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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第31回 ソラコム 代表取締役社長 玉川憲さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第31回のゲストは、AWSエヴァンジェリストから起業家に転身し、昨年9月にIoT向け通信サービスをリリースした株式会社ソラコムの玉川憲さん(代表取締役社長)です。このシリーズでは珍しい子育て論からスタートし、AWSでの経験と起業家としての思いまで、幅広い話題で盛り上がりました。

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株式会社ソラコム 代表取締役社長 玉川憲さん

小学生の子どもの成績は気にならない。伸ばすべきは運動、音楽、英語の感覚。

長谷川: 今日はソラコムやIoTの話ももちろん伺いますが、まずは玉川さんの子育て論について聞きたいと思います。今、お子さんは?

玉川: 3人います。8歳、6歳、3歳で、男、女、女。

長谷川: ちょっとドギツイこと聞きたいんですけど、玉川さんは東京大学卒業じゃない? 東京大学に行った人って、子どもも東大に行ってほしいと思うんですかね?

玉川 : 難しい質問ですね。僕の場合、親から言われることなく、自分自身が入りたくて一生懸命勉強して入った、という気持ちがあるので、子どもも頑張って東大に行きたいというならそれもいいと思うし、別に東大じゃなくてもいいです。

長谷川: なるほど。僕のまわりは幼稚園のときからお受験させるような親か、もっとおおらかに育てていこうという親か、どっちかに振れている人が多いように思うんですけど、玉川さんはどちらかというとおおらかに育てたいということですね。

玉川: 僕はおおらか派ですね。今小学生のふたりは公立に行ってます。

長谷川: 仮に、玉川さんの子どもがいつもテストで20人中18番目くらいだったら、どうします?

玉川: 僕は気にしないです。小学校の勉強なんて、いくらでも取り返しがつくじゃないですか。今の幼児の時に一番気にしてるのは、運動と音楽です。神経の発達的に、そこが一番伸びる時期なので。父親としては身体を動かして遊ぶことと、音楽とかそっちの脳を使う活動を重視していて、丸覚えの勉強とかそういうのはどうでもいいかなと思っています。

長谷川: なるほどね。うちの子は、幼稚園の同年齢の子たちの中で、数字を読めるようになるのが一番遅かったんですよ。でも嫁はそのことをあまり気にしていないみたいだったんですね。僕はそれまで、嫁は教育ママになるんだろうと思っていたんで、それが驚きだったんです。「あれ、意外とおおらかだったのか?」と。ところが、ある人に言われてその認識は間違いだと気づいたんですよね。ある意味おおらかなのかもしれないけど、「幸せに生きてくれれば、勉強なんていいわ〜」みたいなおおらかとは違って、「うちの子は最後は確実にまくるから、今は関係ない」という絶対的な、意味のない自信があったの(笑)

玉川: (笑) でも、その肯定感、意味のない自信を与えてあげるというのも大事ですよね。

長谷川: まあね。嫁は英語がすごく好きで子どもにも英語を教えているんですけど、「最近やっと子どもが、自分から英語に興味をもって勉強する気になってきた」と喜んでます。

玉川: 僕も、英語は重要だと思ってます。さっき言った運動や音楽と同じで、幼児期の発達を考えると英語は早くやっておいた方がいいと。日本語だけやっていると周波数がフィルタリングされるようになって、英語の子音の音が聞こえなくなるらしいんですよ。子音の周波数が限られる日本語特有の性質なのですが。耳の能力がつけられるのって、10歳か12,3歳くらいまでだそうです。僕なんかは大学院まで英語を話す外国人に会ったこともなかったので、30歳前くらいに英語を猛勉強したけど、どうやったって耳の能力は回復しない。そうすると子音の音の違いを文脈から判断しなければいけないので、ただ聞き取るためだけに脳のパワーを余計に使うんですよ。同じ苦労はさせたくないので、長男には週2回Skype英会話をやらせてます。勉強っぽいのじゃなくて、ギルバート先生というすごい明るいフィリピン人の先生とチャットして終わり、みたいな感じですけど。

