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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第32回 日清食品 執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅 滋夫さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。今回のゲストは、日清食品ホールディングス株式会社執行役員 CIOグループ情報責任者の喜多羅 滋夫さん。P&Gなど外資系企業の日本法人のシステム部門に長年身を置き、グローバル企業の戦略的ITについて熟知。挑戦を求めて転じた現職で、今もまた新たなIT改革に取り組んでいます。華やかな経歴ながら「紆余曲折でした」と振り返る喜多羅さんに、長谷川がITエンジニアの挑戦およびキャリア形成などについてうかがいました。

喜多羅滋夫,長谷川秀樹

日清食品ホールディングス株式会社
執行役員 CIOグループ情報責任者 喜多羅 滋夫さん(写真左)
1965年大阪府出身。1989年、プロクター・アンド・ギャンブル・ファーイーストに入社。システムアナリストとして市場調査や営業支援に関連するシステム開発・運用プロジェクトに従事。インドネシア法人のITマネジャーを務める。2002年にフィリップモリスジャパンへ入社し、システム部門を統括。2013年4月、日清食品ホールディングスにCIOとして入社し、以降現職。

有名企業のIT仕事請負人「情シスぴよぴよ渡り鳥」

長谷川 おおっ、今回もご盛装ですね!

喜多羅長谷川さんこそ、お似合いじゃないですか。最近、この格好でよく会っている気がしますね。

長谷川 そうですね。AWSのイベントでもお会いしましたね。で、けっこうマジメな話してますけど。今日は、「ユーザー企業での情シス担当」として歩んで来られた喜多羅さんの軌跡をガチでうかがおうと思ってます。人呼んで「情シスぴよぴよ渡り鳥」ってね(笑)。

喜多羅ジ○ニャン前の“ひよこ”なんて、取って食われそう(笑)。どうぞお手柔らかにお願いします。

長谷川 そもそもね、喜多羅さんのキャリアは格好良すぎでしょう。P&Gにフィリップモリスという外資系の有名企業でキャリアを重ねて、日本が世界に誇るナショナルブランド“日清食品”にヘッドハンティングされるなんて。名だたる企業の情報化に貢献して、執行役員かつCIOとして認められる。ユーザー企業に務める情シスの憧れでしょうね。

喜多羅そんなに持ち上げて、どうするつもりですか(笑)。実は、裏にはいろんな紆余曲折や葛藤があるんですよ。そもそもプロフィールには3社めとしていますが、P&Gとフィリップモリスの間にもう1社、行ってるんです。

長谷川 えっ、いきなり秘められた過去が!?

喜多羅いやいや、隠していたつもりはないんですが、2ヶ月しか在籍していなかったので。キャリアとしては認められないかと思って、特に公にはしていないんです。

長谷川 2ヶ月?それは訳アリっぽいですね。情シスのエリートコースを着々と歩いてこられたと思っていました。ちなみにP&Gには新卒で入られたんですよね。どんなご経緯で入られたんですか。

喜多羅うーん、一言で言えば「巡り合わせ」、「ご縁」ですかね。うちの大学の情報工学出身者はだいたい1/3が富士通、IBMや日立などのメインフレーマー系に行き、1/3がコンピュータ嫌いになって文系就職に転じて銀行や証券などに行っていたんです。僕は中途半端な真ん中の1/3で、IT企業ではない会社の情シス担当あたりかなと思っていました。たまたま航空系の予約システムの「アポロ」の本を読んで、漠然とその分野を希望するようになったんです。「戦略的情報システム」なんて言葉にしびれまして(笑)。

長谷川 確かに最先端のシステムってかっこ良く見えますからね。学生ってそんなもんですよね。

喜多羅ええ、当時は大真面目だったんですけどね(笑)。それで某航空会社のOB訪問に行ったら「おお、ぜひ来い」と大歓迎で、とりあえず最終面接だけクリアするように言われて、「もう決まったな」と思っていたんです。ただ、1989年といえばバブル真っ盛りで、信じられないような好待遇を各社が出してまして。その中に「入社1年目から全員に1年間海外留学の奨学金を出す」という会社があって、ちょっと冷やかし気味に面接にいったんです。ところが行く気がないのをあっさり見抜かれて、かなり厳しくコテンパンにやられました。で、ズタボロのまま、午後に航空会社の面接に行ったんです。

