったという江口さん。MBA留学を経て中国で事業を起こし11年、人口13億という巨大市場の中で目にしたチャンスとリスクとは?

中国で勝負するということ

長谷川:江口さんは、中国在住で11年ビジネスをしていて、今日は中国でのビジネスについていろいろ聞きたいと思っているんだけど、そもそもなぜ、中国でビジネスをしようと思ったの?

江口:新卒入社のアクセンチュア卒業後、アメリカでMBAとって、上場間近のアパレルの事業会社に転職したんだよね、実業やりたいなと思って。そのときの本音は、「給料はガクンと下げて転職して来てあげたんだから、権限よこせ」という感じ。「一年自由にやらせてもらってだめだったら、クビにしても、給料減らしてもいいから」と。今、考えると我ながらアホかと思うけど(笑)。今は自分で会社をやっているから分かるけど、そのアパレル会社もオーナー企業だったので「江口なんかに自由にやらせられる訳無いだろ。お前が自由にやって1億損したら、お前が辞めるだけで責任取れる訳ないだろ。お前が自分の損したら全額補填するなら、自由にやらせてやる」ということなんだよね。もちろんそんなことは直接言われなかったけど、結局そういうことなんだよね。で、当然のごとく、提案はできても、最終的な経営上の意思決定はオーナー経営者が決めることなる。これは資本の原理で仕方がないんだけど、なんとなく自分的には違和感があったんだよね、「俺ってこれがやりたかったのか」っていう。でも会社の同僚とか部下の人達に恵まれたのもあって、自分の違和感にフタをして、なんとか仕事をこなしていたんだけど、あるとき急に顔が半分動かなくなってしまって。

長谷川:顔面麻痺ってやつ?

江口:そうそう。朝起きたら娘に、「パパ、顔が変だよ」って言われて鏡見たら、身体はぴんぴんしているのに、確かに顔が半分動かないわけ。 医者に診てもらったら、「一生顔動かなくなってもいいならいいけど、少しでも回復したいなら即入院ですよ」と言われて、2週間入院。毎日3回喉元に麻酔注射するんだけど、それ以外は暇だから病室にノートPC持ち込んでバリバリに仕事をしていたけど(笑)。顔面麻痺の原因は、精神的なものだって言うから、「これも神様のお告げか」と思って、これをキッカケにアパレル会社を辞めて独立しようと決意しました。それで、しばらく日本でフリーランスでコンサルタントをやっていたんだけど、これも面白くないなぁと思っていた頃に、友人の社長から「中国に現地法人作るから手伝わない?給料は出せないけど、ビザは出してあげるから」と誘われて、「これだ!」って。

長谷川:え!? 給料出さないけどって、江口にとって何が得なの?ビザ?

江口:そうそう。まあ実は中国に来てみたら中国のビザって実は簡単に取れるんだけどさ、そのときはアメリカのイメージがあって「就業ビザ取るのはすごく大変なんだろう」って思ってたから。いずれにせよ、日本国内市場はこれ以上マーケットが広がらないなと思っていたし、家族もいろんな事情で中国に行きたがってたからそれも後押しになった感じかな。当然既に娘も生まれていたので、リスク軽減のために日本にも仕事は残して、月に一週間日本に出稼ぎに戻って仕事するっていう生活を2年続けた。やっと、2年くらい経って、日本に出稼ぎに来なくてもよくなった(笑)。

長谷川:2年も、ガッツあるね! 普通もっと早く撤退しない?

