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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第52回 早稲田大学准教授 入山章栄さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第52回のゲストは、気鋭の経営学者、早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授の入山章栄さんです。子ども教育から今の時代の大学・大学院の意味や経営者に必要なリーダーシップについてなど、幅広く伺いました。

経営学ごときで、ビジネスの答えなんか出ない?

長谷川: 入山先生と最初にお会いしたのは、日経BP社がやっている「日経ITイノベーターズ」という会合ですね。企業のITの責任者をしている、ちょっと変わり者の人たちの集まりで、年に何回か勉強会みたいなことをしています。そこで入山さんの講演を聴かせてもらって、今までにないアカデミックに閉じ籠もらないオープンかつ実践的な先生だなと思いました。率直に言いますが、大学の先生の中では嫌われていますよね?(笑)

入山: ははは、嫌われているというか……(笑)。僕は5年前、アメリカにいた時に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という本を出しているんですけど、すごく平たく言うと「世界の経営学は欧米でもアジアでも国際標準化が進んでいるのに、日本の経営学はガラパゴス化している」的なことを書いたんですね。ガラパゴスがいいか悪いかは別として、「国際標準の経営学は、日本で理解されているものとは全然違う」ということを書いたので、僕のことを陰で悪口言っている人とかはいるのかもしれませんね(笑)。

長谷川: 僕、どっちかというと実学派なんですね。日経ITイノベーターズに出ているCIOって、みんなそうだと思うんです。で、そういう人達の前で入山先生は、学術専門的な話もありながら、「結局、そんなフレームワークだとかは関係なくて、こうなんだよ」というような実学派にわかりやすい話をされていて、でも結局は「俺は経営学を学問として突き詰めていきたい」とガツンと言う、そういう妙なバランス感にびっくりしました。こんなことを言う人が。世の中にいるんだなと。

入山: そうでしたか。本にも書いているんですけど、「経営学が役に立つ」とかいう議論が、僕はもう全然理解できないんですよ。そもそも「役に立つ」ということ自体がすごく曖昧というかいいかげんな言葉ですし。長谷川さんには釈迦に説法ですけど、ビジネスってものすごく複雑で大変で、経営学ごときでパッと答えが出るわけがないですよね。

だけど、ビジネスというのは答えが出ない中でも「決断」はしないといけない。そのためには、ずっと学習するしかないと思うんです。例えば稲盛和夫さんみたいなすごい経営者の話を聞くのもひとつの学習だし、先輩の話を聞くのも学習です。でもそういう機会がない人には、一応は世界中で何万というそこそこ頭のいい学者たちが、真剣に科学的に研究をして、例えば「10万社のデータを使って統計解析したら、全体の経営行動指標はこうなりました」とか、そこまでは伝えられるのが経営学です。ただ、「それであんたの会社がどうなるかまでは、俺は知らん」ということで……。僕は逆に、学者にできるのはそこまでだと思うんです。だから「答えが出ます」と平気で言う学者がいるとしたら、一番信用できないですね。

今の時代にMBA留学の意味はあるか

長谷川: 日本の企業は、バブルの頃から社員をMBAに送るというのをずっとやってますよね。最近はMBAに日本人はいなくて、中国人とインド人が多いという話も聞きますけど。今でも、企業は社員にMBA留学させた方がいいんでしょうか?

入山: 難しい質問ですけど、何を求めるかですね。MBAに行って勉強しても、もしかしたら期待したようなことは、100%は身につかないかもしれない。でも、MBAに行く価値はそれだけじゃない。すごくハードな状況で追い詰められて勉強する経験とか、何より、圧倒的に重要なのが「人との出会い」です。MBAでは、教員も同級生も、今まで会えなかったような人と会えて切磋琢磨できます。行った先ですごく強烈な出会いがあるかどうかということが、すごく重要だと思います。

MBAじゃなくてもいいですけど、海外に一度は行って暮らすのはすごくいい経験になると思います。というのは、僕がアメリカにいるときにすごく感じたのは、地の能力でいったら、日本人の能力の高さってやっぱりかなり高いんですよ。同じビジネススクールの中で比べたら、一般に留学生に比べてアメリカ人は、能力的に落ちることも多い。でも彼らは英語というアドバンテージがあるので、最初は向こうの方が何となく頭よさそうに感じちゃうわけですね。1年目はそれで済むんだけど、2年目になると留学生も英語が分かるようになって、「あいつら頭よさそうなこと言っていたけど、意外とたいしたことないよね」って話になる。――ということとかを知るだけでも全然違いますよ。