長谷川 撃沈されたんですね…。

喜多羅滋夫,長谷川秀樹

喜多羅はい…、とにかく酷かったですね。言いたいことの半分も言えずに、終わってしまって。OBにも「あれじゃあ、無理だよ」と。

長谷川 信じられないですよね、今の喜多羅さんから想像できない。

喜多羅周りは、ほぼ全員決まってたので、めちゃくちゃ焦りました。もう、大急ぎで就職活動を始めましたよ。OBや教授のルートも当たりつつ、新卒採用の分厚い資料から、ちょっと面白そうな企業に手当り次第に30枚くらいハガキを出しまくって。で、その中の1枚がP&Gだったんです。

長谷川 ええっ、そんなにたまたま!?

ご縁が重なって ワイガヤ時代のP&Gへ

喜多羅そうです、たまたまです。さらに、たまたまP&Gに入社していた同じ研究室の先輩に「会おうか」と言われて…。ランダムに資料請求して「先輩に当たる」って、うちの学科は40人程度なのでまずないんですよ。それでお会いしてみたら、「業績は、評価は」というリアルな仕事の話でとにかく面白かった。当時はどの会社のリクルーターも学生には「入ると楽しいよ」「飲もうか」みたいなことしか言わなかったので。

長谷川 そういう時って、ありますよね。「ご縁」としか言いようがない。

長谷川秀樹

喜多羅そうですね。最終的にはP&Gともう1社に絞って、それぞれオフィス見学に行ったんです。先に見たもう1社の方は、立派な研究所だったんですが、所長さんが大きな個室で新聞を読んでいて、私をちらっと見ておしまい。そのまま新聞読んでる。一方、P&Gの方はクーラーが効いていない雑居ビルでしたね。対応してくれた二人は、まだ30代前半という若さの管理職で、とにかくエネルギッシュ。ちょうどダイレクターもいて、学生相手に語る語る(笑)。通訳さんもいましたけど、ゆっくり話してくれたので内容もよくわかったし、じわじわ情熱が伝わってきたんです。

長谷川 1989年のP&Gというと、日本だと何人くらいいたんですか。

喜多羅まだ300人くらいですね。「パンパース」を発売して10年経ち、「ウイスパー」と「アリエール」を発売して2〜3年という頃でした。長い低迷期を抜けて、「一大飛躍」というテーマを至る所に貼ってました。その熱さはとても魅力的でした。それで一晩考えて「もし三年後に撤退したり、クビになったりしても、P&Gの方が面白そうだ」と思って、数日のうちに意思を伝えに行ったんです。その時もダイレクターがいて、僕がたどたどしい英語で「If you may I want to join your company.」と言ったら、笑顔でぱっと手を差し出して「Welcome to our company!」って。それで内定です。

喜多羅滋夫

長谷川 うわー、それはドラマチックですね。ダイレクターが直接内定出すなんて、エリート採用じゃないですか。

喜多羅というか、P&Gも採用活動に出遅れてたんです(笑)。同期が4人いるんですが、うち2人はきちんと筆記も集団面接も経て入社、僕ともう一人は採用活動が終わっていて、それでも人が足りないので「とりあえず採用した」という枠です。

長谷川 勢いがあった頃ですもんね。まさに業績が倍々ゲームだったでしょう。

喜多羅ええ、成長エネルギーはすごかったですね。まだ組織が若くて、まさに“ワイガヤ”でした。外資系だけど、浪花節カルチャー。30歳そこそこでマネジャーを任されるくらいでしたから、みんな必死でしたよ。冷房の効かない淀屋橋の雑居ビルで、夜中まで議論したり、作業したり。だから、僕にとってのP&Gの原体験は中小企業の感覚なんです。

