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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第43回 株式会社KUFU(SmartHR)代表取締役 宮田昇始さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。今回のゲストは、会社の労務手続きを自動化するクラウドツール「SmartHR」が話題の株式会社KUFU宮田昇始さん(代表取締役)です。社長の月給が25万、仕事がない時期もあったという創業期から、「SmartHR」で数々の賞を受賞するにいたるまでの道のり、そして今後の展望を語っていただきました。

大病をきっかけに「好きなことをしよう」と起業

長谷川 僕が御社のことを知ったのって、たぶんFacebookで知り合いがシェアしたニュースか何かでだと思うんですよね。IVSの「Launch Pad」(ベンチャーキャピタルのIVPによる、スタートアップの登竜門と言われるコンテスト)で優勝されたんでしたっけ?

宮田 そうです。今年の5月に優勝しました。「SmartHR」は他にもいくつかのイベントで優勝しているんです。

IVSLaunchPad

「Launch Pad」での受賞時の様子。(Infinity Ventures Summit Facebookページ より
※この他、B Dash Camp 2016 Spring Fukuoka のピッチアリーナ、TechCrunch Tokyo 2015でも優勝されています)

長谷川 こういう、今でいうクラウドサービス、昔でいうASPの世界って、ホントいいですよね。特に僕はどちらかというとBtoB中心にやってきた人間なので、BtoCもいろいろ出てきていますけど、BtoBの破壊力というのは半端ないなと思っているんです。こういうサービスがあると、会社が何千万だの何億だの払ってやっていたあの世界は一体何だったんだ? となりますよね。だからすごく応援したいし、うちの会社もそういうのを作っていきたいので、追いつきたいし、憧れもある……、そんな感じで見ているんです。

宮田 ありがとうございます。

長谷川 創業されたのは、いつなんですか?

宮田 まず、会社をつくったのは3年半程前です。ちなみにSmartHRは、サービスをローンチしてからまだ8カ月ぐらいです。

SmartHR

社会保険・雇用保険の手続きを自動化するクラウド型ソフトウェア「SmartHR」
 https://smarthr.jp/

長谷川じゃ、SmartHRの開発期間が1年くらいだとしても、約2年ぐらいは違うことをしていたと。

宮田 はい、最初の2年間は違うことをやっていました。

長谷川 今の会社の前は何をされていたんです?

宮田 インターネット系の会社で、Webディレクターみたいな仕事をしていました。ところが、サラリーマン時代に結構でかい病気をやりまして。「ハント症候群」という珍しい病気なんですが、顔面麻痺、聴覚障害、味覚障害、三半規管麻痺で車椅子生活になってしまったんです。

DSC08803

長谷川 仕事のストレスで?

宮田 それも少しはあったかもしれないですけど、病気自体はただの水疱瘡なんですよ。ただ、当たりどころが悪くて、水疱瘡(みずぼうそう)が耳の三半規管の中にできちゃうという病気なんです。そこを通っている神経がボロボロにされちゃうので顔が動かせなくなったり、三半規管自体が平衡感覚をつかさどっているので歩けなくなるという……。

病気の宣告をされたときは、まだ顔も動いていたし歩けましたけど、お医者さんから「明日は多分歩けなくなります」、「そのうちどんどん顔が動かなくなってきます」と言われて、「まさか」と思っていたら、本当に動けなくなったんです。

神経って一度やられちゃうと、なかなか回復しないらしくて、「8割治りません」と言われました。そうなると、いろいろ考えますよね。当時Webディレクターという仕事をする上でコミュニケーション力は結構大事だと思っていたので、「この状態だとなかなか難しいだろう、この仕事、もしかしたら辞めなきゃいけないかな」とか。辞めて田舎に帰ろうかと考えても、「耳が聞こえないから音楽も楽しめないし、味覚もなくなるから、田舎でおいしいものを食べる楽しみもないし……」みたいな、結構「病んでる」時期があって。

幸いにもほぼ完治して元気になったんですけど、「自分の人生、今後どうしよう」というのをすごく考えることになって、それがきっかけで「好きなことをして生きよう」と会社を辞め、友人と3人で起業したんです。

創業者3人が月給25万でスタート

長谷川 その時は、サービスの内容も出資者も決まっていて、何カ月かは生きていけるみたいな感じだったんですか? それともまずなにか作ってみようとか、受託から始めてとにかくやってみようという感じ?