長谷川: なるほど。

入山: 本にも書きましたけど、アメリカはすごい国で、「お前どこから来た?」ってほとんど聞かないんですよね。いろんな国の人がいて、本当に切磋琢磨しているんです。僕はそれがすごく好きです。ピッツバーグ大学の博士課程で先生1人に学生4、5人で経営学の論文について、当然ながら英語でみんなで熱く議論していたとき、ふと「あれっ、オレいまアメリカの大学の博士課程にいるけど、アメリカ人誰もいないわ」と気づいたんですよね。日本人の僕、中国人が2人、メキシコ人が1人、あとインド人が1人だったかな。アメリカの大学はそういうのがけっこう普通だったりするので、もっと多くの人がそれを経験した方がいいなと思います。本当に実力だけで勝負するのが普通の世界をね。

長谷川: 勉強だけじゃなくて、仲間とか異文化とか、いろんなところでの成長があるということですね。でも、企業に戻るとみんな辞めちゃいますよね。それはポストとか処遇の問題なのか、大企業には戻らないような「体」になっちゃうのか分かりませんが……。

入山: 僕は元々、日本の大企業が欧米のMBAへの留学支援をするなんて何考えてるんだろう、と思ってましたよ。だって実力つけたら、今の会社に留まるのがばかばかしくなるのは当然でしょう。

長谷川: よく言われる、日本は出る杭は打たれる、アメリカはそうでもない、というのは、本当にそんな感じなんですかね? 「日本人はイノベーションを興すのは無理だから諦めたら」なんて話もありましたが。

入山: アメリカも結構、出る杭は打たれますけどね。アメリカ人って日本人よりもよほど空気を読みますし、すごい学歴社会だから、僕は「アメリカ人は自由だ」みたいな言葉は、あまり信用していないです。

日本にいると、アメリカのすごいところだけが見えがちですけど、ものすごい競争社会なので、本当にごく一部の神様みたいな天才が競争で勝ち上がっているだけ。マーク・ザッカーバーグみたいなのは本当に1%、もしくは0.01%なんですよ。残りの99.99%は普通というか、失礼な言い方をすると、アベレージなら日本人より低いかもしれない。それをどう見るかですね。

長谷川: そうすると、暮らしていく上で、アメリカのいいところ、日本のいいところって、どんなところでしょう?

入山: 日本は食べ物がおいしいところですね(笑)。これはもう圧倒的。あと安全だし、暮らしやすい。大好きですね、僕は。

アメリカのすごいと思うところは、やっぱり多様性かな。僕は「お前日本人だから、、、」と言われたこと、一回もない。普通に「アキエ、よく来たな」みたいな感じで、個人として扱ってくれる感覚とか、ああいうのはすごいですよね。でも、しんどい国だなと思います。競争も激しいし、それなりに人の裏表もある。

僕は今、日本で早稲田大学にいて、正直こういうの嫌なんですけど、多分このまま無難にやり過ごせば、定年までどうにかなる可能性がかなりある。こういう感覚は、アメリカにいたら一生ないかもしれないですね。永久在住権とって准教授になっても、結局教授になるためにはまた競争が必要で、教授になったら今度は冠付き教授(Chair Professor)になる必要があって、、、無限ドラクエみたいな感じです。レベルが上がるたびに強い敵が出てくるみたいな(笑)。だから、あそこで勝ち上がるのは本当にすごいなと思います。

子どもに身につけてほしいのは数学と英語

長谷川: 今、お子さんはおいくつですか?

入山: 10歳の男の子と6歳の女の子です。

長谷川: 僕も小4の男の子がいるんですが、例えばその10歳の男の子に対して、どんな教育プランを考えていますか?

入山: 2つだけです。ひとつは、僕は日本の「礼儀正しく」が好きなので、ちゃんとして欲しいというのはあります。あとは息子には「英語と数学だけできれば、あとはどうでもいいから」と言っています。数学をやってプログラミング言語ができる素養が身につけば、息子は一応帰国子女なので、あとは要らないというのが僕のスタンス。もちろん国語とか、美術とか、色々と重要なこともあるけど、それは好きに感性ベースでやってくれればいい。

長谷川: 今まで、というか今も日本は学歴社会ですが、そういう意味で、こうなってくれたらいいなという、理想のようなものはありますか? もちろん最後はお子さんが自分で選択するものだと思いますが。

入山: 僕は子どもが好きで、子離れできなさそうなので(笑)、「なるべく一緒にいてほしいな」という思いはあります。だから葛藤もありますけど、それを無視すれば、最強のパターンは、「日本でそこそこいい大学に行って、大学院でアメリカに行くこと」かなと思います。

長谷川: なぜですか?