先が見えたら面白くない
安定を手放してこそ成長がある

長谷川 やっぱり就職は「ご縁」ですよね。P&Gでのご活躍もそのご縁があってこそ。

喜多羅ええ、もうそうとしか言いようがないですね。憧れていた会社に行ってみたら全然合わなかったり、絶対相性が合うと思ったらあっさりふられたり。

長谷川 その縁を大切にするかどうかで、その人の仕事人生が変わるってことですよね。実は、僕も某会社の面接会場で知り合った人が受けていた会社が「アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)」だったんです。「どんな会社?」「えっ、初任給でそんなにもらえるの?」って、そんなノリ(笑)。

喜多羅滋夫,長谷川秀樹

喜多羅学生ってそんなもんですよね(笑)。

長谷川 でも、説明会では「うちは外資だから、UP or OUT。 できないヤツはすぐ辞めてもらうから」みたいなことを言われてビビったりして。

喜多羅外資系企業ってまだまだ就職先としてメジャーでなかったし、すぐクビになるとか、厳しいとか、噂がけっこうありましたよね。

長谷川 実際、できる人ですら30~35歳くらいでパートナーになってもその先がまったく見えないんですよ。日本人はビビりますよね。ただ僕は「辞めさせられるなら、早く辞めさせてもらいたい」って思ってました。若い方が人生リカバリーも簡単でしょ。むしろ、いろんなところをたらい回しされて、歳をとってグダグダになってから、辞めさせられるより断然いい。だから、あまり怖くなかった(笑)。

喜多羅僕もそんな感じ。たとえ自分がクビになったりしても、この情熱の中で、面白いことをやらせてもらえるとすれば、きっと他のところで役に立つだろうと。実際、P&Gは若いうちからいろいろ体験させてもらって、本当に楽しかったですね。だから、だんだん組織が大きくなってエスタブリッシュされて、もっと「商売の近く」でやりたいのに情シスの中に押し込められるようで面白くなくなってきてしまった。

長谷川 先が見えたとたんに面白くなくなるって言いますからね。それが転職のきっかけなんですね。なんだか、とてもよくわかります。おいくつの時ですか。

喜多羅35歳になった頃ですね。ただ、ITバックグラウンドのキャリアだとなかなか商品やサービスに近い仕事がなくて、そんな時に「ITの人でもマーケやセールスをお任せしますよ」という、あるITの会社を紹介されたんです。

長谷川 それが公になっていない2社目ですね。

喜多羅そうです。それでP&Gでは大々的に送別会までやって派手に送り出していただきました。渋る妻と子どもを説得して、意気揚々と神戸から東京に引っ越してきて、入社早々は何もかも新鮮で楽しかったですね。ところが2ヶ月ちょっとで辞めてしまったんです。

意気揚々で転職した先を2ヶ月で辞めたワケ

長谷川 いったい何があったんですか。

喜多羅新規事業がどんどん立ち上がっていた時期で、会社自体は大きくとも体質はベンチャーで。昼も夜も週末も、些細なことでも容赦なく連絡が来て対応しなければならない。稟議を通すために出席する役員会議の開始時間は、夜の23時。日付が変わるのは当たり前。役員はITバブルの上場益で買ったフェラーリやポルシェで帰っていく一方で、僕たちは自腹でタクシー。へとへとになって2時頃帰宅して、翌朝は定時に出勤するという。

長谷川 いやはや、ブラックじゃないですか。

喜多羅滋夫,長谷川秀樹

喜多羅自分がコントロールしている実感があれば、楽しかったでしょうね。でも、歴史ある会社ではあるので、その辺の文化は「ザ・日本企業」で。ヌシのようなオジさんがたくさんいて、お伺いを立てないとならないわけです。それがまた苦痛で…。となると、だんだん精神状態が体に出てくるんですよ。斜めになっていないと右の肩甲骨に激痛が走るようになりました。そうそう、当時よくオフィスに流れていた宇多田ヒカルの「トラベリング」と「ピグミンのテーマ」、あれを聞くと今も涙が出そうになりますよ(笑)。