長谷川: うちの子もSkype英会話やってますよ。子どもって読めなくても耳で聞くだけで全部覚えられるから、すごいですよね。

玉川: コミュニケーションと言う意味では、読み書きから入るんじゃなくて、あいさつからや「今日の気分はどう?」みたいなカジュアルなやり取りができることの方が大事で、あとは音が聞き取れるかということだから、楽しんでおしゃべりできればいいですよね。

年に1度、夫婦で子供の教育について話し合う

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玉川: 奥さんと教育に対する考え方にギャップがあると結構苦労すると気づいて、「子どもにこうなってほしい」という期待値を夫婦で話し合って、書き出すようにしてるんです。長男はこうなってほしいとか、3人それぞれに。4〜5年くらい前から始めて1年に1回、正月に見直しているんですけど、それが結構いいんですよ。

長谷川: そうなんですか。書き初めみたいに、あらためてちゃんと書くというのは珍しいね。

玉川: 書き出すと違いがわかるので、それですり合わせができるんです。これなんですけど。

長谷川: おぉ、すげぇ!

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玉川家の子供の教育に関するメモ

玉川: これをやってみて「僕たちちょっと古いかもね」と気づいたのが、男の子と女の子に対する期待が違うんですよね。いいことなのか悪いことなのかわからないんですけど、男の子にはたくましさを求めるし、女の子には清潔感を求める、というようなところがあるんです。

長谷川: なるほどね。

玉川: 解答がないですよね、子育てって。「これやったら、こうなる」というものではなくて、親以外の景気や文化や宗教などいろいろな要素も絡んでくるし、しかも18歳とか20歳になってみないと、良かったかどうかわからないですからね。

長谷川: 子どもの友だちなんか見てると、小2でも子どもってこんなに性格違うんやと思いますよね。それを一律の教育でやるのは難しいですよね。

玉川: 本当に、みんな違いますよね。社会が豊かになったんだとしたら、そういうのをもっと微調整できるというか、それぞれのギフトをいい方向に伸ばせるようになった方がいい。そこは技術でも助けられる可能性がありますよね。

AWSが成功した理由

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長谷川: 玉川さんは最初にIBMに入られて、その後AWSに行き、昨年ソラコムを立ち上げたわけですけど、どういう思いでそれぞれの選択をしてきたんですか?

玉川: 大学院ではバーチャルリアリティの研究室に入ったんです。スターウォーズでいうビデオアバターみたいのを作っていたんですけど、それが楽しくて。立体視のできる3眼カメラのSDKとかを読んで「これ使ったらこんなことできちゃうんだ」なんてAPI見ながらコーディングしてる時間はすごく静謐な素敵な時間で、その時間が愛おしかったんですね。でも社会人になるとそういう時間から離れることになると思ったので、基礎研究がやれるところがいいなということで、IBMに入ったんです。

長谷川: そうだったんですね。

玉川: IBMではウェアラブルコンピューターを開発したり、特許や論文を書いたりして、3年くらいは楽しい時間を過ごしました。でもある時、会社的にはそのプロジェクトを閉じる方向が決まったんですね。一生懸命やってきたものが世に出ないというのが結構ショックで、研究者としては路頭に迷いそうになりました。

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不憫に思ったのか、当時の上司は僕を常務だった堀田一芙さんの補佐に送り出してくれました。そこでの経験で、自分がすごく狭い世界で生きていたなと気づいたんです。周りをあまり見ることなく、静謐な世界の中で一生懸命やっていた。それは楽しくて素敵だったんだけど、会社としてはパーソナルコンピューティングをやめてサービスに切り替えていき、僕がやっていた研究はなくなる方向だった、そういう大きな流れをまったくわかっていなかったんですね。それじゃいかんなと。静謐な時間というのはすごく素敵なんだけど、そういう環境を作ろうと思ったら、もっと大きな流れや世の中のことを知る必要があると気づきました。それで、昔からグローバルで活躍したいという思いがあったので、必ず留学しようと決めたんです。

