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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第45回 ANAシステムズ株式会社 代表取締役会長 幸重 孝典さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。今回のゲストは、78年に全日本空輸(ANA)株式会社に入社し、インターネットの黎明期からeコマースやサービスのIT化に取り組んでこられたANAシステムズ株式会社の幸重孝典さん(代表取締役会長)です。実はパイロット試験を受けたことがあるという飛行機好きの長谷川が、気になっていたあれこれをたっぷりお伺いさせてもらいました。

ApplePay日本上陸!米Appleとコミュニケーションを密に取っているANA

長谷川: 先日Apple Payが日本で使えるようになることが発表されましたが、ANAさんのロゴもしっかり出ていましたね。あれはやっぱり、前々からANAさんがApple社に対して「Apple Payが日本に来たあかつきにはぜひ…」という話をしていたんですか?

幸重: そうです。Appleとは以前からコミュニケーションをとっています。日本支社もそうですが、アメリカの方とも。だからアメリカでプリペイドのサービスが出たときから、「日本はいつなの?」という話はしていました。

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長谷川: 結構長い付き合いがあるんですか。

幸重: 4年前くらい、ジョブズが亡くなって最初の半期決算の説明のときだったと思いますが、ANAが全CA(キャビン・アテンダント)にiPadを配ったということを向こうでもプレスしてくれたんですよ。そんなこともあって、世界の航空会社の中でも、少し特別な覚え方をしてくれている感じはします。それからずっと関係は続いているので、ITの連中もしょっちゅう向こうのエアライン担当とグループディスカッションをしたりしていますよ。アメリカの本家本元とのコミュニケーションというのは大事ですよね。日本支社をないがしろにするわけではなく、ちゃんと両方やっておかないと、やはり米国サイドでないと判断できないことがあります。それができないからと日本支社にガンガン言うくらいだったら、直接行って交渉すればいい。

長谷川: そういう企業努力の結果なんですね。

僕が失敗しちゃったのが、数年前にAppleがApple Payを発表したときから、「絶対に東急ハンズが、日本で最初にApple Payを入れる企業になりたい」と思っていたんです。そのためにいろいろ情報を仕入れていたんですけど、「Appleはグローバルな企業だから、日本向けにFelica対応なんてやるわけない」と、勝手に思い込んじゃったんですね。グローバルだったら「TypeA」、「TypeB」、「PayPass」、「VISA payWave」(いずれも海外で普及している電子マネーの規格)じゃないとダメだろうと思っていたんです。だから、Felica方式の電子マネーを入れたら二重投資になると思って、東急ハンズでは、Apple Payの仕様が分かってから導入するつもりだったんですよ。そうしたら、それが仇となってしまった……。iDとかQUICPayに対応していればファーストユーザーになれたかもしれないのに、読み違ってしまったというのが反省点です。

幸重: 今までのAppleは独自路線をとっていく戦略でしたから、長谷川さんの読みは間違っていなかったと思いますよ。ただ「支払い手段」ということで考えたときに、Appleはどう入り口を作るかをそれなりに考えたんでしょうね。最初にある程度マーケットに認知されなければ、独自性もなにもないですから。まずは今持っているカードから始めて、最終的にはスマートフォンだけですべてが完結するようにしたいんでしょう。同じデバイスで、こっちの方が便利だ、もっとこんなこともできる、あんなこともできると。それを日本ではどう展開していくかというときに、最初から独自路線でいくのか、既存のものを使いながらシフトさせていくのか、考えた結果なんじゃないかなという気がします。

長谷川: それにしても、iDもQUICPayもですが、Suicaなんて完全に独立系の電子マネーが、よくぞ入りましたよね……。

幸重: SuicaはJRの乗車モデルとして構築されていて、他の電子マネーとは全然ビジネスモデルが違いますよね。改札のコストダウンになったわけだから、たぶん減価償却は終わっていて、余力が十分あるんじゃないですか。

長谷川: そうか、なるほどね。うちは東急グループなので、PASMO軍団ですけど、Suicaに比べると難しい感じですよね。電鉄系の会社の連合なので、各会社全員が「うん」と言わないといけないので。

