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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第29回 アイキューブドシステムズ畑中洋亮さん・慈恵医大 高尾洋之さん・アルム 坂野哲平さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第29回のゲストは、医療用モバイルソフトウエアの開発に共同で取り組む畑中洋亮さん(株式会社アイキューブドシステムズ 取締役 社長室長)、高尾洋之さん(東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 先端医療情報技術研究講座 医学博士)、坂野哲平さん(株式会社アルム 代表取締役社長/CEO)です。医療現場のIT化の現状や今後の可能性について語っていただきました。

病院に情シス部門は存在する?

長谷川 僕にとって畑中さんはApple出身の「iPhoneの人」というイメージだったんですよ。iPhoneが出てきた当時からよくメディアに出ていらしたので。それが今や医療関係のことをされていると。もう100%医療系ですか?

畑中 いえ、僕は以前にAppleにいた時は法人市場、とくに医療市場開発をしていたので、高尾先生とはそのときにお会いしているんですが、今はアイキューブドシステムズのCLOMOというMDM(モバイルデバイス管理)などモバイルワーキングを支援するプラットホームを慈恵医大に導入、運用設計、モバイルの活用シーンを増やしたり、新製品のCLOMO IDs(モバイルプレゼンス)の評価をしていただいたりという関係です。産学連携として、慈恵医大の研究員にもなりました。

高尾 去年の4月に厚労省から大学に戻ってICT(情報通信技術)担当になり、10月に、大学病院に3500台の携帯を入れたんですよ。そのときにMDMも一緒に導入したんです。その相談を畑中さんと始めたのが夏頃で、その後、私のところの研究員になって…。

畑中 私、いまは客員研究員ですが、4月から慈恵医大の大学院に博士号を取りに行くんです。

長谷川 何を学びに行くんですか?

畑中 慈恵医大としての、新しい事業領域を創る、その基礎づくりの研究を高尾先生たちとやろうと思っています。

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長谷川 なるほど。アルムさんはどういうご関係で?

畑中 アルムさんは、病院で使うアプリなどを慈恵医大と共同開発をしています。その1つの「Join」というアプリが、医療保険の対象となる医療ソフトウエアとして日本で初めて認められたんですよ。

(参考:医療ソフトに初の保険適用 CT画像など、医師が共有:日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ27HPK_X20C16A1TI5000/ )

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医療関係者間コミュニケーションアプリ「Join」(http://www.allm.net/join/)

長谷川 へぇ、そうなんですか!

畑中 今日は慈恵医大と連携する仲間たちということで、よろしくお願いします。

長谷川 では、今日は医療とITをテーマにお話しましょう。僕は病院の世界はよくわからないんですが、そもそも医大には「情シス」ってあるんですか?

高尾 最近あるところが多いんですけど、うちはないです。ない代わりに、事務系の緩やかな結合みたいな形でやっています。恥ずかしいことに、まだ(本院は)電子カルテを入れていないんですよね。病院の建て替えを予定しているとか、いろいろ理由はあるんですけど。

長谷川 病院のITというと、診察のためのものから勤怠管理だとかまで、いろんな領域があるのでしょうが、例えば電子カルテを入れたいな、となったときは、誰が決めるんですか?

高尾 いろんなやり方がありますけど、最終的には理事会が決裁しますね。

LINE風アプリで医療処置について意見を交わす医師たち

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長谷川 もう興味本位でいろいろ聞いちゃいますが、テレビなんかでは医療の世界って最新のITでガラッと変わるようなことを言っていますよね。ロボットが手術するとか、AIが診断をするとか、そういう世界ってどこまで来てるんですか?