長谷川秀樹

宮田 後者です。「受託で稼ぎながらWebサービスを作れたらいいよね」ということで、自分たちのサービスを何でもいいからつくろうと。VCから出資を受けるみたいなことは、当時は何となく怖いイメージがあってやりませんでした。

長谷川 最初、売上の割合としては受託がどのくらいですか?

宮田 100%ですね。当時、SmartHRとは全然違うサービスも作ってはいたんですが全然当たらなくて、食うために受託を結構やっていました。

長谷川 売り上げでいくと受託100%だとして、投入工数はどのくらいの割合ですか?

宮田 7:1という感じですかね。5:5ぐらいでいきたいなと思っていたんですけど、受託がどんどん増えて7割ぐらいになって、残りの3割で自社サービスができるかというと、全然そんなことないんです。2割位の時間は頭の切り替えだったり、謎のアポとかでどこかに消えちゃって、1割くらいしか割けない。結構しんどい時期でしたね。

受託メインの会社として打ち出して、きちんとした案件を取ってくるという選択肢もあったんですけど、僕らは自社サービスをメインでやりたいから受託はこっそりやっていて。そうするときちんとした案件なんて滅多に話が来なくて、他の会社じゃ受けないような割に合わない案件ばかりになり、どんどんジリ貧になっていくような感じでした。仕事のない時期は、1記事何千円とかでソシャゲのレビュー記事を書く仕事とかもやりました。そのぐらい、お金には困っていました。

長谷川 3人は同時に会社を辞めて、一緒に始めたんですか?

宮田 僕が最初に会社を辞めて、デザイナーを誘いました。いまだにそうなんですけど、デザイナーは自分でデザイン事務所もやっていて、週の半分だけ来てもらっているみたいな感じです。エンジニアはフルコミットじゃないとダメだなと思って、これも友人を誘い、前の会社を辞めてきてもらいました。

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長谷川 最初の自分の年俸設定や社員の年俸設定はどうやって決めました? 誰かを誘ったり採用活動をするときって、「何かインセンティブをつけなきゃ来てくれないんじゃないか」とか、僕も結構悩むんですけど、そのあたりはどういうふうに考えてスタートしたんでしょう?

宮田 最初は、給与は全員25万にしました。デザイナーは週2日だけ来るということだったんで、来る分だけ払うよという形で。
当時はやっぱり会社のお金がそんなになかったですから、ぎりぎり普通の人間らしい生活を送れるぐらいにしておこうということで、そう決めました。

長谷川 それは社長も他の社員も一緒ということですか?

宮田 そうです。3人とも会社に出資してみんな役員だったので、一蓮托生みたいな感じでやりました。

長谷川 額面25万? ということは年収は300万ぐらいですか? ボーナスなし?

宮田 なしです。

長谷川 なかなかの根性設定ですね。僕はどちらかというと大きい会社に所属してきたので、Web業界の相場というのがわからないですけど、例えばWebのエンジニアって年俸いくらくらいのイメージですか? 一般論として。

宮田 あまり詳しいわけではないですが、多分25歳ぐらいのときは400万から500万ぐらいですかね。30歳前になると600万、700万ぐらいの人も出てきて、30過ぎると800万ぐらいらまで行く。一般的にはそんな感じだと思います。

長谷川 一般企業で、30歳で600万と言ったら、結構エリートじゃないですかね。

宮田 Web業界は人の取り合いが激しいので、若いうちから給料が上がりやすいんですね。一方で、30代前半ぐらいでそこまで上がり切っちゃうという感じはあって。だから起業したい、というのも多いですね。一緒に創業したエンジニアは、多分給料2分の1ぐらいになったと思いますけど。

長谷川 その彼はなぜ来てくれたんでしょう?

宮田 本人いわく「エンジニアなので、多分食いっぱぐれはしないと思っていた」と。当時、彼自身も「自分がどこまでできるのかやってみたい」というチャレンジ精神があったみたいで、僕に誘われなくても何かやろうとは思っていたようです。

長谷川 なるほど。それで、本当に25万で生活していたんですか?

