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作者別: 伊藤 真美

長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第53回 株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬浩之さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第53回目は株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長の小和瀬浩之さんに登場いただきました。情報システム部門こそ事業や組織をドラスティックに変える力を持っていると語る小和瀬さん。花王での八面六臂の活躍や、新天地を求めてLIXILに入社してからの奮闘を伺いながら、その“熱さ”の源泉に迫ります。

株式会社LIXIL CIO 兼 情報システム本部長 小和瀬浩之さん
1963年11月埼玉県生まれ。1986年に早稲田大学理工学部を卒業後、花王株式会社入社。システム開発部にて、国内流通システムや海外関連会社システムなど構築を担当。1995年より、タイ花王に出向し、ITディレクターとして基幹系システムなど業務改善を推進。2000年より花王グループの業務標準化と業務改善に従事し、2004年に同社情報システム部門グローバルビジネスシンクロナイゼーション部部長、2012年10月に情報システム部門統括に就任。2014年1月より、株式会社LIXILに入社。執行役員 IT推進本部本部長となり、2015年12月より上席執行役員 CIO兼IT情報システム本部本部長。2016年7月より理事CIO兼 情報システム本部本部長(現職)に就任。

とんがった人間も活きる
自由でフラットな組織に 

長谷川小和瀬さんと知り合ったのは、日経ITイノベーターズの幹事会員になったことがきっかけですかね。当時からはっきりモノをおっしゃる方で、すごく印象的でした。

小和瀬:いや、長谷川さんほどではないですよ(笑)。お互い、あまり取り繕っても意味がないと考えるタイプですからね。

長谷川:LIXILに入られてまだ1~2年目だったと思いますが、花王みたいな会社を辞められて、チャレンジングな方なんだろうなと思ったら、実際そうでした。

小和瀬:花王はすごくいい会社でしたが、27年間思う存分やらせていただいて、このまま残るよりLIXILに行く方がきっと苦労するだろうと。それであえて出ることにしたんです。それまでの経験から、苦労した方がその後に得る喜びが大きいことが分かっていましたから。

長谷川:変革、改革って本当にパワーが必要ですからね。小和瀬さんのすごいところは、システムに対してもそうですが、組織改革にも当然のように取り組んでいらっしゃる。

小和瀬:これからの時代、変化に対応していくためには、フラットな組織で情報がどんどん流通して、どんどん変われるような組織である必要があるのは明らかですからね。服装も呼称もカジュアルにしたいし、コミュニケーションそのものをフラットにしたいんですよ。

瀬戸さん(瀬戸欣哉社長)も現場を大切にする方だし、本気でカルチャーを変えようとしています。私がジャケットを着ていたら、「IT部隊こそ、もっと自由な方がいいんじゃないですか」って指摘されて(笑)。実際、うちの部署はTシャツ、ジーパン、短パンOKですよ。

長谷川:えっ、そこまでフリーなんですか。

小和瀬:ええ、住宅設備のメーカーですが、メンバーには「業界内だけを意識するな」と言っています。これからはどこが競合やパートナーになるのかわからないですから、今、意識するなら、GoogleやAmazonのようなオープンでフラットなコミュニケーションが強みになっている企業でしょうと。

長谷川:確かにGoogleやAmazonなどは普通に30〜40代の役員がいますからね。

小和瀬:そう、自分を振り返っても一意思決定が早いのは40代だし、フットワークも軽い。年齢を重ねれば別の強みも出てくるけれど、スピード感は断然違いますから。長谷川さんも新しいものを躊躇なく取り入れて、成果を出している。さすがだなと思いますよ。

長谷川:小和瀬さんほどではないですが(笑)、「ファーストペンギン」ですよね。面白そうだ、行けそうだと思うと、つい飛び込んでしまうんですよ。前例がないほど、燃えてしまう(笑)。

小和瀬:新しい可能性を見極める目って大切ですよね。ITはとんがった人の力が発揮されやすい部分ですから、“オタク”を大切にするようにしているんです。実際、運用管理部門にいた人で携帯端末を10種類くらい持っている人がいて、飲み会で話したらすごく面白かった。それで、ビッグデータやAIのような最先端の研究だけをやっているインフォメーションエクセレンス部に異動させたんです。VRが大好きで嬉々としてやってますね。

システムは現場で
使ってこそ価値が生まれる

長谷川:とんがった人間って、とんがった人間とつながっていますよね。

小和瀬:そう、その彼が紹介してくれたのがクラウドネイティヴの齊藤愼仁さんで、彼とは考え方が一致して、うちの基幹ネットワークの構築を依頼したんです。まだまだ日本の会社、特に製造業はインターネットの活用が十分とは言えません。それを打開する人が必要なんです。とんがった外部の人とつながって、刺激を受けながら旧態依然とした組織を変えていく。長谷川さんもアクセンチュアでは、関係する会社に影響を与えてきたんじゃないですか。

長谷川:いやいや、とんでもないです。やはり、東急ハンズに来てからは、自分の責任でできるので、最高に楽しいです。外部からの支援は限界があると感じていました。特に、ファーストペンギン系のことは(笑)。

小和瀬:私自身も、花王に入社してすぐ、システム開発部で日本全国の販売会社を回っていた経験が、その後の仕事の基盤になったように思います。日本の北から南まで50拠点くらいを3週間ほど滞在して、システムをメインフレームに切り替えるために、導入だけでなく、オペレーターに説明したり、ピッキングを手伝ったりいろいろやっていましたね。つくった本人が一番システムをわかっているわけですから、とにかく動きを確かめて、使いやすさを調整して、現場に根付かせようと一生懸命でした。でも、現場の若い女性がダム端末のテンキーを私の倍くらいの早さで打つんです。そして、あっという間になれてしまう(笑)。現場はやっぱりすごいわけですよ。

タイ、インドネシアやマレーシアの海外関連会社を、数ヶ月かけて出張で回ったこともあります。その後、出張での海外支援では不十分だと思ったので、タイ花王に出向させてもらいました。その時も18カ所に拠点があったのでタイはかなり隅々まで行きましたね。未だ専用線が完備されていないところもあって、パラボラアンテナでつないだこともありました。

長谷川:それは楽しそう。それ以降、ずっと情報システム部門にいらっしゃったんですか。

小和瀬:そう、若い頃はずっと現場現場で、本社の仕事をしたことがなかったんです。まるで出世コースとは外れていました。ただ当時としては育てる余裕もあったのでしょう、「海外出張に行くなら観光もして来い」と、特に一流のモノに触れるようにと言われて、よく美術館などに行きました。ある先輩なんて、「自分で何をやるか考えてやれ」っていわれて、米国に行かされましたよ。

 

急激な業務改善効果に
本社からお偉いさんが見学に!