高尾 例えばアルムさんは、「こんなことが、医療でもできたらいいのに!」と思われるようなことを、モバイルで可能にしたんです。そしてこのモバイルファーストのシステムで、現場の情報を情報化して、それを集めて何ができるか、ということを一緒にやっていこうとしているのが畑中さん。僕が病院の中でやっていこうとしているのは、医療や看護の現場を助けるシステムだったり、病院と健康に関わるシステムをどうするかというような、電子カルテ以外のITの部分です。

畑中 電子カルテっていうのは、顧客管理システム。オーダリングが販売/購買管理システムみたいなもので、要は国への保険の請求をきちんとするために記録を残すのがメインです。一方で現場のためのシステム、患者や従業員のためのシステムっていうのは、あまり開発を頑張ってこなかったというか、先生たちが自分の研究費だとかで個別に開発してきたんですよ。だから高価だったり、横展開ができていなかったりして…。今回坂野さんのところで作ったJoinは、個別に作ったいろいろなシステム(例えば医療画像管理システム)からデータを取ってきて、モバイル上でマッシュアップして見ちゃおうぜ、というようなもの。現場で使われるための、軽くて小さなシステムなんですよ。

長谷川 じゃあ利用者は医師の方? 看護師の方も?

高尾 みんな使います。

長谷川 iPadか何かで見るんですか?

高尾 iPhoneです。Androidでもいいですが。

簡単に言うと「医療用のLINE」なんです。緊急で患者さんが来たときに、若い医者だけだと判断できないことがあるじゃないですか。これがあると、みんなで画像を見ながら「手術した方がいいよね」とか「手術しなくていいよね」っていうことを、いつでも議論できるわけです。夜中でも。

こうやって脳のCT画像を2つ並べて見たりとか、今までだと病院に行かないとできなかったことができるようになったんです。

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長谷川 おぉー!

高尾それ以外でも、例えば(Joinアプリ上の)これは今の手術室の映像。一覧になっていて、使っている部屋とそうでない部屋が分かりますね。

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長谷川 ライブなんですか!?

高尾 そうです。これは集中治療室で、プライバシーを考えてカーテン越しで写しています。わざわざオペルームにまで行かなくても状況が分かるんですね。

長谷川 すごいですね。

高尾もっと面白いのは、過去の心電図を見られるという機能。例えば、心筋梗塞を起こした患者が時間の経過とともに前後でどういう状態であったかというのが見られるわけです。いつでも、どこからでも、セキュアに。

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長谷川 なるほど〜。

高尾 こういうデータを診断以外でも、継続的に蓄積していくと、将来的には、どういう状況でどういう画像がきたらどういう手術になるか、というのをコンピューターがコメントしてくれる日が近いかもしれないですね。機械と人間の自然な対話がここから始まるんじゃないかな。

iPhone担当者と医師との出会い

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畑中 高尾さんと出会った2009年当時、僕はAppleでまだ今のように売れていなかったiPhoneを、特に日本の法人市場をひとりで開発担当していて、いろいろ動いてました。特に(個人的な想いもあり)医療市場に興味があったので、当時唯一の代理店だったソフトバンクの4000人くらいの営業さんたちに「iPhoneを使って面白いことをやっているお医者さんをどんどん紹介してください」と声をかけたんです。そうしたら高尾さんと共同研究をされていたソフトウェア開発会社を紹介してくれて、このソフトの原型を利用した医療成果の論文・ポスターを見かけたんです。我々Appleが何のプロモーションもしていない段階で勝手にやっている人がいることが分かった。そこから高尾さんとの付き合いが始まったんです。それが2009年頃で、当時はここまで洗練されてはいなかったですけど、iPhoneでCTとかMRIの画像のやり取りをするというのをすでに始めていました。モバイルでそれをやるというのがユニークだったし、もうひとつ面白いのが、カウントダウンのしくみが組み合わされていたんです。例えば、脳梗塞っていう状況では、脳に詰まった血栓を溶かす投薬治療を行うんですけど、時間が限られていて…。

高尾 (発症から投薬まで)4時間半以内でなければいけなくて、早ければ早いほどいいんです。

畑中 それで当時作っていたのが、アプリの中で4時間半までのカウントダウンと、患者ごとのタイムラインに検査画像が投稿されて、そこにみんながコメントし合うというアプリだった。機械投稿って要はBotだけど、TwitterとかFacebookとかが流行る前にそれ。

高尾 Facebookのタイムラインは縦ですけど、僕らが当時作っていたアプリは、横に流れるタイムラインだったんですよ。

長谷川 へぇ〜。それが2009年、結構前ですね。そのときってiPhone出たて?