幸重: Suicaがあれだけオープン戦略でやっていると、強いですよ。日本のお客様だけじゃなくて海外からのお客様だって、もし空港で外貨からSuicaに変えられて、日本中の乗り物に乗れて、他の支払いにも使えるとなったら、こんな便利な国はないですよ。帰る時は自分の支払った通貨でお釣りがくれば、もう最高のインフラですよね。

長谷川: 先日オリンピックを見にリオに行ったとき、「リオカード」というのがあって、基本的にはオリンピックがある会場とその沿線は、バスだろうが電車だろうが、リオカードで全部乗れたんです。東京オリンピックの時も、きっとそういう風になるでしょうね。

「家族に還元したい」のは日本のマイラーに特有の感情

長谷川: ANAさんはインターネットへの対応もすごく早くて、昔から良いイメージを持っていたんです。だからマイレージサービスが始まった頃からネットで色々調べて、一生懸命マイルを貯めましたよ。あれは、JALさんと同時期に始めたんですか?

幸重: 本当はうちが先にやりたかったんですけど、JALさんも必死に準備されて、ほぼ同じタイミングになりました。97年の4月からスタートして、実質的にカードができたのは5月からですね。来年がマイレージ20周年なんですよ。

その当時に規制緩和があって、98年にスカイマークさんが新規参入したんです。そのままじゃお客様が他社を選ばれるわけなので、「まずは今いるお客様のことをきっちり把握しないとね」ということでマイレージサービスを立ち上げたんです。

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長谷川: そうだったんですね。

僕はとにかく「スーパーフライヤーズカード」が欲しくて。まだ前職時代ですが、「5万マイルいくにはビジネスで海外に2回行って、国内もちょっと行けばいけるな」なんて考えながら、一生懸命海外に行く予定を詰め込んだりしていましたよ。そうやって条件を達成して、ANAのマイページで「スーパーフライヤーズ」のマークが表示されたときはすごく嬉しかったのを、よく覚えています(笑)。

幸重: 今で言うとCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)さんとか、どんな会社様も会員組織は作っていますけど、単にポイントを集めるだけでなく、エアラインのロイヤリティとセットになっているというのは、航空会社のメリットだと思いますね。

長谷川: うちはANAの家族カードで嫁にもスーパーフライヤーズがあるので、子どもを含めた3人でラウンジに行けるんですね。海外旅行に行く時とか、ちょっと時間があるとラウンジへ行きます。嫁からは、大体そういうときは「どうだ!」みたいな、そんな顔をしてると言われます(笑)。

幸重: (笑)。マイレージで何をご提供するのかということでお客様の声を聞いていると、日本のビジネスマンは「家族に還元したい」という気持ちが非常に強いんですよね。企業で役職がついている方は、仕事ではビジネスクラスやファーストクラスを使ってマイルが溜まっているので、家族で旅行するときは、エコノミークラスなんだけどラウンジに入れる。それで「パパすごい!」と言ってくれると。

長谷川: ああ、そういうことですか!

幸重: 例えばマイレージがたまったときに差し上げるものも、必ずお子様とか奥様が喜ぶようなものも入れておかないと、日本では評価が低いんです。「お父さん、あれが欲しいからANAでマイル貯めて」というのが、非常に誘因力があるんですよ。本人も大切なんですけど、家族を押さえるって結構重要です。

もう18年経ちますけど、「ポケモンジェット」というのをやったんですね。最初の頃、「ANAの搭乗券2枚でANAオリジナルのポケモンカードをプレゼントします」というのをやったんです。それが他では売っていないレアカードだったので、お子さんが「レアカードが欲しい」と言うと、お父さんはANAに乗ってくれるんですよ。カードのコストってそれそのものでは大した額ではないですけど、それで航空会社を選んでくれるというのは、ものすごい誘因効果ですよね。

長谷川: ほかの航空会社はあまり乗っていないので分からないですけど、子どもにおもちゃみたいなものをくれて、それを子どもが喜ぶもんだから、「こんなに優しくしてくれるんならまたANAに乗ろう」と思っちゃいますよね。CAの方もすごく子どもに優しいし