長谷川 ♪引っこ抜かれて〜、食べられる〜♪とかいう歌ですよね。P&Gにいたときはバリバリ自分でドライブされていた喜多羅さんには耐えられなかったんですね。

喜多羅それでも、何か結果を出さなければ辞められないと思ってました。でも、ある日、妻が「仕事忙しいん?」「辛くないん?」って聞いてきたんです。彼女曰く、ワイシャツの首回りの汚れがP&G時代に比べて異常すぎると。「これは何かが起きているに違いない」と思ったそうなんですね。それで事情を説明したら、一言「辞めたら」と。がんばるのはいいけど、我慢で体を壊すのは本末転倒だというんです。

長谷川 うわあ…、それは奥さんファインプレイですわ。自分のことって見えていない、ましてやストレス過多の時って正常な判断ができないですもんね。過労死にまでつながるのって、そこなんだと思いますわ。よく脱出されたなと。

喜多羅いやいや、大騒ぎしてP&Gを辞めて、新しい会社でも期待されて、それがたった2ヶ月で退職って、やっぱり負い目でしたよ。次を決めずに辞めたので、しばらくはプータロー。することなくて、息子を連れて東京駅で一日新幹線を見てたり、とかね。たくさんの人に心配と迷惑をかけたし、本当に苦しかったですね。

長谷川 そのご経験を聞かせていただいたこと、30〜40代のエンジニアには大きな励みになると思うんですよ。「新天地を求めてチャレンジせよ」ってよく聞くけど、「どうせ成功者だから言えるんでしょう」って、どこか思ってる。でも、喜多羅さんみたいに今輝いている人だって、何かしらの泥臭い苦労や失敗をしているんですよね。

喜多羅もう、見事に大失敗でしたからね。泥水は相当にガブ飲みしてますよ(笑)。

成長し続ける仕事人生のため
30代での挑戦と失敗を回避しない

長谷川 辞められた後、どうなさったんですか。

喜多羅いろいろ面接に行ったんですが、貧すれば鈍するというか、箸にも棒にもかからない。まったくダメで。そんな時、P&G時代のリクルーターの先輩が1人フィリップモリスに行っていて、そのご縁で引っ張ってもらったんです。「ここでしばらくがんばれば」と励まされて…。今でもその方には頭が上がりませんよ。僕はとにかく人には恵まれていると思います。

長谷川 それは喜多羅さんのP&Gでの仕事ぶりをご存知だったからでしょう。そもそも何もしていない人にそんなラッキーは降って来ないですよ。実際、フィリップモリスでもシステム部門を統括されるなど大活躍されてるじゃないですか。

喜多羅あの辛さを脱した後は、どんな苦境でも「どうってことない」って思えましたからね。そして仕事でがんばって返したいと思うようにもなりました。だから、やはりP&Gは辞めてよかったなと。そうでないと、ずっとぬるま湯に浸かった状態で、挫折も知らず、感謝も知らず、仕事でも人間としてもダメになっていたかもしれないと思います。

長谷川 安穏とした方を選んで生きてきて、40代、50代になってちょっとしたトラブルでグダグダって人も少なくないですからね。かといって、何も失うものがない20代での失敗とはまた違うわけで。

長谷川秀樹

喜多羅ええ、30代になって一旦自分の仕事に自信がついてから、それをへし折られるというのは、なかなかヘビーですよ。でも、そのどん底体験があったからこそ、その後上司に嫌われようが、状況が厳しかろうが、四面楚歌でも「あれよりまし」と思えますから。トルコ人の上司に「俺の許可なしに社長と話すな」って部屋に閉じ込められたこともありましたが、まったく気にならなかった。

長谷川 人生の中で「あの時に比べたら」っていう体験を得られた人は強いですよね。そう考えると、30代のうちに買ってでもしておくべきなんでしょう。

喜多羅僕みたいな大失敗はわざわざ選んでしなくてもいいと思いますが(笑)。少なくとも、30代で安定を求めたら成長できないのは確か。とにかく挑戦を続けていれば、自然とボキッとへし折れらる体験は勝手にやって来ると思うので、それを回避しないことですかね。そうすると、40代、50代になっても失敗するのが怖くなくなる。