宮田 はい。途中で結婚もしたので、なかなかしんどかったです! サラリーマン時代の貯蓄もあって2年間何とかなった感じですね。
でも、最初は役員3人だから、別に給与が低くても頑張っていけるメンバーだったんですよ。今後採用していくに当たっては、「やっぱり社員の給料は上げないとダメだよね」とは考えていたんですけど、まだまだ事業規模として高い水準の給料を払えるほどにはなっていないので、いまだに前職の半分くらいになってしまう人はいるんですよね……。それでも入ってくれたメンバー達には頭が上がらないです。

長谷川 ストックオプションがあるというのもあるかもしれないけど、仕事のやりがいとお金の関係は難しいですよね。エンジニアってどちらかというと、やっているときが楽しい、新しい技術を得るのが楽しいとか、そういうことをモチベーションにしながらも、一方で報酬も気になるみたいなところがあったりするし、人によっても違うだろうし……。

宮田 そうですね。うちでいうと、エンジニアメンバーはやっぱり「楽しいから」「スタートアップでどこまで行けるか挑戦してみたいから」が多い気がしますね。ストックオプションの話とかしても、あんまりわかっていなかったりして、「ふうん」みたいな感じなメンバーもいますね。

長谷川 いらないんだったら俺がもらう(笑)。

宮田 やっぱりスタートアップの環境でガリガリつくれるとか、新しい技術をどんどん試せるとかそういうのが重要みたいで。

あと、結構エンジニアに多いのが、ゲームとか「これ誰のためになるねん?」みたいなサービスを作るのに疲れてしまって、「もっと世の中のためになることをしたい」という意味でスタートアップに行くケースがすごく多いです。

長谷川 確かにね。もちろんゲームが悪いわけじゃないんだけど、今、いわゆるWeb系のエンジニアでゲーム系のエンジニアって何割ぐらいいるんですかね?

宮田 一般的にどうかはわからないですけど、僕の周りでいうと今は1割ぐらいまで減ってきているかもしれないですね。3年前だと半分以上ゲーム系だったと思います。当時はゲームの会社がめちゃくちゃ儲かっていて、みんな20代後半くらいで。それが30歳くらいになってくると、そろそろ飽き始めるというか、「これ作って誰のためになるの」みたいなのが嫌で転職する人は結構多いように感じますね。最近だと、IoT的な要素が絡んでいるスタートアップに行きたいと言うエンジニアが身の回りには多いと感じます。

ピボットの連続の中から生まれた「SmartHR」

長谷川 起業して1年ぐらい経って、サービスは立ち上がらないし、受託ばかりとなってくると、仲が悪くなったり、もめたりというのはなかったですか?

宮田 もめ事は、そんなになかったですね。でも、徐々に徐々に、「このままじゃまずいな」というような感じになっていきました。

会社を作って1年半ほど経ったときに転機がありまして、「Open Network Lab」というプログラムに応募したんです。デジタルガレージさんがやっている、3ヶ月間かけてスタートアップを育てるというプログラムなんですけど、卒業生の中には何人か仲のいいスタートアップの人もいたり、面識はなくてもその会社のサービスをユーザーとして使っていたりしたので、「あそこに入ればうまくいきそうだ!」というイメージがあったんですよね。それで応募して、何とか受かったのが、2年目が終わった頃でした。

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長谷川 それは、参加する側がお金を払うんですか?

宮田 いえ、Open Network Labが我々の株主になるんです。

長谷川 こいつ見込みあるなというふうなところに出資して教えるから、あとでちょっと純利益をもらう、そんなモデル?

宮田 はい。いわゆるシードアクセラレーターというやつですね。
毎回80社くらいの応募があるらしいですが、僕達の時には7社ぐらいが選ばれて、去年の1月にスタート。Demo Dayという投資家や事業会社が集まるお披露目会が4月の頭にありました。SmartHRはそのプログラム期間中に思いついて開発を始め、そのDemo Dayで発表して優勝したんです。

長谷川 その間、給料は出ないんですよね?

宮田 そうです。その代わりに3ヶ月間の活動資金として、200万もらいました。だからその期間は受託をやめて、プロダクトづくりに専念できました。

長谷川 なるほど。その金額はどうやって決まるんですか?

宮田 僕らのときには一律だったんです。株主比率5%で200万(※2015年1月当時の条件で現在は異なる)でした。

長谷川 ということは、4,000万の価値ということですよね。

宮田 はい。今でこそ「安すぎない?」と言われますが、当時の僕らはプロダクトがないどころか何をするかも決まってない状態だったので、かなりギャンブル枠だったと聞いています(笑)。
Open Network Labに入ったばかりの頃は、SmartHRとは違うサービスで行こうと思っていたんです。でも、入って早々に「こりゃダメだ」みたいな感じになりました。彼らはリーンスタートアップ的なサービスのつくり方を推奨していて、期間中はサービスを企画して、ヒアリングに行っては「これだめだ」ということを繰り返していたんですよ。

長谷川 誰がそういうアドバイスをくれるんですか?