幸重: 小さい頃にそういう経験をしたから、大きくなってからもANAが身近に感じてもらえるというような、もっと長いライフタイムの考え方もありますね。うちがキッザニアなんかにも出しているのは、そういう考え方ですね。

航空券の値段は何で決まるか

長谷川: 最近ちょっと不思議に思ったのが、リオのオリンピックを観に行くのにチケットを取ろうと思って見てみると、同じ目的地で、スターアライアンスの中でも、航空会社によって貯まるマイルは結構違ったりするんですね。

幸重: 乗り継ぎで同じ航空会社で行く場合と、別の会社を使う場合でも違ったりしますね。まず、運賃をどう配分するかという問題があるわけです。だからエアラインとしては、極力自社グループでつなごうという意思があります。マイレージも、途中でどう乗り継ぐかによって、精算の仕方が少し変わってくるんです。

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長谷川: 最近シリコンバレーにいる人がFacebookに投稿していて盛り上がったのが、「シリコンバレーに行くには、サンフランシスコ・東京便よりも、サンフランシスコ・ロサンゼルス・東京便の方が安い」と言うんですね。単純に考えるとサンフランシスコ・東京便の方が距離としては近いし、どう考えても乗り継いだら、コストが余計にかかっているような気がするんだけど、なぜサンフランシスコ・ロサンゼルス・東京便の方が安いんだろうと。Facebook上で、みんなで持論をやたらめったら言い合っていましたけど(笑)。

幸重: それは多分ロサンゼルスの方が競争が激しいからではないでしょうか。きっとなかなか席が埋まらない航空会社が多いんですよ。

ホノルル線なんかは、昔は東京からよりも大阪の方が競争が激しいから安かったんです。供給量に比べてマーケットがそれほど大きくないから。ここが航空会社の悲しいところで、在庫を持てないんですよね。売れないまま失効させるのか、もう少しでもお金にした方がいいかと思うと、安く売っちゃう会社も出てくるんですよ。

長谷川: なるほど〜。公式見解がでちゃいましたね(笑)。

幸重: やっぱりプライスはマーケットが決めるんです。

長谷川: 仮に僕が10万円のチケットを買った場合、原価というのはどんな塩梅なんですか?

幸重: これは難しいんですよ。お客様が何人乗ると、固定費、変動費が賄えるという、いわゆるブレークイーブンポイント(損益分岐点)があるんです。だから、1人当たりで原価がいくらというよりは、ブレークイーブンポイントがどこにあるかというのが航空会社の考え方です。ホテルなんかでもそうですね。

長谷川: なるほど。僕らは機内サービスに目が行きますけど、CAさんの人件費というのは結構大きいのか、あるいは燃料費とかその他いろいろの方が大きいのかというと?

幸重: やっぱり燃料費と機材コストがとても高いです。

長谷川: 飲み物のサービスなんかは、搭乗前に自動販売機から自分で1個取る方式になっても、飛行機代が安くなるならそれもありかなと思っていたんです。でも、そういうのは非常に微々たるコストだということですね。

あと、決まりとして何人搭乗員がいないといけない、というのはあるんですか。

幸重: はい。CAはサービス要員という側面だけではなくて保安要員でもあるんです。だから50人に1人は必ず乗せなきゃならないなど、規定によって機種ごとに最低何人乗せなきゃいけないというのが決まっています。サービス要員として見られがちですが、万が一の緊急事態における脱出などを想定し、安全を守るための保安要員としての意味合いも極めて重要なんです。

長谷川: 人件費を下げようにも、その決まり以下には減らせないということなんですね。

幸重: コストの問題、いろんな人の配置の問題もありますけど、航空会社にとっては安全というのはすべてに優先します。お客様も、一番求めているものは、やっぱり安全ですからね。

初期のインターネット対応をリードしたのは営業部門だった

長谷川: 世の中にインターネットが出てきた当時、企業のホームページランキングみたいなものがあって、ANAさんが1番という状態がずっと続いていましたよね。航空業界はもちろん、全産業の中でも抜きん出て1番でした。「ネット系への執着」といっていいほどの速い対応だったと思うのですが、今回のAppleへの対応をみても、そういうDNAがあるんですか?