補佐をやっているときに、ラショナルソフトウェアという、UMLとかモデリングツールを売っていた会社をIBMが買収しました。そこに飛び込んで、ラショナルのコンサルタントからはトレーニングコーチとか、プリセールス営業とか、エヴァンジェリスト的なコミュニケーションとか、いろいろなことを学ばせてもらいました。

その後、念願かなって留学できることになって2年半くらいアメリカに行ったんです。留学した年が2006年、ちょうどアメリカでAWSが始まっていて、すごい衝撃を受けまして。帰国後にラショナルソフトウェアで新製品の立ち上げとかをやっていた時、AWSが2010年に日本で事業を立ち上げるからというので、お声がけをいただきました。アメリカで見た時の感激があったので、「これはやらざるを得ない」と。

長谷川: ほうほう。

玉川: 当時、ラショナルソフトウェアでTeam Concertという、アジャイル開発のためのツールを立ち上げていたんです。今で言うGitHubとJiraとJenkinsの融合みたいな素敵な製品だったんですけど、すごく苦しんだのは、お客さんはそういうツールを使いたいだけなのに、サーバーもツールも買ってもらう必要があってすごく面倒なんですよね。まだSaaSモデルのようなものがなくて。「これってクラウドだったらすぐできるじゃん」というのもあったし、アジャイル開発ってきちんとやろうと思ったらインフラもアジャイルじゃないとできないので、やっぱりAWSって絶対必要だなと。新しいサービスを作るときに必要なものとしてきちんと広めたいと思ってAWSに入りました。

長谷川: それが2010年? その当時って、エンタープライズの企業がAWSを採用すると思ってましたか?

玉川: そうなってほしいと思ってましたけど、最初はすごくギャップがありましたよね。AWS自身も、VPCとかRDSもないみたいな完全体じゃない状態だったので、大企業からすると「所詮インターネットの上のおもちゃでしょ」みたいな見方でしたね。

長谷川: ベンチャー系とかはいいにしても、エンタープライズで使うっていうのは、いろんな障壁がありますよね。ロジカルじゃないところの心理的な壁も含めて。その当時から「みんな使う」と思ってたのなら、鈍感なのか先見性があるのかどっちかじゃないと、なかなかね…。

玉川: でも、ステーブ・ジョブズが「Stay foolish」、「バカになれ」と言ったじゃないですか。僕はAWSを信じたAWSバカだったので、「こっちです。これが大事なんです」というのを、妄信的に言い続けられた。今思えばそれがすごく良かったのかな、と思っていて。当時は「いつかは絶対、大企業もスタートアップもクラウドを使うのが当たり前になる」という確信があったんです。それが10年先なのか20年先なのかは分からないけれど、僕の仕事はそれをできるだけ早めることだっていう使命感がありました。

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長谷川: 玉川さんが入られた頃からすると、AWSの売上って3倍以上に伸びたと思うんですけど、成功した理由は、今考えるとどういう点がありますか?

玉川: 日本はほぼゼロスタートなので、3倍どころじゃないですよ(笑。成功した理由は、いっぱいありますよね。顧客中心で競合とかあまり見てなくて、長期的に「絶対こうだ」というのを質実剛健とやり続けるような企業カルチャー。それからWin-Winを作りやすいプロダクトというか、ハイボリュームローマージンでスモールスタートできて、スケールアウトできて、運用がラクになって、APIが使えてという…。僕は「AWS型プラットフォーム」って言っているんですけど、その模範を創ったような会社なので。

入った時に、「なんて売りやすいんだろう」と感じたんですよ。ウソがないというか、お客さんを騙す必要がない。もちろん、良さを理解してもらうハードルはあるけれど、一旦理解して使ってもらえるとみんな喜んでくれるし、楽しんでくれるというプロダクトだったので、売る方にとってもお客さんにとってもハッピー。そういうのってめったにないですよね。

あとはたゆまない進化というか、「RDSあったらいいね」、「VPCあったらいいね」みたいなお客さんの声を聞いて、「それいいね」とどんどん作っていくので、一番最先端のところにいられたというのもありますね。