長谷川:花王ってそんな会社だったんですか。知っていたら入っていたかもしれない(笑)。

小和瀬:いい会社でした。時代もあるのかもしれませんが、今と比べると締め付けが少なくて、一人ひとりの自由度が高かったと思います。それが、日本全体で言えることですが、いつの間にかリスク管理が厳しくなりましたよね。システムも同様で、管理系ばかりになっていますが、現場の人は手間がかかるばかりで、誰も喜ばないんですよ。やっぱり情報システム部門の仕事は、一緒に業務改革に取り組んで「やったね!」と手を取り合えるようなものでありたいじゃないですか。

長谷川:本当にそうですね。

小和瀬:とにかくシステムによる業務改革を推進して現場で成果を上げること。それしか当時は頭にありませんでした。タイでは結構な額の借金があったのですが、売掛金の支払日の見える化と厳格な回収管理や、出荷データの統計処理による需要予測と自動補充による在庫管理など自動化や効率化を図ったら、みるみる赤字がなくなって5年で借金が消えたんです。

また社長が利益をタイ人の社員にもしっかり還元する人で、利益が出た分はしっかりボーナスで還元し、経験を積んで引き抜かれそうな有能な人は倍のサラリーを出すなどして、全社的なモチベーションがどんどん上がっていきました。社長自身もその後本社の常務になるなど出世しましたし、いったいタイで何が起きているんだと本社のお偉いさんが見学に来るなどして、ちょっとした話題になりました。

長谷川:確かに、それは放ってはおかないでしょう。

小和瀬:ええ、本社に呼ばれて、他のアジアの国にも展開しろと言われて、「アジア標準化プロジェクト」を立ち上げてプロジェクトリーダーになりました。それが32歳のことです。

長谷川:いい会社ですね。やっぱり、口だけじゃなくて手を動かして成果を上げた人が評価されるというのは、他から見ても気持ちがいいですからね。

小和瀬:もう張り切りましたよ(笑)。まずやったのが、コードやKPIの統一です。当時の海外拠点はもう「各自でやれ」という雰囲気だったので、もちろん商品コードは各国バラバラで売上げの定義も違う。アジア全体の売上げを集計するのに3週間もかかっていたんです。それを全部統一して、ボタン1つで見られるようにしました。そうした業務改善をみんなでコツコツやっていったら、かつては「日本では強いけど、海外では勝てない」なんて陰口を叩かれていたんですが、中国も含めて各国No.1になったんです。当時買収したカネボウにも同様に業務改善を行なって、そこでも大きな効果がありました。

長谷川:いやあ、気持ちがいいなあ。情報システム部門って、以前は「御用聞き」のように言われていたじゃないですか。それが率先してプロジェクトを牽引して、成果を出していくというのは、情シスの鏡ですよね。

小和瀬:たぶん、ITの技術ばかりやっていたらダメだったでしょうね。私も当時は経理だの流通だの、業務についていろいろ勉強しました。全部英語で覚えたので、今も勘定科目の名称は英語の方が得意です(笑)。

鳥と虫の目を持つ情シスが
組織と業務を改革できる

長谷川:その意味でも既存の情シスの人じゃないみたいですよね。経営企画とか、社長直下のエリート部隊の仕事じゃないですか。

小和瀬:いや、そこはやっぱり情シスの仕事なんですよ。だって、情報システムを新たに入れる時なんて、業務改革の好機じゃないですか。それがわかるのは情シス部門の人でしょう。確かに先ほど長谷川さんがおっしゃったように、部分的にしか見させてもらえないことで部分最適化しかできない人が増えているのは事実かもしれません。でも、部門としての情シスは全部を見ることができる「鳥の目」も持てるし、製品1つの掛け率調整みたいな「虫の目」も持てる。会社を大きく牽引する花形部門になるはずなんです。

長谷川:若い人にもそれは伝えたいですね。小和瀬さんの仕事の仕方から見ると、要望の通りにシステムを作るのって、「さぼっている」のと同意義ですよね。

小和瀬:もちろん業務担当者の意見をしっかり聞くことは大切ですよ。でも、テクノロジーを抑えていて、違う角度からみることもできるんですから、意見を出せて当然じゃないですか。そのためには技術の勉強もしなければならないし、他社の優れた事例や考え方にも触れていなければならない。社内だけで見ていてもダメだと思います。

長谷川:そうした小和瀬さんを育んだものって、やっぱり花王という組織文化なんでしょうか。

小和瀬:それは大きいと思います。花王って役職がつくのが部長からで、基本的にはフラットなんです。あるチームのグループリーダーでも、他のチームに異動したら単なるメンバーということもよくありましたから。人材の流動性が図られていましたね。

長谷川:それは確かに理想的ですね。現在、変化の激しい時代に柔軟に戦うには、日本型ヒエラルキー型からフラット型に転換するのが望ましいと言われています。

小和瀬:そう思います。そうした組織の中で、私は25歳でグループリーダーになり、30代で部長、45歳で本部長になったんですが、これは花王の中でも異例なことでした。でも、自分でも若いうちに全体を見る目を養い、40代で経営に関わられたというのは、とても幸せなキャリアを積ませてもらったと思っています。その実感もあって、LIXILでもフラットな組織と若い経営層を実現させたいと考えるようになったのでしょう。

長谷川:とても理想的なキャリアで、出世を考えれば、その後も花王にというのが自然な選択だと思うんですが、なぜまたLIXILに入られたんですか。

小和瀬:花王が業務改革で成果を出しているというので、たくさんの方が見学に来られて、いろいろとお話を伺うと日本の製造業の問題がだんだん見えてきたんです。これでは日本企業はヤバいなと。それでカンファレンスで話したり、メディアに出たりしていたんですが、そんな時に前社長である藤森さん(藤森義明氏)に誘われて、思いを同じくしていることがわかり、LIXILに入社したんです。

話を聞くことと「Quick Win」が
新天地で仕事を進めるコツ

長谷川:小和瀬さんのLIXIL入社は、CIOのキャリアチェンジの成功事例と言えますよね。経験があって行動力があるCIOが増えて各社を改革していければ、もう少し日本企業の変革も進むんじゃないでしょうか。