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幸重: お客様に対するサービスを追求するというDNAはありますね。もうひとつは、インターネットのサービスを始めた97年当時から、我々はeコマースを中心にやっていたということがあります。航空券の購入というのがインターネットと親和性が高かったんです。当時、大きな企業さんだとまずはコーポレートサイトを作って企業イメージを表現しようというところから始められるところが多く、それが結構長く続いたんですね。でもうちは最初からeコマースをねらっていたので、そういう意味では会社としてもサポートしやすかったのでしょう。

それと、その前にチケットのロジスティクスを変えていたというのも大きかったです。コールセンターに電話をしてクレジットカードで航空券の購入を済ませ、当日は空港に行ってセルフサービスのマシンにクレジットカードを入れれば航空券がピックアップできるというサービスを、インターネットの前に始めていたんですよ。それをネットでできるようにするというのは、それ程難しい事ではありませんでした。

長谷川: インターネットへぐっと力を入れてやるという初期の頃、御社の中ではどこの部門が積極的だったんでしょう。今おっしゃったようなことって、情報システム部もチケット販売系の方も関係あるでしょうし、部署をまたがってやらないと実現しないですよね。通常はどこかの部署が「やりたい」いっても、ほかの部署が「ええ…」「そんな」みたいな反応でなかなか進まなかったり、「ほかがやってからうちもやる」みたいなことがあると思うんですけど、ANAさんがどんどん前に進めたのは、なぜでしょう。

幸重: 「アメリカで成功しているんだから、日本でもそういうのが来るよね」ということで、どちらかというと営業部門の方がリードしたんです。ITはものすごく冷たかったですよ。やっぱりメインフレームでアプリケーション開発して……、というのがITの仕事であって、「インターネットなんて俺らの仕事じゃねえよ」というのが、当時のIT部門のスタンスでしたから。

長谷川: なるほど(笑)。そうですよね。

幸重: 黎明期は、逆にそれが良かったのかもしれません。営業部門主導でやって、ちゃんと実績を出してからは、ITも含めて一緒にやろうという形で進めていけたので。最初からIT部門を巻き込むと、大きいものを作りたがるじゃないですか。そうなると、「儲かるのか?」とかそんな議論になって、すぐに1年、2年経っちゃうので。

長谷川: 本当に、そうですね。

さっきおっしゃっていた「安心、安全が第一」という姿勢だと、何にしてもコンサバになってしまいそうな気がするんですけど、同時に「ITで便利にしていこう」ということもできるというのは、どこかで考え方のスイッチングができているということなんでしょうか?

幸重: 安全ということに関してのコンサバなカルチャー、これは持っておかなければいけない。一方、競争環境の中で何が必要か、答えを出してくれるのはやっぱりお客様だということです。特にインターネットの黎明期は僕らも全然分からないので、自分たちで考えて何かやるよりは、お客様にいっぱいいろんなことを教えてもらって、それをがむしゃらにネットの中に反映させていきました。うちのサイトが比較的早くから評価をいただいていたのは、徹底的にお客様の声を取り込んだというのがあると思います。

それと、インターネットに関しては成功体験が作れたということがあります。最初はネットでの売上なんて微々たるものだったんですよ。それを短期間で伸ばして、社内の見方を変えてきたんですね。

数字がすごく小さかったときは、好き勝手にやらせてもらいましたけど、お金もあまり付けてくれないんですね。当初はサービス自体に否定的な人も多くいました。でも最後の殺し文句は「お客様がこんなサービスが欲しいとおっしゃっているので、始めさせてください」でした。今でも覚えていますけど、予算もなくてサイトのURLなんかはテレビコマーシャルにも出してもらえなかったです。なんとか飛行機のタラップや自社の車両のところに出したり、自社媒体といわれるタイムテーブルとか機内誌には出しましたけど。

でも結果的にはどんどん数字がついてきて、個人のお客様でネットからの購入が3割を超えるとちょっと風向きが変わり、5割を超えるとガーッと変わりましたね。「俺は昔からインターネット重要だと思っていた」っていう人がいっぱい出てくるんです(笑)。

