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作者別: やつづかえり

長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第52回 早稲田大学准教授 入山章栄さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第52回のゲストは、気鋭の経営学者、早稲田大学大学院(ビジネススクール)准教授の入山章栄さんです。子ども教育から今の時代の大学・大学院の意味や経営者に必要なリーダーシップについてなど、幅広く伺いました。

経営学ごときで、ビジネスの答えなんか出ない?

長谷川: 入山先生と最初にお会いしたのは、日経BP社がやっている「日経ITイノベーターズ」という会合ですね。企業のITの責任者をしている、ちょっと変わり者の人たちの集まりで、年に何回か勉強会みたいなことをしています。そこで入山さんの講演を聴かせてもらって、今までにないアカデミックに閉じ籠もらないオープンかつ実践的な先生だなと思いました。率直に言いますが、大学の先生の中では嫌われていますよね?(笑)

入山: ははは、嫌われているというか……(笑)。僕は5年前、アメリカにいた時に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』という本を出しているんですけど、すごく平たく言うと「世界の経営学は欧米でもアジアでも国際標準化が進んでいるのに、日本の経営学はガラパゴス化している」的なことを書いたんですね。ガラパゴスがいいか悪いかは別として、「国際標準の経営学は、日本で理解されているものとは全然違う」ということを書いたので、僕のことを陰で悪口言っている人とかはいるのかもしれませんね(笑)。

長谷川: 僕、どっちかというと実学派なんですね。日経ITイノベーターズに出ているCIOって、みんなそうだと思うんです。で、そういう人達の前で入山先生は、学術専門的な話もありながら、「結局、そんなフレームワークだとかは関係なくて、こうなんだよ」というような実学派にわかりやすい話をされていて、でも結局は「俺は経営学を学問として突き詰めていきたい」とガツンと言う、そういう妙なバランス感にびっくりしました。こんなことを言う人が。世の中にいるんだなと。

入山: そうでしたか。本にも書いているんですけど、「経営学が役に立つ」とかいう議論が、僕はもう全然理解できないんですよ。そもそも「役に立つ」ということ自体がすごく曖昧というかいいかげんな言葉ですし。長谷川さんには釈迦に説法ですけど、ビジネスってものすごく複雑で大変で、経営学ごときでパッと答えが出るわけがないですよね。

だけど、ビジネスというのは答えが出ない中でも「決断」はしないといけない。そのためには、ずっと学習するしかないと思うんです。例えば稲盛和夫さんみたいなすごい経営者の話を聞くのもひとつの学習だし、先輩の話を聞くのも学習です。でもそういう機会がない人には、一応は世界中で何万というそこそこ頭のいい学者たちが、真剣に科学的に研究をして、例えば「10万社のデータを使って統計解析したら、全体の経営行動指標はこうなりました」とか、そこまでは伝えられるのが経営学です。ただ、「それであんたの会社がどうなるかまでは、俺は知らん」ということで……。僕は逆に、学者にできるのはそこまでだと思うんです。だから「答えが出ます」と平気で言う学者がいるとしたら、一番信用できないですね。

今の時代にMBA留学の意味はあるか

長谷川: 日本の企業は、バブルの頃から社員をMBAに送るというのをずっとやってますよね。最近はMBAに日本人はいなくて、中国人とインド人が多いという話も聞きますけど。今でも、企業は社員にMBA留学させた方がいいんでしょうか?

入山: 難しい質問ですけど、何を求めるかですね。MBAに行って勉強しても、もしかしたら期待したようなことは、100%は身につかないかもしれない。でも、MBAに行く価値はそれだけじゃない。すごくハードな状況で追い詰められて勉強する経験とか、何より、圧倒的に重要なのが「人との出会い」です。MBAでは、教員も同級生も、今まで会えなかったような人と会えて切磋琢磨できます。行った先ですごく強烈な出会いがあるかどうかということが、すごく重要だと思います。

MBAじゃなくてもいいですけど、海外に一度は行って暮らすのはすごくいい経験になると思います。というのは、僕がアメリカにいるときにすごく感じたのは、地の能力でいったら、日本人の能力の高さってやっぱりかなり高いんですよ。同じビジネススクールの中で比べたら、一般に留学生に比べてアメリカ人は、能力的に落ちることも多い。でも彼らは英語というアドバンテージがあるので、最初は向こうの方が何となく頭よさそうに感じちゃうわけですね。1年目はそれで済むんだけど、2年目になると留学生も英語が分かるようになって、「あいつら頭よさそうなこと言っていたけど、意外とたいしたことないよね」って話になる。――ということとかを知るだけでも全然違いますよ。

長谷川: なるほど。

入山: 本にも書きましたけど、アメリカはすごい国で、「お前どこから来た?」ってほとんど聞かないんですよね。いろんな国の人がいて、本当に切磋琢磨しているんです。僕はそれがすごく好きです。ピッツバーグ大学の博士課程で先生1人に学生4、5人で経営学の論文について、当然ながら英語でみんなで熱く議論していたとき、ふと「あれっ、オレいまアメリカの大学の博士課程にいるけど、アメリカ人誰もいないわ」と気づいたんですよね。日本人の僕、中国人が2人、メキシコ人が1人、あとインド人が1人だったかな。アメリカの大学はそういうのがけっこう普通だったりするので、もっと多くの人がそれを経験した方がいいなと思います。本当に実力だけで勝負するのが普通の世界をね。

長谷川: 勉強だけじゃなくて、仲間とか異文化とか、いろんなところでの成長があるということですね。でも、企業に戻るとみんな辞めちゃいますよね。それはポストとか処遇の問題なのか、大企業には戻らないような「体」になっちゃうのか分かりませんが……。

入山: 僕は元々、日本の大企業が欧米のMBAへの留学支援をするなんて何考えてるんだろう、と思ってましたよ。だって実力つけたら、今の会社に留まるのがばかばかしくなるのは当然でしょう。

長谷川: よく言われる、日本は出る杭は打たれる、アメリカはそうでもない、というのは、本当にそんな感じなんですかね? 「日本人はイノベーションを興すのは無理だから諦めたら」なんて話もありましたが。

入山: アメリカも結構、出る杭は打たれますけどね。アメリカ人って日本人よりもよほど空気を読みますし、すごい学歴社会だから、僕は「アメリカ人は自由だ」みたいな言葉は、あまり信用していないです。

日本にいると、アメリカのすごいところだけが見えがちですけど、ものすごい競争社会なので、本当にごく一部の神様みたいな天才が競争で勝ち上がっているだけ。マーク・ザッカーバーグみたいなのは本当に1%、もしくは0.01%なんですよ。残りの99.99%は普通というか、失礼な言い方をすると、アベレージなら日本人より低いかもしれない。それをどう見るかですね。

長谷川: そうすると、暮らしていく上で、アメリカのいいところ、日本のいいところって、どんなところでしょう?

入山: 日本は食べ物がおいしいところですね(笑)。これはもう圧倒的。あと安全だし、暮らしやすい。大好きですね、僕は。

アメリカのすごいと思うところは、やっぱり多様性かな。僕は「お前日本人だから、、、」と言われたこと、一回もない。普通に「アキエ、よく来たな」みたいな感じで、個人として扱ってくれる感覚とか、ああいうのはすごいですよね。でも、しんどい国だなと思います。競争も激しいし、それなりに人の裏表もある。

僕は今、日本で早稲田大学にいて、正直こういうの嫌なんですけど、多分このまま無難にやり過ごせば、定年までどうにかなる可能性がかなりある。こういう感覚は、アメリカにいたら一生ないかもしれないですね。永久在住権とって准教授になっても、結局教授になるためにはまた競争が必要で、教授になったら今度は冠付き教授(Chair Professor)になる必要があって、、、無限ドラクエみたいな感じです。レベルが上がるたびに強い敵が出てくるみたいな(笑)。だから、あそこで勝ち上がるのは本当にすごいなと思います。

子どもに身につけてほしいのは数学と英語

長谷川: 今、お子さんはおいくつですか?

入山: 10歳の男の子と6歳の女の子です。

長谷川: 僕も小4の男の子がいるんですが、例えばその10歳の男の子に対して、どんな教育プランを考えていますか?