長谷川 それが第三者からみると、キラキラしたキャリアに見えるんでしょうね。

喜多羅ああ、そうかもしれません。僕もいつのまにかCIOなんて偉そうな肩書きがついていますが、はじめからそれを目指していたわけではないですし。むしろ、泥臭いことばかりやって、今も傷だらけで格闘してます。とてもCIOというスマートなイメージとはほど遠い。いや、もしかすると、そんなCIOは実在しないんじゃないかと(笑)。

長谷川 でも、楽しそうですよ。

喜多羅ええ、とても楽しいです(笑)。もともと日清の情シスはホストの運用チームとして粛々とやる小さな組織だったので、逆に「これをすべき」という固定概念がないんです。だから、他社にあるような業務部門との役割や責務の齟齬がありません。その曖昧さは情シスを狭く考える人にはストレスフルでしょうけど、私にとっては「こんなにいろいろやっていいんだ♪」とありがたいですね。今まで自分ができていないことをどうやって実現したろか〜ってワクワクしますね。

喜多羅滋夫,長谷川秀樹

組織の「こうありたい」に応えて
儲かる仕事よりもやりたい仕事

長谷川 自分がやってきたことじゃなくて、やれていないことにワクワクする50代って幸せですよね。それも環境づくりから自分でやろうとしているなんて(笑)。

喜多羅まあ、それを楽しめない人はつまらないでしょうね。お膳立てされないと仕事ができないと思っているなら、その壁を取ればもっと楽しめるのになと。今の僕の目的・目標は、ITシステム構築をどう作るか、でなくて「うちのラーメンをどれだけ売るか」ですから。そのためにスキルや経験、知識をどう使うか。それが面白いんだと思いますよ。

長谷川 では、日清食品にとってITが最もレバレッジが効きそうな部分ってどこなんでしょうか。

喜多羅うーん、まずは「ここに効く」と明白な部分はありますよね。速くなる、正確になるとか。でも僕は「ここに効かせなきゃ」というコアコンピテンシーに当てるのが大切だと思っています。その意味では、まずはメーカーとしての「モノづくり」であり、「コンシューマとの接点」ではないかと。

たとえば、何か食べたい時にカップヌードルを想起して、実際に食べてもらうにはどうしたらいいのか。食の安全に対する意識が高まる中で、日清の課題は「より安心安全な食べ物を、適切な価格で提供すること」なんです。でも、その2つの命題はそれぞれ逆方向を向いていて、安心安全を目指すとコストがかかり、価格に走るとどこかで安全性に問題が生じるわけですね。それを両立させた「最も高い位置」に持っていくために、ITができることは多いでしょう。たとえば工場の品質管理や在庫のロスの削減なんかもそうですね。

長谷川 なるほど、そういえば、アサヒビールさんはビールの鮮度管理を徹底して、それによって製品価値が上がりましたよね。そのあたり、素人的には日本のメーカーはかなり極めているように見えるんですが…。

喜多羅いやいや、そう思い込んでいるだけで命題は山ほどありますよ。そもそもスーパードライの件もそれまで「やらないで当然」と思われていたものですし。

長谷川 メーカーの方は、本当にユーザーの意見や反応を知りたがりますよね。

喜多羅もちろんニーズに対しての興味もありますが、我々が提案するモノに対する反応も直接知りたいわけです。たとえば「とんがらし麺」という激辛麺があるんですが、普通のスーパーでは通年扱ってもらえない。でも、大量に買っていくコアなファンがいる。そうした消費者の要望に対して日清としてどう応えていくのか。そこにITが役立つのではないかと思っています。

長谷川 ラーメンに対する消費者のニーズや距離感もまったく変わってきているでしょうね。最初はそれこそ、空腹を安価にすばやく満たすためだったかもしれないけど、今はおいしいものが山ほどある中で、選んでもらう必要があるわけですから。