小和瀬:いやいや、私自身まだまだ思うように進んでいないので、がんばらなくてはと思っています。やっぱり会社の風土は大切ですね。5社が統合してできた会社なので、それぞれの社風がまだ融合せずに残っているんです。そのせいもあってか、フラットにみんなで会社を変えていこう、という雰囲気にはなりにくいところがあります。

長谷川:確かに。私は幸い幸せな転職ができたと思っているんですが、同じころに転職した人の中には「こんなはずじゃなかった」という人も少なくないんですよね。話を聞くと、改革のために転職してきたのに、社長からセーブするように言われたり、現場が足を引っ張ったりするというんです。もうそうなると、アイディアや技術スキル以上に大切なのはヒューマンスキルなんじゃないかと。行った会社の風土や経営層の考え方の当たり外れはあると思いますが、新しい会社でいかに信頼関係を築き上げていくかは、改革の成否に大きく影響しますよね。

その意味で、よくぞまあ、5社統合の難しい潮目に行かれて、どっかーんとシステムを入れ替えるというのは、さすが小和瀬さんというべきかと。

小和瀬:あの時は「花王での10倍の労力がかかるよ」と言われていたんですが、本当にそのとおりでした。花王では人的なネットワークもあるし、信頼関係もある。ですが、LIXILでは、それが少ない環境下でやる必要がありましたからね。

長谷川:あえてそれでも成功させるコツみたいなものって、なにかあるんですか。

小和瀬:まずは「話を聞くこと」でしょうか。入社後3ヶ月間はいろんな人に時間を作ってもらい、直属の部下である部長クラスはもちろん、メンバーにも話を聞きました。その際には、システムに対する考え方とか、その人のベースを理解することを徹底しました。

あとは「Quick Win」 でしょう。まず小さくてもなんらかの成果をいくつか出すこと。入社直後は「お手並み拝見」で遠巻きに見ている人も、どんなことができるのかを見せると「じゃあ、やろうか」という雰囲気になります。そもそも内部の人にはできなかったから呼ばれたわけで、そういうことをやってバリューを認めてもらうことが大切ですね。

長谷川:その後、藤森さんから瀬戸さんに社長交代になりましたよね。そこでかなり役員も減らされたと思いますが、その時にも残っていらっしゃる。

小和瀬:おそらく、いろんな人と信頼関係を結べていたからではないかと思います。加えてそれなりに結果を出せていないと、残るのは難しかったかもしれないですね。

熱意ある能動的なIT
停滞した組織を変える

長谷川:ちなみに瀬戸さんにはお会いしたことがないのですが、どんな方なんですか。

小和瀬:ご存知かと思いますが、もとは住友商事でアントレプレナーのプロとして活躍し、その後はMonotaROの社長をされています。MonotaRO時代のお話を伺うと、設立当初は人材確保だけでも大変だったようですね。現在、MonotaROはEC業界で目立つ存在になっていますが、相当苦労してスタートアップされたようです。それだけに、とにかく現場主義で、財務諸表が悪くても「それが今のうちの実力だ」って動じない。ITにもすごく詳しいですね。

長谷川:そういえばMonotaROの執行役 IT部門長だった安井さんには何度かお会いしたことがあります。今、あの方もLIXILに入られて、40代になったばかりですよね。

小和瀬:ええ、理事であり、マーケティング本部 デジタルテクノロジーセンター センター長で、瀬戸さんの住商時代からの右腕であるCDOの金澤さんとも同年代で仲がいいんです。二人ともとても熱意がある方だし、一緒になっていい会社にしていきたいと思いますね。ITで風穴は空けられると私も彼らも信じていると思います。とはいえ、カルチャーを変えないとならないし、問題は山積みですが。

だから、長谷川さんがいろいろと斬新な取り組みをされていると伺うと大いに刺激になります。

長谷川:いや、もともとは東急ハンズの社内システム自体をクラウドサービス化したいと思っているんです。通常、企業は拠点からデータセンターまでVPNなどでネットワーク構築していますが、G-SuiteにVPNを張ってないじゃないですか。そうすると、各店舗からクラウド上の業務システムを利用するなら、VPNでなくてもいいんじゃないかと。あと回線を1つに集めるとスループットが集中して太い線をひく必要があるし、ボトルネックになってリスクも高い。かといって各拠点に、IPS、IDS(不正侵入検知・防御システム)を全部入れるのはコストが厳しいなと。それで信用のおけるところには各拠点から直でつないで、それ以外のどこにつながるかわからない部分にはIPS、IDSを入れればいいと、そんなふうに考えたわけです。

小和瀬:なんだかセキュリティの話をすると、どんどん過剰防衛というか、複雑になっていますよね。でも、たぶん目指すべきそこじゃないような気がしています。

長谷川:そうですね、セキュリティー対策には、終わりはないですけど、私の考えは、SaaSなどインターネット上のサービスを業務で使うのであれば、インターネット接続を前提とした全体設計をして行かないといけないと思っています。ちょっと乱暴ですが、LAN/WANがない方がいいんじゃないかと。Google Chromeで業務システムを全て動かせるようにしていこうと考えているところです。

小和瀬:それは面白そうですね。ただChromeは予告なしにバージョンアップされるのがきついかなあ。突然システムが動かなくなる可能性があるので。ただ、これまでは「オフィスで仕事をする」のが普通でしたけど、これからどこでも仕事ができるようになる時代にあって、閉域網でFirewallを入れて“ここだけはキレイな世界”なんていうのをつくってもなあ…、って私も思います。今後は1つ1つのコンテンツを守る仕組みができて、ネットワークはオープンというような方向に進むのではないでしょうか。

長谷川:私もそんな気がしています。先日、某大企業のセキュリティ担当の方に、IPS/IDSの話を伺ったら、「IPS,IDSを導入すると、逆に、データが出ているのがわかるだけで、防げるわけではない(笑)」というような話をされていて、やはり、古い資産(サポート切れはもちろんのこと)がネットワーク上にあると、ダメなんだなと思いました。

ちなみに私はソフトウエアの最新化が、大好きなんですよ。新入社員の時はWindowsPCも毎日アップデートのボタンを押してから仕事をしていましたし、今もMacOS、Chromeは1日数回アップデートボタンを押してしまいます(笑)。毎回目立つ改善はないんですが、アップデートされていると「なんかよくなってる〜」みたいな気がするんですよね。

業務改革の要は組織改革

小和瀬:実は花王も自分で何でもつくっていましたね。情シス部門だけでなく、製品も独自性を重視していました。当時は外から持ってきた製品は「ニベア」ブランドくらいでしたよ。システムも「バーティカル・インテグレーション」を信条としていて、それを私たち情シスの強みと捉えていました。