入山: 2つだけです。ひとつは、僕は日本の「礼儀正しく」が好きなので、ちゃんとして欲しいというのはあります。あとは息子には「英語と数学だけできれば、あとはどうでもいいから」と言っています。数学をやってプログラミング言語ができる素養が身につけば、息子は一応帰国子女なので、あとは要らないというのが僕のスタンス。もちろん国語とか、美術とか、色々と重要なこともあるけど、それは好きに感性ベースでやってくれればいい。

長谷川: 今まで、というか今も日本は学歴社会ですが、そういう意味で、こうなってくれたらいいなという、理想のようなものはありますか? もちろん最後はお子さんが自分で選択するものだと思いますが。

入山: 僕は子どもが好きで、子離れできなさそうなので(笑)、「なるべく一緒にいてほしいな」という思いはあります。だから葛藤もありますけど、それを無視すれば、最強のパターンは、「日本でそこそこいい大学に行って、大学院でアメリカに行くこと」かなと思います。

長谷川: なぜですか?

入山: 学部で向こうに行くよりも、母国で大学ぐらいまでちゃんとやってから、問題意識を持ってアメリカに行く人の方が、僕の周りでは力がある場合が多いかな、と思っているんです。あくまで個人ベースの経験則ですが。

長谷川: うちは嫁が英語好きで、子どもにもずっと英語をやらせてるんですね。僕はIT系なので、絶対というわけではないけれど、コンピューターはやってほしい。要するに英語とコンピューター以外は、学校の成績どうでもいいと思ってるんです。とはいえ、僕はもともと三重県出身で、中学受験とか全くない世界だったので、この東京では、みんなどうしてるのかなと、気にもなって。

入山: すごくわかります。難しいですよね。うちは、嫁さんがお受験とか悩む派なんですよ。僕はそんなのどうでもいいと思っていたんですけど。

長谷川: 中学受験をさせる予定は?

入山: 検討中です(笑)。息子は今は公立の小学校に行っているんですけど、中学受験するなら中高一貫か、一番いいのは大学まで行ければと。息子は僕と違って数学の素質がありそうだし、アメリカに6歳までいたので基礎的な英語はしゃべれるんですね。アメリカ国籍もあって。だからもう放っておいて、好きなことやればいいんじゃないの、という気持ちもあるんです。個人的には息子に任せています。長谷川さんはどうですか?

長谷川: ひとつだけ思っているのは、大企業終身雇用みたいな所謂王道(に思える)のレールを信じるのではなく、「俺はこっちが幸せだから」とレールから横っ飛びするような、そういう感じになってほしいな。それだけ考えてやってますね。

お受験でトップ校行かないんだったら、むしろ変わったところに行ってほしいなと。僕はどっちかというと、アジアかなと思ってるんです。アジアの人たちがいっぱいいるような中学や高校なんかに行って、「俺の実家来いよ」って誘われて、ちょっと向こうの国に行って遊んでくるみたいなのがいいなと。

入山: それはいいですね。子どもの教育のためにアジアの別の国に移住する人も出てきていますからね。

大学の価値、先生の役割は変化している

長谷川: お子さんには大学院からアメリカに行ってほしいと言われる一方で、MBA留学するとしたら海外でネットワークを作れるところに価値があるという話でしたよね。GDPでいくと、アメリカはまだ伸びるとは言われてますが、一方でアジアの時代が来るということもあり、アジアの大学に行くというのはどうなんでしょう。

入山: それはありだと思いますよ。例えばアメリカに行っても、下手すると同じ母国の人とつるみがちなので、1〜2年留学したくらいだと、結局そんなに欧米の友達はできない人もいます。できても、別れれば疎遠になる。そう意味では、僕の勤めている早稲田大学のビジネススクールの方が、ある意味面白いかも知れません。うちのMBAはいま世界30ヶ国近くから人が来ていて、しかも北米や欧州からも来るけど、メインはアジアからなんですよね。先日なんかも、うちのゼミ生の台湾の女の子が修士論文のテーマを「私のファミリービジネス」に決めたいと言うんです。何かと思ったら、台湾で一番大きなトヨタの輸入代理店のお嬢さんだったんです(笑)。そういう子が結構いるので、「(アメリカに行くよりも)ここで人脈つくった方がよっぽどいいかもよ」という話は、学生にたまにしています。

長谷川: 大学や大学院の教育ってどう変わっていくんでしょう? インターネットの前後で違うのではないでしょうか。昔は、大学でも、先生が「こうだ」と言ったことを信じて勉強していたのが、最近は、その場で、ググったりとかして、「この人が違うこと言っていますけど、どうなんですかね?」みたいなことってあるんじゃないですか。消費者が賢くなるのはまだいいとしても、学生がそうなると、授業をするのも難しくなってくると思うんですけど。

入山: それ、素晴らしいポイントです。もう基礎的な知識で大学に行かないと学べないことは減ってきているので、「先生が何を教えるか」だけでは、大学の価値はなくなってきていますよね。

必要なのは2つで、まず「その大学を出た」ということです。経済学で「シグナリング理論」というんですけど、例えば東大に入るのは大変じゃないですか。それでも入りたがるのはなぜかというと、ものすごく勉強して受験競争を勝ち抜いて、日本のトップ校に入ったことで、「それだけ努力していて、地頭がいいんだな」ということをリクルーティングする人に伝えられるから。大学で何を勉強したかはどうでもいいわけです。

もうひとつは、繰り返しですが、いろんな人と出会えるということですね。僕は学部は慶應だったんですけど、特にゼミの先生とか、ゼミで出会ったら奴らには面白い人が多くいました。そのまま友達でいられますし。

その2つが大事で、大学教員がこういうのはまずい気もするんだけど、「何を学んだか」のウェイトは下がってきていると思います。だから個人的には、早稲田大学のビジネススクールも、より人との出会いとか、面白いことが起きているコミュニティとか、さらにそういう風になればいいと思っています。まあ、うちは、かなりそうなっているとは思うのですが。

長谷川: スタンフォードは結構座学が多くて、ハーバードはディスカッションが多いと聞いたりしますね。先生が教えるというよりも、学生同士に議論させると。

入山: ハーバードではもう、教授はただの司会者みたいな感じのようです。

長谷川: モデレーターみたいな。

入山: そう。教授はほとんど持論を述べないで、ひたすらディスカッションをさばく。ビジネスには答えがないので、教授が「こうだ」と答えを言っても仕方がないじゃないですか。そうじゃなくて、「こいつがこういうふうに考えるんだ」とか、「こういう考え方もあるんだ」という、多様な考え方を、世界中から来た優秀な人達から引き出すことが、教授に必要な能力になってきているのだと思います。ハーバードはそれが一番徹底している印象です。

大企業とベンチャーで必要とされるリーダーは重なってきている

長谷川: もうひとつお聞きしたいことがあって。リーダーに関してなんですけど、大企業に向いているリーダーと、ベンチャーに向いているリーダーって、やっぱり素養とか何かが違うんですか?

入山: 僕はオーバーラップしてきていると思っています。なぜかというと、今は大企業でも普通にやっていたらつぶれちゃうので、ベンチャー的になっているんですね。

僕はデロイトトーマツというコンサルティング会社が開催している「人材流動化研究会」の座長をやっているんです。先日はたまたまGEの人が来ていたんですが、GEの発想はすごくベンチャー的になってきてますよね。「そうでないと俺たちつぶれる」と言っていて。だから、求められる人材は重なってきているのかもしれません。

先の分からない世界なので、やるしかないわけです。でも不確実性があるとみんな不安なので、いかにリーダーが周りの人たちに、「うちの会社はこれからこうなる。そうすれば社会でバリューが出せて、すごく魅力的なことができるんだぜ」というのをちゃんと語れるかがすごく重要です。ベンチャーは昔からそうですが、感度の高い大企業も少しずつそうなってきています。

長谷川: 大企業って、課長や部長ぐらいまでは業務成績がよければ「あいつ、すげえじゃん」と評価されるけれど、どこかからか「イエッサー」の人だけが上がっていくというところがありますよね。あるいは減点主義の中で、マイナスの奴は落とされていくようなところが。今おっしゃったようなベンチャー的なリーダーを受け入れて、上に上げていくように変わっていくんですかね?