喜多羅そうですね。「10分どん兵衛」とか、僕たちが気づかなかった食べ方や価値を見出してくれてたり(笑)。食べることに何らかの物語があって、それが選ばれる理由になっていたりしますからね。一方、作り手側として継続して挑戦し続けているのが「ごはん」です。70年代に一度出して撤退したんですが、いまだ取り組み続けている重要課題なんです。

sakaba32_09 「10分どん兵衛」はユーザー発信で広がり、公式サイトでも取り上げられた。

長谷川 ええっ、ごはん?また、どうして。レンジで温めるのも冷凍のもあるし、既にレッドオーシャンじゃないですか。そこにあえてにこだわって臨む理由は何ですか。

喜多羅やはり日本人の主食だからじゃないですか。手間をかけなくても、手軽に美味しいごはんがいただける。そこはもう儲かるとか儲からないじゃなくて、食を担う企業としての「こうありたい」という願いであり意地でしょう。でも、そこにはすごく共感できるんですよ。そういう情熱にコミットして、自分たちの技術やスキルを提供するのも、情シス冥利に尽きると思いませんか。

長谷川 そう言われてみると、確かに僕にもそんなところがあるなあ。その辺りは、合理性より情熱や思いが優ることってありますね。で、最終的にはそれがイノベーションにつながったり、企業としてのアイデンティティーを支えたりするんでしょう。でも「お湯かけ」にこだわらなければな〜って思っちゃいますけどね(笑)。

情シスよ、パソコンを捨てよ、街へ出よう

長谷川 ところで、最近、情報シス不要論とかあるでしょう。それについては、どう思われていますか。

喜多羅情シスが情シスだけやるようになったら、もう「あかん」と思いますね。ご用聞きで、ユーザー部門に反論すらしなくなったら、その会社にいる価値はないと思います。

長谷川 確かにヘコヘコしがちですもんね。少しでも反論すると「業務が分かってないくせに」って言われてしまう。

喜多羅確かに業務のことはその部門の人が一番分かっていると思うけど、いくらでも勉強すればカバーできますし、本当にテクノロジーと業務とを分かっている人間がきちんとした社内コンサルをすれば、社外の人にはできない仕事って山ほどあるわけです。もちろんテクノロジーがわかるのは大前提で、それ以外で自分でも独自に“商売のネタ”を考えて、見つけていかなければならないと思いますね。ハンデがあるのは当然として、カバーすればいいし、むしろ世の中の仕組みを把握しやすい立場だし、テクノロジーはどんどん進化して、ツールとしての使い方で次元が変わるほどのインパクトを持っている。これほど面白い仕事は他にないでしょう。

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長谷川 そうなんですよね。ITほどぐっと何かを変えてしまうほどの可能性を持つ部門ってないわけですからね。基本は自分の現行業務をきっちりおさえた上で、情シス部門の人間が組織に価値を提供し、自分の価値を高めるためにはどう行動すればいいんでしょうか。

喜多羅シンプルに言えば、「好奇心」を大切にすることでしょうね。たとえば、IoTとか、新しいスマホとか、興味を引かれることがあれば、それを追いかけてみる。極端にいえば、ITに関連するものでなくてもいい。もう、仕事に何がメリットをもたらすか、分からない時代になってきているんですよ。以前なら、業界とか他社の情シスとかの研究で十分でしたけど、いまや驚くほどマッチメイキングが多様化している。

長谷川 自分とこの業界だけじゃ収まりつかないですからね。そうなると、やはり日頃からアンテナを張り巡らせて、好奇心を持って過ごしていないと。

喜多羅僕は仕事で煮詰まると、今までのルーチンを一旦切って社外に出ます。今まで通ったことのない通りを歩いたり、お店をのぞいてみたり。そうするとたいていの場合は、何かしら気づきやひらめきがあって、それが現在の仕事へのモチベーションを高めてくれる。例えば最近僕は、会食するときに自分で店を選ばないようにしているんです。どうしても50歳になると、自分の好みやテリトリー内で何でも済ませようとしてしまう。新しいと思っても、今までの選択肢の延長線。でも、まったく知らない人の世界を見せてもらうことで、また新しい好奇心が満たされ、大きな刺激を受けることができますから。