入山: 学部で向こうに行くよりも、母国で大学ぐらいまでちゃんとやってから、問題意識を持ってアメリカに行く人の方が、僕の周りでは力がある場合が多いかな、と思っているんです。あくまで個人ベースの経験則ですが。

長谷川: うちは嫁が英語好きで、子どもにもずっと英語をやらせてるんですね。僕はIT系なので、絶対というわけではないけれど、コンピューターはやってほしい。要するに英語とコンピューター以外は、学校の成績どうでもいいと思ってるんです。とはいえ、僕はもともと三重県出身で、中学受験とか全くない世界だったので、この東京では、みんなどうしてるのかなと、気にもなって。

入山: すごくわかります。難しいですよね。うちは、嫁さんがお受験とか悩む派なんですよ。僕はそんなのどうでもいいと思っていたんですけど。

長谷川: 中学受験をさせる予定は?

入山: 検討中です(笑)。息子は今は公立の小学校に行っているんですけど、中学受験するなら中高一貫か、一番いいのは大学まで行ければと。息子は僕と違って数学の素質がありそうだし、アメリカに6歳までいたので基礎的な英語はしゃべれるんですね。アメリカ国籍もあって。だからもう放っておいて、好きなことやればいいんじゃないの、という気持ちもあるんです。個人的には息子に任せています。長谷川さんはどうですか?

長谷川: ひとつだけ思っているのは、大企業終身雇用みたいな所謂王道(に思える)のレールを信じるのではなく、「俺はこっちが幸せだから」とレールから横っ飛びするような、そういう感じになってほしいな。それだけ考えてやってますね。

お受験でトップ校行かないんだったら、むしろ変わったところに行ってほしいなと。僕はどっちかというと、アジアかなと思ってるんです。アジアの人たちがいっぱいいるような中学や高校なんかに行って、「俺の実家来いよ」って誘われて、ちょっと向こうの国に行って遊んでくるみたいなのがいいなと。

入山: それはいいですね。子どもの教育のためにアジアの別の国に移住する人も出てきていますからね。

大学の価値、先生の役割は変化している

長谷川: お子さんには大学院からアメリカに行ってほしいと言われる一方で、MBA留学するとしたら海外でネットワークを作れるところに価値があるという話でしたよね。GDPでいくと、アメリカはまだ伸びるとは言われてますが、一方でアジアの時代が来るということもあり、アジアの大学に行くというのはどうなんでしょう。

入山: それはありだと思いますよ。例えばアメリカに行っても、下手すると同じ母国の人とつるみがちなので、1〜2年留学したくらいだと、結局そんなに欧米の友達はできない人もいます。できても、別れれば疎遠になる。そう意味では、僕の勤めている早稲田大学のビジネススクールの方が、ある意味面白いかも知れません。うちのMBAはいま世界30ヶ国近くから人が来ていて、しかも北米や欧州からも来るけど、メインはアジアからなんですよね。先日なんかも、うちのゼミ生の台湾の女の子が修士論文のテーマを「私のファミリービジネス」に決めたいと言うんです。何かと思ったら、台湾で一番大きなトヨタの輸入代理店のお嬢さんだったんです(笑)。そういう子が結構いるので、「(アメリカに行くよりも)ここで人脈つくった方がよっぽどいいかもよ」という話は、学生にたまにしています。

長谷川: 大学や大学院の教育ってどう変わっていくんでしょう? インターネットの前後で違うのではないでしょうか。昔は、大学でも、先生が「こうだ」と言ったことを信じて勉強していたのが、最近は、その場で、ググったりとかして、「この人が違うこと言っていますけど、どうなんですかね?」みたいなことってあるんじゃないですか。消費者が賢くなるのはまだいいとしても、学生がそうなると、授業をするのも難しくなってくると思うんですけど。

入山: それ、素晴らしいポイントです。もう基礎的な知識で大学に行かないと学べないことは減ってきているので、「先生が何を教えるか」だけでは、大学の価値はなくなってきていますよね。