入山: 多分、そうやっていない会社はつぶれちゃうと思いますよ。ただ難しいのは、日本企業で評価するのは「成功か、失敗か」なんですよね。失敗か成功しかなくて、失敗したら減点になるやつです。もちろん勝たなきゃだめなんだけど、そのプロセスでものすごい失敗があってもいいはずで、そういうのを認められる方にいかないと勝てないというのは間違いないですね。

長谷川: リーダーの「素養」というと「生まれ持ったもの」という意味になっちゃうのかもしれないですけど、リーダーに必要なものとは、どういうものでしょう?

入山: これからの時代ということでいうと、まず未来を見抜ける能力だと思います。これは重要で、良い経営者はみんな未来を見ている。当たり前ですけどね。

ただ問題は、未来が本当にそうなるかなんて分からないんですよね。それでも「絶対こうなる」と見定めて、それに対して「うちの会社はこういうアップセットがあって、こういうリソースがあるから、こうやって価値を出すんだ」ということをちゃんと語れる、巻き込めるリーダーというのが決定的に重要だと思います。

長谷川: 孫(正義)さんも、「情報が7割ぐらいのときに決定できるのがリーダーで、10割で判断するのは一般社員でもできる」と言っていますよね。

入山: 孫さんなんて、きっとあの人2、3割で決定していますよ! クレイジーだと思いますけど、未来は分からなくても「こっちなんだ」と言って、ステークホルダーを巻き込んで「こっちに投資しよう」とやっている間に、経済はそっちになっちゃうんですよね。「セルフフルフィリング」といって学術的な理論もありますが、やっているうちに本当に実現させる、つまり未来をつくり出すんです。

孫さんは最近10兆円のファンドを作ったり、昔ボーダフォンを買ったときもそうですけど、普通は絶対引き出せない金を引き出せる。それは語る能力が異常にあるからだと思います。「世の中わからないけど、とりあえずこっちなんだ。だから金出せ」と(笑)。僕が言うのもおこがましいけど、これからの経営者に一番必要な素養を持っている方なのだと思います。

これからのリーダーに必要なのは、魅力あるビジョンを語る力

長谷川: 最近注目している経営者は、どんな人たちですか?

入山: 好きな経営者は何人かいます。孫さんは直接お会いしたことがないので、お会いした中ですごいな思うのは、やはり日本電産の永守さんですね。もう70ですけど、怪物ですよ。グローバルのGEとかが組織でやっていることを、永守さんはひとりでやっているんですよ。モーターの会社で、「モーターは産業のコメになる」というビジョンをもっています。なぜなら、車が自動運転になれば全部モーターが入るし、加えてドローンもあると。しかもドローンは近いうちに自家用の「マイドローン」になる、「15年したらドローンで通勤するんだ」と、そういう絵を描いているわけです。日本電産は世界のモーター市場の8割を押さえていて、ドローンってモーターが絶対必要だから、ドローン市場が伸びたら、日本電産の売り上げもガッと伸びるんですよ。永守さんが「あと10年で10兆円にする」と言っているのもあながち夢じゃないなと思います。話を聞いていると「この人、あまりにも言っていることが壮大だけど、ついていってもいいかな」と思っちゃうような方です。

長谷川: ただのほら吹きおやじで、人がついてこない人との違いは何でしょう?

入山: 面白いのは、永守さんは「10兆円にするというのはホラだ」と言っているんです。でもワクワクするんですよね。本当にキャラが濃いので、部下になったらすごく大変でしょうね。日本電産は最近も経営幹部が辞められていますが、でもやっぱり残っている人たちは魅力を感じているのだと思います。それがリーダーなんだと思いますよ。孫さんもそういう感じみたいですが。

長谷川: そういう意味では、大ボラ3兄弟と言われているのがファーストリテイリングの柳井さんと、永守さんと、孫さん……。

入山: 僕が言うのも僭越すぎますが、あの3人は似ていますよね。みんな一見すると信じられないようなことも多く話して、でも実現しているじゃないですか。だから結局投資家にしても、バリュエーションなんかどうでもいいのかもしれない。その人のビジョンとか考え方にいかに共感できるかなので。そういう人間力みたいなのがもっと重要になると思います。多分日本で一番それがあるのが孫さん、柳井さん、永守さんなのかも。

長谷川: 入山先生自身は、これから何がやりたいとか、あるいは世の中をこうしていきたいとか、そういう希望はありますか?

入山: 僕の場合、面白いことが好きだから、「面白いことだけやるし、面白くなかったらやらない」というだけなんですよね。最近はみんな、「人の役に立ちたい」「世の中の役に立ちたい」という感覚が結構あるみたいですけど、僕はいまだに全然興味がない。今は個人的に面白いことをやれているので、ものすごく楽しいです。

長谷川: 仮に10人中10人に、「それは全然面白くないですよね」と言われても、自分が面白かったら全然いいということですか? それとも、さすがに10人中10人に面白くないと言われると、「俺ちょっと違うかな」みたいに思います?

入山: 多分、自分が面白いなと思っていることが、全員かどうかはわからないけれど、ある程度は他の人の興味ともマッチしているからハッピーなんでしょうね。それがすごくずれているという状態は、想像したことがないから何とも言えないですけど。

長谷川: 面白いことが他の人にとってマイナスなことはそんなにないはずで、社会の役に立つことにも連鎖しているだろうという感じでしょうか。

入山: それはそうだと思います。周りの人たちに面白がってもらっているというのを「役に立っている」と考えれば、そうだと思います。

長谷川: なるほど、それは確かにハッピーな状態ですね。よくわかりました。

今日はお忙しい中、ありがとうございました!


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第51回 株式会社IDOM 執行役員 北島昇さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第51回のゲストは、中古車売買の「ガリバー」を運営する株式会社IDOMの北島昇さん(新規事業・人事・広報管掌 執行役員)です。自動運転の時代を見据えた新規事業開発から組織風土の変革まで、難題に果敢に取り組む北島さん。その大胆な考え方の背景に迫りました。

株式会社IDOM 新規事業・人事・広報管掌 執行役員 北島 昇さん
2007年IDOM(旧ガリバーインターナショナル)に入社。
人事、経営企画、マーケティング、店舗フォーマット開発、
事業提携などに従事。2015年より現職。C2C事業(クルマジロ)、サブスクリプション事業(NOREL)、コネクティッドカー事業などの新規事業開発やアクセラレータープログラムをはじめとしたオープンイノベーションの責任者を務める。
IDOMへの社名変更とともに、「クルマの売買」から「Mobility Platform」への事業変革と文化変革を推進中。

自動運転で車がサービス化される時代に備え、今やるべきこと

長谷川: 自動車業界はこれから、「自動運転」を軸にものすごい変化があるだろうと言われていますよね。IDOMさんとしては、自社への影響や打ち手をどういうふうにお考えですか?

北島: 自動車のこれからの変化って、自動運転のような自動化の流れと、シェアリングエコノミーをはじめとするUBERのようなサービス化の流れと、2軸あるんです。将来は2つの流れが交わり、運転手のいない車をスマホ1つで呼び出せるようなサービスが出てくるでしょう。それがいつなのかは人によって考えが違いますが、IDOMが存在し続ける限り、それを無視できなくなる時代がくると思っています。そう考えて、今は店舗数を増やして中古車の流通を伸ばしていくと同時に、新規事業としてサービス化に取り組んでいます。
「Car as a Service」でCaaSと呼んでいるんですけど、車を売る、買う、貸す、借りる、使うということに関わるビジネスをどんどん立ち上げてプラットフォーム化し、ドライバーIDをどんどん蓄積していこうとしているんです。

長谷川: ドライバーIDというのは、要するに運転する人のIDということですか?