長谷川: 言葉ではクライアントファーストだとか言う会社も多いけど、AWSみたいにまじめに顧客の話を聞くところはなかなかないですね。Googleなんて全然聞いてくれへんからね。「こういう風にしたら、日本の大企業はもっと採用すると思う」っていうような話をしても、彼らの場合ふたこと目には「Googleの文化ってさ、オープンなんだよね」みたいなことでね(笑)

玉川: (笑) Amazonが掲げているリーダーシッププリンシプルというのが14項目あるんですけど、1番最初にあるのが「カスタマー・オブセッション」、つまり顧客中心主義で、トップマネジメントもそれを実践していますからね。ソラコムをやっていく上で、プラットフォームビジネスを作るお手本がすごく身近にあって、それを身近で自分事として見てきた、やってきたというのは何よりも財産になっています。

長谷川: でも、日本のエンタープライズ系の人って、外資系のソフトウェアとか好きじゃないですよね。マイクロソフトとかSAPくらい浸透したらいいけども…。それかBIツールくらいだったらいいんですよ。でも、インフラじゃないですか。当初は「たぶん契約書も日本語じゃないんやろな」と想像して、苦労すると思いました。それなのに、ようエンタープライズの中であんなに行きましたよね。

玉川: だから、心が折れなくなりましたよね。お客さんのところいったときにボロカスに言われるんですよ(笑) 最初は「本屋さんがなにしにきた」から、それこそ契約書のこととか、「ドル建てはどうなのか」とか…。当時は相当大変だった。でも、すごく楽しかったですよ。「使ってもらって良いもの」というのにゆるぎはなかったので。三国志でいうところの、敵に囲まれた中で子供(AWS)を抱えて一人でなんとか生きて帰ってくる趙雲子龍みたいな気持ちでした(笑)。

ソラコムはIoTで何かやりたい人の触媒になりたい

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長谷川: そんな中でAWSを辞め、ソラコムを立ち上げて、まずどういうところから狙うんですかね。

玉川: IoTって、それこそ6年前のクラウドに近くて、すごく夢があって面白いと思うんですよね。クラウドが基盤にはなっているんですけど、昔と比較すれば考えられないくらいのコストでデータが保存できて処理もできる、機械学習も出てきたし、インフラも、可視化の技術もある。一方でモノも安くなってラズパイとかコネクティッドデバイスみたいなものがあって、絶対何かが起こるのは間違いないんです。クラウドと一緒で10年か20年か分からないけれど…。

一方で課題はたくさんあって、一昔前の「インターネットはすごいけど、何かWebサービスを作ろうと思ったらサーバーはすごいの買わなきゃいけない」みたいなハードルの高さがあるんですよね。僕らはAWSがそのハードルを劇的に下げて世の中を良くしたというリスペクトがあるので、ソラコムもそれをやりたい。プラットフォーマーって美しい夢だと思っていて、自分たちだけがハッピーになるのではなく、IoTをやりたいと思って立ち上がろうとする人たちをジャンプさせる触媒的な役割ができる素晴らしいビジネスだと思うんです。アンディ・ジャシーっていうAWSのトップが「孫の代まで誇れる仕事をしよう」と言っていましたが、そういうことを日本発で、グローバルに向けて、しかもAWSを使ってやるというのは、ワクワクしかないですね。その夢を一緒に見てるのが、CTOの安川であり、集まってくれた片山や松井、小熊、清水のような優秀なエンジニアをはじめとしたチームの仲間です。

大企業の新規事業開発とスタートアップとの違い

長谷川: ソラコムのサービスって、今はAからFまであるんでしたっけ。サービスの追加というのは、どこまで行っちゃうんですかね?