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当時、富士フイルムから発売された i-Stroke(アイストローク)
http://www.fujifilm.co.jp/corporate/news/articleffnr_0519.html より抜粋

高尾 そうです。3GSの時代ですね。そこからの長い歴史があって、2年前にこういうソフトウェアが医療機器として認められるという法律が施行され、今年このアルムさんのシステムが初めて保険適用の対象になったんです。

長谷川 保険適用対象となる、というのはどういうことなんですか?

高尾例えば、このシステムを使って(迅速な対応ができて)手術になったら1回300円とか、保険で点数が付くようになるんです。もし認められていないものを使うと「混合診療」となって、患者の費用負担が大きくなります。なお、我々は、Joinを使うことで、医療者のコミュニケーション、画像診断効率が上がるので、予後改善や介護負担が軽減されて、急性期の医療全体の費用は下がると考えています。

長谷川 そうすると、保険適用されることによって、そのソフトウエアが一気に広がることになるということですか?

畑中 そうですね。病院の売上はほとんど保険がカバーするので、保険の対象にならないことは極めてやりにくいんですね。自由診療(保険が適用されない診療)で勝手にやるというのは、健康診断くらいですかね。

高尾 あとは美容とか…。

畑中 そう。だから2009年当時、何社かモバイルで遠隔画像診断みたいな同じコンセプトでやっているところはあったんですけど、医療におけるiPhoneの広がりも遅かったですし、病院の中で携帯電話を使うことが許容されていなかったのでかなり難しかった。でも、2014年にやっと総務省が、医療機器から1メートル離れていれば病院内でも携帯電話を使ってOKという指針を出したんです。

高尾 1メートル以内に関しては病院に任せるということだったので、うちは実験して、電波状態が良ければ2センチまで近づけても影響がないことが分かりました。それで、NTTドコモさんにアンテナを立ててもらって3500台の携帯を導入することになったんです。

病院で携帯電話を使えなかったワケ

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長谷川 携帯電話っていうのは、医療機器に本当に影響を起こすものなんですか?

高尾 起こしますよ。簡単に言うと、圏外になると電波を探すためにすごい電磁波を出すので、圏外ほど医療機器に影響を及ぼします。でも電波がいいとそうでもない。

長谷川 構内PHSはいい、という時代もあったような気がするんですけど。

高尾 それはウソで、PHSは低電力で、どんなときでもそんなに強い電波は出さない、というのが良い点なんです。でも電波がいい時であれば、携帯の方が影響がない。PHSでも6センチ位まで近づけると影響が出ることもあります。

長谷川 へぇ、そうだったのか! じゃあ、「携帯電話が悪い」というのは誰が言い始めたんですか?

高尾 FOMAの時代は本当に電磁波が強くて、本当にダメだったんです。だからシルバーシートのところに貼り紙が貼られたのも、当時としては正しい。ただ、そういう携帯を使っている人がほぼゼロになっても貼り紙だけ残っちゃっていたので、もう影響がないから剥がそうというのが最近の動きですね。

畑中 最近は総務省も方針を変えて、医療機器メーカーの方に対策を求めるようになりましたね。電磁波なんて機器側でブロックできるだろうと。

高尾 あとは、MRI対応型ペースメーカーというのが出てきたので、磁場でもOKなんだから電磁波もOKだろうということですよね。医療機器については、かなり変わりつつあるのは確かです。

長谷川 じゃ、今は病院によって「携帯電話を使っていい」と、言ってたり言ってなかったりするということですか。

高尾 小さい病院だとあるかもしれないですけど、大学病院で携帯OKと言っているのはうちぐらいですね。これからですよ。

畑中 まだみんな恐る恐る、という感じなので。慈恵では患者さんにも「使っていいんですよ」と言っていますけど、貼り紙をして啓蒙しないと、我々自身がクレームを受けるんですよ、「あいつは病院の中でスマホ使ってるぞ、おかしいだろ」みたいにね。そういうコミュニケーションによる準備も重ねて、去年導入したんですよね。

長谷川 そういうのって、「何かあったらどうするんだ?」という標的のマトのような感じになりそうですよね?