北島: うちで売った人、買った人、借りた人、貸した人……、それぞれのユーザーさんたちのIDです。最終的にはその人達に価値を提供する、IDOMのプラットフォームを作りたい。要は「買った車を貸せます」、「借りている車を買えます」、もしくは「買った車をボタンひとつでCtoCに出品できます。急いでるんだったら、ガリバーが買い取ります」ということができるように、売る、買う、貸す、借りる、使う、全部を抽象化して、ひとつの中に入れちゃおうと。
例えば、長谷川さんがうちで車を買ったとします。3週間沖縄に行きますというときは、ボタンひとつポチッと押してくれたら、その間はIDOMが長谷川さんの車を貸してお金を稼がせておきます。長谷川さんが帰ってくるときには、ちゃんと車を戻しておきます。で、沖縄で長谷川さんが乗る車も、僕らのプラットフォーム内で用意します――、みたいなことを実現しようというのがCaaSです。

長谷川: なるほど。

北島: でも、このビジネスは自動運転で移動がサービス化する時代になると、無効化されるんですね。自動運転の車って、所有者も流通方法も変わって、僕らが今やっている買取や販売が割り込む余地がなくなるでしょうから。
そういう時代になるまでにプラットフォームをちゃんと作っておいて、最初は「車のプラットフォーム」だったものを、いずれは「移動のプラットフォーム」に変えたい。どこに行ってどれだけ滞在するのかによって、車と新幹線と飛行機、どれで行くのがいいのか、あるいはオンデマンドバスか、ロボットタクシーか、そういうところまで含む移動のプラットフォームです。
まだまだ不確実で、ぼんやり考えてる状況ですけど、そのときに備えて僕らが今持つべきは、調達力や与信という意味も含めた「お金」、そしてもうひとつはドライバーIDとそれに紐付くものも含めた「データ」です。コネクテッドカーと言うんですけど、車のIoTですね。ドライバーの移動経路と運転の仕方のデータを収集するための事業にも投資をしていきます。

大手メーカーに学ぶ未来への備え方

長谷川: 自動運転て、最近になって急に進化しているように見えるんですよね。ちょっと前までは、安全性とか法律とか、色々な面でまだまだ難しいと言われていたものが、トヨタも「2020年までにやる」と言ってみたりして、「いきなりどうしたん?」と不思議に思うんですけど。

北島: いや、言うほど速くないですよ。

長谷川: そうですか? DeNAも「オリンピックのときには無人タクシーを実用化する」と言ったりしてましたよね。

北島: あれも、場所と用途が限定されるからできるということでしょう。僕自身は、がんばって進めてより早く実現して欲しいと思ってますけどね。免許持ってない僕が言ってもリアリティがないんですけど(笑)

長谷川: え、免許持ってないんですか?

北島: うち、「要マニュアル免許」なんですけどね。ガリバー(現IDOM)に入る時、あまりにもポンポンと決まったので、自分だけ免許の有無をチェックし忘れたみたいですよ(笑)

長谷川: え〜(笑)

北島: まあ、それでも思うわけですよ。車って、友達を乗せたり子どもを乗せたりしながら、事故を起こして人を殺す可能性がある。どれだけ気をつけていても、向こうからぶつかってくることもあります。語弊を恐れずに言えば結構恐ろしい乗り物なんですよね。そういう意味においては、自動運転とか、自動運転までいかなくてもADAS(先進運転支援システム)と呼ばれている自動ブレーキの技術などは、本当に大事だなと。自動車がそっちの方向に発展していくのは、すごく健全で、正しいことだと思いますよ。

長谷川: 確かに、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)とか自動追従のシステムとか、各社が昔から取り組んでいましたよね。でも、ここにきて自動運転が急速に伸びてきているように見えるのは、なんでなんかな、と。

北島: ひとつは、テスラを含め、リーンに物事を進めちゃうスタートアップが出てきたというのがありますね。概念としてあったものが、具体的にプロダクトとして目に見えることで物事の進みが早くなることは、自動車に限らず多くの産業で起こったことだと思います。あとは、アメリカを中心とした政治と経済の話です。車の排ガス規制って、カリフォルニアが一番厳しくて、あそこを起点に世界のスタンダードが決まっていくんです。いっときはプリウスがドンと売れたけど、ハイブリッドはエコカー認定されないということになって、EVをやらなきゃいけなくなったりする。車の開発は政治と経済に揺さぶられるところがかなりあるんですよ。自動運転も、その文脈の中にあると思います。日本のメーカーもそういう流れに振り回されているように見えます。

長谷川: 急に「やらなきゃ」となってできるというのは、もともと技術はあったということですか。

北島: 世に出すのが遅いだけで、技術は持ってますね。安心安全第一で、何年もかけて、実験しているんです。
メーカーがすごいのは、自動運転、EV、ハイブリッド、燃料電池……、どのシナリオがきてもいけるように研究開発してるんですよ。それ見て、新規事業のあり方をすごく考えさせられましたね。スタートアップはひとつの未来に賭けざるをえないかもしれないけれど、ある程度の規模の会社は、あらゆる文脈に張っておかないといけないんだなと。ある種、未来が変わったときのための、挑戦的保険ですよね。僕も新規事業を担当してますけど、未来がどうなるかは分かりません。でも、「こうなったときにはこれで受けとめる」というのをたくさん用意しておくことはできるんです。
その点が、お金があって優秀な人たちがいっぱいいるメーカーだと全然レベルが違うというのを、すごく感じます。「この人たち、こんなに給料もらって、なんでこんな研究を?」という人たちがたくさんいる。あの厚みがすごいなと、思いますね。

自動運転が車とデータの所有権のあり方を変える

長谷川: 最近トヨタの人の話を聞く機会があって、車って人やモノを乗せるものだったけど、これからは情報を集めるものとしての可能性が大きいというんですね。
確かに、車載カメラのようなものでいろんな情報が取れますよね。「ここの道はそろそろ補修せなあかん」というのも分かるし、道沿いのガソリンスタンドの写真から今のガソリンの値段をリアルタイムに集計することもできる。子どもが通学に使う道とか、じいちゃんばあちゃんがよく歩く道、なんていうのも自動的にマップが作れる。その情報が、すごい資産価値になるんだと。

北島: そうなると思いますよ。ホンダの方から伺ったんですが、例えばGセンサー(加速度計)で道路の舗装の痛み具合なんかが分かるので、その情報をもとに都市の保全計画に活かしているそうです。ただ、問題なのは、そうやって取れる情報は誰のものなのかという話です。もともとの解釈では販社が努力して得たお客様の情報だから、メーカーのものではないというものだったんです。次に、では販社のものなのか、いやいやユーザーのものなのかという、この辺の議論がこれから結構出てくると思いますし、既に動き始めいてるメーカーもいます。

長谷川: そうなんですね。

北島: 例えば車で事故を起こした瞬間、タイヤの圧力の変化とか傾きとか、いろんなデータが車には溜まってるんですよ。車検の際に故障診断をするときに、そのデータをボコッと抜いて使ったりするんです。だからそれがあれば、ドライブレコーダーで事故の現場を撮っていなくても、事故の状況がある程度わかるんです。なぜ今までやっていないかというと、情報の所有権の問題があるからです。アメリカでは既に関連した裁判が行われていて、ユーザーが「この情報、俺のだろ」と開示請求したら、応じなければいけないという判例が出ています。

長谷川: なるほどね。

北島: でも、この議論の流れは、自動運転になると一気に変わってきます。自動運転の場合は車の所有者も変わりますしメーカの立場も強くなります。サービスを提供する側がより強くなると思うんですよ。

長谷川: 自動運転が実現するまでに、何年くらいかかると思います?

北島: まだまだ時間がかかると思いますよ。一番アグレッシブなシミュレーションをしているあるグローバルコンサルティンググループでさえ、2035年の完全自動運転のシェアが約10%という見込みです。

長谷川: 2035年でも?

北島: そう言われています。僕は局所最適かな、と思っていて。さっきお話したCtoCプラットフォームの話だって、地方に住んでいて、車が必須の生活様式の方で更に車のインテリアにこだわるような人にとっては「は?」という感じじゃないですか。「別に他人に貸したくないよ」と。こういう話は、国単位じゃなくて、都市単位で合う合わないがあるんだと思うんです。
Uberも一番フィットする人たちがいるエリアから順番に広がっていくでしょう。現に僕らもCtoCとかサブスクリプションモデルについては、例えば東名阪でやったら、その次は日本の地方よりもロンドンに行った方がいいんじゃないかというタイプの議論をします。最適なモビリティポートフォリオを、都市のタイプごとに実装していくというのは、これから広がっていくのではないかと思います。

車を所有したい層を「サービスとしての車」の利用者に変える

長谷川: 『NOREL』のサービスはどうですか? もっと在庫を増やしてくれという話が多いんじゃないですか?

(IDOMが2016年8月に開始した月額定額クルマ乗り換え放題サービス『NOREL(ノレル)』。https://norel.jp/)

北島: おかげさまで会員はどんどん増えているんですけど、超絶苦労してますよ!