江口:いざ中国に行ったら、凄いんだよね中国人。中国の人って目の色が違うんだよ。みんな、チャンスがあれば絶対掴んでやろうという雰囲気が半端なくて、ものすごくストイック。ブルーワーカーもね。これは、日本のぬるま湯環境に浸かっていたらだめだって危機感を持ったので中国で頑張ろうと思ったんだよね。

長谷川:なるほどね。でもよく事業が立ち上がったね。

江口:運や縁もあるんだよね。最初は、中国人の弁護士に「蘇州で仕事を始めたいと思っている」と声をかけられたのがはじまり。蘇州で日系企業向けの弁護士サービスをするから、日本人が必要だと。でも本当にこれから立ち上がる事業だから、給与を払う社員としてではなく、完全成功報酬の株主として入って、儲かったら分けましょうという話だった。その弁護士は友達の友達の友達っていうくらいの間柄だから信用もできないし、成功するかなんてまったくわからないけど、ここで勝負しないと先はないと思って。結局もう一人、日本語も話せない蘇州人を加えて3人でスタートしたんだけどこれが意外とうまくいって、事業をスタートして1年後に利益も何百万と残ったの。

でも一年間やってみて、3人の間に不協和音が生まれてきて。というのも、共同経営者の1人の蘇州人の貢献度が明らかに低かったんだよね。最初のふれこみは、彼は政府の役人とコネがあるということだったんだけど、蓋をあけてみれば全然そんなことなくて、しかも交際費として一日に5万円とか10万円とか頻繁に使うわけ。これで利益の山分けは不公平だということになって、翌年度から利益の分配率を変えよう、そして経費を使う場合には、共同経営者3人の事前許可を取るようにしようと決めたら、数日後にその蘇州人の共同経営者に「お前はクビだ」って言われてさ。「クビって、どっちかというと役立たずのお前がクビだろ!」って思ったんだけど、その蘇州人が、会社の金と印鑑を持って逃げちゃったんだよね。

中国に来て1年目でこんな失敗を経験した「中国ってやっぱ大変だなぁ…」って他人事見たいに感じていたんだけど、極めつけは、同じく被害者で味方だと思っていた中国人弁護士も、実は不利益なことは(自分ではなく)僕にまわるように仕組んでいたことに気づいたんだよね。まさに「The 中国」という感じ(笑)。でも当時も「中国人は信用できないから、もう日本に帰ろう」とは全く思わずに、「そうだよね、自分の身は自分で守るしかないよね」、とはじめて気づいたわけ。

中国はすごくストレートで、「自分の身は自分で守る」、「人はその人の損得で動く」という文化。そこを理解することが重要だと思う。実際、その中国人弁護士とは今でも共同経営者として会社を経営しています。もちろん100パーセントは信用していないんだけど、相手も僕のことを100%は信用していないと思うんだよね。だからこそパートナーとして一緒に会社を経営できるという感じかな。お互いに長期的にはwin-winでないパートナー関係が成り立たないということが分かっているからこそ、相手にも譲るし、相手も譲ってくれる。でももし利益相反したら戦いになるかもしれないという最悪の事態も覚悟しているからこそ、逆にそうならないために、相手の利益にも敏感になるし、ケンカにならないようにお互いに努力するという。僕はこれからもずっと長い期間一緒に会社をやって行きたいと個人的には思っているからこそ、100%は彼のことを信用しないということなんだけど、分かるかな、この一見矛盾した考え(笑)。今彼と共同経営している会社は中国にあるので、自分と相手の利益が30:70くらいだと自分が思う位がバランスがいいと思っています、出資は50:50なんだけど。僕は日本人としてアウェイの中国で仕事をさせてもらっているという感覚があるのと、公平感というのは究極的には主観できまるので、僕自身が30:70と感じるくらいが、彼にとって50:50だと感じてくれると思うんだよね。もちろん、僕自身が20:80だと感じたら、「それは違うでしょ」と相手にストレートに言うようにしています。

ビジネスにおける日本人と中国人の差異とは

長谷川:ビジネスマンとしての、日本人と中国人の違いってなに? 働き方の違いとか。まったく中国の勉強をしていない日本人が「よし、今から中国のビジネスコミュニティの中に飛び込むぞ」ってなったときに、どんなアドバイスができる?