高尾 未だにマトですよ(笑)

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畑中 医療の人たちって、まだ全然モバイルのこととか、その威力を知らないんですよ。

高尾 まあ、年齢もあるんでしょうけど、先週呼ばれた会議では「Wi-Fiって何?」と聞かれたり(笑) うちは、今度病棟にも外来にもWi-Fiを入れるんですけど。

長谷川 そうすると、「他の病院でもやってないのに、なんかあったらどうするんだ?」と止める人もいっぱいいそうですね。

高尾 半々くらいです。たまたま僕寄りの人が少し多いからなんとか進んでいるという状態で…。

畑中 経営者の視点で言えば、今は理事長、学長、各院長といった大学のトップ全員が時代の変わり目を感じている、国内有数の医療機関で、という非常に幸運な状況だと思いますよ。高齢化社会で医療費も削減していかなければならない、医者も昔のように一方的に権威的な存在でなくなってきたという中で、何か連続性のある次の事業なり収入源をつくらなければいけない、患者さんとの関係ももっと転換が必要、という意識が出てきているんだと思います。

長谷川 なるほど。

畑中 あとは、現場重視の慈恵だからできるというのもあるでしょうね。慈恵医大の成り立ちが明治時代の1881年なんですけど、当時の東大を中心とした日本の医学は、病気を研究するというドイツ医学が主流で、そういう患者を実験対象にみるアカデミックな医学に対して警鐘を鳴らすために作られたのが慈恵医大なんです。創立者の高木兼寛という人は6年間イギリスに留学して、イギリスの外科医学に加えて「ケア」、つまり患者と寄り添う方法論「看護と介護」について学んだんですね。留学していたセント・トーマス病院医学校というのがナイチンゲールがクリミア戦争を体験して、戦死者の割合が圧倒的に負傷後の入院時点で多いことを発見して、看護の必要性を痛感し、初めて看護学校を作った場所、近代看護が生まれた場所です。高木兼寛はそこで学んで、日本に近代看護の考え方を持ち込んだ。慈恵は日本で初めての看護学校を作りました。だから慈恵医大の学是は「病気を診ずして、病人を診よ」というもので、病人を診ることが医療者の仕事であると。これって今の超高齢社会、ケアが重要になる時代にもろにヒットする、「患者を中心とした医療をやりましょう」コンセプトですよね。正直、原因がわからなくても、患者が治ったり、生活が楽に、気持ち良くできればいいじゃん、みたいなところがあるんですけど、そこがすごくいいなと思って。

高尾 だから、ITも同じだと思います。とりあえず良さそうだから入れてみたらいいじゃん、という。それでも「何かあったらどうするんだ」という人もいますけどね。看護や介護現場の生産性、やり甲斐・尊厳の向上がポイントです。

日本は医療ITで勝つことができるか

長谷川 「医療IT」で、かなり進んでいる国というのはあるんですか?

高尾 さっきのアルムのシステムは、リリース1年くらいですが、すでにアメリカ、ブラジル、ヨーロッパに数十導入されています。世界にもなかったものなんです。

長谷川 じゃあ、これから日本が突出する可能性もあるということですか。

坂野: 全然勝てると思います。それぞれの国で異なる規制があるんですけど、医療法の中に医療ソフトウエアに関する法律がない国の方が多いので。

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長谷川 日本の場合は、規制は厚生労働省ですよね。

畑中 そうです。高尾先生は、この間まで厚生労働省に出向していて医療機器のルールを整える側にいたんですよ。だから何を行政が気にしているのか、医療ソフトウエア、医療機器に必要とされるものは何なのか、という方向性や塩梅をよく分かっているんですね。医療機器開発って、挑戦する人が少ないし、ノウハウが共有されていないし、国のルールはどんどん変わるしで、なかなか統括できる人がいないんです。だから事業参入リスクが極めて高かった。

高尾 だから、医療機器の8割くらいは輸入で、国産のものはあまりないんですよね。

畑中 医療機器に関しては貿易赤字ですから、国の政策としてはそこを逆転したいと。

高尾 その割には誰もいないという状況です。

畑中 今、米国含めてグローバルに攻め込めるソフトウエアをやっているのは、日本ではアルムさんしかいない。

坂野 ヘルスケアのベンチャーはいっぱいあるんですけど、メディカルって世界中みてもあまりないんですよ。

長谷川 坂野さんは、もともと医療関係のことをやっていたんですか?