必要なのは2つで、まず「その大学を出た」ということです。経済学で「シグナリング理論」というんですけど、例えば東大に入るのは大変じゃないですか。それでも入りたがるのはなぜかというと、ものすごく勉強して受験競争を勝ち抜いて、日本のトップ校に入ったことで、「それだけ努力していて、地頭がいいんだな」ということをリクルーティングする人に伝えられるから。大学で何を勉強したかはどうでもいいわけです。

もうひとつは、繰り返しですが、いろんな人と出会えるということですね。僕は学部は慶應だったんですけど、特にゼミの先生とか、ゼミで出会ったら奴らには面白い人が多くいました。そのまま友達でいられますし。

その2つが大事で、大学教員がこういうのはまずい気もするんだけど、「何を学んだか」のウェイトは下がってきていると思います。だから個人的には、早稲田大学のビジネススクールも、より人との出会いとか、面白いことが起きているコミュニティとか、さらにそういう風になればいいと思っています。まあ、うちは、かなりそうなっているとは思うのですが。

長谷川: スタンフォードは結構座学が多くて、ハーバードはディスカッションが多いと聞いたりしますね。先生が教えるというよりも、学生同士に議論させると。

入山: ハーバードではもう、教授はただの司会者みたいな感じのようです。

長谷川: モデレーターみたいな。

入山: そう。教授はほとんど持論を述べないで、ひたすらディスカッションをさばく。ビジネスには答えがないので、教授が「こうだ」と答えを言っても仕方がないじゃないですか。そうじゃなくて、「こいつがこういうふうに考えるんだ」とか、「こういう考え方もあるんだ」という、多様な考え方を、世界中から来た優秀な人達から引き出すことが、教授に必要な能力になってきているのだと思います。ハーバードはそれが一番徹底している印象です。

大企業とベンチャーで必要とされるリーダーは重なってきている

長谷川: もうひとつお聞きしたいことがあって。リーダーに関してなんですけど、大企業に向いているリーダーと、ベンチャーに向いているリーダーって、やっぱり素養とか何かが違うんですか?

入山: 僕はオーバーラップしてきていると思っています。なぜかというと、今は大企業でも普通にやっていたらつぶれちゃうので、ベンチャー的になっているんですね。

僕はデロイトトーマツというコンサルティング会社が開催している「人材流動化研究会」の座長をやっているんです。先日はたまたまGEの人が来ていたんですが、GEの発想はすごくベンチャー的になってきてますよね。「そうでないと俺たちつぶれる」と言っていて。だから、求められる人材は重なってきているのかもしれません。

先の分からない世界なので、やるしかないわけです。でも不確実性があるとみんな不安なので、いかにリーダーが周りの人たちに、「うちの会社はこれからこうなる。そうすれば社会でバリューが出せて、すごく魅力的なことができるんだぜ」というのをちゃんと語れるかがすごく重要です。ベンチャーは昔からそうですが、感度の高い大企業も少しずつそうなってきています。

長谷川: 大企業って、課長や部長ぐらいまでは業務成績がよければ「あいつ、すげえじゃん」と評価されるけれど、どこかからか「イエッサー」の人だけが上がっていくというところがありますよね。あるいは減点主義の中で、マイナスの奴は落とされていくようなところが。今おっしゃったようなベンチャー的なリーダーを受け入れて、上に上げていくように変わっていくんですかね?

入山: 多分、そうやっていない会社はつぶれちゃうと思いますよ。ただ難しいのは、日本企業で評価するのは「成功か、失敗か」なんですよね。失敗か成功しかなくて、失敗したら減点になるやつです。もちろん勝たなきゃだめなんだけど、そのプロセスでものすごい失敗があってもいいはずで、そういうのを認められる方にいかないと勝てないというのは間違いないですね。

長谷川: リーダーの「素養」というと「生まれ持ったもの」という意味になっちゃうのかもしれないですけど、リーダーに必要なものとは、どういうものでしょう?