江口:中国人は、個人の利益で動くんだよね。日本人は、世間体とか会社の利益も考えるじゃん。でも中国では、自分の利益が減ると思ったら上司に対してでも会社に対してでもストレートに言うんだよね。そのストレートトークの方が正しい訳、中国では。残業とかも、日本なら当然空気読むようなシーンで中国人はそれをしない。中国でも従業員が社長に愛想良くするのは日本と同じなんだけど、その理由は、その社長が自分の給料を決めるからであって、空気作りとかではないのよ。日本人も本心では自分の利益が最優先だと思うけど、中国人はそれがもっとはっきりと表面化してるの。

あとね、視野がすごく手前にあるのも中国人の特徴かな。今日は今日のことしか考えなくて、あさってのことはあさって考えればいいじゃないという考え方。たとえばね、最近ウチの会社で父親を亡くした従業員がいたんだけど、その従業員が「すごくショックなので1ヶ月会社休んでもいいですか?」って言うんだよね。親が亡くなったとしても日本では1ヶ月休むのはありえないよね。でもその従業員にとっては「最愛の父親が亡くなって、ものすごいショックだから1ヶ月仕事はできない」というのが当たり前なんだよね。もし僕が「それは困るから1ヶ月休むのはダメ」って言ったら、その従業員は多分辞めてしまうんだよね。中国では、環境や法律がコロコロ変わるのに慣れている中国人は「まわりの変化や他人はコントロールできないから、せめて自分でコントロールできる変数は自分でコントロールしよう」っていう考え方になっていると思う。だからみんな個人ベースで動いてなかなかまとまらないし、「会社全体でがんばりましょう!」 みたいな団結感はほとんどない。その代わりというか、中国人は自分の利益中心だけに、他人が利益中心に行動することに寛容っていうのはあると思う。

長谷川:サラリーマンの最大の権利は「辞めること」だと思っているんだけど、日本は人材流動性が低い。中国では、転職は当たり前なの?

江口:日本に比べたら、会社はステップアップで変わっていく方が当たり前。むしろ終身雇用の方が変わってるねって感じ。転職をせず1つの会社で勤め上げる人は、逆に「能力無くて誰も誘ってくれないんだね」って思われるかも。40歳くらいになって子供もいて家もあって、ゆっくり過ごしたいって思っている場合はあえて同じ会社に残る人もいるけど、そういう人はあんまり仕事しないんだよね。あくまで自分の利益のためにやっていることだから。

長谷川:日本ではさ、普通企業研修とか受けさせると義理を感じて、研修直後はしばらく勤めたりするけど。

江口:ないない、中国では99%いないよ、そんな人。たとえば中国人が日系企業に勤めることになって、会社の研修で日本にしばらく駐在して日本語話せるようになったとするよね。そうしたら、彼らは、「自分の日本語力はアップしているから、会社はもっと給与を払うべきだ」と本心から思う訳。「会社のおかげで日本語力がUPしてありがとう」という考え方は期待しない方がいいんだよね。だから給与を市場価格にあげてあげないと平気で転職しちゃうんだよね。

長谷川:日本企業でも、優秀な人にMBA取らせると辞めちゃうもんね。

江口:律儀な人は、授業料を返して辞めるケースもあるよね。日本人だって、投資銀行とかコンサルとかに誘われて、給与が1.5倍になったり、自分のキャリアチェンジができる場合は、義理より自分の利益と取るわけじゃん。

長谷川:給料だけじゃなくて、挑戦のために辞めていく人もいるんでしょ?

江口:そうだね。中国の言葉で「発展空間」って言うんだけど、特に若い人は、どういう傾きで成長できるかっていうのをみんな気にしているんだよね。この会社に居続けた場合、どれだけ早く上に行けて、市場価値が上がるかっていうのを中国人は真剣に考えているんだよね。だからもし国内や欧米のトップ企業に行ける機会があれば、日系企業は早々に見限っちゃうだろうね。