長谷川: (笑)。ANAさんのチャレンジで言うと、カレンダーとか広報誌も一方的に送りつけるんじゃなくて、「送付を希望しない」を選べて、その場合はマイルをくれる、というのもすごいなと思うんです。やっぱり企業としては宣伝したいから、「どんどん送ろうよ」というのが普通の考え方で、それをお客様視点で考えて、よくあの制度を作れたな、と。

幸重: やっぱりお客様のほうがどんどんエコ志向になってきて、「もったいない」と言われるんですね。だから企業姿勢を示すということがひとつ。もうひとつは、ああやって事前に希望を登録してもらえれば、在庫管理ができるわけです。発注量を全部コントロールできるから。それはそれでコストも下がるわけですよね。ネットで双方向のコミュニケーションができる時代に、そういうやり方は誰もハッピーじゃないでしょう。

国際線が悲願だった頃のチャレンジ精神を、もう一度取り戻さなければいけない

長谷川:実は僕、パイロット試験を受けたことあるんですよね。

幸重: え、そうなんですか? それは初めて聞くなあ。

長谷川: 大学生になってもそんなに飛行機に乗った経験はなくて、あまりよく分からなかったんですけど、たまたま友達が航空会社を受けているというんで、「え、何それ?」と、僕も思わず受けたんです。新卒で入ったのは今でいうアクセンチュア(旧アンダーセンコンサルティング)なんですけど、アンダーセンを受けに来ていた他のやつも「エアラインも受けている」と言ってたりして、「そういう道もあるのか」と。

就職活動のときに考えていた条件というのが、ひとつは「海外」に関係すること、もうひとつは「専門職」、つまり「俺は何屋なんだ」というのが明確になるというのと、あとは、ちょっと下世話ですみませんが(笑)、「給料が高い」ということ。この3つで探していたんですけど、パイロットはそれにピタッと合ったんですよ。

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幸重: なるほど。

長谷川: それでいくつか受けて、ひとつは最終の選考まで行ったんですけど、残念ながら落ちました。でも、そんな思い出があって、うちの嫁もどちらかというとグローバル志向が強いからか羽田空港が好きで、時々家族で遊びに行ったりするんですよ。飛行機がブーンと飛んでいるとワクワクするんですよね。

幸重: 飛行機って夢がありますよね。

長谷川: そうなんです。空港に行ってぼーっと、何をするでもないんですけど、掲示板で行き先がどんどん表示されるのを眺めたり、人がどーっと動いているのを見たりしていると、ちょっと気分が上がります。

幸重: 航空会社に入る人って、飛行機が好きなんですよね。だから、CAとか営業職みたいな華やかな仕事ばかりじゃないんですけど、どの部署に行ってもある意味満足なんですね。人事ローテーションで、結構いろんなところを回るんですよ。例えば整備部門に行ったりとか、貨物の部門に行ったりとかでも。それが航空会社の強味なのかもしれないと思います。

ただ、最近はちょっと変わってきていて、ANAで「この仕事をやりたい」とか「あの仕事をやりたい」とかいう子も増えてきているんです。だからそうじゃないところに行くと辞めるというのも最近はあって、ちょっとびっくりしています。10年ぐらい前はあまりそんなことなかったんですけどね。

長谷川: 若い人の考え方が変わってきているのか、環境が変わったのか……。

幸重: ANAの国際線が飛ぶようになって、今年で30年なんですね。だから22歳で入社するとして、国内線しかなかった時代のANAを知っているのは52歳以上。それより下は、もう国際線が飛んでいて当たり前で、そっちの方がマジョリティなんですよね。「国際線に出るのが悲願」だとか、そういうことを言っていた時代があるのですが、最近だとJALさんがああいう事態になって、「ANAの方が上だ」なんて思っているのもいるかもしれません。同じ会社の中でも、幾つかフォッサマグナがあって、実は僕らの世代のときのほうがチャレンジングだったかもしれません。