入山: これからの時代ということでいうと、まず未来を見抜ける能力だと思います。これは重要で、良い経営者はみんな未来を見ている。当たり前ですけどね。

ただ問題は、未来が本当にそうなるかなんて分からないんですよね。それでも「絶対こうなる」と見定めて、それに対して「うちの会社はこういうアップセットがあって、こういうリソースがあるから、こうやって価値を出すんだ」ということをちゃんと語れる、巻き込めるリーダーというのが決定的に重要だと思います。

長谷川: 孫(正義)さんも、「情報が7割ぐらいのときに決定できるのがリーダーで、10割で判断するのは一般社員でもできる」と言っていますよね。

入山: 孫さんなんて、きっとあの人2、3割で決定していますよ! クレイジーだと思いますけど、未来は分からなくても「こっちなんだ」と言って、ステークホルダーを巻き込んで「こっちに投資しよう」とやっている間に、経済はそっちになっちゃうんですよね。「セルフフルフィリング」といって学術的な理論もありますが、やっているうちに本当に実現させる、つまり未来をつくり出すんです。

孫さんは最近10兆円のファンドを作ったり、昔ボーダフォンを買ったときもそうですけど、普通は絶対引き出せない金を引き出せる。それは語る能力が異常にあるからだと思います。「世の中わからないけど、とりあえずこっちなんだ。だから金出せ」と(笑)。僕が言うのもおこがましいけど、これからの経営者に一番必要な素養を持っている方なのだと思います。

これからのリーダーに必要なのは、魅力あるビジョンを語る力

長谷川: 最近注目している経営者は、どんな人たちですか?

入山: 好きな経営者は何人かいます。孫さんは直接お会いしたことがないので、お会いした中ですごいな思うのは、やはり日本電産の永守さんですね。もう70ですけど、怪物ですよ。グローバルのGEとかが組織でやっていることを、永守さんはひとりでやっているんですよ。モーターの会社で、「モーターは産業のコメになる」というビジョンをもっています。なぜなら、車が自動運転になれば全部モーターが入るし、加えてドローンもあると。しかもドローンは近いうちに自家用の「マイドローン」になる、「15年したらドローンで通勤するんだ」と、そういう絵を描いているわけです。日本電産は世界のモーター市場の8割を押さえていて、ドローンってモーターが絶対必要だから、ドローン市場が伸びたら、日本電産の売り上げもガッと伸びるんですよ。永守さんが「あと10年で10兆円にする」と言っているのもあながち夢じゃないなと思います。話を聞いていると「この人、あまりにも言っていることが壮大だけど、ついていってもいいかな」と思っちゃうような方です。

長谷川: ただのほら吹きおやじで、人がついてこない人との違いは何でしょう?

入山: 面白いのは、永守さんは「10兆円にするというのはホラだ」と言っているんです。でもワクワクするんですよね。本当にキャラが濃いので、部下になったらすごく大変でしょうね。日本電産は最近も経営幹部が辞められていますが、でもやっぱり残っている人たちは魅力を感じているのだと思います。それがリーダーなんだと思いますよ。孫さんもそういう感じみたいですが。

長谷川: そういう意味では、大ボラ3兄弟と言われているのがファーストリテイリングの柳井さんと、永守さんと、孫さん……。

入山: 僕が言うのも僭越すぎますが、あの3人は似ていますよね。みんな一見すると信じられないようなことも多く話して、でも実現しているじゃないですか。だから結局投資家にしても、バリュエーションなんかどうでもいいのかもしれない。その人のビジョンとか考え方にいかに共感できるかなので。そういう人間力みたいなのがもっと重要になると思います。多分日本で一番それがあるのが孫さん、柳井さん、永守さんなのかも。

長谷川: 入山先生自身は、これから何がやりたいとか、あるいは世の中をこうしていきたいとか、そういう希望はありますか?

入山: 僕の場合、面白いことが好きだから、「面白いことだけやるし、面白くなかったらやらない」というだけなんですよね。最近はみんな、「人の役に立ちたい」「世の中の役に立ちたい」という感覚が結構あるみたいですけど、僕はいまだに全然興味がない。今は個人的に面白いことをやれているので、ものすごく楽しいです。

長谷川: 仮に10人中10人に、「それは全然面白くないですよね」と言われても、自分が面白かったら全然いいということですか? それとも、さすがに10人中10人に面白くないと言われると、「俺ちょっと違うかな」みたいに思います?

入山: 多分、自分が面白いなと思っていることが、全員かどうかはわからないけれど、ある程度は他の人の興味ともマッチしているからハッピーなんでしょうね。それがすごくずれているという状態は、想像したことがないから何とも言えないですけど。

長谷川: 面白いことが他の人にとってマイナスなことはそんなにないはずで、社会の役に立つことにも連鎖しているだろうという感じでしょうか。

入山: それはそうだと思います。周りの人たちに面白がってもらっているというのを「役に立っている」と考えれば、そうだと思います。

長谷川: なるほど、それは確かにハッピーな状態ですね。よくわかりました。

今日はお忙しい中、ありがとうございました!