長谷川: 在庫を増やすのが難しい?

北島: それはあんまり難しくないです。もちろん調達をどうするかというのもテーマですけど……、自分のものじゃない車って、所有されている車よりも価値の低減が早いんですよね。

長谷川: 荒っぽく乗っちゃうんですね?

北島: そういう傾向があるので、例えば事故の発生率や乗り換えで戻ってきた車両の価値減損などのデータを一生懸命取って分析しています。この半年やってみて、本当にいろんな学びがあったので、その上で、サービスパッケージをどう変えるかという話を今まさにしていて。春以降、高いコース、安いコースに細分化したり、あるターゲット向けの車を増やしたり、より良いサービスにしていくべくNORELチームが絶賛試行錯誤中です。

長谷川: 長い目で見て、どうしていこうとしていますか?

北島: 『NOREL』は、今はIDOMが買い取った車だけでやってるんですけど、この後、IDOMグループで買った人の車なんかも連携させる。また、月額定額だけでなくスポット利用も許容して、車の『Airbnb』を内包したようなものにしたいんです。
ただ、カーシェアの市場って2014年で約150億円で、所有の市場は10兆円以上なんですよ。だから戦略上は、今所有したい人、しなきゃいけない人に、どうやってサービスとしての車に向き合わせるかということの方が優先順位は高いと判断しています。また、僕らとしては、今所有してるユーザーとの接点が既存事業で大量にあるので、そのユーザーに所有ではなくサービスとして車に向き合うことに慣れてもらう、その後で、CtoCも内包するプラットフォームにしていく方がリーズナブルだと思っています。

長谷川: 自分たちが在庫や流通を持っているからできる、ということですね。

北島: はい。僕らは今、この3年位で変われるかどうか、自動車産業の変革を生意気ながらもリードできる立場になれるかどうか、勝負のときだと思っています。風呂敷広げて「やるぞー!」って言って、企業なり人なりを巻き込んで実現するというフェーズです。メーカーのコンサルをしているある人には、「メーカーさんがIDOMを過大評価してます」って言われました(笑)。「あいつら、なんかやるんじゃないか」と思ってくれてるんですね。

長谷川: そういう雰囲気はすごく感じます。

北島: 「過大評価言うな」って感じですけど、成長戦略って確率論もありますが、本質的にはハッタリというか意志の問題で、ゴールへの確からしさなんて大して求めなくていいんです。そういうリスクを背負ってでもやりたい人を集めて「一緒にやろうぜ、ウェイ!」みたいなノリが、すごく大事だと思っているので。ちょっと軽いかな。会社に戻ったら怒られるかも(笑)

女子バレー部みたいな組織にしたい

長谷川: そうやってどんどん新しいことをやっていこうという雰囲気なのは、トップが創業者だからですか?

北島: それは絶対ありますね。今は2代目で、兄弟ふたりで社長をやっているんですけど、この2人は創業メンバーなんです。お父さんがビジョンと企画力で立ち上げた会社で、彼らはエグゼキューションをやってきた。だから営業組織も本部組織も今の社長たちが作ったんです。すごいのは、それを自己否定も厭わない姿勢でいること。CtoCも売買のオンライン化も『NOREL』も、単純に言えば今の買取や販売の既存事業とカニバる可能性があるわけです。それを、人に食われるくらいなら社内で競い合うくらいでちょうといいというスタンスで「次に行こう」って言えるのはすごいです。手前味噌な言い方で恐縮ですが、危機感のあるオーナーが率いる会社というのは、変化の質が違うと思います。

長谷川: 経営会議って、月に何回くらいやってますか?

北島: ないです。

長谷川: ない? じゃあ、各部門長が社長のところに「これやりたい」と決裁を仰ぎに行くような感じですか?

北島:もちろん横串組織もあるんですが、それに近い形でしたね。今、経営会議をはじめとしたガバナンス改革もしているところではあるんですが、本音を言えば形式的な経営会議なんて○○喰らえで、共通の価値感をベースにした思考のシンクロをすごく大事にしたいんですよね。あくまでイメージですが、廊下ですれ違いざまの5分で喋って、「OKやっといて」って、50億の新規事業の意思決定ができるような会社にしたい。

長谷川: 確かに、杓子定規に会議をやっても何も進まないということはありますよね。その後飲みに行ったら、ああでもない、こうでもないという話になって、あんがいアイデアもわんさか出てきたりして。

北島: そうなんですよ。そういう質の高いコミュニケーションに使う時間の比率をいかに増やすかだと思います。

最近は、Whyで語り合う組織にしたいよね、と言っています。社長が正にそうで、プランを持っていくとWhatじゃなくてWhyを聞かれるんですよ。「なぜそう考えたのかプロセスを教えてくれ」と言うので話すと、「そう考えたわけね。俺だったらこの答えは出さないけど、プロセスの質が高いからいいよ」と任せてくれる。思想と思考とレビューがメインで、そこを合わせておけば、組織は大きくなっていくと思っているんでしょうね。

長谷川: 社長は今、何歳ですか?

北島: 兄の由宇介が46で、弟の貴夫が45です。
今、全社で挑戦していることの1つに、新たな文化づくりというのがあるんですが、そんな中での一つの課題認識に横の一枚岩感の希薄さってのがあるんですよ。例えば、経営幹部、部長や課長、リーダー職、女性、中途入社など様々なカテゴリで一枚岩になっている組織にしたいんです。そのために、「女子バレー部にしよう」って言ってるんですよ。

長谷川: 女子バレー部?

北島: 高校の女子バレー部の3年生。練習終わった後に集まって、「ヒロミ、今日声出てなかったよね? キャプテンとしてあの姿勢はないと思う。私たちも手伝うけどキャプテンらしくしてもらわなきゃ困る!」とか、トシコが「私たちこのままだったら都大会行けない。東高校、こんな練習してるらしいよ。明日から練習変えようよ!」って言ってすぐに練習メニューを変えたりとか。そんな暑苦しい議論をね、縦じゃなくて横でしなきゃいけない。そういう場を作ろうぜと。

長谷川: それ、女子バレー部じゃないとダメ?

北島: 男はプライドもあって、お互いを慮るでしょ。女子の方が、ゴールが決まれば、あけすけじゃないですか。ちなみにこの話、社員とよくしてるんですけど、本当に女子バレー部だったメンバーがいて、「女子は女子で大変なんです、あなたはわかってない!」って怒られました、まあイメージです、すみません(笑)

長谷川: 高校の時に女子バレー部の子が好きだったんじゃないですか?

北島: いや、おふくろがバレー部だったからかな。マザコンですかね(笑)
でも本当に全て「話せばわかる、話してないからわからない」、それだけと言っても過言ではないなと思います。僕は文化を競争優位の源泉にしたいので、そのために人事も制度設計とその運用だけではなく、文化作り、深耕をゴールにしてやれば会社により貢献できると思い、メチャメチャ楽しんでやらせて頂いています。

優秀な人が力を出し切れる組織に

長谷川: 北島さん、今の会社で何社目なんですか?

北島: 僕、IDOMが1社目です。

長谷川: え? 勝手に、3社目くらいかと持ってました。

北島: 大学中退して会社を起こして、30になるまで9年は自分で会社やってました。

長谷川: そうなんですか。何系の会社?

北島: アメフトをやっていたので、周りに医者とか理学療法師とかトレーニングコーチとか体に携わる色んなプロがいたんです。彼らが「スポーツ業界で食いたいけど食えない」っていうから、「そんなことあるかい!」って仕事とってきてたら、それがどんどん大きくなっちゃいまして。ただ、派遣とか業務委託ばかりだと、Jリーグの仕事でも1年やったらバシッと契約切れたりしてボラティリティが激しくてしんどいので、トレーニングジムとか治療院とか接骨院とかベースになる生活基盤作ろうぜと、箱を13ヶ所作りました。
最初はビジネスとは思ってなかったんですけど、そんなことをやってるうちにそこそこ成長して、28くらいのときに初めて「これ儲かるじゃん」とビジネスっぽい考え方をするようになったんです。でも、色々あったのですが大きかったのは資金繰りの拙さで苦しむようになり、最後は潰してしまったんです。
こんなキャラだけど、さすがに参りましたね。ビジネスを初めて1年くらいだったらピボットというのもありなんですけど、9年やって潰したので、経営者として確実にダメなんだと落ち込みました。どうしようかと思っているときに、「ガリバーっていう会社があるよ」と知り合いが話を持ってきたんです。僕、就職活動って一切したことなかったので、どんな会社が良いかという判断基準もなく、なんとなくフィーリングが合ったので「もういいや」とポンと入って、今9年です。

長谷川: そうだったんですね。でも、1回自分で会社をやった人って、またやりたくなりません?