長谷川:そもそも自分たちのコアになるシステムを買ってくる情シス部門って、単なる購買部じゃないですか。

小和瀬:そうなんですよね。自分でやらないでどうするつもりなんだと。技術者なのに要件定義しかしないという人とか、何が楽しいのかと。でも、花王は自前で作るからこそIT予算が少なかったんですよ。システムを作った後の検収に時間を掛けていたから、そこがボトルネックになってしまって。でも、使わない、使えないシステムなんていらないですからね。

LIXILでも今は、たとえばSalesForceの資格もガンガン取らせて、コンサルがいなくても自分たちでどんどんつくれるようにしているんです。C#を標準にして、コーディングも自分たちでどんどんできるようにしたいんですよね。新入社員にも研修期間中にダミーではなくて、本当のシステムを作らせたんです。やっぱりシステムは「使われてなんぼ」ですからね。

長谷川:そうなんですよね。どうしてもシステムって失敗すると大ブーイングで、動いて当然みたいなところがあるから萎縮してしまいますけど、そのリカバリで経験値が上がっていくわけですから。

小和瀬:将棋棋士の藤井聡太くんも、あの強さは細かいミスや間違いをし続けて、それをどんどんリカバリできるからという話ですよね。人工知能だってトライアルアンドエラーで賢くなる。会社が傾くような失敗は困りますが、小さな失敗がどんどんできて、リカバリできる環境をつくるのは上司の役割だと思いますね。

長谷川:失敗が怖くないなら挑戦もしやすいですからね。

小和瀬:もうね、失敗しながらも成功に到達する喜びは、一度味わうとやみつきですからね(笑)。もちろんすんなり進んでくれるのが一番ですが、難しくて成果が上がるものほど失敗しないわけがないですから。それはもうドラマと変わらない。日曜9時の「下町ロケット」とか、もうたまらないですね。

長谷川:あの枠ですよね。いつも見て、胸を熱くしていますよ。

小和瀬:あえて大変な道を歩く、その喜びを若い世代にも知ってもらいたいと思いますね。

長谷川:いいですね、ぜひうちと合同ハッカソンやりませんか。技術を競うというより、発想を楽しんだり、外部の人と触れ合ったりというのが主目的で、いわばお祭りなのですが。案外、研修に行くより、お互いに刺激し合って、気づきがあるようなんですよ。

小和瀬:ぜひ、やりたいですね。よろしくお願いします。

長谷川:近いうちに実現させましょう。今日はありがとうございました。

 

 

 


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第49回 株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 シニアマネージャー 鈴木健さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第49回目は株式会社ニューバランスジャパンの鈴木健さんとブランド情報発信の在り方やマーケティングの存在価値などについて語り合いました。「ブランドミッションなんていらんとちゃう?」という長谷川の暴言(?)を起点に始まった攻防をお楽しみください。

株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 シニアマネージャー 鈴木健さん

1991年、広告代理店の営業としてキャリアをスタート。I&S/BBDOでストラテジックプランナーを経て、2002年にナイキジャパンへ入社。ナイキゴルフの広告担当やウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験する。2009年にニューバランスジャパンへ入社。ブランドマネジメントからPR・広告まで、デジタル、イベント、店頭を含むマーケティングコミュニケーション全般を担当している。

理念先行による三角形のブランドステートメントは不要!?

長谷川:鈴木さんとは「ブランドサミット」でお会いしたんですよね。デジタルマーケティング業界のトレンドを共有し、業種や業界の壁を越えてつながり合うことを目的に、ブランド企業や広告代理店、ネット系企業などが一同に集まるというカンファレンスでした。

鈴木:そう、まとめのセッションでみなさんが「勉強になりました」「気づきがあった」とか言う中で、長谷川さんがいきなり「かっこいいことばかり言うてるけど、ホントのところどうよ。そもそもブランドミッションなんていらんとちゃう?」っておっしゃり始めて(笑)。いや〜、面白い方がいるなあと思ったんですよ。

長谷川:そう、ブランドステートメントの“三角形”って本当にそうなってる?例えば、テレビCM作る時、どこまでブランドステートメント通りに作成されているのか、逆にいうと、テレビCMを見た時に、そのブランドステートメントを想起されるものになっているのか。CMとか記憶に残るのが前提と思うんですけど、「かっこええなー」とか、「おもろいなー」とか、そんなんやとあかんのかと。素朴に疑問だったんです。皆さん苦笑されていましたが…。

鈴木:いや大受けでしたよ。「王様は裸だ」って言っちゃったようなものですからね。

長谷川:僕自身、後付けのものって、すごく多いのちゃうかと思っているんですよ。ITベンチャーで自社サービスを作っている会社はヴィジョン・ミッション作って起業するとこもありますけど、前世紀に創業された会社は、設立時からむしゃらに頑張って、そのうち、会社や製品が有名になってきて、「当社もそろそろミッションとか、考えなあかんな」という順番とちゃうのと。実際は。そんなに綺麗に、ミッション・ビジョンから商品設計やサービス設計に落ちますか?とね。世の中に必要とされているサービスや商品をがむしゃらに、作って売るとか、もっと商売って切実じゃないですか。だんだん会社が大きくなって、余裕が出てきた会社が「自分たちが目指していたのはこれだよね」って、後づけで言語化する場合が多い(多かった)と思いますけどね。

鈴木:確かに、特にマーケティングって頭でっかちになりがちですからね。で、日々現場に立ち続ける営業に嫌われるという(笑)。かのコカ・コーラだって最初は「売るため」に苦労してきたことがブランドを作ったわけですから。例えば、日本ではあんな真っ黒な液体は飲み物と認知されていませんでしたから、初期のCMではゴクゴク飲むシーンを多く入れたそうですよ。それが結局スカッとさわやかのような情緒を中心としたブランドに変化していったわけですから。

長谷川:僕は、そういう理解しやすいストーリー設計のあるCMは大好きです。なるほど、私が小学生の頃、コーラをみて、ばあちゃんが「醤油みたいやんか、それ飲むの?」というてました(笑)

鈴木:そもそも企業全体は一枚岩でないですからね。最初は何も考えていなくても、組織が大きくなると象徴となるモノがあった方がわかりやすくなるんでしょう。

長谷川:確かに。とはいえ、ミッションやビジョンに縛られてピポットができなくなるとか、マイナスもありませんか。

鈴木:ありますね。で、企業によってはガンガン変えてます(笑)。とはいえ、揺らいではならない部分として、社会道義的に叶っていること、筋が通っていることは、企業に不可欠だと思うんです。極端かもしれないけれど、パタゴニアのように、売上げよりサステナブルな環境配慮を優先する企業がある一方で、何も考えないで資本主義の鬼的にビジネスをやっていればいいかというとちょっと微妙ですよね。急に大きくなった会社ほど、そこがおろそかになりがちです。