坂野 いえ、ここ最近かじっているだけで(笑) 元は映像処理の会社で、オンデマンド配信サイトのサービスを開発したりしてたんです。その事業を売却して何をしようか迷っていた時にこのふたりに会って、今の事業を始めることになりました。

高尾 だから、動画配信は得意分野だったんですよね。面白いのは、この会社は介護や健康のシステムもやっているんです。それぞれ他にもやっている会社はあるけど、つながっているところはあまりなくて。

坂野 この『MySOS』というアプリは、『家庭の医学』のデジタル版みたいな感じで、今の症状なんかからどういった処置をすればいいのか、病院を受診した方がいいのか、といったガイドを出す機能の他に、検診の結果や飲んでいる薬の情報なんかを登録しておけるんです。

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畑中 さっきの『Join』というアプリは、病院の持っている画像なり動画なりバイタルなりのデータをモバイルで見て、医者同士がコミュニケーションできるというものですが、同じデータを特定の患者に対しても配信するということを考えているんですね。これまではそれができなかったから、セカンドオピニオンを取るにもデータをCD-ROMに焼いてもらって、そのためにお金も払う必要があって、ものすごく時間がかかっていた。もっと簡単に病院のデータをアプリに入れて持ち歩けることになれば、患者さんは自分の情報を出してくれない病院には行かなくなりますよね。そもそも患者さん自身の情報だし。

高尾 医者の世界って閉鎖空間ですから、自分の治療が一番正しいと言っていられる今までが一番ラクだったんですよ。それがセカンドオピニオンが始まって第三者が評価する時代になったので、もうオープンにする方向に進まざるをえないでしょう。

畑中 僕らは「Team 医療3.0」というチームを作っています。ITが好きな医療者同士の集まりというのはずっと昔からあるんですけど、僕らは看護師とか薬剤師とかの医者以外の医療者、その先の患者さんや家族という人たち「みんな」に仲間になってもらって、それぞれの医療現場に対して「我々がやっていることはみんなもできることで、それぞれが動けばこういう価値・変化が起こります」というのを理解して、共感してもらう。そうして世論を動かすということを意識してやってきています。医師だけでも医療者だけでもない。モバイルという小さいところから実績を作ってきていて、今はいろんなところで同じような動きが起こり始めたところです。新しいチームの在り方です。

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「Team 医療3.0」の書籍
「ITが医療を変える 現場からの課題解決への提言」(アスキー・メディアワークス)
「スマホ、タブレットが変える新IT医療革命」(アスキー・メディアワークス)

長谷川 医療のITを動かす牽引役になるのは誰なんでしょう?

高尾 みんなですよね。医者だけ頑張ったって患者はついてこなし、企業だけ頑張っても医者が買わなかったらダメだし。

長谷川 でも急速に進めるためには、誰かが旗を振らないといけないですよね。

高尾 変わらなくてはいけないのは、みんな自身。医療のIT化って、みんなで進めないと動かないから、今まで変わらなかったんですよ。誰かが足を引っ張ると難しい。

畑中 実は、税金をどこに使うかという、政治そのものなんですよ。そして、政治は、世界最古のクラウドファンディングです。今まで進まなかったのは、専門家が専門家の中だけで騒いでいて、世の中一般と乖離してきた。すなわち政治に働きかける人がいなかったからですよね。働きかけるのは政治家、っていう意味じゃないですよ、国民みんな。その国民の方針や希望が政策。だから、企業と学術機関と臨床機関が新しいことをやっていくためには、みんなの意志としての政策になるよう、多少の摩擦を恐れず、でも同じ方向を向いていないといけないので、啓蒙活動、仲間作り、もちろん公明正大なロビー活動も必要なんです。

高尾 今は国の政策でICT医療を進めなさいということになっていますけど、この「Join」が医療機器として認められて、この4月に保険点数、つまり値段が決まります。そのときに適正な価格を考えて付けてもらわないと、病院での利用は広がらないし、ベンチャーも損しますよね。他の企業も続きたいと思えるようなリーディング企業がないといけないし、それを支援する病院と国がいなければいけないという、三位一体ですよね。誰かが突っ走ってできるものではないです。

東急グループとのコラボも? 医療ITによる新サービスの可能性

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長谷川 今後、医療のここをIT化したらぐっと進む、みたいなところはあるんですか?