北島: 以前は「北島さんってなんで自分でやらないんですか? いつ辞めるんですか」って、よく言われてましたよ。独立して自分がやりたいことを責任持ってやる自由さと、大企業でスケールとかレバレッジをきかせてやるのとどっちがいいか、よく比較されますよね。そういう中で、僕が出した答えは両取りだったんですよ。思考と能力を磨いて、力をつけて、扱える領域を拡大して、IDOMを通して世の中を変えていこうと。
それからは結構やり方を変えて、経営チームとして経営陣やリーダー陣と思考をシンクロさせながら全社を動かす上でやるべきことをやる、というのを大事にしています。それと、僕、株は大して持ってないですけど、社長とどっちがオーナーシップを持っているか、会社の将来のことを考えてるか、という部分で思考の戦いをしているつもりです。ほぼ負けるんですけど、姿勢としてはそうありたいと常に思っています(笑)

長谷川: もう3社目くらいなのかなって、勝手に思ってました。外資系コンサル出身みたいなイメージで。

北島: ありがたいことにそう見えるみたいですけど、ITもマーケも何もかも、この会社に来て学ばせてもらいました。おこがましい言い方ですが、経験も知識も少ないけど、オーナーシップだけは強いと思っていて、ポジション関係なく、持ってる力を出し切れるんです。5しか持ってないけど4.8ぐらい出せる。世の中には、10持ってる優秀な人はいっぱいいるんですよ。でもその人たちは、ポジションとか遠慮とか忖度によって力が出し切れていないことが多い。これが、「話せばわかる、話さなきゃわからない」で思考がシンクロされた一枚岩の組織になれたら、10の人たちがもっと力を発揮できる、活躍できるようになるはずです。
今は人事として外部の優秀な人の採用もしているので、いずれ自分がいらなくなったら勝ちだと思ってるんですよ。自分よりできる人が入ってくると、一抹の寂しさや不安は感じるんですけどね。でも、いらなくなったら自分の力がそんなもんだということなんで仕方ない、くらいの腹決めでいます。

長谷川: いやー、大したもんですね、その割り切りは。

北島: 寂しいですけど、オーナーシップって、そういうものかなと思うんです。でも、長谷川さんだって同じじゃないですか。フェイスブックなんか見ていると結構グサッととくることを書かれていて、すごく共感するし、元気をもらってます。こういう、大企業でがんばっている人達が集まって何かできないかな、といつも思ってるんですよ。一緒にやりましょうよ。

長谷川: 「みんなでやっちゃうか!」というノリ、いいですね。ぜひ、面白いことしましょう!


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第50回 フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡賢二さん 


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第50回のゲストは、「セカエレ」を標榜し、グローバルにビジネスを行うエレベータ・エスカレータのメーカー、フジテック株式会社 情報システム部長 友岡賢二さん(常務執行役員 情報システム部長)です。お互い共感するところが多いという長谷川と、これからの日本企業でCIOや情シスが果たすべき役割について語り合いました。

フジテック株式会社 常務執行役員 情報システム部長 友岡 賢二さん

1989 年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。独英米に計 12 年間駐在。株式会社ファーストリテイリング 業務情報システム部 部長を経て、2014 年フジテック株式会社入社。一貫して日本企業のグローバル化を支える IT 構築に従事。

「ようわからんけど好きにして」と言ってくれる会社でやるのが面白い

長谷川: 僕ね、インタビュー記事か講演かで友岡さんのことを知ったとき、絶対気が合うと思ったんですよ。次に何を言い出すか完全に分かるわ、という感じ。ITに対する考え方とか、やることなすこと、すごく似てるなって。一般的には、新しいことをやるときって他社事例があるかを気にするんだけど、そんなもんどうでもいい、良いものならやるし、そうでなければやらない、それだけ。そんな感じでどんどん進めていくでしょう。

友岡: 他でやってないって言われたほうが、むしろワクワクするもんね(笑)。かといって、マイノリティーのままだと死に絶えてしまう。だから、次の大きな潮目の先端、波頭をどうやって見つけるかっていうことに対しては、いつもアンテナを張ってます。そういうところも似てますよね。日清食品CIOの喜多羅さんなんかも同じ感じで、僕らは武闘派CIOと言ってますけど、これが3人だけじゃなくてもっと増やしていきたいですよね。

長谷川: なかなか増えていかないのは、どうしてなんですかね?

友岡: 長谷川さんも喜多羅さんも僕も、外から中途採用されているじゃないですか。そういう人って現状否定しないとダメですよね、そのために来ているんだから。

長谷川: 役割ですよね。

友岡: でも、大きい会社になればなるほど、それなりに人材がいて、外からは採らない。そうなると、前任者否定ってできないんですよね。だから僕は大きい企業は面白くないんです。「人がいないんで、友岡さん頼むわ。ITはよう分からんけども好きにしてええよ」っていうぐらいのサイズ感の会社の方が面白いよね。

長谷川: 友岡さんの2,000億円理論ですね。

友岡: そうそう。売上2,000億円くらいまでの会社がちょうどいい。あと、僕のキャリアで一貫しているのは、事業会社であるということと、日本から世界に出ている会社ということ。外資系は外しているんですよ。

長谷川: さすが、「セカエレ」!


(“セカエレ”という言葉には「世界中に安心・安全なエレベータ・エスカレータを届けたい」というフジテックの思いが込められている)

友岡: 外資系に入っちゃうと、よくて担当できる範囲がアジア・パシフィックじゃないですか。それだと面白くないので、日本から世界に挑戦していくというのがいいんです。僕、アメリカやヨーロッパに合わせて12年間住んでいたんですけど、海外で暮らしてみると、やっぱり日本っていいな、と思えるんですよ。それって僕らの親世代が頑張ったからであって、子供の世代にも日本はええな、と思ってもらえるようにするには、やっぱり日本企業で働きたい。外資はダメというわけじゃなくて、人それぞれの役割分担の中で、僕はこういう役割をする、ということですけど。

創業経営者のいる会社の強みとは

長谷川: 今の日本企業の成長スピードについてはどう思ってますか?

友岡: デフレが長く続いたので、成長しなくてもいいという雰囲気になったけれど、それを変えたのがユニクロですよね。成長しなきゃダメだという考えで、実際にものすごく成長している。日本企業の新しいOSというか、日本発のグローバル企業の新しい姿を明確に示していると思います。

長谷川: 友岡さんがユニクロにいらしたのって、いつ頃ですか?

友岡: 2012年から2013年頃です。

長谷川: じゃあ、もうグローバルにも結構出ていた時期ですね。僕も、過去にはユニクロに転職しようかと一瞬考えたことがあるくらいで、柳井さんの考え方にはすごく勉強させてもらってます。ああいう、挑戦する企業を増やすにはどうしたらいいんですかね?