長谷川:なるほど、では、ニューバランスのスニーカーは「おしゃれ」という消費者の評価がブランドイメージにつながっています。しかし、それを企業側から「おしゃれなスニーカーを作る」と宣言したとして、その通りに消費者に評価されるかどうかはわからないわけですよね。

鈴木:そう、あくまでブランドイメージは結果なんですよね。時代が変わると変わるかもしれない。ただ、消費者に伝わるかどうかはわからないけど「作り続ける理由」として何を正しいと考えてモノづくりをしているか、は伝えていく必要があると思うんですよね。たとえば、「おしゃれじゃないからNマークはもっと小さくしてくれ」と消費者に言われても、そのまま従うことではない。これは自分のアイデンティティだからと守るべきところはあると思っています。

オーセンティックなモノづくりの先にユーザーが見出すブランド価値

長谷川:つまり、ニューバランスは「おしゃれなスニーカーを作ろう」としたわけでなく、結果として「おしゃれなスニーカー」として評価されたということでしょうか。

鈴木:そう言えるかもしれないですね。「おしゃれ」を目指したわけではなく、「街で履いてなじむスニーカーを作ろうとした」だけなんです。実はニューバランスは「初めてグレーのスニーカーをつくった」と言われています。街のアスファルトに浮かない色、生活になじむ色がほしいというニーズに応えてグレーを選んだ。その結果、街履き用スニーカーとして認知されたというわけです。

長谷川:そう聞くと俄然ほしくなりますね(笑)。でも、直接話を聞けない人は、広告などで訴求する必要があるわけで。どんなふうに拡散したんですか。

鈴木:数年前に急に売上げが上がった理由は、女性ファンの急増です。スニーカーは圧倒的に男性市場なのですが、グレーなどのカラーリングが女性にも日常のファッションの一部として選んでいただけるようになりました。 ただ当時は「女性はきまぐれだから、来年どうなるか」と不安視する声もありました。それで、マーケ側から「ブランドとしてどんな人に買ってもらいたいのか」を改めて考えることを提案し、「ニューバランスの真価を理解して広げてくれる人」へのメッセージをブランドブックにまとめたんです。それが「ここに注力するのね」という全社の共通理解を生み、ぶれが少なくなった。そう考えると“三角形”も意味はあったかなあと(笑)。

長谷川:なるほどね。でも、たとえば今はグレーのスニーカーって様々なメーカーから出ているでしょう。よほど好きな人向けの商品でない限り、機能性やデザインで大きな差別化は難しいと思うし、結果、広告のクリエイティブも似たようなものになってはいませんか? たとえばビールとか、車メーカーとか、商品名やロゴを隠したらどこの会社も似ているような…。差別化するのは難しくはないですか。

鈴木:なかなか厳しいことをおっしゃいますね〜(笑)。でも、僕は「差別化」ってアプローチが嫌いなんですよ。マーケティングでは他と違うユニークな訴求をしなければ気づいてもらえないことが多いので、差別化を意識するのは仕方ないかもしれません。でも、その時に陥りやすい間違いが「競合ばかりを見ること」です。「顧客を見ること」を忘れると途端にぶれ始め、モノづくりの「オーセンティック=本物・信頼感」が損なわれてしまう。他と比べての差別化を考えるより、顧客に満足してもらうこと、驚かせることを日夜考える方が健全だし、そこに時間を費やすことを忘れてはならないと思いますね。

売上げ直結か、イメージ訴求か これからのCMの存在価値とは?

長谷川:オーセンティックなモノづくりとマーケティングって、かなり嗜好的というか、顧客ニーズがちょっと複雑で難しいから可能なのではないですか。性能や機能がコモディティ化していて、マス向けとなると途端に難しくなる気がします。たとえば、ユニクロも成功例としてあげられますが、最初は作業着屋みたいな雰囲気のCMで、その後フリースとかヒートテックとか機能重視になったり、最近だとファッション性を打ち出したり。おそらく明確なミッションステートメントを掲げているのだと思いますが、こんなに触れ幅というか変化があるのってどうなんでしょう。

鈴木:うーん、そこは会社の方針なのでなんとも(笑)。そもそもTVCMは大きなお金が必要で、どんな企業もできるわけではないですからね。ちなみにTVCMは毎月何千本も作られているそうですが、ある調査によると、好感度どころか「気づいたもの」として上げられるのは 10000 人 のサンプル中2/3に満たなかったそうです。つまり、1/3がお金を掛けてTVCMを流したのに、気づかれてすらいなかったという。

長谷川:えっ、お金の掛け損ってことですか。ちなみに認知された2/3についてもCMの人気と売上げとは関係するんでしょうか。たとえば、昔「つながらない」と評価された携帯キャリアがイメージを払拭するために「つながります」と言うアピールするCMがありましたが、それはわかるんです。でも、日清の「ドンばれ」とか、それでどん兵衛が食べたくなりますかね?まあ、私は、食べましたが(笑)。

鈴木:単純に比例はしていないでしょうね。でも、既にブランドが確立している場合でも、広告をなくすと明らかに売上げ減は免れないので、出さないわけにはいかないようですね。また携帯電話のような新規獲得が売上げを左右するような場合、特に影響は大きいようです。そういえば、車メーカー の営業担当者が「CMはお客さんとの話題にさえなればいい」と言っていて、営業が強い会社はすごいなと思いました。なので、CMの意味と価値は一概には言えないと思いますよ。

長谷川:なるほどね。でも、文句ばっかり言っているけれど、僕自身はTVCMが大好きなんですよ。マツダの「Be a driver」も大好きだし、JINSも櫻井くんのCMのおかげで会社の知名度・売上げが伸びたんじゃないかと勝手に思ってます。エステー化学の「ショーシューリキー」とか、店頭で見るたびに脳内で響きますからね(笑)。

鈴木:いろいろ見てるじゃないですか(笑)。それでもまあ、実際の売上げに対するTVCMなど広告の影響度は、低くなってきているのは明らかでしょうけどね。

長谷川:それでもまだやっぱりTVCMは社会に対するインパクトは大きいですし、憧れですね。自分も機会があったら一度、テレビCM作ってみたいです。デジタル広告も目の端でちらちらしてるんじゃなくて、面白い動画ならもっと見られたり、いいメッセージを発信できたりしそうな気がします。

鈴木:うちの子は興味のあるCMは観るけどあとはスルー。むしろYoutubeをよく見ていますね。考えてみれば、放送でもないし、ビデオにもない。そこにしかないコンテンツだからでしょうか。クオリティの高いEテレより、自分で探した素人投稿の動画を熱心に観ている気がします。彼らも含め、ミレニアム世代以降は自分たちと違う感覚を持ち始めているのは明らかでしょう。今後はそこに合わせたコミュニケーションを考える必要がありそうです。

デジタルネイティブの時代にマネタイズモデルも変わる?