あと中国では、個人の評価がすごくシビア。中国の青島(チンタオ)ビールの評価制度なんかは超合理的で、売上成長率等のKPIで地域代表の評価が決まっていて、下位何パーセントかはクビになる。このKPIは、伸びしろのあるエリアだろうが、頭打ちのエリアだろうが全く同じ基準で決まるわけ。その標準的な基準をそのまま適用すると、たまたま運が悪く、その年のKPIが悪かった優秀な人をクビにしないかも知れないけど、それは仕方ないっていう考え方。これが日本だとさ、このエリアでこの目標は現実問題難しいからってさじ加減で調整しちゃったりするでしょ。でも中国では、どこに配属になったかという要素も含めて実力だと考えて、公平な評価で運用することを優先するんだよね。泣いて馬謖(ばしょく)を切るとはこのことかと思ったよ。

長谷川:日本ではほとんどなくなっているけど、帰属意識を生むために社内旅行やったりとか運動会したりとかは?

江口:それは逆に日本以上にやる。何もやらないと個人の利益で動くから、まったく求心力が働かないから、「社内の社員は、みんな仲間なんですよ」って意識を作っていくことは中国では特に重要。でも中国って、日本みたいに会社や組織に対するロイヤリティはあんまりつかないんだよね。でもロイヤリティは個人にはつく。さっき社長に愛想よくするって話があったけど、会社という組織よりも、誰が自分に給料を払っているかっていう部分をすごく気にするから。

長谷川:プライベートと仕事の考え方はどうなの?

江口:もちろんプライベートは大事にする。例えば、会社にとってものすごく重要なプレゼンがあったとしても、そのキーパーソンの中国人社員の親や子どもが病気になった場合、「当然プレゼンを優先するよね」と会社が言おうものなら「従業員を大切にしない冷たい会社だ」って思われて、もうついてこなくなってしまう。

人口13億を擁する、中国の今

長谷川:中国人の情報源は?情報はどこから入ってくるの? 新聞とかテレビとか。

江口:うーん、新聞は見ていない人も多いし、テレビも見ない。中国人は日本人よりずっと、テレビを信用していない。企業宣伝も信用しない。じゃあ何が信用できるかっていうと、家族とか親友の意見やなんだよね。逆を言うと、信じすぎちゃうという側面もあると思う。例えば、知り合いがAという飲料を飲んでいるものなどがあると「じゃあ良いものに違いない、自分も飲んでみよう」と判断するとか。

長谷川:中国ではインターネット環境が制限・制御されているわけだけど、それは変なことだっていう自覚はみんなあるの?

江口:制限されていることは知っている。ただ、人口が1億強で、比較的統率の取れている日本と、人口13億で、各々が自分の利益をひたすらに追求している中国を比べることはできないという側面は確かにある。これは個人的な意見だけど、「中国を民主化しよう」というのはナンセンスだと思う。自分勝手な13億人が民主主義でまとまる訳がないから。もし中国に民主化されたらみんなバラバラに動くからこんな成長できなかったと思うんだよね。そういう意味では共産党のトップの人たちは、いわばタイタニックのようなこの大国の運転法がわかっていて、「一人っ子にしなさい!」とか言えちゃうし、「個別の権利よりも共産党一党独裁が重要」とか割り切って決めていくことができちゃう。中国らしいペースでいくためには多かれ少なかれ必要なことかもしれないという認識があるかな。

長谷川:そういう環境で、「じゃあ国外で生活しよう」とか、「なんだかんだ居心地いいから中国でやっていこう」とかはどんな感じ?

江口:日本語を話せる人だったら、日本に国籍変えようかって人もいる。もしくは家族は日本へやって、自分は中国に残るとかね。この残る人っていうのが何を考えているかというと、まだ中国にチャンスがあると感じているんだよね。中国はバブルだとか、中国はもう成長しないとか日本では言われていると思うけど、それでも平均で6パーセントくらい伸びているの。そうなるとやっぱり、富を大きくするには日本よりも中国だと思う。

長谷川:アメリカ人と中国人の違いはどういうところ?