友岡: 僕が最初に入ったのは松下電器なんだけど、その頃ってまだ松下幸之助が生きてたし、大企業というよりメガベンチャーという感じだったんですよ。ソニーや松下は、旧財閥系のトラディショナルな大企業に対抗するようなポジションでね。だけどその後、挑戦する会社が少なくなったというのは、僕らの世代が不甲斐ないからかもしれないよね。

長谷川: 僕は、創業者が社長じゃないといけないんじゃないかと思ってるんです。

友岡: 創業経営者が一番強いですよね。絶対的なカリスマ性があるということと、朝令暮改が当たり前にできる。「ごめん、間違ってた」と言っても失脚しないのがすごく大きいと思います。創業者じゃなくても、ものすごく若い人を抜擢して全く違う風を入れられるようなシステムがあればいいですけど、大企業ほど、長い経験をして、それなりに成功を収めた人しかなれないから、社長になったときには結構な歳になっている。潮目が変わっていても新しいことに挑戦するのは難しいんですよね。そういう意味では、特に若いエンジニアは、創業経営者がいる会社で働くのがおすすめですよ。

日本においてCIOという職業を確立したい

長谷川: 今のお話を聞くと、創業者みたいなカリスマ性がないんだったら、経営者はボンクラの方が下は動きやすいかもしれませんね。何か提案したら、「お、おう。じゃあ、それやろうか」みたいな。

友岡: 任せてしまえばうまくいくっていうのは、あるでしょうね。でも、任せるのも経営判断だから、賢くないとできないでしょう。だからトップは、情報システムのことも勉強しないといけないんです。そのためには、社長に直接情報をインプットできるようなITの人がいないとね。つい最近の調査で、日本で専任のCIOがいる会社は1割くらい、兼任を含めても5割くらいらしいです。5割の会社でCIOがいないのは、すごく大きな問題ですよ。兼務のCIOがいても、経営会議の場でITの話には、なかなかならないんじゃないですか。ITについて経営者として知っておかなきゃいけないところがあるのに、それが理解されないまま経営をやってる……、みたいなところが結構あるのが、僕はちょっと怖いと思うんです。

長谷川: 友岡さんが考えるCIOの役割というのは?

友岡: 会社の経営課題と、情報システム部門でやろうとしていることのヒモ付けをきちんとできること。それができないと、経営者にとってITは鉛筆とか消しゴムとかの文房具と一緒なんですよ。消耗品だと思われている。投資しがいのあるものだと思ってもらえる、説得力のある説明ができないといけないんですよね。

長谷川: そういうことができる人って、どれくらいいると思います?

友岡: 情報部門って、そもそも色々なことをやらないといけないところだから、ポテンシャルのある人は多いと思ってますよ。経営感覚がないとか言うけれど、経営にタッチさせてもらえなかったら、その感覚は身につかないですよね。下駄履かせてでも執行役員にすればいいんです。そうすると執行役員会議に出て、経営のあらゆる情報にアクセスできるようになります。そしてもっと重要なのは、他の役員に対して、情報システムに関するインプットができるようになるということです。だから、日本においてCIOという職業を確立させなければならない。僕はそれが自分の一番大きなミッションだと感じていて、そのためにあっちこっちに出ていって話をしたりしているんですよ。

ユーザー部門からのリクエストを断ることもできるのが良いSE

長谷川: 一方で、情報システム部門には「このボタンの大きさをこうしてほしい」みたいなユーザー部門からのリクエストもどんどんくるわけじゃないですか。経営課題に直結するところのやるべきことと、「もうちょっと使いやすくしてよ」みたいな要望への対応と、どうバランス取ったらいいんでしょうね。

友岡: 趣味とか好みで言ってくるのと、本当に生産性を向上する施策とを、どう切り分けるかですよね。日本ですごく失敗しているのが、1990年代後半から2000年代にかけてERPブームがあって、その前にBPR(Business Process Re-engineering)ブームがあったじゃないですか。で、その土台にはABC(Activity Based Costing)やABM(Activity Based Management)という考え方があったんですけど、そのあたりをすっ飛ばしているんですよ。これは何かというと、プロセスをファンクションでひとつひとつ区切ったときに、例えばインボイス1件当たりの処理コストはいくらなのかを可視化して、ファンクションごとに自分達でやるのか、シェアードサービス化するのか、アウトソースでやるのか……みたいな形で、ホワイトカラーの仕事を徹底的に細分化して最適化するということなんですね。さっきの話で行くと、単に画面のボタンの話じゃなくて、このプロセスを終えるためにどれくらいの時間とコストがかかっているか、というところで考えていった時に、やった方がいいかどうかというのが出てくるはずなんです。

長谷川: そうですね。

友岡: 改善するためにかけるコストがあまりに高かったら、「やめとけ」というのもありなんです。僕は、ユーザー部門に対して「それは手でやっとけ」と説得できるのが腕のいいSEだと思います。

長谷川: そのSEというのは、社内、社外、どちらの立場でも?

友岡: 社外の人は言えないでしょうね。言ったら売上を失うから。「そんなんやめとけ」って言うためにも、社内に情報システム部門を持っておかないといけないんですよ。だから僕、情報子会社は絶対反対なんです。外販できるんならいいですけど、社内向けの子会社は意味がない。そこはどう思います?

長谷川: 同じく大反対です。意味がないし、親子関係になると、やっぱり子はつらいですし。

友岡: 客と業者になっちゃうんですよね。

長谷川: そうなんです。その上、見積もりとって、他社とも比較して、みたいなルールができると、やればやるほど会社がガタガタになりますよ。

友岡: そうなんだよね。依頼書とか発注書みたいなものがないと動けないというのは、最大のスローダウンになっちゃう。フジテックも、僕が入った時は部門から要請書というのを出さないと動かなかったんだけど、それをやめて企画書にしよう、と言ったんです。ユーザーからは立ち話とかメールや電話でいいから、それを聞いてこっちが企画書を作って提案するという形で、流れを逆向きにしました。そうじゃないと、イニシアティブ取れないので。

有力者からのリクエストは真の課題解決のチャンス

長谷川: 情報システム部門というと、一般的にはユーザー部門からリクエストがあったことをやるのが普通で、よっぽどのことがない限り、「こんなの意味ないからやめよう」なんて言わないですよね。決められたことをいかに低コストで早くやるかが情シス部門のミッションとされている会社はすごく多いと思うんです。そういう状況を友岡さんは、どうやって変えていったんでしょう?

友岡: ひとつは、お願いされたことをやっても感動って生まれないんですよね。その通りやっても「今できたんか? 遅いやん」みたいな話でね。一番いいのは、頼まれてもいないことで、向こうが想像すらできないようなことをポンっとデリバリーする。そうすると感動しますよね。インターネットが生まれ、クラウド、モバイルになった今って、そういうことができるんです。でも、現場の人からの要望って、「この画面で、F7キーを押したときにこれが出てくれたら嬉しい」みたいな、限られた知識の中で、彼らが「これだったらIT部門がやってくれるに違いない」と思うことしか要望として出てこないんですよ。自分のスマホでオフィスにいる人とライブでチャットがしたいなんて要望は、現場からは上がってこないですよね。

長谷川: そうですね。

友岡: 僕は行動観察しろって言ってるんだけれども、現場のプロセスを観察すると、「そもそもなんでこんなことやってるの?」みたいなことが見えてくるんですよね。情報システム部がそれに気づいて、「最新のツールだとこんなことできますよ」と提案していかないと革新は生まれてきません。

長谷川: そうやってやるべきことを見つけながら、同時に経営陣からは「それよりも、これをやらんかい」みたいな圧力がかかってきたりもしますよね。多分、どこの情シスの部長も、ものすごくたくさんのリクエストを受けていて、リソースが限られた中で、どう優先順位を付けるかが課題だと思うんですけれども。

友岡: 僕は、社内の政治力学を全く無視してやれって言ってるわけじゃないんですよね。声の大きい人の政治力学を、どう利用するかということで。

長谷川: 逆に利用する?

友岡: そう。声の大きい役員や部長からリクエストが来たときに、その人の課題意識がどこにあるのかを知るために、懐に入っていかなきゃいけないんですよ。その人が持っている根本的な課題と、僕らに投げられているリクエストって、実はズレてる場合が結構あるんです。

声が大きい、政治力学的な生態系のトップにいる人からボールを投げられたら、まず「何がお困りですか? こういうリクエストきてますけども、そもそも何が課題なんですか?」と聞きに行って、そもそも論をやらないといけません。それをやらずに頼まれたことを無条件でやるのは、企業としてものすごくリソースが無駄になってしまう。だから、ええチャンスやと思ってもう一歩踏み込むというのをやらないといけないんです。

長谷川: それは、さっきのCIOの必要性の議論ともつながってきますね。あまりペーペーが聞きに行っても話にならないし。

友岡: そこなんですよ。エライ人と話せないからね、やっぱり。とは言え、僕だって、すごく難しいし、「しゃあないなぁ」と思いながらやらないといけない部分はありますね。声の大きい人とのバーターみたいなところもあるから、そんな綺麗には分けられないです。でも、そういうのって人生そのものですよね。「世の中って自分の思い通りにはなるわけない」という前提でいれば、全然傷つかない。感情をもった動物が暮らしてるのが世の中で、その中で少しでも自分の思うところに近づけたらガッツポーズする、そんな感じでいいんじゃないですかね。

社内に2割いるイノベーターの要望を受け止めろ

長谷川: 友岡さんの中で、妥協しなければいけないこともあるよね、という部分と、あるべき理想にしたがって行動できるところと、だいたい何対何くらいですか?