長谷川:うちの子も何かモノを買うとなると「Amazonで頼む?」、わからないことがあれば「ググれば?」ですもんね。テレビも好きだけど、iPadでHIKAKINの解説動画を見ながらMinecraftをやっていたり、Youtubeで「はじめしゃちょー」とかガンガン観てますよ。デジタルネイティブなんてどこにいるんや…って思っていたけど一番近いところにいました。

鈴木:そうそう、うちの子も放送中のテレビに向かって「今のとこもう一回見せろ」と言っていて、リピート再生が当たり前になっている。 Siriにも抵抗ないし、インタフェイスだけならむしろ年配者と共有できそうです。

長谷川:最近、スマホ利用のみで、PC触らない若者が増えてきて、入社してからパソコン研修が必要になっているという話も聞きます。近い将来、「ググる」じゃなくて「Alexaに聞く」が普通になるかもしれません。

鈴木:デバイスもコミュニケーションスタイルも変わってきている中で、デジタルデバイドというより、もっと深刻なデバイドが生まれそうですよね。それにしても、プラットフォームとしてAlexaを無償提供するなんて、Amazonはさすがにすごいというか、戦略的ですね。

長谷川:伸びている会社って、トータルで儲けるために、どこを戦略的に身銭切るか得意ですよね。やりおるなAmazonという感じですが、思い返せばAWSも、データ保管場所として、ストレージは戦略的に安くし、企業は、最初はバックアップ気分でAWSを使い始めるんですが、結局、データを保管すると、分析なりデータ利用をしたくなるので、サーバも使い始めてトータルで儲けると言う仕組みです。

鈴木:倉庫ビジネスもそうですね。預け料金はかなり安くて出し入れで費用がかかるみたいな。顧客が価値を感じているところを無料化して、別のところでマネタイズするとか、そういうビジネスはいろいろ出てきそうですね。

長谷川:スマホアプリをはじめとして、フリーミアムになれていますよね。積み上げ型課金より、無料で何かを提供して他からお金をとるビジネスモデルはもっといろいろ出てきそうです。

鈴木:ありでしょう(笑)。それでも企業が継続して利益を得ていくためには、やはりイチゲンさん型よりサブスクリプション型である方がいいなと。そのためには顧客のことを知っていなければならないし、その上でどのくらい使うかで金額を設定するなど、製品でなくサービスなども含めたバーテカルな市場設計の能力が必要になるでしょう。となれば、流通や製造業といった境目がなくなっていくと思います。また、ミレニアム世代から既に「所有する」感覚が薄くなっているといいますから、シェア型のビジネスは増えていきそうです。

長谷川:そうかもしれません。たとえば、中古車業のIDOM(旧社名:ガリバー)が「NOREL(ノレル)」という自動車リース事業をはじめたのをご存知ですか。月額で中古車を借りっ放しなんですが、最短90日でチェンジが可能なんです。ただし、その車はガリバーの在庫なので、借りたい車があるかどうかは入荷次第というのが辛いところですね。中古車でも人気がある車はすぐに売れてしまうので。

鈴木:それなら、メーカーに依頼してガリバー用のプライベートブランドとして車を作ってもらうとか(笑)。いやいや、やっぱりサステナブルなことを考えると「浮いている在庫」を使うモデルがいいですよね。Uberもそうじゃないですか。後ろのシートが「浮いている在庫」として売ることで渋滞が減るという。普通の企業もムダが消えれば利幅が大きくなって、消費者にも社員にも還元できるわけですから。社会的にもハッピーなモデルだと思いますね。

AIがマーケターの仕事を奪う?全情報が収集・分析される社会へ

長谷川:僕が考える「浮いている在庫」の最たるものは“情報”でしょうか。既にある情報を流通させて共有すれば、無限大にいろんなことができるんじゃないかと。例えば、車にカメラを積んで街をスキャンすれば、リアルタイムで渋滞状況やスタンドのガソリンの値段もわかるし、不動産業なら空き地を発見するとか、業種によっていろんな使い方ができそうです。

鈴木:撤退してしまいましたが、Googleの自動運転もおそらくそんなことを考えていたんだと思います。単なる自動運転ならもっと簡単にできたでしょう。でも、街をスキャンして「世界を知り尽くした人工知能を作りたい」と目標を設定していたから、行き詰まったんじゃないかなと。あくまで想像ですけど…。

長谷川:あらゆるデータを集めて活用するという発想はこれから増えていくでしょうね。まさにAlexaもずっと家の中の音、つまり消費者行動のデータを収集しているというじゃないですか。それらを集めて分析してマーケティングに使うとしたら、もうマーケターは失業ですよ(笑)。

鈴木:うわ〜、おもしろい。いや、困りましたね〜(笑)。

長谷川:ラスベガスの高級ホテル「Wynn」では、全室にAmazon Echoが標準装備されたらしいですね。いちいちフロントに連絡しなくとも「チェックアウトは何時?」「ルームサービスをお願い」で済んでしまうという。

鈴木:それは泊まってみたいですね。ただ、全部聞かれていると聞くと、抵抗を感じる人もいるでしょうけれど。

長谷川:そうですね、僕はぜんぜん気にしないけど。むしろ、その方が便利で健全になる気がします。監視カメラは、「見られている」と思うか「守られている」と思うか。私は、後者です。例えば、町中に監視カメラがあれば、犯罪は少なくなると思います。

鈴木:オープンにするとかえってポジティブな抑止力になるんでしょうね。大学のレポートを誰でも閲覧できるようにしたら、変なコピペがなくなったそうですし。

長谷川:でしょう。その情報を持って誰かが脅しにくるとか、普通はありえないんじゃないですか。

鈴木:うーん、個人情報については人間が扱うと危険な気もしますけどね。日本では属している組織、例えば国や会社なんかもそうですが、観られて当然という人は少なくないですけれど、米国ではiPhoneの情報を取り出すよう国から要請されたAppleが拒否したようにすごく「個人」を重視しますよね。個人が所有する情報は個人のものというポリシーが米国社会では一般的なんでしょう。