長谷川: 確かに、明らかにチャレンジャーのポジションだと、ガンガン行こうという雰囲気になるんでしょうけどね。

幸重: 「チャレンジャーになれよ」といっても、「誰にチャレンジするの?」という風になっちゃう。だけど、相手はもう日本じゃないんですよ。「世界の航空会社の中でチャレンジャーになれよ。世界の中では、俺らはまだベストテンにも入っていないだろう?」と、そうやってターゲットをしっかり言わないといけないんです。日本のマーケットの中で日本航空に追いつけとか勝てとか言っていたカルチャーのままだと、チャレンジ精神がなくなるんですよ。

LCCに親会社のカルチャーは持ち込まない

長谷川: 今、世界でナンバーワンというのはどこなんですか?

幸重: 国際線だと、LCCです。ちょっと比較が難しいんですけど、アメリカの航空会社は国土が広いので、売上の8割がアメリカ国内で、国際線の売上が少ないんです。ヨーロッパは短い路線も国際線になったりするので、ヨーロッパ系のLCCというのは結構ランキング1位、2位なんですよ。

それと最近の台風の目は、中東です。エミレーツ、エティハド、カタール、あとトルコ航空、そういうところがめちゃくちゃ力を持ち始めています。だから世界での競争は、LCCと中東の航空会社、こことどう闘うかがこれからのテーマです。

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長谷川: なるほど。LCCは、御社グループでいうと「ピーチ(ピーチ・アビエーション)」と「バニラ(バニラ・エア)」ですね。そこはどんな方針でやっているんですか?

幸重: たとえ話で言うと、僕はヨーカドーさんとコンビニだと言っています。多分、コンビニが始まったときはヨーカドーさんも社内で色々な議論をされたと思います。でも、結果的にはどういう形でマーケットが増えてもいいじゃないか、ということなんですね。

LCCが入ってくるときは、「このまま放っておくと、アジア系のLCCがいっぱい入ってくるよね」と。そうすると日本のマーケットを取られることになるので、取られるぐらいなら、本体の売上が減ったとしてもLCCをやって、合計で大きくなればいいという考え方です。ひょっとするとコンビニみたいな逆転もあるかもしれないけれど、ほかの会社にとられるぐらいだったら自社の中で全部構築しておこうということですね。

長谷川: LCCって、どのくらいのシェアを取っていくんでしょうね。

幸重: 国際線だけだと5割くらいはいくかもしれないです。ただ、日本のマーケットではあまりカニバリはないんですよ。今までとは違う人達が海外に行っているので、そういう意味ではマーケットの裾野を広げる効果がLCCのにはあったということです。

長谷川: そうなんですね。

幸重: ピーチの立ち上げのときは今ピーチの社長をやっている井上(慎一氏)と、「ITどうする?」といろんな議論をしましたが、僕は「ANAのシステムは使わない方がいい」と言ったんです。いわゆる大手の航空会社がやっているLCCは、コスト構造だとか考え方とか、そういうものをそのまま持ち込んじゃって、軒並み失敗しているんですよ。親会社のカルチャー、価値観をLCCに持ち込んだら、分けている意味がない。だからクラウドを含め、世界中からシステムを探せと。「『どうしてもない、日本の安全基準があってだめだ』というときには、ちゃんと貸すから」と言ったんです。だからピーチでは今も、海外のクラウドを使っています。

長谷川: それ、すごいですよね。普通はなかなか、一般的なサラリーマンはできないことですよ。

幸重: 重要なのはこのビジネスを成功させるということですから。世界の、いわゆるANAみたいな航空会社がやっているLCCはなぜ失敗しているのか、冷静に考えれば答えが見えますよね。

その前のバニラ・エアのときは、元々はマレーシアのエアアジアとやっていたのが、経営的な環境なんかが合わなくて提携解消し、ANAが100%子会社として新たに立ち上げたんです。そうなると、それまで使っていたエアアジアのシステムが使えなくなるんですね。それを決めたのが8月で、12月には運航開始しなきゃいけない。そのために11月にはチケットを売り出さなければいけないから何とかしろと言われるわけですよ。しようがないので、インドの会社と交渉して、そこのクラウドシステムを使ってやりました。

長谷川: そうなんですか!