友岡: いくらチャレンジとかイノベーションとか言っても、本質的には人間は変わることを望んでないんですよ。だから新しいところが多すぎるとみんなついていかない。希望としては6対4になればいいけど、実態としては旧態依然としているのが8で新しいのが2ぐらいかもしれませんね。

長谷川: 面白いですね。エンジニアって、業務のことがどれだけ分かっているかは別として、あるべき論が好きな人が多いと思うんです。それでも理想的にやっていけるのは2割程度だよ、ということですか。

友岡: 「ニッパチの法則」って言ってますが、大体企業って2割の人が尖ったことをやっていて、6割のフォロワーがいて、あとの2割は何やっても反対するような人たちなんですよ。僕は、企業の中の尖った感覚をもった2割の人達がハイパフォーマーなので、そこに着目した方がいいと言ってるんです。仕事の総量じゃなくてね。2割のハイパフォーマーに響くものをやっていけばいいんじゃないかと。

長谷川: イノベーティブな人っていうのは大体2割ぐらいだろうと。その人たちの言う案件とかシステム改善をやるのがいいんじゃないかと、そういうことですね?

友岡: そう。マーケティングの世界では、イノベーターとアーリーアダプターが16パーセントいて、それを超えたらキャズム超えって言いますね。いわゆるキャズムで言うところのイノベーターとアーリーアダプターに相当する人たちがユーザー部門にもいるんですよ。その人たちに響くことをやって、16%、つまり約2割いけばあとは自然に流れていくんです。逆に、その2割をしっかり受け止めないと、情シス部門に頼んでもダメだというので、ハイパフォーマーの人はシャドーITにいっちゃうわけですよね。

長谷川: 情シス部門としては、その2割の人を見つけて、彼らが言うことを理解して、それを実現する能力というのが必要だと。

友岡: そうです。そういう人たちに提案したり、彼らが満足できるアプリケーションを提供する。会社として提供できるものがなければ、彼らが使っているものを「俺が認めてあげるから使いなさい」と許可するとかね。

AI時代の情シスの役割

長谷川: 今までの情シスだと、SIerの持ってくるものを比較し、導入して、生産性の違いといっても2倍、3倍の世界だったのが、AIが本当に使われるようになってきたら、100万倍、1000万倍の生産性を実現するものを自社に導入できるかという話になってくるんじゃないですか。そうなると、情シスの目利き力の差が相当出てきますよね。

友岡: そうなんですよ。元々情シス部門は経理部門の一部として伝票処理の効率化みたいなことをやっていたところから始まっているわけですけど、今は全く潮目が変わっているんですよね。IoTとか、オペレーションテクノロジーの世界にも入っていかないといけなくて、1人でカバーするのは無理になってきています。そうすると、本当に狭いところの専門家をどう活用していくかっていうのが、すごく重要になってきますよね。羊飼いみたいな世界です。いろんな羊がいるところで、「こっち、こっち」って言いながら方向感をいかに出せるか、どれだけ多くの羊が飼えるか、みたいなね。すごく面白いけども、すごく難しい時代になってきてますね。

長谷川:もうSIerに業界動向なんかを聞いている場合ではなくて、自分たちの会社のことは自分たちで決めるということですよね。

友岡: これからの情シスの本質的な価値は、SaaSで全く手がかからないようなもの、コストが安いものをどれだけ早く取り入れられるかという、目利きと意思決定をするところにあると思うんです。GoogleのG Suiteを使うのにエンジニアはいらないですよね。だから僕は、目指すところはエンジニアレスだと思っています。そう簡単にはなくならないですけどね。汎用化されたもの以外のところのごく狭いコアの部分は、自分たちで作るでしょうし。

長谷川: エンジニアの一部は、目利きマンにジョブチェンジがあるかもしれませんね。

友岡: そうです。だから、アーキテクト思考というのはすごく重要で。事業会社においては、やっぱり事業に片足を突っ込んどかないといけません。エンジニアの方だけに両足突っ込んでいる人っていうのは、事業に使えるかどうかの目利きができないですから。かといって、マーケティング担当のちょっとITに詳しい人が、全部分かるかというとそうでもない。最後はやっぱり、自分のところの事業に対する愛情とか愛着とか、「この事業を他よりも勝たせないかん」みたいな思いがすごく重要だと思います。その事業に対して誰にも負けない愛情をもっている人が一番強いんです。ただ、これもひとりの人間に全てを求めるのは無理なので、やっぱり役割分担ですね。組織の長がやるべきなのは、オーケストレーションです。自分だけで全部の楽器を演奏できないから、ひとりひとりの特徴を活かしながら、全体としてそういうことができたらいいっていうふうに思います。

長谷川:これからも、挑戦する情シスを増やしていくために、頑張っていきましょう。今日はありがとうございました!


友岡さん、長谷川も登壇!! 7月5日開催「SORACOM Conference “DisCovery」が開催されます。
“Discovery”2017の詳細・お申し込みはこちら

 


長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第47回 株式会社ロフト取締役 執行役員 オムニチャネル推進室 室長 ブランド営業部担当 内海 芳雄さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。第47回のゲストは、株式会社ロフトでオムニチャネルへの取り組みを牽引する内海芳雄さん(取締役 執行役員 オムニチャネル推進室 室長 ブランド営業部担当)です。世間からはライバルと目されることの多いロフトと東急ハンズの違いや共通点、リアルな店舗を持つ小売店としてのオムニチャネルやECへの取り組みなどについてじっくり語り合いました。

ECやSNSについて情報交換し合う仲

内海: 長谷川さんは、僕の憧れの人なんです。

長谷川: やめてください。変な汗出てきますから!

内海: うちがインターネットとかオムニチャネルとかやり始めたのが3年前ですかね。そのときにまずは身近な、MUJIの奥谷さん(元・株式会社良品計画、現・オイシックスの奥谷孝司氏)やタワーレコードの前田さん、キタムラの逸見さんに色々教えてもらって、それから東急ハンズさんにも。直接長谷川さんのところに伺うツテがなかったので、まずは甘糟さん(当時東急ハンズのEC課)、緒方さん(元・東急ハンズのEC課、現・中川政七商店CDO執行役員)のところに聞きに行きました。長谷川さんとは、講演会をされたときにご挨拶したのが最初で、2年前でしょうか?

長谷川: そうでしたね。その後はこの業界のゆるい集まりなんかで何度かお会いしていますね。奥谷さんが内海さんについて、「ちゃんとした会社に勤めている上級役員の方で、みんなと接するときにあれほど腰が低い人はいない」と言っていましたが、本当に、こういう場にすっと出てきて交流される方はなかなかいないです。

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長谷川秀樹のIT酒場放浪記 第45回 ANAシステムズ株式会社 代表取締役会長 幸重 孝典さん


ハンズラボCEOの長谷川秀樹が、エンタープライズ系エンジニアが元気に働ける方法を探し、IT業界のさまざまな人と酒を酌み交わしながら語り合う本対談。今回のゲストは、78年に全日本空輸(ANA)株式会社に入社し、インターネットの黎明期からeコマースやサービスのIT化に取り組んでこられたANAシステムズ株式会社の幸重孝典さん(代表取締役会長)です。実はパイロット試験を受けたことがあるという飛行機好きの長谷川が、気になっていたあれこれをたっぷりお伺いさせてもらいました。

ApplePay日本上陸!米Appleとコミュニケーションを密に取っているANA

長谷川: 先日Apple Payが日本で使えるようになることが発表されましたが、ANAさんのロゴもしっかり出ていましたね。あれはやっぱり、前々からANAさんがApple社に対して「Apple Payが日本に来たあかつきにはぜひ…」という話をしていたんですか?

幸重: そうです。Appleとは以前からコミュニケーションをとっています。日本支社もそうですが、アメリカの方とも。だからアメリカでプリペイドのサービスが出たときから、「日本はいつなの?」という話はしていました。

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