宮田 2種類あって、ひとつはいわゆる投資家の人たちです。デジタルガレージの子会社でDGインキュベーションという会社があって、そこで投資をしているような人たちが教えてくれます。あとは先輩起業家の人たちが、メンターとしてたまに来ます。でも、その人達とはしゃべれても15分とか30分とかです。どちらかといえば、前者の投資家の人たちと3カ月ほどがっつり試行錯誤しながらやるというのが、すごく価値がありました。

それと、Demo Dayという期日が決まっているので、そこに向かって強い覚悟でやれるのがすごくよかったですね。3日に1回ピボットするみたいな感じで、どんどんサービスを企画してはヒアリングに行ってニーズを確かめるというのを、ずっと繰り返して……。

長谷川Demo Dayのときは、プロダクトがどこまで動いていなきゃならないというルールはあるんですか?

宮田 ルールはないんですけど、最近は実際に実績が出ていないとVCさんとかも心が動かないということで、僕らのときは単にプロダクトがあるだけではダメで、「トラクション」といって「うまくいく兆しがこれだけありますよ」という数値が出せないと難しいという雰囲気でした。

長谷川 へぇ。

宮田 7チームぐらいがお互いのことを意識しながら進めていて、「今の状態でDemo Dayに出たら、うちは何位ぐらいだろうな」というのをいつも考えているんですけど、うちの会社は初っ端からダメだと言われ続けて、ずっと最下位状態だったんです。期間が去年の1月の頭から3月末ぐらいまでだったんですが、2月の中旬ぐらいまでは、ずっとヒアリングをして、何をすればいいかを模索しているような感じでした。

それで3カ月間の半分過ぎたぐらいにSmartHRを思いついて、ヒアリングをしてみてもすごく感触がよくて、これはイケるなとなと。そこから2週間でギリギリ動くぐらいのものを作って、まずは告知ページで事前登録者を募集したら100件ぐらい申し込みが集まったんです。その状態でDemoDayに出たら、運よく優勝できたというわけです。


https://twitter.com/jptechcrunch/status/583572663886548992?ref_src=twsrc%5Etfw

長谷川 案外シンデレラストーリー的な感じですね。

宮田 本当にそうですね。3カ月間ずっと最下位だったのが、急にガンと伸びて周りも驚いていました。
ちなみに、3ヶ月の中で10回ぐらい案を変えていて、SmartHRに行きついたのにはいくつか理由がありました。

ひとつは課題を見つけるきっかけがあったということです。Open Network Labは「世の中の課題をちゃんと見つけて、それを解決するサービスをつくりましょう」ということにうるさいんです。僕らは勝手に「これが世の中の課題なんじゃないか、誰かこういうことで困っているんじゃないか」と思いつくんですけど、よく聞いてみるとみんな困っていない、ただの僕らの妄想だった、みたいなことがすごく多くて、課題を見つけるのにめちゃくちゃ苦労していたんですよ。

月80件ぐらいヒアリングをしたりして、それでもなかなか課題が見つからなかったんですけど、2月頃にラッキーなできごとがあったんです。私の妻が当時妊娠9カ月で産休に入ったんですよね。そのとき、妻が自宅で自分で産休の手続をやっていたんですよ。「あれ? 会社でやってくれないの?」と聞いたら、妻が働いている10名ぐらいの会社では、社長さんが自分で現場の仕事もしながらバックオフィス業務もやっているから、どうしても後回しになっちゃっていたそうなんです。いよいよ産まれそうという時期になって、痺れを切らした妻は自分で役所に書類をとりにいって自分で自分の手続きをやっていたんです。

僕はそれに結構驚きました。と言うのも、前職は150名ぐらいの会社で、大体の手続きは会社がやってくれて、従業員はハンコを押すだけみたいな感じだったので。実際、私が病気したときも、会社がきちんと書類を作ってくれていました。

その経験もあり、「あ、世の中の中小企業では、会社がやってくれなくて、自分でやらなきゃいけないことがあるんだなあ」というのが、ある種課題を見つけるきっかけになりました。それで調べてみると、小さい会社の社長さんは本当にみんな困っているということが分かったんです。

もうひとつは、私自身が病気したとき、傷病手当給付金という社会保険制度にすごく助けられという思いがあって。8割治らないと言われていたのに治ったのは、傷病手当金があったおかげで、お金のことを心配せず、会社を休職してリハビリに専念できたので、この分野は自分がやる意味がすごくあるんじゃないかと思って、それでSmartHRにたどりついたんです。

長谷川 なるほど。この分野のサービスって、なかったんですか?