江口:ダイレクトに意見を言うところは、中国人は日本人よりはアメリカ人と似ていると言えるけど、俺の知っているアメリカ人は「ジェントルマンであれ」という言動もあるから、そのあたりは、いつも本音じゃなくて、建前を言うよね。中国はもっとストレートにやりあって、アメリカのジェントルマンであれ、という建前はないんじゃないかな。

長谷川:中国人は省とか直轄区とか分けられているけど、実際住民はどういう意識なの? 帰属意識は強いのか。

江口:地域に属しているという感覚は日本人以上にある。言葉も違うし。上海人は上海人が一番だと思っているし、北京人は北京人が一番だと思っている節はあるね。上海は顕著で、上海人の中でもさらに区別があるくらい。ルーツも元々上海なのか、それとも親が別の地域から来て上海に根を下ろしたのか、とか。

長谷川:言葉そんなに違うの?

江口:全然違う。日本で言うなら青森のおばあちゃんがしゃべる方言くらいのものじゃないかな。と言っても若い世代は普通語(北京語)は普通にしゃべれるし、逆に上海にいても上海語しゃべれないっていう人もいるみたいだけど。

普及率90パーセント超えの電子マネー

長谷川:中国で、日本より明らかに進んでいることは?

江口:電子マネー。中国ではもう、現金はほとんど使わない。2強がAlipay(アリペイ)とWeChat Pay(ウィ―チャットペイ)なんだけど、ホテル、飛行機、新幹線、タクシーはアプリで予約して払ったり、割り勘も電子マネーですぐ払えちゃう。アリペイはおもしろい仕組みがあって、その日に初めて電子マネーを使うとき、毎回くじ引きができて、0~1元がランダムで当たるの。それを月~金で集めて土日に使えるっていう。0~1元ていうのは、日本円にして16円くらいだからどうでもいい金額なんだけど、このくじ引きのような仕組みがよくて、ついつい楽しんじゃうんだよね。お年玉も電子マネーだよ。これもね、くじ引き仕様にできて、たとえば「みんなに合計2万円あげまーす! でも比率はランダムです!」みたいなことができちゃう。「あなた1万2千円、あなた200円」とか。

長谷川:それ、アプリに元から実装されている機能なの?

江口:そうそう。中国人は楽しいことが好きだから、お年玉もただもらうんじゃなくて、エンタメ要素があると受けるんだよね。

長谷川:カバー率はどれくらいなの?

江口:どうだろう、多分9割くらいじゃないかな。2つとも使えない店っていうのは、ほとんどない。コンビニも全部使えるし。飲食店側にもメリットあるからね。バイトが現金をかすめていっちゃうこともないし、そもそも汚いお札を触らなくていいし。

長谷川:でもそれだけ普及するって、どういうモチベーションで導入されてるの?

江口:利益。中国人はみんな合理的だから利益があればどんどん使う。始まりは、タクシーアプリだった。アプリで呼べば、手を上げて拾う必要もないし、しかも安く乗れますよっていう。運転手に対しては、導入すれば+2000円払う仕組みにして、どんどん推し進めたんだよね。いざ使って見ると便利だし、運転手も乗客もお互いに評価できる制度があるから、変な運転手に当たらないしその逆もしかりっていうのがいい。

長谷川:中国は随分前に行ったきりなんだけど、タクシーの取り合いがすごく激しかった。近くにタクシーが停まろうものなら、私が乗るんだ、私が乗るんだ、ってみんなすごい主張で。

江口:そこで譲ったらもう、延々と乗れないからね(笑)。いくら待っても次の人に割りこまれちゃう。だったらもう、その人に恨まれたとしてもどうせ二度と会わないし、自分の利益を優先させて絶対に譲らないぞ、という発想になる。

長谷川:電子マネーの、支払いの仕組みはどうなっているの?