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ソラコムのサービスは、Air、Beam、Canal…と、頭文字がアルファベット順になっている。現在AからFまで6つのサービスをリリース済み。

玉川: 僕らも分からないですね。今年はグローバルをやりたいというような、全体的な長期プランは漠然とあるんですけども、AWSと同じで、お客さんやパートナーからのフィードバックを得て「それやりたいね」ということはどんどん入れていきたいので。プラットフォームって、共通基盤として使ってもらえるような価値があるものを優先順位を変えながら作っていくべきで、「作りたいものを作る」という感じばかりだとお客さんがついてこないと思うんです。AWSも2006年に10年後にこうなっているという絵は誰も描いていないし、描くべきじゃなかったと思うんです。世の中の変化は激しくて、どんどん新しいテクノロジーは出てくるので、どんなに賢い人でもそんなに先のことは読めないと認めて、柔軟に対応していくのが大事だと考えています。

長谷川: なるほど。仮に玉川さんが大企業の新規事業担当してやるとしたら、「3年後、5年後の中計を出して」と求められると思うんですけど、ソラコムでは中期経営計画というのを、どういうふうにお考えですか?

玉川: 僕らはベンチャーというよりも、スタートアップなんですよね。スタートアップって一般的にはシリコンバレー型で、あるテクノロジーイノベーションをベースに、潤沢な資金をベンチャーキャピタルのようなところから入れて一気に成長させるというモデルです。そういうモデルにおける事業計画は、精緻さというよりもどれくらいの大きさの市場を狙っていて、それをどういうアプローチでどんなチームでやるか、どんなプロプライエトリ・テクノロジーを持っていて、勝算はどれくらいか―—、それくらいのレベルの計画で、将来性と狙うべき市場が良ければいいんです。もちろんその仮説をもとに数字を作って腹に落とすところはしっかりやります。僕の場合、IoTの狙ってる市場は十分に大きいし、今までのファーストダッシュは十分に評価されているので、あまり問題にならないですね。

長谷川: もし玉川さんが大きい企業の新規事業部みたいなところにアドバイザリーで入ったとしたら、「中計出せというのは、あまり意味のないことだ」とアドバイスされますか?

玉川: 新規事業に取り組むアプローチは、会社によると思うのでなんとも言えないですね。純粋なベンチャーキャピタルからすると、10個の会社に資金を入れて10個成功する必要はなくて、ひとつでもバーンと跳ねればそれでいいという考え方ですよね。「はねた時にはすごいんです」というのを取り揃える戦略です。全体で100億円投資しても、1社が1000億円返してくれればとんとんになる。今の僕らのビジネスはそういう世界の中で、ガツッと資金を入れてスピードを稼いで一気に大きくなるというやり方なわけです。会社の新規事業でも、そういうやり方の会社であればできると思うんですけど、なかなかそうはならないですよね。「10億円入れるけど、どれくらいの確率で20億、30億になるんですか?」という考え方だと、中計をしっかり作ってがより求められると思います。

長谷川: 急速に立ち上げるのがベンチャーですという話があったけど、急速に立ち上げないといけないんですかね? 普通に成長していくんじゃだめですか。

玉川: いい悪いではなくて選択肢だと思っていて、やり方は極端に大きく分けると2通りあるんですね。外からお金を入れず、自分たちで稼いで、黒字の範囲内で、という中小企業的弁ベンチャーのやり方ももちろんいいと思います。もうひとつがシリコンバレー型スタートアップ。僕らの場合グローバルなプラットフォームで、IoTの敷居を下げたいという目標があるので、共通基盤を作るにはある程度まとまったお金が必要です。外部からお金を入れて、当初は赤字でも一気に規模を広げるという後者のアプローチじゃないとできなかったと思います。

長谷川: なるほど。御社の中では、マーケティングコストと製品開発コストのバランスってどう考えてます? 一般論として技術の出身の人って「いいもの作ったら広まるはずだ」というような考え方に、どちらかというと傾倒すると思うんです。玉川さんも技術者出身なので、少なからずそういうところはあるんじゃないですか? 逆に、マーケティングコストをかけることでグローバルでも早くNo.1になれるかもしれないという考えもあるかもしれないし、そこのバランスどうなんでしょう。