坂野 携帯とウェアラブルデバイスなんかで、今までは取れなかった未病の状態でのデータが取れるようになってきたので、それはやってみたいですね。

長谷川 未病というのは、病気になる前の状態ということですか?

坂野 そうです。健康な状態から何か発病したとすると、その後のデータは病院にありますけど、起きる寸前のデータはなかったわけです。それが取れるだけで診療も変わってくるでしょうし、例えば脳梗塞だったら「血圧が上がってたんじゃないか」というような仮説に対して、リアルなデータが取れることで裏付けができるようになりますよね。まったく新しい因果関係がみえてくる。

高尾 企業がデータをとるしくみを持っていないと、僕たちも利用できないので、そこにビジネスモデルができるということであれば、臨床での利用も進みますよね。

坂野 それは今までの保険制度の中でやるのか、違う財源からなのか、あるいは利用者自身からお金を払ってもらうのか、選択肢はいくつかあるのですが、誰か先駆者として早く成功モデルを作らないといけないですね。

畑中 僕は筋トレ、ダイエット、美容やアンチエイジングという分野と医療をつなぐのが一番早いんじゃないかと思うんですよね。つながることでエセ科学とは違う医学的な根拠が分かるようになります。個人的には「食」に注目しています、ICT栄養学っていうのを慈恵で始めます。一方、今、日本でお金を払って運動している人って400万人しかいないんですよ、1億2千万人中の3%くらい。でもその400万人の消費力ってなかなか大きくて、企業が事業を始めるのに十分足るようなサイズですよね。最初はこういった偏った分野に極端に投資する人たちから始まって、いずれは連続して普通の人たちが払えるレベルのサービスになっていくんじゃないかな、と。そういう意味でアスリートも見ています。みんなのものという意味で、オリンピックというモメンタムも活かしたい。

長谷川 うちのグループと組んで、何かできないですかね。食事だったら東急ストアもあるし、運動だったらフィットネスクラブや介護事業もあるので、一緒に実証実験をするとか…。

高尾 まずはぜひ、『MySOS』のパンフレットを置いてください。フィットネスクラブの会員番号を入れて使えるようにするとか、いいですよね。

畑中 沿線の人たちの健康っていうのは、東急グループとしてはすごく興味ありますよね?

長谷川 ええ、フィットネスクラブの経営企画の人と話していても、何かエコシステムを作りたいという意識はあるんだけど、「じゃあ、どうするの?」となったときに、医療機関につながりもないから考えあぐねている感じなんですよ。機会があれば、きっとやりたいんだと思いますけどね。

畑中 僕たち医療側も健康情報はこれから見なくてはいけないんです。例えばあるジムを使っている人たちに「『MySOS』 のアプリに情報を入れてくれたら会費を100円引きます」といったことをやって、そこから運動や食の記録と傾向が医療側にもたらされると、ものすごい産業シーズが生まれると思います。サービス自体が価値になる、新しい時代の保険ですね。

長谷川 例えばフィットネスに来ている人で何か調子が悪い人がいたら、データを持って慈恵医大に行けば診てもらえますよ、とか、何か会員にもメリットがあればいいですよね。

高尾 できますよ。アルムさんは病院(診療所)も経営はじめますから。

坂野 新橋に検診のための施設がありまして。これまで検診の結果って紙でもらっていたじゃないですか。それを自動でアプリに入れておいて、何かあった時は見せられる、それができる場所です。

畑中 大学病院は、紹介がないと5000円くらい取られちゃうので、健康な人が「ちょっと心配です」と相談に行くには向かないんです。医療と健康をつなぐのは、健康診断だけど。あとは産業医とかが鍵かな。

高尾 だからジムの会員の方で何か心配なことがある人は、まずアルムさんのところを予約して行ってもらって、必要ならそこから慈恵に紹介してもらうこともできますし…、会員なら年に1回血液検査ができて結果がアプリに送信されます、といったことでもかなりいいサービスになりますよね。アルムさんだけじゃなくても、東急沿線のMySOSが目指す、患者さんや生活者中心の世界に共感してくれる診療所とか、健診している人たちが参画してくれてもいいですよね。

長谷川 それは面白いです。今度あらためて相談しましょう!どうもありがとうございました!


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