幸重: 最近はやっぱりクラウド志向があるんですけど、ビジネスモデル毎に何が最適かを考えないといけませんよね。会社の中で何をクラウドにして、何をしないかという議論をするには、全部のシステムのSLA(Service Level Agreement)を決めるべきです。それを満足するクラウドがあるなら、クラウドに行こうと、なければ次はパッケージを探して、それでもなければ作るしかないよねと。そういう順番で考え方を整理しようということで、うちはやっています。Amazonなんて結構レベルが上がってきて、もうちょっとすると、多分持っているシステムの半分ぐらいがクラウドになるんじゃないかと思いますよ。

長谷川さんのところは、もう完全にクラウドファースト?

長谷川: はい、そんな感じで動いています。僕ら会社はそんなに大きくないですし、大分やりやすいですよね。

幸重: 今後本当にエンタープライズやっていくなら、多少は高くても、SLAの高いクラウドをもっと出して欲しいんですよ。今出しているのを例えばAランクだとすると、2割増しでAA、5割増しでAAAですというのがあってもいいんじゃないのと。

長谷川: なるほど、松竹梅あってもいいかもしれないですね。冗長性もサポートセンターもがっちり付いて、みたいな。

幸重: そうしないと日本の企業ではなかなかメインのシステムでクラウドを使わないですよ。うちは、国際線の予約発券のシステムは去年クラウドに出したんです。「世界を見れば、BA(ブリティッシュ・エアウェイズ)も使っているし、SQ(シンガポール航空)も使っているシステムだから大丈夫」ということで進めました。基幹系のメインのシステムでこれをやったことによって、ほかのシステムがクラウドに行くことについて社内のアレルギーがぐっと下がりましたね。周辺のシステムからだったら、もっとクラウド化が遠かったと思います。

2020年のその先を見据えて

長谷川: 話は変わりますが、2020年は東京オリンピックがあって、十進法でいうとキリもいいし、日本の企業はみんな「それまでに」って動いている気がしますね。例えばトヨタ自動車さんが2020年までに自動運転車を出すと言っている。NTTさんとかもISDNをやめるとか、みんなマジックナンバーのように「2020年までに、俺たちはワンステップ上がるんだ」というような、そんな気持ちに各社がなっているというのが、すごくいいなと思うんです。我々リテールにしても、オリンピックでインバウンドがあるから決済手段も整えていかなきゃならないという思いがあったり。我々日本企業がいい感じでジャンプアップをしていこうとする雰囲気、その波に乗って、どんどんやっていきたいなと思いますね。

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幸重: そうですね。ただ、2020年をターゲットにしてしまうと、例えば日本に来るお客様は、その後リバウンドで落ちるじゃないですか。そういう意味では、2020年までにきちっと海外の人から評価されるサービスとかインフラをつくっておいて、2020年以降につながるようにしないと。

そういう意味で2020年というタイミングは、今まではあまり海外からのお客様に向けたいいサービスがなかったところを変えていく機会です。例えば、「日本では言葉がわからなくても何の不便もないな」とか、「支払いも問題なくできるよ」とか、そういうのをちゃんと作っておけば、「アフター2020」につながりますよね。そこで評価されれば、また来てくれるし、もしくはその時期は高いし混んでるから行けなかったという人でも、「あれだけ『いい』という評判がSNSでも書いてあるし、戻った人も言っていたから、安くなったときには行ってみようか」となりますよね。それが、2020年までに僕らがすべきことだと思います。

長谷川: さすが! アフターマーケットですよね。オリンピックに来た人が「日本って結構よかったよ」と言ってくれるのが大事なわけですね。

幸重: 言葉が違っても全然問題ないよ、ITの環境も整っていて自動翻訳で全部できるんだよ、とかね。

アメリカみたいな広い国だと難しいですけど、日本みたいなコンパクトな国で、国と民間が力を合わせたら、かなり短期間で実現できると思いませんか? 小さいことがメリットだと思うんですよね。

長谷川: 確かに、そういう視点でやっていかないといけないですね。

今日は好きな飛行機のことを色々お伺いできて、本当に楽しかったです。ありがとうございました!

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