玉川: それはすごく大事なポイントで、まず第一に、僕らのビジョンは「世界中のヒトとモノをつなげ共鳴する社会へ」なんですけど、それをテクノロジーイノベーションで実現しようとしているんです。商品調達力とか、もの凄い人数を揃えたセールスの力とか、超洗練されたオペレーションで競争していくという会社じゃない。技術大事。ただ、技術至上主義でいいものを作れば売れると思っているかというと、全くそういうことはないです。AWSと一緒で世の中で知ってもらわなければ、いくらいいものを作っていたって陽の目を見ないことは分かっているので。僕はエンジニア出身ですけど、結構長い時間をマーケとセールスにかけてきているので、その重要さをものすごく実感しています。

一方、マーケとセールスって金をかければいいというわけではないとも思っていて。企業のマーケティング部門でよくある、年間の予算を消化して次年度の予算も同じだけ獲得するのが仕事みたいなのはバッドプラクティスで、それだと頭を使わなくなり、マーケティングにイノベーションがなくなってしまいますよね。AWSにエバンジェリストとして入った時に、「マーケ予算はありません。話す場所は作ってください」という超有能マーケターの小島氏と一緒にやってきたところから始まって(笑) でも、そうやって追い込まれて逆に良かったと思うんです。自分がいい話をしないと次の場所はできないし、そういう場所に呼ばれるような存在にならないといけない、そもそもそういう仕事ができてないと伝わるはずがないということで、金じゃなくて工夫次第でなんとかなる世界だということが分かったので。

セールスも同じで、お客さんが増えれば増えるほどセールスの人間が増えるという形だとプラットフォームビジネスとしてはスケールしないので、やり方を変える必要があります。昔ながらのセールスの仕事はコンピューターで自動化できるので、より付加価値の高い仕事—―、お客様と一瞬で信頼関係を作る、新しいユースケースを作る、それを実現するための新機能の企画書を作る、エコシステムを作る、というようなことをやっていけば、全体に対するセールスのコストはすごく小さくなるはずです。

結論からいうと、マーケとセールスの重要さはすごく分かっていて、そこにお金をかけないイノベーティブなやり方を、こちらもまたテクノロジーイノベーションでやりたいということですね。

IoTが普通になった世界とは?

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長谷川: インターネットが爆発的にみんなのものになったのって、ソフトバンクがYahoo!BB配りまくって「つなぎ放題」って言った、あれがきっかけだったと思うんですよね。IoTの世界の中で、「もうIoTなんて、普通じゃん」という時代が来るとしたら、何がどうなったらそうなるんでしょうね?

玉川: いくつかの視点がありますよね。IT業界の視点でいうと、成功者が出たら「IoTはバズワードじゃなかったね」となるかもしれません。クラウドは、セールスフォースとかAWSが出たから、もう誰もバズワードとは言わないですよね。一方、一般のコンシューマーからすると、IoTが成功した状態というのは「インテル入ってる」じゃないですけど、下にするっと分からないように入っていて、なんかちょっと世の中が良くなっているっていう、そういうレベルかなと。IoTなんて言葉が一般化する必要はなくて、それでいいと思ってるんですけど。

長谷川: 確かに、玉川さんが「SORACOM Inside」みたいな無駄なCM打つようになったら完全に一般化してますよね。金が余りまくってるからそんなCM打ってるけど、誰も「どうでもえぇ」と思ってるような、そんなんなったら完全に一般化していると(笑)

玉川: (笑) 僕はそういうニッチなところでじわじわ喜べるので、例えばドローンがすごく使われるようになった時に、「実はすべてのドローンにソラコム入ってる」とかなったら嬉しい、みたいな感覚はありますね。

長谷川: 2015年の9月にソリューションをリリースされて、手応えはどうですか?