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宮田 なかったです。例えば会計系の事務処理は、会社を作れば儲かっていようがいまいが、みんな困るので、起業家が目をつけやすいところなのかもしれません。労務に関しては、正社員を雇うタイミングぐらいで初めてちゃんとやろうかという感じになるんですよね。それって事業がうまく行き始めているタイミングなので、その時に「面倒くさいな、便利にできないかな」と思っても、多分誰もやらなかったんだと思うんです。それで、たまたま空いていたと。昔病気したことは、当時はしんどかったですけど、今となっては「ああ、病気しておいてよかったな」とめちゃくちゃ思います。

自社サービスを成功させるポイントは思い込みで作らないこと、手広くやり過ぎないこと

長谷川 これからまだまだ成長されると思うんで、考えはいろいろ変わっていくと思うんですけど、「こういうふうにやっていくとベンチャーは成功する」とか、逆に「こういうことをやっていると、ベンチャーは失敗する」とか、今日時点で思うことはありますか?

宮田 昔の僕らがまさにそうだったんですが、勝手な思い込みでサービスをつくって失敗するというのが、やっぱり一番多いんですよね。「ユーザーはこういう課題を抱えてるはずだ」「◯◯みたいなサービスをつくったら絶対流行る」的な妄想ですね。

最初はなるべくヒアリングをたくさんした方がいいですし、それで「いけそうだ」となっても、あまり作りこまずに最低限の機能だけ用意して、実際に使ってもらってフィードバックをもらうという形で、間違った方向に進まないようにするというのが結構大事かなと。いわゆるリーンスタートアップ的なありふれたアドバイスなんですけど。

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長谷川 多分、日本のエンジニアでベンチャーを目指している人って、どうしても西海岸を見ちゃうんです。そっちから入ってくる情報って、Uberとかスティーブ・ジョブズの話とか、凡人には理解できないニーズを作り出すみたいな話が多くて、「あまりテストマーケティングなんかせずに思い込みで行くのが男であり、顧客の声なんて聞いている奴はクソSIerと同じだ」みたいな、そんな誤解あるのかもしれないですね。

宮田 そうですね。ただ、ヒアリングも御用聞きをするということではなく、「こういうふうに困っているな」というのを確認するためにやるんですよね。予め仮説を立てておいて、それを検証するというか。そうやってお客さんが困っていることを見極めつつ、「未来はこうなる」というのも考えて、今はないやり方で解決するというような。

長谷川 たまたま聞いた相手だけが欲しがっているのか、みんながそうなのか、そこを判断してプロダクトに実装するかどうかを決めるのは結構難しいと思うんですけど、そこはどう考えているんですか?

宮田 やっぱり数ですね。いわゆるリーンスタートアップ的なやり方を取り入れている会社にヒアリングのコツを聞いて回ったんですけど、みんなのアドバイスに共通していたのは、「5社が5社困っている、5人が5人困っているといったら、それは多分間違いなく課題である」ということなんです。

それが5なのか10なのかというと、多いほど精度は上がるんですけど、とりあえず5人中5人が同じことに困っていれば、これ特殊なケースではないなということはわかるんですね。

なので、サービスの機能拡張とかも、お客さん1人の意見では動かなくて、1人から要望が来たら、「こういう要望ってありますか?」と他の方にも聞いてみて、本当にみんな困っていたら実際に開発するというケースが結構多いです。

長谷川 利用ユーザーが増えていくに連れ、要望の数も多くなっていくし、全部ユーザーのところに足を運んで聞いていたらきりがないということになりますよね。それで問い合わせフォームとかアンケートで反応を見たりとか、ちょっとフェイス・トゥ・フェイスではない形に移行する瞬間があるとしたら、どういう感じでそれをやっていくのがいいですかね。

宮田 僕たちもサービスをつくり始めたころは月80件ヒアリング行ったりしていましたけど、今そんなには行っていないです。最初の方がプロダクトの振れ幅が大きくて、だんだん収束していくので、この方向性に行けばいいんだなというのが見えてくると思うんですよね。そのぐらいのタイミングで、ヒアリングを少なくしてもいいのかなと。いまはサポートであがってくる要望をメインにしています。

あと、ヒアリングに行っても学びが少なくなる時期って定期的にあって、既に知っている情報しかなくなったなというときには、とりあえず一旦行くのをやめて、ひたすら開発に専念しました。それでまた開発がある程度進んだタイミングでヒアリングに行って、というのの繰り返しですね。

toBの場合は、「お金を払ってもらえるかどうか」というわかりやすい検証ができるので初期はデータよりもヒアリング重視がいいかなと思いますが、toCの場合は、ヒアリングはやりつつも、もっとデータで見るほうがいいのかな、とも思います。

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長谷川 他に、なにかアドバイスはありますか?