長谷川:とはいえ、既に電話やメールなどを傍受して分析されているともいいますね。犯罪を起こしそうな人をキャプチャーするみたいな。

鈴木:おそらくそこに人工知能の能力が発揮されることになるんでしょうね。人の真似をするというより、人が気づかないサインに気づくという。人間は自分のことしかわからないけど、マクロから観ると共通の傾向がわかるというのはありますからね。MITのアレックス・ペントランド教授の著書『ソーシャル物理学』 で、人間の行動としてのコミュニケーションから全体が良くなる方法が分析されていたんですが、確かに“できる人”はいろんなコミュニケーションをとっているんですが、全体で観ると全員が一気に同じ情報を共有するより、タイムラグがあった方がいいらしいんですよね。もしかすると、情報を一律にオープンにするより、バラツキがある方が社会全体にとってはいいのかもしれない、なんて考えたりします。

アウェイでのコミュニケーションもオーセンティックなスタンスがカギ

長谷川:社内の情報共有も難しいですよね。鈴木さんはブランドマネージャーを経験されて、今もマーケティングコミュニケーション全般をみてらっしゃるとなると、いろんな苦労や工夫をされてきたんじゃないですか。

鈴木:工夫というか、考えが合うツーカーの人は放っておいても同じ思いで動いてくれるので、「伝わっていないな」という人とは積極的にコミュニケーションをとるようにしています。
特にニューバランスジャパンは組織が小さいし、経営から製造、物流まで全体をみられるので面白いですね。それだけに苦労もありますが。一方、以前いたナイキは専門職だったこともあって、マーケの話しかしませんでしたね。突然トップダウンで指示が来て大騒ぎになることもありました。部門がいきなりなくなることもありましたから。

長谷川:やっぱりあるんですね。でも、マーケティングってユーザーを知らないと成り立たないじゃないですか。ローカルの権限が強いのかと思っていました。

鈴木:かつてはその傾向はありましたね。でも、グローバルブランドの強みは世界規模で展開できることでしょう。たとえば、有名なプレーヤーを専属契約できたり、海外の優れたクリエイティブを使えたり。ボリュームメリットも強みになります。近年はその優位性をもっと活用しようということで、一元化を進めています。ただ時代にはやや逆行しているかもしれませんね。今はむしろ商品の個別化が進んでいますから。パーソナライズ、ローカライズ、グローバルの間で、その時々に合わせてバランスをとっているというところでしょうか。

長谷川:それでも商品設計から製造、マーケティング、流通販路などあらゆる部分で各国とも異なると思うのですが、そこにグローバルな決定をどのように反映していくのですか。

鈴木:基本はアダプテーションですね。ただアダプテーションは自分たちが企画したものでないので、日本のマーケ担当には単なる翻訳だと思われて嫌われがちです。でも、実はそこが一番難しくて面白いところでもあるんです。たとえばいいグローバルキャンペーンというのは抽象度が高くて、深く響くものが多い。でも、解釈はきちんとしないと伝わらないので、そこはしっかりローカライズしていくことが必要です。つまり、違いを強調するより、共通するものをローカルに合わせて訴求していく方が強いし、メリットも大きいと考えています。

長谷川:確かにリテールで言えばグローバル企業でローカライズに邁進した会社は失敗しています。逆にコストコやIKEAのようなグローバルルールをまんま持ち込んだところは成功しているんですよ。ユニクロも最初は中国市場でローカライズ(安い商品を開発するなど)を試みましたが、結局、日本のユニクロ(品質と価格)をそのまま持ち込んで成功しています。やはり、自社のやり方の譲れない部分を押し通した方がいいんじゃないかと思いますね。仮に、失敗した時も、諦めがつくじゃないですか(笑)

鈴木:そう、僕も無理なローカライズより、やはりオーセンティックであることが大切だと思います。というか、そうでなければ事業をやる意味がないでしょう。

行間に潜む哲学を引き出す 目指すはIT界の田原総一朗!

鈴木:企業やブランドの情報発信って、そこにやっぱり人が介在するものじゃないですか。その意味で、ハンズラボという組織が「居酒屋放浪記」みたいな情報発信をするというのはとてもユニークだし、意味があると思うんですよね。もともと長谷川さんが起案されたんですか。

長谷川:ええ、結構、こう業界の人と話していると、「俺ら、けっこう、ええ話、しとるなぁ」と思って、ほんなら、Webで公開した方がええなこれは、と思いまして。

鈴木:そう考える人は相当いると思いますが、実現してしまうのが長谷川さんのすごいところですよね。そして、そろそろメディア系に転職するという噂が(笑)。

長谷川:そうなったら、この連載を持って移ろうかな(笑)。最近はいろいろ欲が出てきて、ライブ動画も試してみたいと思っているんですよ。

鈴木:ライブは面白そうですね。ただ、企業人としては言葉を選ぶようになってしまうかも。居酒屋放浪記みたいに、アーカイブとして残す時に調整すればいいのかな。

長谷川:この企画もできるだけ臨場感を意識して作っているんですが、人によっては広報からかなり厳しい赤が入ることがあります。ここだけの話ですが、掲載できなかった回もあるんですよ。アーカイブに残さず、Facebookライブみたいに流しっぱなしで録画無しなら、自由に話してもらえるかもしれませんね。

鈴木:そう考えると、やっぱりコンテンツを厚く持っている人や企業は強いですよね。うちも近いうちに好きな人だけに向けて「長いコンテンツ」を見せてみたいと思っています。関係が浅い人にはわかりやすくコンパクトに伝えることが必要ですが、好きな人にはとにかく情報が多い方が好まれるんです。余計な会話とか、いわゆる“余剰”がいいと。ちゃんとコンテンツがあれば、だらだらした中にこそブランドを取り巻く空気や雰囲気、哲学まで含まれるじゃないですか。

長谷川:そう、要約しすぎるとお題目みたいになりますからね。それに臨場感って大切ですよね。ログミーとか、面白いのはそれもあるのかと。だから居酒屋放浪記も全部書き起こそうと思ったんですが、ちょっと破綻しそうなので(笑)。