玉川: かなりいい感じで、お客様も4ヶ月で1500を超えて、どんどん増えている状況です。お客様とパートナー様に感謝です。

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長谷川: AWSの時と違って、IoTの場合は今までいなかったプレイヤーを入れる必要があるのかな、と思うんです。AWSってインフラとして、それまでだったらレンタルサーバーとか、今までもあったものの延長線上ですよね。ソラコムの場合、想像もしなかったものをつなげることができるので、AWSのエヴァンジェリストとしてやっていたことにプラスアルファのパワーが働かないとググッと行かないような気がするんですよね。これまでやっていたことのコストが安くなる、じゃあそっちに行こうかな、という話ではなくて、アドオンになりますよね、今まで払ってなかった通信費を誰かが払うという。それでも新しい価値が生まれるからいいじゃん、となるには、新規事業プロデューサーか何かわからないですけど、そういう人がいないと、何をしたらいいか分からないという会社も多いんじゃないですかね。

玉川: それは間違いなくあります。面白いのは、AWSのときって実物の見せるものがなかったんですよ。クラウドだから見せられるのはユーザーインターフェースくらいで、「あとはやってみてください」と。ソラコムはSIMというモノがあるので、そこは妙な安心感があるんですね(笑) 一方、AWSのときになかった要素として、SIMを挿すデバイスが必要なんです。そこは世界が広がったと感じていてAWSのときにお付き合いがあった会社さんはシステムインテグレーターさんとかSaaSとかのテクノロジーソリューションを出しているような会社さんだったんですけど、それ以外にデバイスを作っているモニターとかセンサーとかカメラのモノ作りプレイヤーが出てきて、そことつながるようになったのが、面白いですね。

クラウドプレイヤーさんとデバイスプレイヤーさんとを引き合わせるとすごく面白いことが起きるので、それはすごく楽しいチャレンジで、新しい世界が見えるなと。僕らは「コネクテッド」といって、デバイスとインターネットをつないでいるんですけど、ある意味、違う業界の人と人ともつないでいるんですよね。

一方、マーケットの観点でいうと、クラウドとIoTで考え方は大きくは変わっていないんですよ。クラウドの時もデータセンターというビジネスがあって、一方で新しくインターネットビジネスをやりたいとか、Web系のオープンなシステムを作りたいという需要が生まれたんです。同様にソラコムも建機をつなげるとか、インフラをつなげるとか、業務用タブレットをつなげるというような、M2Mという市場はすでにあって、これはこれでそれなりに大きい市場なんですね。一方でIoT的な新しい世界、つまりクラウドとつながって、機械学習やらAIやら可視化みたいなことが融合してものすごく便利になるという世界も、両方あるんです。僕らはバランスよく、両方とっていくということを考えてます。

長谷川: なるほどね。僕も楽しみなのは、IoTもいろいろある中で、どのプロダクトがドーンと行くのかなというところですよね。

玉川:読めないですよね。AWSも蓋を開けてみたら、ゲームがドーンと行ったり、メディアがドーンと行ったり、それからSAPなどのエンタープライズon AWSがでてきたり、といろんな使い方が出てきたので、それはプラットフォームビジネスの特徴かな、と思います。僕らのお客さんの事例も、除雪機からガイガーカウンターから訪日旅行者向けSIMから…、すごくバラエティがあって。結局それってお客さんが握っているので、我々が意図的にやろうとしても分からないところですよね。「これだ!」というものが出てきたらフォローをしっかりするということで。

長谷川: そうですよね。

玉川: 長谷川さんがやってくれた店舗システムの有線ネットワークのバックアップのユースケースも、評判いいんですよね。「それでいいじゃん」ということで、何個かもうバックアップに使うという案件が決まってますよ。

長谷川: どうみてもバックアップは無線の方が、冗長性を考えてもいいですからね。

玉川: ある意味、狭義のIoTと広義のIoTがあると思っていて、僕らは通信プラットフォームなので、「IoT感」みたいのがすごくなくても全然ウェルカムなんです。バックアップもIoT感はないですけど、通信プラットフォームとしてはすごく良い使い方なので、それも全然いいと思っています。

長谷川: ホームセキュリティとか車っていうのは、今みんな注目してますけど、どのIoTがくるのか楽しみですね。

玉川: ええ、どんな世界になっちゃうのか、本当に楽しみですね。

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