宮田 あとは手広くやり過ぎないことですかね。

長谷川 それは何種類もプロダクトをつくらないほうがいい。1種類にしろという意味ですか?

宮田 プロダクトを少なくするのもそうですし、変なイベントとかに行き過ぎないとか。

長谷川 例えばどういう種類のイベントに?

宮田 スタートアップ界隈ではミートアップみたいなものが多かったりするんですけど、僕、そこそこは行ってましたけど、実りあるものはそんなになくて、結構無駄な時間になることが多いです。毎回メンバーがかぶっていますし、何回も行く意味はないと思うんですよね。toCサービスをやってるなら特に、ユーザーが会場にいるわけじゃないですから。

逆にtoBの場合は、経営者がいっぱい集まっているイベントはいい営業場所になることもあります。特にその場でピッチできるとなると、何社にもまとめてサービスのプレゼンをしているようなものなので。

長谷川なるほどね。

「SmartHR」の今後

長谷川 3人で始めた会社は、今は何人ぐらいになっているんですか?

宮田 今日現在では12名なんですけど、来月16名になる予定です。

長谷川ちなみにこれから採用する人も給料25万で?

宮田 いや、違います(笑)。さすがに今は上げていますね。

長谷川 じゃ、自分たちの給料も。

宮田 はい。でも、まだまだサラリーマン時代よりも低いですよ。

長谷川 SmartHRは、例えば3年後、5年後はどういうところを目指しているんですか。機能拡張だとか、日本以外を目指すとか、色々あると思いますが。

宮田 うちのサービスは、社会保険とか雇用保険とかの手続きをすごく便利にすると同時に、従業員のデータがどんどん集まっていくものなんです。それを活用して次のことができるようになっていったら面白そうだなというふうに思っています。

例えば、会社は従業員が増えるごとに色々な発注があるんですよ。10名になったら就業規則を作らないといけないから社労士さんが必要になるとか、50名になったら産業医さんを雇わなきゃいけないとか、人数がある程度まで増えたらオフィス移転しなきゃいけないとか、結構人数が左右することがあるんですね。

さっきの10人、50人はわかりやすいですし、オフィス移転も、従業員1人当たりの坪数が1.5坪を下回ると移転時、みたいなのがあるみたいで。うちのサービスでは今のオフィスの住所と従業員数が分かっています。なので、どこかで物件データベースさえ借りてくれば、今何坪のオフィスに入っているかとかもわかるんですよね。従業員がこんな増え方をしてきているから、多分次は渋谷のこれぐらいのところに移転するだろうというのがわかると、いいタイミングで「こういう物件どうですか」みたいなことは、できなくもないかなと思っていて……。

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長谷川 それ、すごくいいですね! 東急不動産と組みましょうよ。IT系は渋谷、渋谷といえば東急。

宮田 そうですね(笑)。まさに、自分たちで全部やろうとは全然思っていなくて、プラットフォームを活かしていろんなベンダーさんと組んで、お客さんにとって便利な窓口になれたりしたら面白いと思います。もちろんウザい広告みたいになっては意味がないので、周辺領域の不便を解消しつつ、本当に必要なタイミングでうまくマッチングできたらいいなと思っています。

あと、私たちは、健康保険組合と結構近しかったりするんです。将来的には健康保険組合を自分たちで作ってしまって医療データや福利厚生みたいなところもカバーできたらなと考えています。

長谷川 単純に電子申請だけだと、他にもやる人が出てきそうですけど、その周りのマーケットを見ると、結構シビれますね! プラス不動産とかプラス医療とか、別々の産業同士をつなげるパイプ持つと、ものすごいシナジー効果が生まれそうだし。

宮田 何でもできるなあという気がしますね。ピッチコンテストで賞をもらったりするのも、こういう点で、「お、ただの事務サービスじゃなかった」と思ってくれているからかなと思ったりしています。

長谷川 いやあ、ゾクゾクしますね。東急グループは福利厚生のウェルネスという会社もあるし、フィットネスのサービスもやっているので、何か面白いことができると思いますよ。今度ちょっと、別の会食をしましょうよ! 今日はどうもありがとうございました。

宮田 ぜひ、お話しましょう。ありがとうございます。

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