鈴木:ソーシャルメディアの「中の人」企画(第34回 リテール系ソーシャルメディア担当者座談会)、あれはすごく面白かったですよ。

長谷川:ありがとうございます。ツイッター黎明期の企業アカウントの中の人で集まって、楽しかったですね。中華料理屋で円卓を囲んでやったんですよ。

鈴木:仕切りは大変そうだなと思いましたが、議論の流れをつくるのも1つの才能ですよね。

長谷川:あの時は、みんなにちゃんと語ってもらおうと思って、やりました。あと、「その辺どうなんですか」「あれはうそでしょ!」って、本音を引き出すのが仕事ですよね、インタビュアーの。

鈴木:どちらかというと僕もそうですね。かつてある人に「いろんな分野でレベルがバラバラですね」って指摘されたんですけれど、専門的な知識や体系を正確に把握することより、出会った知識を実践に活用する方が得意だし、好きなんですよね。長谷川さんと話すのが楽しいのも、そこに価値を見出しているからだと思います。

長谷川:よし、決めた、僕はIT業界の田原総一朗になる。

鈴木:長谷川さん、やっぱり転職ですね(笑)。

 


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第48回 株式会社トレタ 代表取締役 中村 仁さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第48回目は株式会社トレタ 代表取締役の中村仁さんと語り合います。場所は中村さんがオーナーを務めるしゃぶしゃぶ店「豚組 しゃぶ庵」。レトロモダンな雰囲気でおいしい食事を心ゆくまで楽しみながら、トレタが提供する飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」開発のきっかけや、今後の外食産業とITの在り方などを伺いました。

株式会社トレタ 代表取締役 中村 仁さん

1992年、松下電器産業株式会社 (現パナソニック)に入社後、外資系広告代理店を経て2000年に株式会社グレイスを設立。銘柄豚のしゃぶしゃぶ店「豚組」や和風スタンディングバー「西麻布 壌」などを開店。2011年に株式会社ミイルを設立し、料理写真共有アプリ「ミイル」をローンチ。2013年には株式会社トレタの代表取締役となり、飲食店向け予約/顧客台帳サービス「トレタ」を開発・提供する。飲食店向けセミナーの講師も務めるなど、飲食店とテクノロジーとの橋渡し役としても精力的に活動を行なっている。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第46回 株式会社ココカラファインヘルスケア 販促部マーケティングチーム マネジャー 郡司 昇さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第46回目には、ココカラファインのマーケティングとECの責任者である郡司 昇さんに登場いただきました。調剤薬局やドラッグストアという業態におけるオムニチャネル化を推進しながら、業界としての課題解決にも意欲的に取り組んでいます。差別化されていない現状をどのように打開しようとしているのか。業界の慣習と併せつつ、お話をうかがいました。

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株式会社ココカラファインヘルスケア 販促部マーケティングチーム マネジャー 郡司 昇さん

1992年、昭和大学薬学部薬学科を卒業後、薬剤師として株式会社セイジョーに入社する。ドラッグストア店長を経て独立し、株式会社ランド設立。セイジョーとのフランチャイズ契約のもとドラッグストアを出店。2001年、株式会社ランド退社。株式会社コーエイドラッグに入社し、調剤(保険)薬局管理薬剤師として仕事の傍ら、ドラッグストア自動発注システムを構築する。2004年3月、株式会社コーエイドラッグを退社し、ふたたびドラッグストアを出店。2007年4月に古巣である株式会社セイジョーに戻り、調剤部課長や事業推進室 営業管理課長などを経て、2010年10月に合併を機に株式会社ココカラファインに転籍。

2013年4月EC事業分社化に伴う社長公募により、株式会社ココカラファインOEC 代表取締役社長就任。2016年4月株式会社ココカラファイン 統合マーケティング部長兼任。株式会社ココカラファインOECは当初の目的(営業黒字)を達成したため、オムニチャネルにおける経営効率を考慮して同年10月グループのドラッグストア・調剤薬局約1,300店舗の大多数が所属する株式会社ココカラファインヘルスケアに経営統合。同年10月株式会社ココカラファインヘルスケアに転籍。現職。

 

リアル店舗とECショップの連携によるドラッグストアのオムニチャネルとは?

長谷川:郡司さんと初めてお会いしたのは、New Yorkでしたよね。2015年1月NRF(全米小売業協会主催のカンファレンス・展示会)のツアーでした。共通の知り合いも多くて、いろいろお話しして。

郡司:そうでしたね。実はその前年の10月オムニチャネルツアーにも参加していたんです。

その共通の知り合いの一人にお声掛けをいただいたので、NRFで発表される米国最新トレンドを知る貴重な機会ですので、まさかの3ヶ月間隔でNew Yorkに行くことにしました。だけど、長谷川さんと名刺交換した時に案の定「なんでオムニチャネルやろうとするのに、ECだけ別会社なの?」なんて突っ込まれて(笑)。

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NRFのツアーで、オムニチャネルでおなじみmacy’s前。
長谷川がいかに痩せたかということが…わかる。(左奥から4番目)

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第44回 株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さん


 

ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、どうすればエンタープライズ系エンジニアがもっと元気になるのか?という悩みの答えを探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第44回目には、株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さんに登場いただきました。もとは世界的な投資銀行で億単位でのビジネスを動かすエコノミストの地位を捨て、起業間もないマザーハウスの経営にジョイン。年収は20分の1になっても「以前よりやりがいがある」と語る山崎さんに、長谷川がその笑顔の秘密を探るべく迫りました。

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株式会社マザーハウス 取締役副社長 山崎大祐さん
1980年、東京都生まれ。2003年、慶應義塾大学総合政策学部を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。当時日本は数少ないエコノミストの1人として、日本およびアジア経済の分析・調査・研究や顧客への金融商品の提案を行う。07年3 月、バイクによるアジア横断旅行の準備のために同社を退社。在職中から大学のゼミの後輩だった山口絵理子氏(現・マザーハウス代表取締役)の起業準備を手伝っていたこともあり、同年7 月マザーハウス取締役副社長に就任。マザーハウスの経営を担いながら、社会人のための “思考・実践の場”を提供する「マザーハウスカレッジ」を主催する。

社会の理不尽の元凶!?金融もビジネスも毛嫌いしていた

長谷川:最初にお会いしたのって、業界の勉強会みたいな場でしたよね。ファッション関係のECをどうするか、みたいなテーマで。

山崎:ええ、全く知らない世界ですごく刺激的でした。当時はまだ店舗も7〜8店でそれなりに店頭では売れるようになっていたんですが、ECはからきしで。今になってようやく、オウンドメディア化してオンラインにもいい流れができてきたところで、その起点となったのが、その勉強会だったなあと。

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