江口:銀行口座に繋がっていて、デビットカードみたいな感じで随時落ちていく。ウォレット機能ではチャージや現金化もできる。

長谷川:でもそれって日本で言ったら、たとえばヤフーが三井住友銀行に「アプリ作るからダイレクトと連携させるわ~、リアルタイムで減算もお願いね~」ってことでしょ?日本ならかなり難しいね。

江口:中国の銀行経営者は、共産党の役人が3年位の任期で勤めてどんどん変わっていくから、あまり長期的な視点を持っていないと思う。あと、中国には信頼っていうものがないから、すぐに送金されるデビットが親和性高かったというのも大きい。クレジットは全然普及してないけど、95年以降に生まれた世代はクレジット使う人も増えているかな。クレジットの場合、支払い時に預金がなくても買えちゃうから。

長谷川:ところでさ、中国の小売業界では、入金してから納品? 納品してから入金?

江口:場合によるんだけど、端的に言うと強い方が勝つ。提供する側とか客側とかじゃなくて、強い方がすごい条件を突きつけるの。びっくりしたのは、中国にある百円ショップチェーンがあるんだけど、その会社が支払うべき債務だと認識するタイミングが中国的なんだよね。日本だったら仕入先から請求書を受け取ったら、これは支払うべき債務かもしれないと認識すると思うんだけど、その百円ショップは請求書を受け取っても債務だと認識しないわけ。じゃあ、いつ債務(かもしれない)と認識するかというと、仕入先が「請求書渡したのに期日が大分過ぎても払わないのはなぜだ」って怒鳴り込んできて初めて、「これ払わなきゃいけないものかもしれない」って認識するっていう話があったけど、これがThe 中国という感じ。

長谷川:東急ハンズなら、もし万が一何かの間違いで仕入れ先様に支払いできなかったら大問題で、速攻支払い手続きするね。

中国に学ぶビジネスのヒント

長谷川:中国で先端技術を学ぼうと思ったらどこのエリアがいいの? また、日本人は、欧米に学べという意識はあっても、中国に学ぼうって思っている人は少ないんだけど。

江口:深圳(しんせん)かなあ。中国のシリコンバレーなんて呼ばれてるけど。でも、完成された“先端”ではないから、見に行ったとしてもまだまだっていうふうに見えると思う。でもそこからの修正能力とか競争力とかはぜひ注目するべき。逆に、中国では医療とかEVのような信頼度が99.9パーセント必要というサービスはなかなか発展しないから、そういう分野は日本の方が強いかな。

長谷川:江口は、中国でビジネスをしていこうと決断して、中国で生活しているわけだけど、日本でがんばるドメスティックなビジネスマンに対してコメントはある?

江口:価値観の違う人とどう接するかというのを意識していくといいと思う。同じ価値観の中でだけ閉鎖的に働いていると発展がないし、チャンスも少なくなる。それに、ある日、自分が働いている会社の経営者や株主が中国系になるかもしれないしね。たとえば中国人が電車の中で大声で携帯をかけていたら、日本では常識はずれだけど、実際は彼らなりに考えや理由がある。中国では、会議中でもどんどん電話取るのが当たり前だから。前提条件が違うことを理解できると、その人たちとコラボしたり、戦ったりすることだってできる。

あとは、グレーに慣れるということ。今は変化の時代で中途半端な状況も出てくると思うんだよね。そのときに何が何でも決着をつけたがらずに、AかもしれないしBかもしれないっていう状態を割り切って置いておくっていうことも必要じゃないかと。日本人は職人が多いけれど商人が少ない。机を挟んでニコニコしながら会話しているけど、机の下では蹴り合いをしている関係がもっとあってもいいと思うんだよね。相手を少し儲けさせて、こっちはもっと儲けるというしたたかさがあるといいと思う。

長谷川:なるほど、聞いていて関西人は、中国人と似ているとこあると思うんだよね。大阪が日本の首都になったら、いろいろ変わるんじゃないかって思う。ガツガツいくし、儲けを考えながら、なんやかんややるみたいな。

江口:そうかもね。時代によって適性がありそう。たとえば平安時代だったら東京がよさそうだけど、今はいわば戦国時代みたいな時代だから。副作用はあるかもしれないけど、ガツガツ行ける関西の体質の方がトータル的にはいいかもしれないね(笑)。

長谷川:本日は、ありがとうございました。また上海に行ったときには、連絡しますので飲みましょう。