長谷川 確かにいろんな人に会うと、違う世界に出会えて刺激になりますよね。「情シスよ、パソコンを捨てて街へ出よう」的な。

喜多羅そうそう。人に会わなくても、書店でも、肉フェスでも、鈍行列車の旅でもいい。自分の好きなところだけでなくて、行ったことがないところでいろいろ観察してみる。イノベーションは無から突然生まれるものじゃなくて、何かと何かの出会い、模倣の積み重ねの末に発火点が来て出来上がるものだと思うんですよ。

長谷川 ジョブズも「点をつなぐ」って言ってましたね。彼もインプットをどんどんして、点を増やすことでひらめきを得ていった。

喜多羅僕なんか、めちゃ凡人ですからね。凡人は他人の手法を真似てもいいと思うんです。例えば、女の子をナンパしたい時(笑)。 クラブの入り口で女の子を待ってる人は多いですよね。僕の知り合いで、クラブの出口でホットコーヒー持って待ってたヤツがいて、成功率が高かったんです。そんなふうにどうやれば結果が出るかに集中して、視点を変えて解決策を見出す。インプットをたくさん取り入れて、とことん考える。そしたらいつか持ち玉の1つが成功するかもしれませんしね。だから、指示された方法でこなすことばかりを気にするのではなくて、他のやり方はないか考えてみることが大切だと思います。

キャリアは「椅子」 三本以上の足を獲得しよう

長谷川 外資系企業に長くいた喜多羅さんが日清食品に入って、業務やキャリアに対する考え方の差異を感じられたことってあるんですか。

喜多羅けっこうありますね。日清は終身雇用が前提ですけど、外資系は常に「放り出される」可能性を意識して、自分がどこに行ってもやれるようにキャリアを考える傾向がありました。5年目で海外赴任になった時に、タイ人の上司に「キャリアは椅子だ。3本以上の足が揃って初めてしっかりと自立できる。それを意識して仕事をしなさい」と言われて、納得感がありました。

長谷川 でも、業務で学べることは限られている。となれば、今は無料で参加できるネットワークが山ほどあって参加し放題なわけですが…。

喜多羅参加する人はどんどん参加すればいいんでしょうけど、問題はそこに行けない人ですよね。実際、情シスの人って割合内向的な人が多いと思うので、いきなり見知らぬ勉強会に行くのはハードルが高いと思うんです。それなら、まずは仕事に関係ない車やアイドルなどのオフ会でいいので、人に会うお作法を練習すればいいでしょう。

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長谷川 なるほど。とりあえず人に会う練習ですね。

喜多羅ええ、その際に「誰でも自分より優れたところを持っていている、それを真似しよう」というつもりでいくといいでしょうね。そういう視点を持てるようになると、人に対して好奇心を持つし、人から学べる。さらに自社や業界内の思い込みから外れて、新しい視点を得られる。

長谷川 同じ価値観や習慣の人たちに囲まれていると停滞するし、「多様な正しさ」が見えなくなってきますよね。

喜多羅そう、多様なやり方や価値観があるという気づきとともに、あらゆるものの中で共通している「普遍性」にも気づけると思うんですよ。そうして「普遍的な仕事の仕方」が見えてきます。たとえば、技術やツールは変わるけど、プロジェクトの流れは基本変わらない。そこにできるだけ早く気づけば、学び方も違ってくるでしょう。だから今も口を酸っぱくして、情シスキャリアの足は「プロジェクトマネジメント」と「サービスマネジメント」だと言い続けているんです。

長谷川 その辺りは「JAWS DAYS 2016」でも力説されてましたね。ぜひ、その話の続きはこちらへどうぞ(笑)。引き続き、ひよこちゃんとジバニャン参加でお送りしたいと思います。

喜多羅では、話はつきませんが、ここではいったん切りますか。また、話が長くなってすみません(笑)。今日はありがとうございました。

長谷川 はい。キャリアの話しを聞いたら、学生の時の就職活動の話しからされたのは、喜多羅さんだけです。長くなるはずです(笑)。こちらこそ、ありがとうございました。


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